特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『NHKスペシャル 見えない貧困』と映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』&『未来を花束にして』

冬の愉しみと言えば、週末の半身浴です。お風呂に入浴剤かオイルを入れて、洗面所にスピーカーを置いて音楽をかけて、冷え切った身体を温める、整体の先生は、半身浴は煮物と一緒だ(笑)って云うんです。ゆっくり時間をかけないと煮物に味は染みないし、半身浴も身体の芯まで温まらない。なんか、説得力ありません?(笑)。本を読みながら20分か30分くらい過ごすと、上半身からも汗が出てきます。この、のんびりした時間は文字通り心が洗われるような気がします。間違いなく1週間で一番楽しい。ああ、冬の間はお風呂か布団か、どちらかで過ごしたいなあ。人間も冬眠があればいいのに(笑)。
●今朝の富士山。そろそろ霞がたなびくようになりました。


TVでは安倍晋三とトランプの会談ばかりでしたが、日米ファシスト対談とか、全く興味ないから(笑)。会談の際にトランプの差別的な政策に抗議しなかったイギリスのメイ首相が帰国後 非難されましたが、安倍晋三は嬉々として尻尾振ってるもんな。犬だってもうちょっとプライドあるよ! やっぱり、日本の総理大臣や都知事は犬かパンダがいいですよ!少なくとも余計なことは言わないし、世界に恥をさらしたりしませんからね。


                              
12日の日曜 夜に放送されていたNHKスペシャル「見えない“貧困”〜未来を奪われる子どもたち〜
NHKスペシャル | 見えない“貧困”~未来を奪われる子どもたち~
NHKドキュメンタリー - NHKスペシャル「見えない“貧困”~未来を奪われる子どもたち~」


*再放送は2017年2月15日(水) 午前0時10分〜

                                            
今や、この国は6人に1人の子供が相対的貧困状態にあると言われています。この番組は東京、大阪などで行われた子供の貧困に対する大規模調査を基にしたものです。
●日本の相対的貧困率と子どもの貧困率の推移

*番組にも出演していた阿部彩教授のホームページより
相対的貧困率とは・・・ - hinkonstat ページ


相対的貧困率は、国民の所得の中央値の半分未満の所得しかない人々の割合を示すものです。貧困をテーマにした番組が放送されると、持ち物の事とかで揚げ足取りをやるバカがいますが、先進国において貧困は相対的な話、格差の問題に決まってます。いくら食べ物に困らないとしても、そういう立場に自分が立たされたら辛いと感じますよね。当たり前のことです。
*そういう揚げ足取りをやってる奴は単に頭が悪いと言うだけでなく、人格的に欠陥があるとボクは思います。

        
番組の中で、子供たちの貧困は金銭だけでなく、『剥奪』を基準に考えるべきではないか、という指摘を見て、非常に納得しました。子供たちの生活から奪われているものがあるのではないか、と言うのです。具体的には貧困かどうかを判断するには『金銭などの物質的な面』『人的なつながりの面』『教育などの文化的な面』の3つの要素を考えなくてはならない、と指摘していました。
                                                    
これは本当にそう思うんです。例えば慶応幼稚舎の子と公立小学校の子とでは、物質的な面以上に、人的なつながり、文化的な環境が明らかに違います。これは極端な例だし、それが一緒である必要はないけれど、やはりこの国にも階級というものがある。それは認めないといけない。階級があるのは仕方がないけれど、階級間の流動性が薄れると社会は壊れていきます。そこには他人事という差別的な意識が生まれるからです。差別的な意識があるから、沖縄に基地が集中しても他人事だし、福島の事故なんか知らねえよ、女性は働いて尚且つ家事もやれ、という発想になるのです。階級の流動性を保ち、差別意識の発生を防ぐ最良の手段が教育です。
                                      
