特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHKスペシャル『Last Days 坂本龍一 最期の日々』と『夜桜中華』

 新年度になって、宴会が増えてきました(笑)。
 とにかくボクは人と話すのが恥ずかしいし、話すこともないので、宴会、会合、パーティーの類は大嫌いです。若い時は勿論、歳を経るにつれて益々嫌悪は増してきた。

 宴会の8割くらいは出席を拒否していますが、どうしても断れないものは乾杯だけして5分で退席、それでも逃げられないものはウーロン茶だけ頼んであとはニコニコしながら無言で時間が過ぎるのを待つ、で対処しています。我ながらアホらしくて仕方ない。

 飲みたい奴は勝手にすればいいけど、巻き添えは迷惑です。こんなくだらないことばかりやっているから日本の生産性は低いって言われるんですよ。
 最近の若い人には『職場の宴会になぜ残業代がつかないのか』という子もいるそうですけど、尤もな話です。

 日本の若者はこの国の将来を悲観している人の割合が他の先進国に比べてずば抜けて多い、というニュースがありました。


news.yahoo.co.jp

 無理からぬことだと思います。与野党含めた政治家、学者に至るまで、日本の将来の羅針盤を示すような人は立場を問わず、殆ど見かけたことがありません。

 せいぜい、経営者が時折、将来のことを語るくらいでしょうか。オーナー系や長く続く企業の経営者は少なくとも自分の会社の行く末は考えていますからね。
 自社が史上最高の決算でも『円安が日本にとって良いわけない。円安になること自体を喜ぶような人は、ちょっとおかしいんじゃないか。』と断言できるユニクロの柳井の方が、未だに円安に繋がるバラマキや金融緩和を主張している与野党の政治家より遥かにマトモです。

newsdig.tbs.co.jp

 ま、経営者でもこういう低能はいますけど。

news.yahoo.co.jp


 政府がやっているのは誰が見ても判るその場しのぎと高度成長のリバイバル、一方 野党と支持者の市民や学者の多くは環境の変化を見ようともせず、これまた昭和のやり方を墨守するだけです。あとは消費税廃止やバラマキのような訳の判らないポピュリズムやデマばかり
 それでは誰だって将来に希望なんか持てるはずなんかありません。

 

 冷静に考えれば、今は昔よりは良くなったことは沢山あります。セクハラ・パワハラは言うに及ばず、今の季節なら公共の公園で酔っぱらったバカじじい連中が薄汚い宴会を繰り広げていた花見一つとっても昭和なんかロクなもんじゃなかった、とボクは思います(笑)。

 確かに少子高齢化に、テクノロジーの変化、格差の拡大、おまけに日本の周りはきな臭いことばかり、では、気分が暗くなるのはわかります。

 希望を見つけるのは自分自身の問題だから若い人が明るい見通しを持てなくてもボクの知ったことではありませんが、それでも大人の最低限の責任として、女性の社会進出にしろ、テクノロジーにしろ、何か糸口くらいは見つけなければならない。多少は(笑)そう思うんです。
 今の現役世代は残念ながら、政治にしろ、経済にしろ、社会にしろ、落ち目のものしか若い人たちには残せそうもありません。それでも何も手渡せるものがない訳でもありませんから。


 日曜日に 放送されたNHKスペシャルLast Days 坂本龍一 最期の日々』。 
 いつも日曜日は9:30には寝るようにしているのですが、見始めたら目が離せなくなって、つい最後まで見てしまいました。

www.nhk.jp

 番組は23年春に亡くなった坂本龍一の生活に約2年間、正確には死の1時間前まで密着したものです。正確には遺族が提供した材料を編集したものが多くを占めています。

 ボク自身、坂本龍一と言う人にはさほど関心はありません。無駄な音を使わない彼のピアノソロは好きなのでCDは何枚か持っていますが、それだけです。YMOも殆ど興味がない。

 坂本はNY在住だと思っていたのですが、日本に帰ってきていたんですね。数十年前(笑)ボクが実家に居た頃は坂本が犬の散歩で明治公園に来るのをたまに見かけていたのですが、また明治公園脇の数億ション(笑)に仮住まいをしていたようです。
 恐らく通っていた慶應病院が近いからだとは思いますが、人間は死期が近づくと勝手知ったる場所へ戻りたくなるのかな、とも思いました。彼は近くの新宿高校の出身でもあるし。

 20年の12月には余命半年と診断され、21年1月に手術、その後も転移が見つかり、ずっと入退院を繰り返しました。22年1月の段階ではもう、坂本は非常に苦しそうに見えました。
 それでも3,4日に1冊のペースで漱石哲学書、それに荘子西行などの古典を読み、自らの死を考え続けた。なおかつ身体の循環を良くするという野口整体を続け(ボクもやってます)(笑)、滑稽なポーズをするなど身体に良いと思われることを試し、生きようとした。驚くべき意思の力です。

 同時期に闘病生活をしていたYMO高橋幸宏とのエピソードも心温まるものでした。高橋が軽井沢に住んでいるのは知りませんでしたが、穏やかな自然の中で犬と暮らしていたのは如何にも彼らしい。坂本と高橋の直接の再会は叶いませんでしたが存在はお互い感じていたようです。

 それにしても坂本や高橋より5歳も年長なのに、一人残された細野晴臣の心中はいかばかりか。『まだまだできることは幾らでもあった』という彼の述懐は嘘偽りのないところでしょう。


