特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『最近の賃金事情』と映画『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』

今日は成人式なんですね。大人になるのを、なんで行政に祝ってもらうんでしょうね(笑)? ボク自身は全く興味がないから成人式なんて行かなかったし、行きたい人は行けばいいとは思うんですけど、15日と言う昔からの日程を変えてやってるのにはどうにも違和感があります。なんか体内カレンダーがずれる。とにかく連休の終わりはブルーです(笑)。

                                   
さて、先週金曜日に11月の賃金統計が発表されました。11か月ぶりに実質賃金が下降前年同月比で-0.2%のダウンとなりました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170106-00000031-jij-bus_all

アベノミクスとはなんだったのか、2013年に始まってからの賃金(実質=赤、名目=青)、物価(緑)、為替レート(円/ドル)(紫)で見ると良くわかります。
●賃金指数(名目・実質)と物価指数の前年同月比と為替レートの推移(2013年1月〜2016年11月)

2013年初頭 アベノミクスで金融緩和を行うと煽った結果、円/ドルは1月の89円から5月には101円の円安になりました。一方 物価は急には上がりませんでしたから、実質賃金(赤線)は半年間だけは改善傾向だった。しかし、それ以降は円安に連れて物価が上がるほどは名目賃金は上がらないという現象が続きましたから、実質賃金はほぼ2年半下がりっぱなし、国民の暮らしは悪くなる一方だったわけです。

ところが今年になって原油価格が下がり、為替も円高へ向かいました。そうすると物価も下がり、実質賃金は改善傾向になりました。デフレ脱却を標榜したアベノミクスが失敗するほど国民の生活は改善した(笑)。

で、ここにきてトランプショックで為替が円安方向へ動き始めました。11月は108円になりました。そうなると物価は上がり、実質賃金も11か月ぶりに-0.2%の低下となった。アベノミクスが失敗すれば国民の生活は改善される、アベノミクスの目論見通りになると国民の生活は悪化する。そんな構造が3年間続いているんです。


これ、経済政策の方向性自体が間違ってますよね(笑)。国民が豊かにならなければ、経済の最大の項目である消費は増えません。経済成長と再分配の両立、それを目指さなければ国民の生活は改善しません。デフレ脱却とか財政再建は国民生活改善のための手段に過ぎない。必要なのは国民の生活を良くするための経済政策を取る政府与野党ともその点が良くわかってないんじゃないでしょうか。子供にでも判る、ごく当たり前の話しだと思うんですが(笑)。

                            
●年末 有楽町の慶楽で食べた牛バラ肉の煮込み焼きそば。本来はご飯なのですが、焼きそばに変えてもらいました。八角の香りが食欲をそそります。カロリーの事は忘れてた(泣)。

       
                                                       
ということで、新年1発目の映画は渋谷で『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男eichmann-vs-bauer.com - 

1950年代後半のフランクフルト、ヘッセン州検事長フリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナー)は、ナチスによる戦争犯罪の告発に奔走していたが、ドイツ政府や警察・検察に残るナチス残党の妨害で捜査は難航していた。ある日 彼は海外に逃亡したアイヒマンに関する情報を入手したが、ドイツの司直の手は海外へは及ばない。彼はどうしたら良いのか。


ドイツで最も権威があると言われるドイツ映画賞で作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優、美術賞、衣装賞の6部門を受賞した作品だそうです。
●監督インタビュー
「日本の戦後史となぞらえて見ることもできる」 ドイツ映画「アイヒマンを追え」クラウメ監督インタビュー

ドイツは自らの戦争責任に正面から向き合い自分の手で過去を総括した日本とは大違いの国です。しかし、それは並大抵の事ではなかった。戦後ドイツの政府や財界にはナチに協力した大勢の人間が残っていたし、ナチに向き合うことを嫌がる人も多かった。そのことを描いた2015年の映画『顔のないヒトラーたちTBSラジオ・ウィークエンドシャッフルの『デモのコール特集』と『TPPについて考える(途中経過)』と映画『顔のないヒトラーたち』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)は非常に印象に残る映画でした。ナチスの犯罪を追求しドイツ人自らの手で裁きを行おうとした検事とその上司の検事総長のお話でしたが、この映画はその前日談、検事総長フリッツ・バウアーを描いた作品です。
●これがフリッツ・バウアー