番組の中で取りあげられていた、母子家庭やバイトをして生活を成り立たせている高校生の姿には胸が痛みました。番組の中で、笑顔の学生が表紙になっている奨学金のパンフレットを見て『笑ってるんじゃねーよ。これを借りたらどういうことになるか判んないのかよ』と吐き捨てるように言っていた女子高生に対して、大人は何と言ったらいいんでしょうか。貧困家庭に育った彼女は英語教師になるために奨学金で大学に通おうとしています。
●世帯タイプ別の子供の貧困率推移(2006,2998,2012)。片親家庭では半分以上の53.1%の子供が貧困状態(怒)

1.日本における子どもの貧困率の動向: 2006,2009,2012年 - hinkonstat ページ


番組の中で、自分も母子家庭の出身というAKBの高橋みなみという子が取材VTRを見て眼に涙を溜めながらも、クレバーな発言をしていました。下手な学者やコメンテイターより遥かに立派だった。彼女曰く、「『子供には子どもとして生きる権利』、『親には親として生きる権利』がある。(それが脅かされているなら)なんとかするのが国の仕事じゃないか」って。その通りです。目の前で貧困で苦しんでいる子供が大勢いるのにオリンピックとかくだらないことにカネをつかってる場合じゃないですよ。

番組では、『こうした状況を放置すれば進学率の低迷、生活保護社会保障費の増加などで将来の社会的損失は40兆円になる』という試算も紹介されていました。
子供へお金を使うことは将来の利益を生む「投資」です。人材しか資源がないのに子供にお金を使わないこの国は、自分で自分の首を絞めている。ボクはそう思います。この番組は15日深夜に再放送があります。
●G20各国の教育費に対する国の支出割合(2013年)。日本の公的支出の低さは一目瞭然。

Education resources - Public spending on education - OECD Data







と、言うことで、渋谷でドキュメンタリー『ホームレス ニューヨークと寝た男http://homme-less.jp/

アメリカのニューヨーク。52歳のマーク・レイはファッションモデル兼フォトグラファー兼フォトグラファー。ダンディにスーツを着こなし、ファッションショーの写真を撮り、モデルと談笑する華やかな彼だが、深夜になるといずこへと姿を消す。彼はビルの屋上で寝泊まりするホームレスだったのだ。家を持たず、家族や恋人も作らないマークの日常に3年間密着したドキュメンタリー。

                               
原題はHOMME LESS何も持たない男、という意味です。ダブル・ミーニングですね。

                                           
ポスターを見てお分かりの通り、マーク・レイ、かっこいいですよね。ちょっとジョージ・クルーニーにも似ている。美男にしろ、美女にしろ、こういうカッコいい人の生活ってどうなんだろって、それだけでも興味あります。

彼は服やパソコンなどはスポーツクラブのロッカーに置いています。会員になっているスポーツクラブでシャワーを浴び、髭をそり、服にアイロンをかけ、ダンディな姿で街へ出ていく。
●スポーツクラブでアイロンをかけます。モデルだからアイロンもお手の物

                                    
ある時はNYの街角の超美しい女性やモデルの写真を撮るカメラマン、またある時は映画などの端役として生計を立てています。普段の食事はファーストフード、夜は美しい業界の女性たちと談笑する時間を過ごします。彼の1か月の出費はスポーツクラブ代で約300ドル、食費、夜遊び代、雑費などの生活費合計が1500ドルくらい。ただでさえバカ高くなったNYの家賃に回す費用はとても払えないそうです。
●ファッションショーの現場。このシーンでは、さすがNY、人間離れした美しい女性がいるなあ、と思いました(笑)。

深夜になると彼は1人、姿を消します。人影まばらなビルの屋上の物陰で寝袋に防水シートをかけて生活しているんです。昼間のダンディな彼の姿からは全く信じがたい。
●ビルの屋上にて。ホームレスとしての彼

若いころはファッションモデルだった彼は途中でそれに飽き足らないようになり、ヨーロッパでフォトグラファーとして生計を立てようとします。しかし、うまくいかずアメリカに戻ってくる。それからホームレス生活が始まったそうです。金銭的な問題もありましたが、精神的に自由、というのも大きかったようです。物質も人間関係も余計なものは持たない。確かに精神的な自由はあります。彼は知恵を振り絞りながら、お金はなくとも華やかで楽しい生活を送っています。
●ビルの屋上の物陰が彼の寝床です。