 坂本は抗ガン剤の治療の影響で、ピアノを弾くと電気が走るような痛みが走っていたそうです。CDを聞いている時はそんなことまで想像もできませんでした。

 以前NHKで放送された22年9月の演奏が休み休みの収録で5時間もかかったというのも良くわかりました。

www.nhk.jp

 もともと坂本のピアノはド下手にしても(本人談)、ハンディを抱えていた晩年の演奏が無駄な音がない、より研ぎ澄まされたものになっていったのも頷けます。 

 晩年に至っても、ロシアの侵略を受けたウクライナの音楽家との共作や外苑の銀杏並木伐採反対などの運動にも関わり続けた彼は『無数にある全ての社会問題にコミットすることはできない』と、より音楽を突き詰めようとしていたようです。

 彼が言う『音楽だけが正気を保つ唯一の方法』とは世の中の不条理に対してだけでなく、彼自身にとっても、だったのでしょう。彼が指導、サポートしていた東北ユースオーケストラなど人前ではにこやかに振舞っていましたが、カメラの前で一人で音楽に携わる時の彼の表情は鬼気迫るものがありました。

 
 このドキュメンタリーを見ながら思い出したのは、先月に見たフランスの映画監督J・L・ゴダールの遺作『遺言 奇妙な戦争』です。彼は坂本に先立つこと半年前、22年の秋に亡くなった。自ら選んだ安楽死です。


godard-phonywarsjp.com

 遺作は架空の映画の予告編という形式を取りながら、画面に鮮やかな映像のコラージュを並べることで、資本主義に抵抗する人間像を表現しようとしたものです。映画のスポンサーは資本主義の権化みたいなケリンググループのサン・ローランですが(笑)。
 20分程の映像の中に時折、死を目前にした彼のレマン湖畔での生活が挿入されます。

 穏やかな生活、ではあります。時折かなり苦しそうな表情を見せますが、彼は映画を作り続ける。ゴダールも坂本も思想的には非常に近いけれど、ゴダールは自ら死を選び、坂本は最後まで懸命に生きようとした。どちらも意志の人、ではありましたが、この違いはどこから来たのだろう。
 坂本もゴダールも私生活では色々あった人ですが、ともに最後は家族に許されたのは幸せでした。自分が自分自身を許せたのかどうかは判りませんけど。

 ちなみに番組の中で映された、坂本が選んだ自分の葬式用の選曲リストにはサティやフォーレドビュッシーなど如何にも彼らしい曲の中に、ゴダールの『軽蔑』の中の曲が入っています。ボクも流麗で憂鬱なこの曲、大好き。

坂本龍一が「Funeral」に選んだフランス音楽を解説! “教授”のフランス音楽愛が見えてくる|音楽っていいなぁ、を毎日に。| Webマガジン「ONTOMO」


 いよいよ死期が迫り、意識がなくなりつつも、病床の坂本がピアノを弾くかのような手の動きをしていたのも印象に残りました。ボクの亡くなった大叔父は画家でしたが、彼も死の間際、意識を失くしても病床でずっと絵筆を動かす仕草をしていました。あれにはビックリした。

 ああいう人たちは、最後はカネも名誉も愛も他人も要らない、もしかしたら自分という存在もどうでもいいのかもしれない。大事なことは芸術だけなのでしょう。芸術への執念こそが彼らの生、だと思いました。

 芸術家にも、バカの癖に威張り腐っている政治家にも、我々のような凡人にも、死は誰にとっても平等です。この番組を見れば誰もが死を身近に感じるし、それを通じて自分の処し方を考えさせられる。
 美しい映像、60分間完璧に決まった編集も特筆すべきですが、あれを撮らせた坂本も撮ったNHKも偉い。人間の生と死を雄弁に物語るドキュメンタリーでした。 


 今年は 毎年恒例の六本木の桜がいまいちだったので、近所の桜でもう一度 お花見をしました。と言っても昼間は仕事ですから夜にしか桜を見ることができません。

 この辺りは街灯だけでなく、マンションや個人宅でもライトアップしている家が多いです。

 桜を見ながら散歩がてら、碑文谷へ中華を食べに行きました。

 コリアンダーと押し豆腐のサラダ。中華の押し豆腐って美味しいです。生で食べても良し、煮込んでも良し、もっと手軽に手に入れば良いんですが。

 ニンニク風味の冷やした蒸しナス。これは絶品です。柔らかいナスがまるで飲み物のように口に入っていきます(笑)。

 ニラ饅頭。ぷりぷりのエビが入っています。30年くらい前から変わらない味です。

 海老の唐辛子炒め。これは始めて頼んだ料理。ニンニクの芽と海老を唐辛子で炒めてあります。この店はお上品なので?それほど辛くありません。海老がやたらとデカい(笑)。

 鶏と青菜の土鍋煮こみそば。昨年食ったものの中でこれが一番うまかった料理です。スープが最高なのと麺が段々スープを吸い込んで味が変わってきます。麺が伸びた方が美味しいという珍しい料理(笑)。


 こちらは違う日。
 ローストダックと鶏飯。渋谷と恵比寿の間に新規開店したシンガポール料理の店。御主人はマレーシア人で英語しか通じないので異国気分が味わえました(笑)。野菜が少ないけど、店はお洒落だし味は美味しかった。焼いた鴨はとても柔らかかったし、鶏のスープはかなり美味しかった。

 豚の角煮そば。こちらも新規開店した新宿の中華麺専門店『百味麺館』で食べたもの。パクチー大盛の混ぜそばです。目玉焼きが載っているのも珍しい。肉もデカいし、味も美味しいんだけど野菜が少なかったのは我ながら失敗でした。こういうものを食べると確実に太る。

 ここもお店の人もお客も中国人だけ。テーブルにはこんな宣伝が(笑)。時代を感じます。同じ日本に居ても彼らは希望を感じているんだろうなあ。