特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『紅ほっぺのソフトクリーム』と読書『日米地位協定』

 身の回りでも感染した人の話を頻繁に聞くようになりました。
 問題なのは感染もさることながら、濃厚接触者の多さです。勤務先でも’’成人式に行った子供が感染して親が濃厚接触者になり出勤停止’’と言う話を幾つも聞きました。

 こんな時に成人式なんかへ行く奴も行く奴ですが、こうなるって判ってるのに成人式なんかやった自治体が悪い。アホですよ、あほ。

 既に感染者数は1日4万人を超え過去最高ですが、今週 某シンクタンクの社長に聞いたら日本でも40万人位まで行く可能性があるそうです。今の十倍まで増えるのは覚悟しなければならない。彼らは社内に分析チームを持っていて、昨年5月の時点で9月に感染が一旦収まることを的中させています
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 ところが日本は検査能力を増やしていないため(失笑)、1日10万人くらいまでしか感染者を数えられないそうです。沖縄は感染者数の伸びが止まっていますが、既に検査はパンクしているからだそうです。感染者数もさることながら、日本全体で濃厚接触者がどれくらいになるのか想像できません。社会インフラがどうなってしまうのか、神のみぞ知る(笑)。

 間違いなく言えるのは、ワクチンの在庫を使って打てる人から先に3回目の接種を始めていれば感染の拡大はある程度防ぐことが出来たってこと。他国の例を無視して『接種間隔を8か月空けろ』と言い張っていた厚労省に引き摺られたのは、明らかに岸田の失策です。
 いざ有事、つまりコロナが始まってから日本の統治システムの限界ばかり目にします。安倍、菅、岸田に大きな責任があるのは間違いないですが、無能な政治家ばかり選び続ける日本人の民度が一番の問題だとボクは思います。

北参道で、花束みたいな『紅ほっぺのソフトクリーム』。紅ほっぺは酸味があってあまり好きな品種じゃありませんが、あま~いソフトクリームには合います。


 さて、子供の時『六本木の真ん中に何で広い立ち入り禁止区域があるの?』と思ってました。自転車で遊んだり塾へ行くとき、鉄条網に囲まれた大きな土地をわざわざ遠回りしなければいけなかったからです(笑)。一等地である山王に鉄条網で囲まれた米軍のヘリポートがあったんです。
●2019年、六本木を出発して原宿まで歩いたデモ。鉄製の柵に『在日米陸軍’’地区’’』『立ち入り禁止』と書いてあります。

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 大人になって出張するようになると、西から飛行機で帰ってきて羽田に着陸する際 わざわざ東へ遠回りするのも不思議でした。関東の西半分の空は未だに米軍が管制しているんです日本領空なのに米軍が管制「横田空域」の理不尽 | ブックス・レビュー | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
 ちょっと調べたら安保条約に付随して『日米地位協定』というものがあって、日本はある意味占領されたまま、ということが判りました。占領が終わって何十年も経っているのに、何でこんな状態が続いているのか、不思議でした。

 
 先週、1月12日のBS-TBS『報道1930』はその日米地位協定の特集でした。ゲストは琉球大の山本准教授。19年に『日米地位協定』という新書で石橋湛山賞を受賞した人です。


 
 今回のオミクロン株は沖縄や山口、広島では米軍から広がりました。米軍はまともに検査もしていないし、マスクもしていなかった。

 同じ米軍基地でも韓国では米軍はちゃんと検査も感染対策をやっていた。

 じゃあ、なんで日本だけ著しく不利なことが起きているのか。過去に子供や女性が米兵に乱暴されても、昨年 発がん性物質(PFOA)を米軍が川に捨てても、そして米兵が感染対策をしていないことでコロナが蔓延しても日本政府は地位協定を変えるつもりはない、と言い張っています。いくら日本の政治家が無能でも不思議ですよね。

 番組ではその理由をこう述べていました。
 例えばフィリピンと比べると、フィリピンではアメリカとの同盟と駐留する米軍の地位は別の条約になっているのに対して、日本は安保条約と一体になった形で’’日米地位協定’’が定められています。

