特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ロサンゼルス・フィルハーモニック <創立100周年記念ツアー>』(ドゥダメル+ユジャ・ワン)と『貧者のサイクル』、それに『0322再稼働反対!首相官邸前抗議』

 東京も桜の開花宣言が出ました。長かった冬もやっと終わりなのは嬉しいです。
 TVでは相変らずくだらないことばかり放送しています。その一方で統一地方選が始まるようですがあんまり期待できない。
 この前 話を聞いた元政務秘書氏の話では、選挙対策であてにしていた外交が全くダメなので、安倍晋三は消費増税の延期を検討しているそうです。W選挙どころじゃなさそう。でも野党の体制も数年前と殆ど変ってないし、なんであんなにやることが遅いのかな。世の中が酷い分、可憐な花に慰めてもらいたいような気分になります。

●さすがにこれはびっくり。厚労省で賃金を担当する前は内閣官房の参事官をやっていたそうです。安倍晋三は周囲の官僚までネトウヨで固めていたんですね。ネトウヨでもキャリアになれるというのも驚き。やっぱり、この国はもうだめかも(笑)。


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 今週はサントリーホールへ行ってきました。このコンサートを見に行ったのです。
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http://amati-tokyo.com/performance/pdf/LA_PHIL_web.pdf

 ボクはオーケストラの音楽は好きじゃありません。大仰でうるさい、しかも硬直しているように感じる。まるでヘビメタみたいに聞こえるんです。
 しかし今回は前々から興味があったドゥダメル、大好きなピアニストのユジャ・ワン、それに演目が昨年 映画『君の名前でボクを呼んで
ハンサムくんの映画2題:映画『さようなら、僕のマンハッタン』と『君の名前で僕を呼んで』 - 特別な1日
で印象的に使われていて好きになった現代音楽家ジョン・アダムズ、という3拍子が揃っています。いそいそと六本木へ出かけました(笑)。

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 指揮者のグスターボ・ドゥダメルという人はベネズエラの出身。ベネズエラには犯罪などに走りがちな貧しい子供たちに音楽教育を行うエル・システマ』という『音楽の社会運動』があります。彼もそこの出身。子供たちを集めた『シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ』ボリバルとは有名な南アメリカの革命家)の監督として注目を集め、ラトルやアバドなどの大家から評価され、現在はLAフィルの音楽監督を務めたり、ベルリンフィルでタクトをふるっている世界的な指揮者です。

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世界でいちばん貧しくて美しいオーケストラ: エル・システマの奇跡

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 ちなみにチャベス政権以降 エル・システマには政権からの圧力がかかっていて、なおかつ今のアホ大統領、マドゥロ政権をドゥダメルが批判したことで更に圧力がかかってツアーをつぶされたりしています。
www.bbc.com
今週 彼は日本でも記者会見してマドゥロを批判しました。
r.nikkei.com
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www.asahi.com

 余談ですが、子供たちのオーケストラにまで圧力をかけるべネズエラの左翼政権は安倍晋三そっくり。やはり安倍晋三は保守じゃなく、自分で社会をコントロールできる、自分だけが正しいと思い込んでる点で典型的な左翼でしょう。一方 LAフィルはドゥダメルのような人をわざわざ音楽監督に招く。もちろんアメリカも問題ありますけど、良いものは認める懐の深さは全然違います。現在はLAフィルの団員がベネズエラで子供たちを指導しているそうです。
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 最初はユジャ・ワン嬢がフィーチャーされたアダムズ。現代音楽ですが、スティーブ・ライヒみたいに反復や冷たい音、ユニークな音階が強調されたものです。テクノみたいなんですよ。だから面白い。
 今回はピアノの低音域が強調されていたのは意外でしたが、異音階と変拍子、インダストリアルな感覚にジャズやクラシック、色々な要素が混じっている音楽。ユジャ・ワン嬢の力強い音+超人的な早弾きとオーケストラの効果音の組み合わせは面白かったです。ピアノの低音をガンガン叩いてオーケストラの音を打ち返すアンサンブルというより格闘みたいです。これ、レコード欲しいなあ。

