特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』

 毎度のことながら週末が過ぎるのは早い、です。楽しいことはあっという間に過ぎてしまうのは不思議です。とりあえずゴールデンウィークまでの1週間、『我慢』です(笑)。
 人生は我慢の連続だな(笑)。


 と、いうことで、新宿で映画『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-

 1968年のアメリカ・シカゴ。ベトナム反戦運動が盛んになり、民主党大会でも逮捕者が出る時代。弁護士の夫と高校生の娘と共に幸せに暮らす専業主婦・ジョイ(エリザベス・バンクス)は、2人目の子供の妊娠が原因で心臓の持病が悪化する。夫妻はジョイの生命を守るため、医師に中絶を相談するが当時は法律的に許されておらず、病院の評議会も中絶を却下する。そんな中、街で偶然見つけた張り紙を頼りに、違法だが安全な中絶手術を行う女性たちの組織「ジェーン」(ジェーン・コレクティブ)にたどり着く。彼らの手助けにより命を救われた彼女は、自分と同じ状況にある女性たちを救うため、ジェーンの一員として活動し始めるが。

www.call-jane.jp

 初監督を務めるのは『キャロル』などの脚本を担当したフィリス・ナジー、プロデューサーには『バービー』や『ダラス・バイヤーズ・クラブ』などに携わってきたロビー・ブレナーが参加。主人公を最近は監督にも進出している女優、エリザベス・バンクス、ジェーンのリーダーを『エイリアン』シリーズのシガーニー・ウィーヴァーが演じています。

 余談ですが、昨年公開されたエリザベス・バンクスの初監督作品『コカイン・ベア』、くだらないけど、なかなか良くできた作品でした。麻薬の密売人が飛行機から落とした大量のコカインでキマッたクマが大暴れする。という実話(笑)をもとにした作品でした。ボク、動物モノは必ず見るようにしているんです。
 


 この映画、主人公は架空ではありますけど、これもまた実話ベース、いくつもの実話を組み合わせて作られたお話です。
 舞台は1969年のシカゴ。ベトナム反戦運動が盛んな時代です。シカゴで行われた民主党大会も流血の惨事になりました。
 映画は、目の前で警官に殴られる若い反戦活動家を見て主人公のジョイがショックを受けるところから始まります。弁護士の妻、専業主婦として優雅に暮らしていたジョイはそんな世界があるとは夢にも思わなかったからです。

 当時は職業を持っている女性もほとんどおらず、女性は自分名義のクレジットカードや銀行口座も持てなかった。現在のように何でも金に換算される新自由主義とは違うにしても、資本主義とは思えないような世界です。ほんの50年前の話です。
 何よりも女性には妊娠中絶を決める権利がなかった。母体の安全や暴行を受けたなどのやむを得ない事情があっても、原則として中絶は違法でした。

 第二子を妊娠したジョイは心臓を患い、出産した場合、命の危険が50%もあることを医師から告げられます。夫も同意してジョイは中絶を希望しますが、それを決定する権限がある病院は許可しない。ちなみにメンバーは全員おっさんとジジイ、男性です。

 途方に暮れるジョイですが、電話ボックスに貼られていた『妊娠?困ったらジェーンに電話して』という文言と電話番号が書かれた貼り紙に気が付きます。

 彼女が電話すると、そこは女性の安全な中絶を援助する秘密の女性団体’’ジェーン’’でした。もちろん違法な活動団体です。

 秘密を守るため目隠しをさせられた彼女は’’ジェーン’’の手助けで医者の所へ連れていかれ、安全に中絶手術を受けることが出来ました。

 それをきっかけに彼女は’’ジェーン’’の活動に引き込まれていきます。
 市民運動など全く縁がなかった彼女でしたが、現実に困っている女性が沢山居ること、彼女たちが助けを求めていることを知ると、放ってはおけなくなったのです。彼女のような恵まれた立場の主婦だけではなく、貧困家庭の黒人女性、親に言い出せないティーンエージャー、事情は様々です。

 女性の送り迎えのドライバー役から始まり、中絶手術の手伝い、やがては自ら中絶手術を行うようになります。

 今までは高額の費用を取る闇医者に医療するため助けられる人の数には限りがありました。特に黒人、ティーンエージャーなど本当に助けが必要な人を救うことができない。

 自分たちで安全に施術を行うことができれば、より多くの人たちを助けられるようになります。

 専業主婦だったジョイが突然 家を空けるようになって、夫や娘はいぶかるようになります。やがて彼女の秘密は家族にも知られるようになるのですが- - -

 

 ジョイはより多くの女性たちを救うため、また自分の生活のため、ある決断をします。

  やがて73年 女性たちの活動が実を結び女性の中絶の権利は保証されるようになります。’’ジェーン’’もめでたく解散。彼女たちは1万人以上の女性の中絶を助けましたが一度も事故を起こさなかったそうです。

 60年代ポップスが多用され、終始 明るい雰囲気でドラマは展開されます。全然暗くならない。そこは特筆すべき点です。
 シガニー・ウィーバーが’’ジェーン’’のリーダーを好演していますが、団体の中の路線対立を話し合いで乗り越えるところなど非常に興味深い。女性たちを助けるという目的のためにお互いが妥協点を探していく。自分の『正しさ』ばかりに固執して、直ぐ内ゲバが始まる日本の運動体や政党とは大違いです。

 国家は信用しない。他人に頼らず自分の力で自分の身体を守ろうとした実話をもとにしたお話は同じプロデューサーが手掛けた『ダラス・バイヤーズ・クラブ』によく似ていると思いました、

 この映画でも女性たちがあくまでも独立独歩であるのも気持ちがいい。専業主婦だった主人公と保守的な価値観の家族との関係が変わっていくところも感動的です、民主主義は自分たちで作っていかなければ存在しないことを、この映画は声高ではないけれど雄弁に語っています。

 また主人公が最後に下す決断も素晴らしいと思いました。まさに大人の判断で、精神論に引き摺られる日本の市民運動とは随分違います。

 映画が作られたのは22年。ところがその後トランプに選ばれた保守派の最高裁判事たちが中絶手術を禁止する州の法律は合憲である、という判断を示します。テキサスなど一部の州では中絶ができなくなりました。

 それに対して女性団体だけでなく、オラクルやセールスフォース、ディズニーなど一部の大企業も反対声明を出したり、手術が可能な他の州への旅費支給を行うなど従業員の中絶を支援していますが、州によっては支援者まで罪に問うような法律が施行されています。

 時代はまた、逆戻りです。どうなっているのでしょうか。統一教会日本会議の手先の政治家がのさばっているのですから、似たようなことは日本だってやりかねない。夫のDVがあっても女性や子供が逃げることができなくなる可能性がある共同親権なんかその典型です。

 過去に女性たちがどうやって問題を乗り越えていったのか、思い出すことに意味がある時代になってしまいました。酷いものです。そういうことも含めて、今見るべき良い映画だと思います。結局 自分たちで戦い続けていないと民主主義は維持できないということが良く判りました。


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