                         
映画はバウアーが風呂場で溺れかけるところから始まります。ワインを飲んで睡眠薬を飲み、ふろ場で溺れかけた彼の行動は周囲から、もしかしたら自殺ではないか、という疑いを持たれます。バウアーの置かれている状況を良く表現するエピソードです。ナチスの戦犯追及を続けるバウアーには様々な圧迫が加えられています。ナチスと犯罪行為を掘り返そうとするバウアーを妨害しようとする政府内部の人間や一般人、自分が指揮する検察の部下にもそれを快く思わない人間がいるのです。捜査が妨害されるだけでなく、時には生命の危険も感じながらもバウアーは戦時中の犯罪行為の追求を続けます。
●送られてきた銃弾を前にするバウアー。ナチスからの脅迫が続きます。

                    
バウアーはユダヤ人で、しかも同性愛者でした。どちらもナチスが目の敵にしていた存在です。更に彼はナチスによって転覆させられた社会民主党の活動家でした。ナチスによって収容所へ送られ、転向を余儀なくされたという苦い思い出があります。二度と同じようなことを起こさないためには、ドイツ人自らの手でナチを裁かなければならない、という固い信念があります。
●バウアーを検事総長に起用した州首相(右)もナチに迫害された元活動家でした。

                             
やがてバウアーのもとに国外逃亡中のホロコーストの責任者、アイヒマンの情報がもたらされます。偽名を使ってアルゼンチンに隠れているというのです。元SSだったメルセデス・ベンツの人事部長が力を貸していました。しかしドイツ検察の手は国外に及ぼすことはできません。バウアーは八方手を尽くしますが、政府も外交手段を使うことには消極的です。とうとうバウアーは情報をイスラエル諜報機関モサドに流すことを決意します。イスラエルは外交や国際法などは気にしない無法国家です。手段は選びません。だが検事総長自らが機密を海外の機関に流すことは国家反逆罪です。バウアーは悩みます。法律家としてどうなのか、国家への反逆はどうなのか。もっと大事なものがあるのではないだろうか。そのバウアーを失脚させようと、彼や彼の部下の周りを検察内部の親ナチ派が暗躍します。
●検察内部の親ナチ派はバウアーの部下(1枚目右)を陥れるためにハニートラップを仕掛けます。ここはフィクションです(笑)

               
苦悩の結果 バウアーはアイヒマンの裁判はドイツで行うことを条件にモサドに情報を流します。モサド北朝鮮並みの手段を使ってアイヒマンをアルゼンチンから拉致します。バウアーは身柄引き渡しを要求しようとしますが、イスラエルに武器を輸出したい政府から引き渡し請求を却下されてしまいます。アイヒマンの裁判はイスラエルで行われ、その様子が世界中に映像で公開されたのはご存知の通りです。ドイツで裁判ができないことで失意に襲われるバウアーでしたが、彼はくじけませんでした。

●来月 日本でもバウアーの評伝が出版されるそうです。

フリッツ・バウアー アイヒマンを追いつめた検事長

フリッツ・バウアー アイヒマンを追いつめた検事長

    
                                            
民主主義者として、同性愛者として、法律家として、組織の中で良心を守ろうとする一人の人間としてバウアーの闘いは非常に心を打ちます。ドイツは過去と向き合うことができたのに、日本が出来ないのはなぜでしょうか。ファシズムの残党が役所に残っていたり、過去の傷を掘り返すなという大衆の空気は日独ともに大きな違いはないように見えます。実際 50年代末期までアウシュビッツなどナチの犯罪はドイツの中でも覆い隠されていたのですから。違いは組織の論理や大衆の空気にも負けず、良心のために粘り強い闘いを続けたバウアーのような個人がドイツは日本より多かったから、だと思いました。バウアーは検事総長と言っても政府の方針を左右したりすることはできません。個人に出来ることには限度がある。だが、それでも諦めてしまうかどうか。そこで何をやっていくか、ということなんでしょう。丁度 同時代です、アメリカに言われたとおりの判決を出した砂川事件最高裁長官、田中耕三郎とバウアー、同じ法律家でも、なんと対照的でしょうか!
一見 平和な戦後の欺瞞に甘んじないバウアーのような人たちがいたからこそ、ドイツは過去に向き合うことができました。慰安婦の問題ですら、未だに屁理屈こねて総括できない日本とは対照的です。
                                
こんな時代です。バウアーの闘いは日本のボクにも他人事とは思えませんでした。プロットとして架空の同性愛者の部下の話を入れたのは蛇足かも、とは思いましたが、観客に充分考えさせる、またミステリーとしても充分楽しむことができる良い映画でした。良くできた重厚な人間ドラマです。