特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『世論調査の結果』とライブ『相対性理論 証明3』、それに今 見るべき映画:『ローマ法王になるその日まで』

この週末に行われた、内閣支持率に関する各社の世論調査の結果が出そろいました。
●各社の世論調査の結果 6月17,18日実施(オレンジ色が不支持が支持を逆転したもの)

ボクとしてはまだ支持率が高い、お友達には利益供与、国民には共謀罪をという安倍内閣を、この期に及んで支持している人がいる方が驚きなんですが(笑)、安保法当時の水準まで支持率が下がってきたようです。今夕 安倍晋三が慌てて、『反省する』とかいう白々しい会見をしたのもその表れでしょう。まるで大本営発表みたいな記者会見で、全然反省しているようには見えなかったですが! と言っても 毎日ネットで世論を分析してる自民党に比べれば野党など情けないレベルですから、まだまだ判りません。このくだらない記者会見が効果なかったと見れば、別の手を打ってくるでしょうし。


ただ支持率の低下は悪いことではありません。岸信介日米安保を通した結果 政治的パワーを無くして辞任しました。今にして考えてみれば、日米安保改定の是非というのは左翼や市民運動の側も総括しなければいけないと思うんですが(改定にはそれなりに意味があったかも)共謀罪なんか答えは決まってますからね😉。



一方 ボクの週末は相対性理論のライブ@中野サンプラザでした😺。



ももクロなどにも提供しているポップな曲を、やくしまるえつこがロリータボイスで直立不動で歌い、うしろで超上手いバンドの面々が暴走するように演奏する、という独特な世界です。今回はレーザーに加えてプロジェクション・マッピングも使われて、Perfumeのようにテープではなく、生演奏と視覚効果がシンクロする興味深い光景を見せてもらいました。後半の30分くらいは観客が拍手をするのも忘れていたくらい🤣。やくしまるえつこがNHKスペシャルの『マネーワールド』のナレーションを担当したり、『弁天様はスピリチュア』という曲が映画『PARKS』の主題歌に使われたり、それなりに話題もあるんですが、いつもどおり ひたすら不愛想に演奏しているだけ。最新アルバムは曲がいまいちなんですけど、今日の演奏は終った後『カッコいい』という感想しか出なかった😇。

天声ジングル

天声ジングル

●新曲『わたしは人類』。デジタル・ビート+超上手い演奏+ロリータヴォイスで歌う人類の滅亡(笑)。ノリが良い演奏なのに観客がいつも直立不動なのも彼らのライブの特徴。顔を出したビデオは初めてかも。カッコいいです。


先週 『EUと日本のEPA交渉でカマンベールやモツァレラチーズなどの関税を下げることを検討している』というニュースが目に留まりました。

恥ずかしながらカマンベールやモッツァレラチーズに30%!もの関税がかかっていたなんて知りませんでした。だってカマンベールやモッツァレラなんて日本では作ってないじゃないですか!正確には日本製もわずかながらありますけど、味が全く違います。別物ですよ。だいたいモッツァレラなんて、水牛が日本にいないんだから日本で作れるわけないじゃん。

完全に同一品だったら関税をかけて国内農家を保護するのは判らないでもありません。でも、日本で作ってないものまで関税をかけるのは農協・酪農家の横暴です。そのつけは 30%もの高額課税で消費者に押し付けられているわけです。全くふざけた話です。まさに泥棒です。良く考えたらワインだってそうですよね。最近は日本のワインも良くなってきましたけど、そもそも、あちらのものとは味が違う、モノが違うじゃないですか。それを関税で差をつけるなんて不公平です。
『農業守れ』とか言って、TPPに反対してた連中は中身もろくすぽ理解してないんでしょう。バカな奴らです。そのつけは今も我々自身に帰ってきているわけです。



と、いうことで、違う映画の感想を書く予定だったんですが、今回は共謀罪強行採決にマッチした映画をご紹介します。


有楽町で映画『ローマ法王になる日まで

アルゼンチンのベルゴリオ枢機卿(セルヒオ・エルナンデス)は法王選挙を迎えて、わが身の軌跡を振り返っていた。1960年、ブエノスアイレスで暮らす若きベルゴリオ(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)はイエズス会に入会し、聖職者の道を歩み始める。やがて彼はアルゼンチンの管区長に任命されるが、1976年に軍事独裁政権が樹立され……