 演奏も盛り上がったし、最後は当人も弾ききった、という表情、作曲者のアダムズ本人も客席から壇上に上がって彼女を讃える感動的なステージでした。何でもアダムズが彼女のために書き下ろしたらしい。
 演奏はストイックなのに、口の悪いニューヨーカー誌で『ストリッパーのよう』と評されたこともあるユジャ・ワンの衣装+ピンヒールはいつもの通り(笑)。面白い人です。32歳とまだ若いですが、元々超人的な技術の持ち主だったのが、今は天才に変化しつつあるのかも。
●この日もこの衣装でした。こんな靴、どこで売っているのでしょう(笑)。

www.rochestercitynewspaper.com


 続くマーラーの方も面白い演奏でした。ダイナミックだけど、全然押しつけがましくない。うるさくない(笑)。しかも音は自由奔放、テンポも速い。指揮もパッションが籠っていて、オーケストラからもロックやジャズみたいなノリまで出てくる。自分でCDを持ってるアバドの演奏とは全然違う。マーラーっぽくないと感じる人もいるでしょうけど、ボクはそれだからよかった。自由で押しつけがましくない、伸びやかな音楽。オーケストラの音楽もこういう感じだったらいいなあ、と思いました。

 終わった後、ドゥダメルは指揮台には登らず、団員たちと同じ高さに立って一人一人を紹介する。民主主義です(笑)。客席からも熱狂的なスタンディング・オベーションの嵐が起こりました。

 休前日の夜をシャンパンを飲みながら(さすがにサントリーホールシャンパンは美味しいんです。もうちょっと座席がゆったりしてるといいんだけど)、良い演奏を聴いて過ごすのは楽しかったです。

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ちょうど 先週のエントリーで、デービッド・アトキンソン氏の『少子高齢化が進む日本は、最低賃金を上げることで、日本の生産性を引き上げるしか、経済を救う道はない』という『日本人の勝算』という著書をご紹介しました
spyboy.hatenablog.com

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義


今週 19日の火曜日、日経1面!に同内容の記事が載っていました。
www.nikkei.com

 日本の給料は他国に比べて地盤沈下を起こしている。この20年間 主要国では日本だけが平均時給が低下している、
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 今や日本の最低賃金は欧米各国どころか、台湾や韓国よりも低い、そんな内容です。
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 この結果は明らかに経営者と政策に責任があります。
 記事の中でデビッド・アトキンソン氏は『低賃金の仕事や企業を温存するから生産性の低い仕事の自動化・効率化が実施されず、付加価値の高い仕事へのシフトが進まない。その結果、生産性が上がらずに賃金も上がらない。いわば貧者のサイクルに日本は陥っている』と述べています。

つまり
低賃金労働の仕事・企業を温存、保護する→生産性の改善が進まない→給料上がらない→消費増えない→不景気

 という訳です。

 今日22日の日経にもアトキンソン氏のインタビューが載っています。1週間のうちに2回も取り上げられるのは何か意図でもあるのか(笑)。

www.nikkei.com

 流石に日経ですから、『日本の生産性が低いのは経営者がバカだから』とは書いてませんが(笑)、大企業、中小企業問わず 無能な経営者を温存していたために日本全体の生産性が低くなっていることが良く判ります。労働者はアホの巻き添えを食っているわけです。


 かって リーマンショックの時に亀井静香が中小企業の借金返済を猶予するよう銀行に求めた中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)を推進しました。



 この法律は多くの企業も救ったと同時に、救うべきでなかったゾンビ企業を延命させた という副作用もあります。今になって、それらの企業が倒産して地銀の足を引っ張っている。『モラトリアム法で救済された後に倒産した企業は17年に480社、負債総額は約3600億円』さらに『モラトリアム法での救済後に実質的な債務超過を解消できず、業績も回復しない企業への債権額は7000億~8000億円』。
www.nikkei.com