彼の出身はNYに隣接するニュージャージー。極貧の生活だったそうです。カレッジを出て華やかな世界に身を投じましたが、成功することはできなかった。彼の家族は家には住んでますが、依然ニュージャージーで貧しい暮らしを送っています。
乗り遅れたバブルオヤジと言った体の彼ですが、なんと言っても野宿生活という環境は過酷だし、当人も50の声を聴いて人生に焦りも感じています。自分は何者にもなれなかったし、何もできなかった。時にはカメラの前で涙を流します。観客にカンパも呼びかける(笑)。こういうところは3年間の長期密着ドキュメンタリーならでは、です。

音楽はクリント・イーストウッドの息子のカイル・イーストウッド。全篇ジャズでお洒落な雰囲気が漂っています。ダンディなホームレスを描いた映画にピッタリです。


前半の、ひたすら美しいNYのモデルたちとカッコいいマーク・レイとが織りなす華やかな世界。中盤以降の真っ黒な暗黒の空の下での防水シートにくるまれた暮らし。見事な対照を為しています。内容に比して上映時間がちょっと長くて、少し間延びするところもないわけではありませんが、大変ユニークな映画でした。


今日のメインは、未来を花束にして』(原題 Suffragette)アフアドバ |

第1次大戦直前のイギリス、工場で働く女性たちは低賃金や過酷な労働条件に苦しめられていた。洗濯工場で働くモード(キャリー・マリガン)は一児の母として平凡な暮らしを送っていた。おりしも女性にも参政権を要求するエメリン・パンクハースト夫人(メリル・ストリープ)の婦人社会政治運動(WSPU)が行われていた。自分には関係ないと思っていた彼女だが偶然 彼女たちの過激な運動に巻き込まれたことから彼女も運動に関わりを持つようになっていく。

                                              
ボクの大好きなキャリー・マリガンちゃん(『ドライブ』、『18歳の肖像』他)が主役ということで昨年の現地公開から非常に楽しみにしていた映画。イギリスでの婦人参政権運動を描いた作品です。
●主人公(キャリー・マリガン)は洗濯工場で働く一児の母。旦那役は007やパディントンの声でおなじみのベン・ウィショー

最初に頭に来たのは、人を舐めきった邦題。何が花束だよ、ふざけんなって。何のことだか全然わかんねーじゃねーか。原題のサフラジェットとは婦人参政権のこと。観客を舐めてますよ。サフラジェットってデヴィッド・ボウイのヒット曲でも有名ですよね。


映画ではまず、当時の労働者の描写に引き込まれます。職場の環境はとにかく危ないし、資本側からこき使われる。これじゃ、社会主義運動が広がるわけです。19世紀末〜20世紀初頭の過酷な労働者の描写は他の映画でも描かれていますが、この映画では更に女性たちの境遇も描かれます。同じ職場でも賃金は男より安く、労働時間は長い。主人公は7歳でパートタイムで就職(怒)、12歳で正規雇用、20代ではもうベテラン工員。彼女がパジャマに着替えるとき、半身に焼けただれたような怪我の跡があることが判るシーンがあります。薬品や事故などで『洗濯工場に勤める女は早死にする』そうです。さらに職場ではセクハラまで受ける。映画ではマリガンちゃん演じるモードが過去に工場長からど んな仕打ちを受けたかが暗示されるのですが、『てめえ、ふざけんなよ』という腹立たしい気持ちで一杯でした。
●当時の労働者は酷い境遇が執拗に描かれますが、登場人物たちの服はクラシックでカッコいい。我々の文明はファッションの面では退化しているのかも。


女性たちは男より低賃金な労働に晒された挙句、家に帰れば今度は家事育児までやらなくちゃならない。男は偉そうにしてるだけで家庭では何の役にも立たない。『お前ら、いい加減にしろよ』と言いたくなります。ここいら辺の描写は細やかで大変良かったです。
平凡な主婦兼工員だった主人公は女性参政権運動に出会うわけですが、それは男女平等というイデオロギーというより、過酷な労働条件に対する抗議でもありました。説得力あります。

