特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ミートローフ氏の逝去』と映画『ハウス・オブ・グッチ』

 いやー寒いですね。
 22日に歌手のミート・ローフ氏が亡くなったのはちょっとショックでした。日本では知る人は少ないですが、欧米では大スター。この人の代表作『Bat Out Of Hell(地獄のロックライダー)』(77年)は史上最も売れたアルバムの一つです。4300万枚以上売って歴代6位、あの『ホテル・カリフォルニア』より売れたアルバムです。
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●逝去のニュースがCNNで流れるくらいの大スターです。

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 思い切り下品でバカでワンパターンだけど、メロディーは美しく演奏は趣味が良い(プロデュ―サーはトッド・ラングレン、バックはスプリングスティーンのEストリートバンドの面々)という、判る人には判る世界でした。
●これは『地獄のロックライダー2(笑)』(93年)に入っている名曲。

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 たった1回しかなかったミートローフの日本公演を最前列で見たのはボクの自慢です。ステージの演出でこの人がバックコーラスの女の子にキスする際 本当に舌を入れてたのを、もう一人のバックコーラスをやってた実娘が見て、マジで激怒してたのは忘れられません(笑)。やってることは下品だけど演奏はトッド・ラングレンバンドのカシム・サルトンがバンドリーダーをやってて、実に趣味が良い演奏でした(笑)。

 ミートローフとコンビを組んでいたジム・スタインマン(この人の曲は大映テレビのスポコンドラマの主題歌に散々使われました)が昨年亡くなったのもショックでしたがミートローフやセリーヌ・ディオンらのソングライター、ジム・スタインマンが73歳で死去 | NEWS | MUSIC LIFE CLUB、今ごろ二人で天国で仲良く演奏しているでしょう。


 さて、昨日の名護の市長選は辺野古の基地を容認する与党系の候補が勝ちました。前回に引き続いてですから地元の民意ではあるのでしょう。

 『どうせ基地建設をとめられないなら、良い条件を獲得するべきだ』というのは短期的には合理的な判断ではあります。軟弱地盤の辺野古に無理やり基地を建設したらいくら金がかかるのか?とは思いますが、補助金で民意を買っているのを汚い、とか言っても仕方がない。事実を直視しない限り、どうにもなりません。
●朝日の年代別世論調査の結果はなんとも興味深い(tweetをクリック)

 一方 立憲民主の辻元議員が今夏の参院選挙で比例に転出するというニュースが流れました。辻元清美氏を参院比例に擁立へ 立憲民主(共同通信) - Yahoo!ニュース

 この人が国会にいないのは非常な損失とは思いますが、今までの小選挙区有権者との繋がりを考えると、早計に過ぎる気もします。筋が通らないでしょう。何よりも連合に依存しない組織作りが立民の大きな課題です。短期的な利益を追求して長期的な課題をなおざりにしていいのでしょうか。

 と、思っていたら、当人はこう言ってます。まだ決めてないみたいですね。この人はそれほどバカじゃないと思うんだけど、どうなんでしょうね。

 まともな野党は立民しかない、のですが、時折 大丈夫かなと思いますね。国民にとって政治の選択肢がないのは実に不幸なことです。


 ということで、新宿で映画『ハウス・オブ・グッチ

house-of-gucci.jp

 トラック業者の娘、パトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、とあるパーティーで世界的ファッションブランド「グッチ」創業者の孫、マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライヴァー)と出会う。互いに惹(ひ)かれ合うようになった二人は、周囲の反対を押し切って結婚。やがて彼女は一族間の確執をあおり、グッチ家での自分の地位を高めブランドを支配しようとする。そんなパトリツィアに嫌気が差したマウリツィオが離婚を決意したことで、彼女はある計画を立てるが。


 80年代に起きた、イタリアのファッションブランド、グッチ家の内紛と殺人事件のノンフィクションを映画化したもの。監督はエイリアンなどのSFだけでなく、『ゲティ家の身代金』などの実話を撮ったばかりの巨匠、リドリー・スコットレディ・ガガアダム・ドライバーアル・パチーノジャレッド・レトージェレミー・アイアンズなど豪華スターの共演です。


 グッチと言えばバンブーをデザインしたバッグや馬蹄型の飾りがついたローファーで有名です。1921年に創業、ブランド商売の元祖と言われるような企業です。

 70年代後半、グッチは創業者の二人の子供、アメリカ事業を担当する兄のアルド(アル・パチーノ)と、
●グッチのアメリカ事業を統括するアルド(アル・パチーノ)。拡大路線を走る彼は、次は日本進出を目指しています。

 伝統的な商売を守ろうとする弟のルドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)が株を半分ずつ持って、経営していました。
●伝統的な事業を守ろうとするルドルフォ(ジェレミー・アイアンズ
 