 リーマンショックのような非常時だったら、企業の救済は必要でしょう。
 しかし人手不足と言われる今は違います。当時とは転職事情が違う。最低賃金を引き上げ、それに耐えられないようなクソ企業、生産性を上げられないような無能な経営者は市場から退出させて、労働者はもっと生産性の高い仕事・企業へ移ればよい。で、なければ労働者の給与なんか上げられません。そうじゃなかったら、経営者の善意か(笑)、日本を共産主義と勘違いしている安倍晋三に頼るのでしょうか(笑)。

 保護しなければいけないのは国民一人一人であって、企業や企業の社長じゃありません。そこを混同している人が多いんじゃないでしょうか。国民も与野党の政治家も判ってない。ほんとは今が日本経済の体質を変えるチャンスなんです
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 ということで、今週も官邸前へ。#金曜官邸前抗議
午後6時の気温は14度、参加者は320人。
●抗議風景

 北海道、福井、福岡、原発がある県でも知事選が行われますが、いずれにしても保守系の選挙です。残念ながら原発は選挙の争点にはなりえないようです。それが現実ということを認識しなくてはいけないし、だからこそ、市民が声を挙げ続けなければいけないと思います。
●外務省の桜はもうこんなに咲いていました。

『ある老舗の閉店』と映画『岬の兄妹』

  前回のエントリーに続いて中小企業のことを書きます。
 有楽町/日比谷で映画を見るときは、ボクはたいてい交通会館地下の『大正軒』(洋食)か、山手線沿いの『慶楽』(中華)で昼ご飯を食べます。どちらも家族経営で数十年続いている店で、安くて美味しい、要するに『ちゃんと作られた』料理です。
 店は汚いし愛想は全く良くありませんが(笑)、食べてみると料理に愛情が籠っているのが判ります。お会計で『御馳走さま』と言うと、『毎度~』と人の目をしっかり見て、返事をしてくれます。街中にあふれるチェーン店のインチキ料理とは食後感は全く違います。


 この前 久しぶりに慶楽へ行ったら、店頭の貼り紙を見て愕然としました。

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80c.jp

 閉店でした。スープ炒飯の元祖としてTVなどにも紹介される繁盛店なので赤字ではないと思いますが、調理人の高齢化、ビルの老朽化などの問題が重なったことが直接的な原因のようです。でも、貼り紙にもあるように『昔気質の店はやりにくくなった』というのが本音でしょう。

 この店くらいだったら再開発ビルに支店を出したり、名前貸しして商品を売ったり、金儲けする手段はいくらでもあるはず。でも、それを良しとしなかった。厨房で鍋をふるっていたご主人が亡くなって経営を引き継いだ奥さんが最後まで昔のやり方を貫く気持ちは良く判る。まるで関羽のような巨大な髭を生やした名物主人の写真は最後まで店頭に飾られたままでした。
 営業再開の可能性はないわけではないようですが、有楽町で70年近く続いた火が消えてしまった。
●慶楽の炒飯ランチ。かき油の味が効いているのが特徴です。

 近年 中小企業の廃業原因のトップは不景気ではなく、高齢化&後継者不在と言われています。慶楽もそういうことなのでしょう。
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 慶楽のスープ炒飯や巻揚げ(春巻きはこの店にはない)はもう食べられないんでしょうか。
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【閉店】慶楽 (ケイラク) - 有楽町/広東料理 [食べログ]

 慶楽だけではありません。江戸時代から続いていた東京で一番古い天ぷら屋、新橋の『橋善』の2002年の閉店も揚げ手の高齢化&後継者難が原因でした。ここの名物だった、食べた後30分くらい ごま油の香ばしい香りが口の中に残る巨大掻揚げが食べられなくなったのは、個人的にかなり堪えました。今でも困ってます。今でも、ボクは巨大な掻揚げの幻影を追いかけている(笑)。
●これは『橋善』の流れを引いているという鹿児島の店の掻揚。橋善のものもこんな感じで、でかかった。でも全然もたれない。
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『老舗の天ぷら屋「橋善」(新橋)の系譜』by 大崎 裕史 : 新橋 - 武之橋/天ぷら [食べログ]