 つまり『地位協定を変えようとするには安保条約を変えなければならず、米議会の承認を得なければならない条約の改定交渉は著しく困難である。また米軍が日本から出て行ってしまうことを日本政府は恐れている』と山本准教授が解説していました。確かにトランプのような’’ただ乗り論’’すら出ているアメリカの議会を説得するのは大変かもしれません。


 更に問題は地位協定ではなく、その運用を定める『日米合意議事録』が日本の地位を更に不利にしている、ことだそうです。
 『日米合意議事録』は安保条約の運用を定めた文書です。安保条約と同時の1960年に国会の審議を経ずに日米で合意、沖縄国際大ヘリ墜落事故が起きた2004年まで秘密にされていたものです(墜落事故で揉めて、今はネット上で公開)。国内での米軍の移動や米兵への刑事裁判など米軍の行動について占領時の特権を継続して認める内容です。


 
 松原キャスターの’’米軍と日本の外務省が事務レベルで協議している『日米合同委員会』が何もかも決めているという話を良く聞きますが- - -’という問いかけを受けて、山本准教授は『政治家を抜きにして委員会が物事を決められる筈がない。合意議事録がその上にある。』と言っていました。確かに法的には委員会より、地位協定の実務を定める合意議事録の方が上位にあります。

 『日米合同委員会』が米軍にやりたい放題をやらせている、という話は10年代になって出版された、日米地位協定に関する一般向けの初の解説書であるこの本にも書かれていました。

 かねがね地位協定のことを知りたいと思っていたので、勢い込んで読んだこの本は非常にがっかりしました。常識で考えれば、日本はともかくアメリカで、政治家を抜きにして軍人や官僚が突っ走るようなことを出来る訳がありません。山本准教授が言う通りです。
 この本では日米合同委員会が何故そんな力を持っているのか根拠を示しておらず、単なる陰謀論、としか読めなかった。『そんなことあるわけねーじゃん、バカじゃねーの』と思った。リベラルもレベルの低い議論をやってるからダメなんです(笑)。
 
 番組の結論は『日本政府は極力 地位協定に触らないようにしている。結局は日本政府の意志、そして国民の世論の後押しがない限り、日米の地位の不平等は解決できない』、という訳です。そりゃ、そうですよね。
●六本木のヘリポート。巨大な敷地内に新聞の印刷工場まであります。


 更に、番組の中で山本准教授がちらっと『憲法9条がある限り、地位協定は変えることができない』と言っていました。詳しく知りたいと思ったので、今まで’’積読’’だった、この本を読んでみました。

 日米地位協定の成立過程と現在までの経緯、独伊との比較、今度どうしたらよいか、をきちんと出典を挙げながら述べたものです。
  
 内容はこんな感じです。
 安保条約と地位協定成立の詳しい経緯は省きますが、日本政府も米軍基地の縮小や安保条約や地位協定を日本に有利なように変えようとしたことはありました。特にベトナム戦争終結後 米軍は移転費用さえ日本が負担すれば基地を日本から撤収しても良い、という話もあったそうです。しかし当時の金で数千億という移転費用に外務省がビビッてその話は消えてしまった。

 その後は日米貿易摩擦もあって日本側の費用負担(思いやり予算)が始まり、湾岸戦争などの国際情勢の変化で、基地撤収どころか日本側に軍事努力を求める圧力が強まり、現在に至っています。ちなみに思いやり予算社会党が積極的に賛成したというのは面白いです。基地で働く日本人労働者の解雇を怖れたからです。

 よく言われるのは、日本とドイツやイタリアを比べて、『同じ敗戦国なのになぜ日本だけが米軍人の犯罪を自国の法律で裁けないのか』ということです。
 日本との大きな違いは、ドイツはボスニア空爆への参加など積極的に海外派兵したことを利用して地位協定を改定した、逆にイタリアは自国からの域外への米軍の出撃をずっと許しておらず、それを許す代わりに裁判権を獲得した、というしたたかさがあったことです。日本政府には機会を生かす、そのような戦略性はなかった。

 もう一つ重要なのは、ドイツもイタリアも韓国も集団的自衛権を認めていること。立場は米軍と対等だし、米軍に国内法を適用する法整備も出来ている。そこは日本とは大きく違います。