2013年に就任した現在のローマ法王フランシスコ、本名ベルゴリオの半生を取り上げたイタリア映画です。アルゼンチン生まれのベルゴリオはアメリカ大陸出身で初めての法王になった人です。
●タイム誌で『今年の人』に選ばれた実際のフランシスコ


ボクは宗教には殆ど興味ありません。ましてカソリックはイメージ悪い。昨年『スポットライト』という映画で、カソリックの聖職者たちが日本も含めた各国で少年への性的暴行を長年続けていたのをバチカンが組織ぐるみで隠ぺいしていたことが取り上げられていましたが、間違いなく胡散臭い(笑)。まして2013年に前法王が辞任した原因は聖職者の小児性愛発覚に加えて、バチカンマネーロンダリングです😜。


ですから、こういう映画は大抵スルーするんですが、予告編を見たら面白そうでした。それに今の法王は今までと違って、中々リベラルなのは知っています。キューバアメリカの国交回復の橋渡しをしたのは彼ですし、トランプに説教かますような人です(笑)。しかも監督は無宗教なのでゴマすり映画じゃないだろうと、デモへの時間調整もかねて(笑)見に行ったのです。
●昨年 法王はトランプの『壁を作る』発言を激しく非難しました。

【米大統領選2016】「キリスト教徒ではない」 ローマ法王がトランプ氏発言を非難 - BBCニュース


映画はベルゴリオが法王になる前、どのように生きてきたか、アルゼンチンの軍政当時の彼を中心に描いています。
冒頭 若き日のベルゴリオがイエズス会の神父になりたての頃、友人たちとダンスホールに出かけるシーンがあります。彼らは皆 ペロン派。ペロンはアルゼンチンのポピュリズム政治家ですが、労働者や貧困層のための政治を行った人物として有名です。ペロンを称賛する会話をしていた彼らに、反ペロン派の男たちが因縁をつけてきます。ベルゴリオは女性をかばって粗暴な彼らに殴られます。彼と彼の友人たちがどういう人間かを示す、大変うまいシーンです。このシーンは後半まで伏線として繋がっています。
●神父になるまえのベルゴリオ(右)にも彼女が居ました。


70年代、アルゼンチンでは軍がクーデターを起こし政権を握ります。共産主義者弾圧を名目にして、国家は学生やジャーナリスト、労組員など市民に対して拉致・拷問を行います。国が国民にテロを仕掛けていたんですね。後年『汚い戦争』と呼ばれる国家のテロで3万人以上が命を落としました
保守的なカソリック教会はそれに協力していました。いつものパターンです。が、一部の聖職者は社会的不平等にさらされていた南米で盛んになった『エスの本質は解放者であり、聖職者は貧しい者の立場に立たなければならない』という『解放の神学』を奉じて、貧困支援で活動すると同時に左派の政治活動にもかかわりを持っていました。
●貧困者も参加できるように彼は自分からスラム街へ出向いてミサを行います

          
                     
そういう状況の中でのベルゴリオがどう生きたか、が、この映画の中心的なテーマになっています。軍政当時 ベルゴリオは管区長という幹部クラスになっていました。貧富の差が広がり、経済が破たんした不安定な中で彼はスラム街で貧困支援を続け、貧しい人のために活動を続けていました。貧しい人は救いたいが、左派の武装闘争にまで関わりを持つ『解放の神学』には同調はできない。そもそもカソリック教会は反共産主義で軍政の味方です(笑)。その中でベルゴリオは葛藤を続けます。

               
                       
ペルーの軍政のひどさは『NO!私たちは拒否する(Noi No):映画『NO』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)、『グロリアの青春彼女について聞いている2,3の事柄:映画『グロリアの青春』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)などの映画で目にしていましたが、アルゼンチンもひどかったんですね。全然知らなかったんですが、驚くくらい酷い。政府にちょっとでも不平を漏らす人間は男はもちろん、女性だって平気で裸にして拷問する。言うことを聞かない裁判官だって殺そうとする。それでもだめなら、軍や警察ではなく、ギャングを使って暴力・テロを引き起こす。