 食べ物の問題だけではありません。橋善のような店を話題にすれば、戦後生まれのボクでも明治生まれの人と本当の意味で対等に会話ができました。仮にボクがタイムマシンで江戸時代に行っても、当時の人と橋善の話題で共通の会話ができるでしょう。そんな店、中々ありません。

 高齢化は致し方ないとしても、橋善や慶楽のような店は本当の『文化遺産です。職人さんの熱意と技術、客への愛情、それに長い時間が作り上げたもの だからです。巨大資本でもデジタル技術でも代替することはできません。
●東坡肉をたっぷり乗せた慶楽の焼きそば(メニューにはありません。知ってる人だけ食べられる)。ちゃんと長時間 蒸して作った東坡肉です。1000円そこそこで『ふかふか』のお肉なんて、なかなかお目にかかれるもんじゃありません。

 規制や政治、地縁血縁に頼って偉そうにしている商店街のどうでもいいような店はともかく、慶楽のようなオンリーワンの中小企業、お店が我々の文化、豊かさを作っているわけです。だけど消費者は必ずしも、そういう価値を大事にしていない。

 日本の企業の99%が中小企業で、従業員数にして70%を占めています。中小企業白書」によると、1999年から14年の15年間で約100万社も減少している。そのうち後継者不在による廃業に限っても、年間20万人から35万人の雇用機会が失われていると指摘されているそうです。決して『慶楽』の東坡肉だけの問題ではありません(笑)。

 盛者必衰の理、ではありませんが、人間は齢を取るものだし、時代は移り変わるものです。価値があるものがなくなったとしても、後に続く者が新たに作っていけばいい。以前に書いたネパール料理じゃありませんが、今まで我々が知らなかった美味しいものも世の中には沢山あるでしょう。橋善や慶楽のような有名店ではなくても、どこの街にもそういう志と技術がある店はあるはず。
 消費者はそういう店をもっと大事にしなければいけない。価値を見分ける眼と舌(笑)を持たなければいけない。値段だけでなく、料理に込められた味とか愛情とか丁寧に作られたものの価値がわからないのは消費者一人一人が悪いんです。

 もちろん、これは食べ物だけの問題じゃありません(笑)。日本経済全体にかかわる問題です。国民が本当に大事なものを大切にしないことが、日本経済が傾いている原因の一つかもしれない。安さだけを追いかけているようじゃ、新興国に勝てるわけがないんですから。
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 慶楽のように、子供の時からある店がなくなってしまうのは寂しい。暫くセンチメンタルな気持ちは抑えられそうもありません。ぶっきらぼうでちょっと怖いけど、人懐っこい店のおばちゃんたちは今頃どうしているのだろう。
●結局 その日は『大正軒』で牡蠣フライ+エビフライ+アジフライの盛り合わせを食べました。この店のぶ厚いアジフライはエッセイストの平松洋子氏がエッセイを書いているほど。牡蠣フライもでかい(笑)。デカさの問題ではなく(笑)、技術もさることながら材料が良いんです。ここもご主人は70を超えています。心配です。
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と、いうことで、有楽町で映画『岬の兄妹
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misaki-kyoudai.jp

港町の外れのバラックに暮らす良夫(松浦祐也)は足に障害を持ちながらも、自閉症の妹の真理子(和田光沙)の面倒を見ながら暮らしていた。足が不自由な良夫はリストラされて職を失うが、鄙びた田舎町では職も見つからない。ある日 家を抜け出した真理子が男に体を許して金銭を受け取ったことを知った良夫は愕然とするが、当人はあまり判っていない。やがて良夫は困窮に耐えかねて妹の売春のあっせんを始めてしまう- - -