 じゃあ、どうすればよいのか。山本准教授は『地位協定を変えることは当面不可能』と述べています。理由は以下の通りです。
(1)ドイツやイタリアなどNATO諸国が駐留米軍に自国の法律を適用できるのは、アメリカと対等の民主的な法律を持っていると認められているから。一方日本は代用監獄や取り調べの強制自白などの司法制度の不備を国連やアメリカから度々指摘されており、米議会が自国民に日本の法律を適用することを認める可能性は低い
 これは90年代の日米構造協議でも散々指摘された問題です。唐突に裁判員裁判が導入された理由はまさにこれ、ですからね。

(2)ドイツやイタリアなどNATO諸国は集団的自衛権を認め、有事に備えて様々な国内法の整備を進めている日本は有事の法的整備は進んでおらず、現実的に米軍に日本の法制度を適用するのは難しい。確かに(笑)。米軍の道路の通行だって、今の国内法じゃ無理なはず。

(3)『日本政府は戦後一貫して、戦争を放棄する憲法9条を支持しながら米軍の駐留により安全保障を確保する方針を取ってきた。それが変わらない限り、地位協定は改定できない』。
 米国務省は2015年に出した『地位協定に関する報告書』で『米軍を受け入れている国が米軍を必要としていれば、地位協定に関する交渉で米国は優位な立場に立てる』と言っているそうです。つまり日本政府が憲法9条を守るために米軍の駐留を必要としている限り、アメリカは改定を受け入れる可能性はないわけです。
 更に地位協定改定を望む日本人は多数派でも、地位協定と一体である安保条約を支持している日本人が沖縄を含めて多数派なのも、アメリカの立場を強くしています。

 
 結局 憲法も含めた日本の法制度、安全保障政策、国民の世論が今のままでは地位協定の改定は難しいということです。非常に説得力がある議論だと思います。
 代用監獄や不透明な警察の取り調べを改善する兆しすら見えない今の日本に地位協定の改定なんかムリです。理屈が通らない。ましてアメリカの議会が自国民を(彼らから見て)野蛮国の法制度に任せるわけがありません。立場を置き換えてみれば誰でも判る事です。

 抑止力なんか要らねーよというのなら別ですが、それは国民の中で多数派になり得ないでしょう。
 理屈で考えても、抑止力がないことが却って紛争を引き起こす可能性は高い。韓国の竹島占拠や中国の南シナ海進出が良い例です。
 現実にスイスも北欧も抑止力としての軍備はきっちり持っている。ノルウェーデンマークNATOに入っているし、スウェーデンNATOの指揮下で自国の軍隊を海外派兵している。


 山本准教授は次善の策として’’地位協定ではなく、まず『日米合意議事録』を改定すべきではないか’’と述べています。
 合意議事録は『米軍の自由な移動、刑事裁判権、基地管理権や基地外の行動』などの占領期から続く米軍の特権を定めています。占領時代の特権を維持する内容ですが、(1)国会の審議を経ていない(法的正当性がない)(2)米議会の承認を経る必要がないので安保条約と一体の地位協定より改定交渉が容易、という特徴があります。確かにそうかも。

 
 今まで日米地位協定をまともに語った本は中々ありませんでした。日本の知識人や学者も語ってこなかった(地位協定に関する初めての学術書が出たのは96年だそうです)。だから長年日米の不平等が指摘されていても、改定の動きには全く結び付かなかった。

 豊富な資料を使って日米地位協定を論理的に解いた、非常に優れた本だと思います。流石 石橋湛山賞(笑)。日本の政府や役人の理屈、アメリカ側の論理が良く判ります。日本側だって全く改定の努力をしなかったわけでもないし、アメリカ側でも国務省と軍部で考え方は随分違います。地位協定を改定しろと言っても、相手側の論理が判らなければ、交渉なんかできるはずがありません日本国内でやるべきことが山積しているのに、ただ地位協定を改定しろというのもマヌケな話です。

 今までずっと判らなかった地位協定の事がこの本を読んでやっとわかった気がしました。やっぱり国民の自覚という面では、日本はまだまだ民主主義国家じゃないんでしょうねー。それが問題です。