映画でも描かれていますが、軍は妊娠している若い女性を捕まえて拷問するけど殺さずに、出産させて、その子供を取り上げて子供のいない軍人の養子にしていたそうです。自分の子が誘拐されたことに抗議する母親も捕まえて、睡眠剤を注射して飛行機から海に突き落として溺死させる。時として国がテロを引き起こすことがあるのは知識としては知ってますけど、この目で目にすると、衝撃は大きいです。よくこんな酷いことを思いつくと思いました。ちなみに軍政期の元大統領は子供誘拐の罪で今も懲役刑に服しています。
●リベラルだったベルゴリオの友人たちも軍政の拉致や拷問の犠牲になります。


ベルゴリオは助けを求めて逃げてくる人々を、その政治信条にかかわらず、受け入れ、匿い続けます。教会の上層部は軍政とつながっているし、教会の中にも軍のスパイがいる、そういう状況の中で匿うのも命がけです。


教会上層部の命令で、左派ゲリラとつながりがある解放の神学を奉じる神父を、ベルゴリオはいったん警告した上で除名します。しかし、彼らが軍政につかまると命がけで抗議に赴きます。弾圧を見て見ぬふりをする贅沢三昧の教会上層部に掛け合って、軍幹部に働きかけるのです。

彼は軍政側にも怪しまれているし、反政府側からも怒りを向けられます。それでも、できることをやり続けます。しかし、彼は部下や友人も含め、あまりにも多くの人を失いました。生き残った彼はその苦しみを背負い続けます。それが彼の信仰を深めることにもつながる。ベルゴリオを演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナの名演も相まって、この映画で描かれる彼の苦しみは実に説得力がありました。


やがて軍政はフォークランド紛争の敗戦で倒れます。結局 ベルゴリオは軍政を倒すために大した役割を果たすことはできなかった。彼には多くの人を救うことが出来なかった苦しみ・後悔だけが残ります。管区長を辞任し田舎で豚の世話をしていた彼を当時のローマ法王が首都の要職へ引っ張りだします。中央へ戻っても彼は貧困者の側に立った活動を進めます。それが彼をアルゼンチンの枢機卿に押し上げ、さらにバチカンの法王にまで押し上げます。
元来 バチカンで彼のような人間が法王に選ばれるなんてことはありえないんでしょうけど、聖職者の小児性愛マネーロンダリングという危機的な状況の中で、彼のようなリベラルな人間が起用されたのかもしれません。
●軍政が終わった後も大資本のスラム街の再開発に反対して、彼は闘い続けます。軍も所詮 大資本の手先だったということを この映画ははっきりと描いています。


アルゼンチンの酷い様子を見ていて、今に日本もこうなるかも、と思いました。20世紀初頭はアルゼンチンは世界でもトップクラスに裕福な国でした。それが次第に社会的格差が広がり、その反動でペロンによるポピュリズム政治が起き、さらにその反動で軍政に陥った。軍政は対外戦争を起こして崩壊、そのあとも新自由主義社会民主主義の間を揺れ動く不安定な状況が続いてます。2014年にアルゼンチンがデフォルト、国家破産したのは記憶に新しいところです。今はまだ日本は経済が強いからマシですが、その最後の支えがなくなったらアルゼンチンのようになっていくことはいくらでもあり得る。これから、少子高齢化で日本経済は縮小していくのですから尚更です。


この映画は宗教の話じゃないです。現実と組織の不条理に直面した一人の男が戦い続ける物語です。この映画の何が偉かったかというと、彼が苦しみを背負い続けるところを正面から描くところが良かった。権力に圧迫されて、反動的な組織の中で、一人の人間に出来ることは限りがあります。だけど、現実から目を背けてしまわない意志の強さ、少しでもいいから現実を改善しようとする逞しさが描かれているんです。


映画『モーターサイクル・ダイアリー』でゲバラの友人役を演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナはマジで名演だったと思います(実際に彼はゲバラの遠縁だそうです。奥さん側ですね)。彼の表情からうかがえる心理的葛藤が何よりも雄弁でした。

我々はどう生きていったら良いか、この映画はそういう問いを突き付けているんです。


今のローマ法王がどう、というより、脚本、演技、構成、大変よくできた映画です。現実に立ち向かう一人の人間の姿、個人の力には限界はあるけれど、それでも戦い、信じ続ける人間の姿を普遍的な話として、見事に描いています。まさに今 見るべき映画でしょう。ボクは彼の姿に滅茶苦茶共感しました! この映画も今年のベスト10に入るような傑作だと思います。