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 公開前から映画祭や評論家などから絶賛が相次ぎ、全国20館以上での拡大公開が決まったという、良い意味でいわくつきの作品です。『おれたちを止められるか』の白石監督は『この映画が報われなければ日本映画に未来はない』とまで言っています。早くも今年のベスト1と言う声も多く上がっています。
 話としては辛すぎて普通だったら絶対に見られないタイプの映画ですが、ここまで評判が高いとなると、覚悟をして見に行きました。


 映画は、知的障害を抱えた妹が家からいなくなり、仕事から帰ってきた片足が悪い兄がびっこをひきながら懸命に探し回るシーンから始まります。やっと夜になって妹は見ず知らずの男に保護されていることがわかるのですが、なぜか妹の服には1万円札が入っています。
●兄の良夫。自身も足に障害を抱えながら知的障害の妹の面倒を見ています。
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 二人が暮らす家は隙間風を防ぐためか、窓が新聞紙で覆われ、隙間はガムテープで埋められています。昼でも穴倉のように暗い。照明は裸電球だけ。こんな家は初めて見ました。
万引き家族を思い出させるシーンですが、こちらの方が遥かにリアルで壮絶です。
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 映画では二人の父親の事は語られません。残った母親は失踪し、兄は妹の面倒を見るためにこのバラックに住んでいるのです。
●知的障害を抱えた妹。まさに役者魂!
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 二人が暮らす地域は辺鄙な港町、ご多分に漏れず不景気です。兄は足が悪いということで造船所の仕事をリストラされて収入が絶たれます。障碍者の兄にはなかなか次の仕事は見つからない。公的なサポートを受けることすら思いつかない。
 電気を止められたり、食べ物が買えなくてティッシュを食べたり、ゴミ箱を漁ったり、唯一の知り合いの警察官に借金を無理やり頼んだり。露骨な暴力こそ殆どありませんが、とにかく全編あっと驚くシーンばかり。ボクは時折目をそらしながらも、『うわー』とか『うえー』とか言うしかありませんでした
●生きるためにはカッコつけてはいられません。これだけ剥き出しになった人間の姿をスクリーンで見るのは初めてです。
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 貧困、孤立、障碍者差別、経済の衰退、地方都市の暗部、家族の崩壊、公共の不在。現代日本を取り巻く問題が文字通り 剥き出しになって観客に迫ってきます。
貧困問題では『そこのみにて光り輝く』や『ギャングース』など、凄い映画がありましたが、これほど激烈な描写が続く映画は見たことがありません。にも拘わらず、この映画は脚本も構成も画面も、欠点がほぼ、ないんです。強烈な描写の連続ですが、くすっと笑わせるシーンも多いし、画面そのものは非常に美しい。
 ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督監督の助監督を務めていた片山慎三監督が2年をかけて撮ったそうですが、どのシーンも計算しつくして作っているように見えます。
●不謹慎かもしれないが、笑えるシーンがいくつもあります。
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 この映画を見ていると、今の日本の現状を改めて思い知らされます。日々の報道に留意していれば、こういうことは現実にはいくらでも起きていることがわかりますが、今の日本の風潮は必ずしもそうではない。あの『万引き家族』ですら「反日」(笑)とか『現実にはありえない』と言うバカもいるくらいです。国会議員でもニュースも見てない低能がいる。
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 まして、この『岬の兄妹』、知性や想像力の欠けた人にはこの映画のようなことが現実にある、とは信じられないかもしれない。それくらいタブーや手加減がない描写です。作る側の気合を感じます。
 にも関わらず、この映画では主人公の兄妹がただ気の毒な存在としては描かれていません。そこが素晴らしい。
●美しさもあるんです。

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 足が不自由だったり、知的障害を負っている兄妹のやっていることはもちろん賛同できない。でも、彼らは彼らなりの理屈と思いがあるし、彼らなりに立派なんです。自分が兄妹のような立場になることはいくらでもあり得るし、もし自分があの立場だったら、ああいう行動をしなければいけないかもしれない。これが今の日本社会だし、もしかしたら生きるってこういうことなのかもしれません。兄妹はとにかく生きようとする。それがこの世の中で最も大事な価値なのかも。
●舞台挨拶 強烈な内容とは対照的に、映画の現場は常に笑いが絶えなかったそうです。左から兄役の松浦裕也、片山監督、妹役の和田光沙、主人公の唯一の友人役の北山雅康(この人は『男はつらいよ』の常連ですね)。