その参政権運動を始めたのは議員や弁護士の夫人など教育のある女性たちでした。それを心ある『まともな』男たちがサポートする。だが、そういう運動に対して、世間、特に労働者階級はあまりいい顔をしません。労働者階級こそ保守的ですから。労働者階級の男たちはもちろん、女性たちも運動に冷たい眼を向ける。新聞は無視。議員も無視。声が広まらないから運動は過激になる。と言っても、店のガラスに投石したり、郵便ポストを爆破する程度ですから、現代の眼から見れば可愛いもんですが。
●彼女たちは参政権を求めて、度々国会前へ押しかけます。そういうところは昔も今の日本も変わりません(笑)。

                                  
こんなシーンがあります。逮捕された活動家が警察の取り調べで『なんで法律を犯すようなことをするのか』と問われた際 『その法律は女性たちが作ったものではない。それに議会は女性たちの意見を聞こうともしない。そんな法律に何故従わなければいけないのか』。確かにその通り。彼女たちの運動は強硬路線を強いられたせいもあって、大勢の逮捕者を出します。参政権が獲得されるまで1000人もの逮捕者を出したそうです。驚きでした。
●警察は女性でも平気で殴ってきます。クズ警察。

                          
お話としては架空の人物を主人公にしてしまったため、現実にどのようなことが起きたのか、特に運動の全体像を判りにくくしてしまったところがあります。主人公以外の描写はほぼ実話の様ですが、かえってごちゃごちゃになってしまっている。主人公を描きたかったのか、運動を描きたかったのか、社会情勢を描きたかったのか。


映像としては最初から最後までキャリー・マリガンちゃん祭り状態。これは嬉しい!(笑)。制作側としては彼女の演技力を前面に出して乗り切ろうってことなんでしょうね。メリル・ストリープ演じる実在の参政権運動のリーダー、パンクハースト夫人はスピーチをするシーンだけの出演でしたが、そこもさすがでした。この前のトランプを非難したゴールデングローブ賞でのスピーチとも普段とも、話し方は全く変わってました。この人が政治家に立候補して演説したら、ボク、絶対投票する(笑)。
メリル・ストリープの迫力、スピーチシーンは超上手いです。さすが。

また爆弾テロも辞さない過激な運動家役でヘレン・ボナム・カーターが出てくるのですが、彼女は映画に名前が出てくる、女性参政権運動を弾圧した当時の首相アスキスの孫だそうです!かっこいい!! どんな気持ちで演じたんでしょう。
●薬剤師として働く運動家(ヘレン・ボナム・カーター)(右)は9回も逮捕されます。


制作側の意図としては現在では当たり前の、婦人参政権がどのようにして勝ち取られたのか知ってほしい、ということなんでしょう。確かに孤立無援で権利獲得の戦いを始めたこの人達には我々は感謝しなくてはいけないと思います。エンドロールでは各国の女性参政権が獲得された年が流れます。ドイツは1919年、アメリカは1920年、イギリスは1928年、サウジアラビアは2015年!
トランプみたいな大アホが出てくる世の中です。彼女たちがやったことを今 振り返ることは確かに価値がある。実際 先日のWomen's Marchが史上最大のデモになったのも、トランプが人工中絶を制限しようとする動きを見せていることが大きな原因だそうです。
●この映画を紹介する漫画、素晴らしい。是非リンク先をご覧ください。『未来を花束にして』紹介マンガ - 沼の見える街



丁寧な社会状況の描写と俳優さんたちの熱演で、見る価値がある映画なのは間違いないです。キャリー・マリガンちゃん祭りで、十二分に元は取れます。当時の光景を記録したフィルムと映画が重ねあわされるラストシーンには感動の涙が出ました。あと昨年のフェミニズム映画『マッド・マックス4』ファンの方も是非(笑)。