 トラック業者の娘、パトリツィア(レディ・ガガ)はあるパーティーで、ルドルフォの息子、マウリツィオ(アダム・ドライバー)と知り合います。彼女は彼をあの手、この手で誘惑、二人は恋に落ちます。

マウリツィオはグッチの商売にそれ程興味もなく、弁護士になることを目指していました。

 豪邸で美術品に囲まれて暮らすようなグッチ家です。商売人の娘のパトリツィアとは世界が違います。ルドルフォは彼女が金目当てであることを見破り、結婚に大反対します。しかしマウリツィオは反対を押し切り、グッチ家と縁を切ってパトリツィアと結婚、彼女の実家のトラック屋で働き始めます。
●本物のパトリツィアとマウリツィオ

 しかしパトリツィアに子供が生まれると状況は一変、マウリツィオはグッチ家に戻ることになります。孫が全てを癒すのは良くあるパターンです(笑)。
 ファミリービジネスのグッチ家には後継者不足という問題がありました。マウリツィオはルドルフォの唯一の男児、しかもアルドの一人息子であるパオロは自他ともに認めるボンクラです。孫が居なくてもマウリツィオは実家に戻らなくてはならなかったでしょう。
●アルドの一人息子、パオロ(ジャレッド・レトー)(写真右)は自他ともに認める超ボンクラです。

 
 当時のグッチはアルドが主導した、短期的な利益を追求する拡大路線に載っていました。雑貨や偽物まがいにまでライセンスを販売、御殿場に店を出そうとするなど、グッチのブランド価値を毀損するようなことをやっていた。劇中 アル・パチーノ演じるアルドが『コンニチワ』、『ゴテンバ、ゴテンバ』と日本語を連発するのは笑います。まさに80年代です。

 ハイセンスな人たちからは、’’グッチは終わったブランド’’と思われていました。観光客ばかりを相手にしているうちに品質も低下し、経営も悪化していく。
 そんな現状を見て、パトリツィアはグッチの実権を握ることを決意、商売や権力にそれほど興味がなかったマウリツィオの尻を叩いて一族の間で内紛を起こし、権力を奪っていきます。
 彼女とマウリツィオはグッチの経営にアラブの石油マネーの出資を受けたファンドを引き込み、一族の株を手にしていきます。しかし、それだけでは終わりません。
●本物のパトリツィア。レディ・ガガが見事に役作りをしているのが判ります。

 グッチ家の内紛はニュースにもなりましたから結末は判っているのですが、話としてはものすごく面白いです。大河ドラマというか、壮大な?権力争いの構図というか。

 あと俳優さんたちが素晴らしい。アダム・ドライバーがものすごい演技力がある俳優ということは判っていましたが、レディ・ガガがここまでやるとは思わなかった。若い時のピチピチしたときの姿から、中年の権力欲に執念を燃やす姿まで、素晴らしいです。もちろんアル・パチーノジェレミー・アイアンズも負けていません。

 当たり前ですが、出演者がグッチの服を着て歩いているのはカッコいい。レディ・ガガは当時のアンティークの服を着ているそうですが、足の長いアダム・ドライバーがグッチのローファーを履いて無造作にバイクや自転車に乗ってるのは感動しました。高い靴履いて良く自転車に乗れるなあ(笑)。これは貧乏人の感覚です(笑)。

 もちろん映画を彩る小道具、ファッションや80年代の風俗や選曲も面白い。ここいら辺はセンスいいです。

 唯一、嫌だったのは出演者が英語で話す事。やっぱりイタリア~って雰囲気が壊れますよね。アメリカ人は字幕なんか見ないそうですし(吹き替えしか見ないという頭の悪い日本人客みたい)、そもそも英米の俳優が演じているのだから仕方ありませんが、そこだけは残念でした。

 90年代、落ち目になっていたグッチはトム・フォードというテキサス出身でゲイ、という今までのグッチとは正反対の天才デザイナーを起用することで息を吹き返しますトム・フォードって、今の007(ダニエル・クレイグ)の服を作ってる人です。滅茶苦茶カッコいいスーツです。

トム・フォードは映画も作りました。これも美意識が貫かれた傑作です。

 しかし既に経営が悪化していたグッチはマウリツィオ達が引き込んだファンドに逆に乗っ取られます。これがファンドのいつものやり口です。
 グッチ家はブランドから追放、マウリツィオは殺され、アルドは脱税で投獄、パオロは貧困の末に野垂れ死に。パトリツィオは懲役29年を服役、模範囚で16年に出所。生前のマウリツィオとの合意で彼女は今も財産分与で年1億5000万円を受け取る権利を持っているそうです。

 上流階級の優雅さと欲望、裏切り、権力が渦巻く中に、パトリツィアという野心的な一般庶民が加わり、皆が自壊していく。まさに大河絵巻です。脚色はあるにしろ、事実はドラマよりも奇なりを地で言っています。2時間30分の映画ですが、退屈する暇がありません。面白さだけだったら圧倒的。本当に面白かったです。

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