 タブーもモラルも恐れずに強烈な現実を描くことだけに専念している、まさに勇気ある映画です。それを計算ずくでやっているところがすごい。
 これは傑作としか言いようがありません。すこしでも広く人々の眼に触れることを願います。特に国会議員、首長は全員見ろって。誰がこんなゴミ社会にしたんだよ。あ、クソ政治家だけでなく、国民一人一人が悪いのか。
●兄を演じた松浦裕也という役者さんは舞台あいさつで『この映画に関わるまで、このような人たちの行動には理由があることがわからなかった。それが判るようになっただけでも映画に出て良かった』と言っていました。

 ぬるい観客、いや 社会そのものを殴り飛ばすような気迫が籠った映画です。しかも完璧な構成、笑い、映像、俳優さんの好演。眼をそむけたくなるようなシーンもありますが、後味は全く悪くない。何度も見たくなるような映画ではありませんが、見ると見ないとでは人生が変わってくる。今年の邦画ベスト1かもしれないという声には同意せざるを得ない、そんな作品です。

自閉症の妹に売春させ生計立てる…ポン・ジュノが絶賛した「岬の兄妹」特報解禁(コメントあり) - 映画ナタリー


障がい持つ兄妹の売春描く『岬の兄妹』主演・松浦祐也&和田光沙、迫真演技を生んだ信頼感 | ニュース

『海を見ていた午後』(読書『日本人の勝算』)と『0315再稼働反対!首相官邸前抗議』

 異動の季節です。必ずしも自分が異動しなくても、自分の周囲、同僚や取引先、プライベートでも友達や友達の友達(笑)まで異動や退職したりします。昨日は顔なじみのスーパーの店員さんにまで異動の挨拶をされました。
 誰に対しても『今までありがとうございました。これからも頑張ってください。』と言う言葉しか、かけようがないんですが、こちらまでセンチメンタルな気持ちになります。いかにも春、の光景です。それより安倍晋三をはじめ、為政者の顔ぶれが変わってくれないかなー。
●今週 河津桜と梅のアーチが出来ていました
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 そういう、せわしい日常が嫌になって(笑)、熱海の方へ行ってきました。
 一時期 熱海は文字通りゴーストタウン化していました。昔は団体旅行、大規模ホテルのメッカだったそうですが、今どき団体旅行なんかありえない(笑)。ボクは絶対に嫌です。1983年度には205軒あったホテル・旅館は2015年度には116軒にまで減ったそうです。
toyokeizai.net

今も熱海の一等地?『お宮の松』の辺りはこんな光景が残っています。

 が、近年は少しずつ復活の兆しが見えているそうです。実家が熱海で旅館をやっている友人に聞くと、理由の一つは 再開発されないまま放置されていた土地を中国資本が買いとっていること、もう一つの理由は 箱根の噴火があって以来、箱根の客が熱海の方へ回ってきていること だそうです。
 そんなこともあって、最近は小さくても料理や景色に特徴があるホテルもできているので、ちょっと出かけてきました。東京から新幹線でたった40分です。

 と言っても、名所や観光地などは全く興味ないので、午後に宿に着いてからずっと海を見ながら、寝転がって本を読んでいました。ボクのいつものパターンですが(笑)、刻々と変わっていく海と空の色を見ているのは全然飽きません。

●夜になると天城のイノシシがお皿の上に載って出てきました


 平日だったせいもありますが、10部屋もない小さい宿の客は約半分がおひとりさまの女性だったのが衝撃的でした。あとは外人。いつも書いている話ですが、日本で文化を享受しようとしているのは女性ばかりですよね。食い物だけが文化じゃありませんが、これじゃあ、日本の先行きは暗いに決まってます。

●夜明けの海。
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●まさに春の海という感じでした。


 海を見ながら 読んでいたのがこの本、『日本人の勝算

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

 著者はオックスフォードで日本学を専攻後、ゴールドマン・サックスの金融調査室長。アナリストとして日本のバブル崩壊を早くから予想して話題になりました。その後 マネーゲームを反省し(笑)、日本で国宝、美術工芸品の修理を専門にする小西工藝社に入社、その後 社長に就任。観たことありませんがTVなどでコメンテイタ―もする傍ら、2017年には政府観光局の特別顧問を務めています。

この本の要旨は明快です。
1.人口減少と少子高齢化で日本経済の将来は真っ暗である。
 経済=人口×生産性の掛け算であり、年間数十万人単位で人口が減り、なおかつ高齢化が進む日本が今後も右肩上がりの経済を目指すのは難しい。かっての日本経済の高度成長も多くは人口増によるものだった。今後は生産性を上げていくしか伸び代はない。

2.日本は高生産性・高所得経済を目指していくべき。
 日本経済が右肩上がりの成長をするのはムリだが、経済の規模を維持しつつ『質』を上げていくことを目指すべき。日本経済が縮小したら借金だけでなく、医療費も介護費用も払えなくなる。『良い物を安く』ではなく『良い物を高く』で行くしかない。日本は直ぐアメリカの真似をしようとするが、アメリカは先進国の中では珍しい人口増加国であり『量』の国。単純に真似をするのは間違い。このままでは日本は三流国になり下がる。既に労働者一人当たりの生産性では世界で28位。イタリア、スペインより低い。

3.まず日本は輸出増加を目指すべき。
 日本は他国に比べて輸出比率が低い国であり、まだまだ輸出できるものはあるはずである。日本独自のものを他国に通じるような工夫をすればよい。あとは意欲と能力の問題。インバウンド需要が増えている観光業がその好例である。

4.企業規模を拡大するべき。
 企業規模と労働者の生産性は相関関係があり、中小企業は一人あたりの労働生産性は低い。一方 日本は従来の保護政策や規制のせいで中小企業の比率が世界でも高く、それが日本全体の生産性の足を引っ張っている。今後 ゾンビ企業の退出と中小企業の統合を目指していくべき。人口が減る日本で企業数が減るのは仕方がない。中小企業が減ると言っても減るのは社長だけで、労働者は統合された企業で働けばよい。規模の大きい企業なら生産性も高く、労働者の給料も上げられる。

5.最低賃金を上げるべき。
 日本の労働者の質は国際的には高く評価されている。なのに生産性が低いのは経営者の能力が低いから。かといって市場原理に任せていては彼らは改善しない。先進国の中では低いレベルの最低賃金を全国一律に上げれば、ダメ経営者にプレッシャーを与えることが出来ると同時に、所得格差、女性差別を改善することができる。日本は労働者の質は高いのに給料は安い、『労働者搾取資本主義』である。

6.人材育成トレーニングを強制的に行うべき。
 経営・技術レベルを上げるための教育を国が音頭を取って強制的に行うべき。他国に比べてレベルが低い者が多い経営者だけでなく、労働者も新しい技術を身につけていかなければ高生産性など望めない。若い人たちだけでなく少子高齢化が進むのだから高齢者も学び続けることが必要である。また民間に任せておけば格差が広がるだけなので、イギリスのように教育費用を大企業から徴収する等、国が強制的にトレーニングを行うことが必要である。人材育成は日本にとって最も重要な『投資』である。



 一見乱暴に見える意見かもしれませんが、著者はいちいちデータを上げて論考しています。どの項目にも、ちゃんと根拠があります。論理的です。
 特に『最低賃金を上げると失業が増えるなんて嘘っぱち』というのはもっと良く知られて良い。ニュースを見ていれば判るはずです。今 NYなどアメリカ各地で最低賃金を15ドルに上げてますけど、失業率なんかぜーんぜん上がっていません(笑)。本文中では韓国の失敗例も挙げてますけど、あれはいきなり2ケタも上げるなんてバカなことをしたのが悪いんです。何事も適度な速度というものがありますからね。
●反対意見として面白かったので挙げておきます。ただし、論者のみずほ銀行のアナリストは無能な経営者の淘汰と賃上げによる地方の需要増を考慮していません。落第です(笑)。
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 必ずしもいつもそうではありませんが、この本での著者の意見にはボクはもろ手を挙げて賛成です。実際はどうやって育成トレーニングをするのかとは思いましたが、大筋は賛成。

 このままアベノミクスなんて呑気なことをやっていれば日本は将来 三流国、四流国になり下がります。別に成り下がっても良いけど食料や資源の輸入が差支えたり、医療や介護の費用が払えなくなるのは困ります。

 それだったら予想される経済の縮小を軟着陸させることを考えるしかありませんが、そのためには生産性を上げていくことが必要です。日本の生産性の低さは政府ですら指摘していますけど、その原因は『経営者と役人、政治家がバカだから』です。あ、賃上げは言うけど、ただそれだけで現実的かつ論理的な論拠を言えない野党や左翼も大バカ、だと思う。無責任というか、逆に足を引っ張っている。


政府は日本企業の問題は利益率が低いと言ってますが、それはビジネスモデルの問題。人、モノ、カネなど経営資源を組み合わせてビジネスモデルを造るのは経営者の責任です。しかもそれを規制や忖度で役人や政治家が足を引っ張っている。働き方改革』とか言ってますけど、労働者より、経営者のケツを蹴っ飛ばすことの方が先決の筈。

 日本人は弱者に冷たい割に、『下町ロケット』?など判官びいきで中小企業が大好きですが、労働者にきちんとした給料を払えない中小企業なんて潰れた方がいいんです。公害を垂れ流したり、脱税と同じで、最低賃金を払えないような企業は社会的責任を果たしてないんです。そんな企業の経営者なんか犯罪者ですよ。

 最低賃金を上げて経営者にプレッシャーを与える。払えないような経営者は無能なんだから市場から退場させていく、その繰り返しでしか日本経済は復活しません。しかも最低賃金を上げれば格差対策、女性差別対策にもなる。

 元ゴールドマン・サックスの著者と意見がこれだけ一致するというのも自分では複雑な気がするんですが(笑)、日本の活路、方向性はこれしかないと思います。とりあえず、最低賃金を1300~1400円くらいまでゆっくりと上げていくこと。とにかく、この本に書かれているようなことを多くの人がもっと議論していけばよいと思います。

 それより電気グルーヴが発売中止になるならストーンズなんかどうすんだよ、ボウイやクラプトンもニール・ヤングも発売禁止にするのかよ(笑)。この国はマジで頭おかしい。
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と、いうことで、今週も官邸前抗議へ。#金曜官邸前抗議
今日の午後6時の気温は12度、参加者は350人。
●抗議風景


 311関連、原発の裁判などの話題は他の人が書くでしょうから、ボクは他の事を書きます(笑)。日経デジタル・日経産業に載っていた、日本製鋼所という会社の社長インタビューがかなり面白かったです。
www.nikkei.com

 この会社は原発の圧力容器を作っていて、90年代は世界の7~8割のシェアを持っていたそうです。すごい。ところが、311以降 原発需要は壊滅(笑)。現在は中国の原発新設とフランスの売上が若干あるだけで、往時は売上全体の2割あった原発関連は今は全体の2%しかないそうです。17年まで赤字経営に陥っていました。何とか他の分野に進出して経営を立て直した社長は原発についてこんなことを言っています。原子力の復活はない、という経営判断』をした、と。

 圧力容器だけは中国も作れないというのは驚きでしたが、それも時間の問題のようです。この会社の役員の佐藤氏はこう言っています。

 日本の産業全体を象徴しているような話ではあります。が、少なくとも原子力には明日がない。政治家や官僚、東電が何を言おうと『現場ではもう、誰もが判っている』ことのようです。