特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHK BSプレミアム『今のうちに聞いておかないと一生後悔するよ 「学生運動」』

 残暑 厳しいですね~。気温もさておき、湿気が酷い。夕方歩いていても、まるでお風呂の中のようです。
●猛暑の日の夕暮れ。


 感染の拡大はますます酷くなってきてます。お盆休みの影響か、東京ではこの数日 前週比で感染者数のマイナスは続いていますが、まだまだ先は判らない。

 ボクの周囲でも保育園や学校などでの感染の広がりで、お子さんが居る家庭では文字通り戦々恐々としています。感染による保育園の閉鎖で出社できなくなる人もいるし、開園していても数日おきに感染した子供が出るので保育園に行かせて良いか判らないという人もいます。それには流石にボクもかける言葉がありませんでした。
 子供経由で周囲の大人が感染するパターンはどんどん出てきてきそうです。昨日 政府は今から教職員にワクチン接種を進める、と言ってましたが、今頃何を言ってるのでしょう。
 他にも、発熱してPCR検査を希望しても受けられないとか、コロナ以外の重病でも入院できなかった、なんて話はザラに聞きます。

 少し前まではワクチンを2回打てば何とかなる、と思ってました。来年夏は遠くへ旅行に行けるかなあーって。
 
●軽井沢から帰京後 また食べちゃった白桃丸ごと1個のケーキ。

 ところが今はとてもそんな感じではありません。ワクチン2回打っても安心できない。3回目,4回目のワクチンも打たなければならないだろうし、更に変異株も出てくるだろうから、来年も今のようにマスク生活や緊急事態宣言も十分あり得る。
 マスク生活くらいならいいですが、今のように医療も利用できないのはやはり、災害並みの状況です。それでも、この国の政府は驚くくらい何もしない。総裁選やオリンピックはやっても、国会は開かないんだもんなあ。税金返せ、としか言いようがない。

●差別企業DHCとのコラボ商品をムーミン・カンパニーが打ち切りました。所詮 バカウヨなんてこんなものです(笑)。ちなみにムーミンの原作者、トーベ・ヤンソンは男女両方ともOKのバイセクシュアル。


 さて、先週木曜日の日経にこんな記事が載っていました。77か国で調査した各国の政治意識の違いです。
 日本人は『政治が重要と考える人の割合は77か国中6位』だそうです。結構意識は高い。ちなみに1位はフィリピン、2位はスウェーデン、3位はミャンマー(笑)。ドイツは6位でアメリカは8位ですから日本とほぼ同水準です。

www.nikkei.com

 その一方 日独米で政治的な行動を比べると大きな差が出ます。
 例えばデモに参加したことがある人はドイツは35%、アメリカは20%弱、日本は僅か5%。他にも不買運動やネットでの呼びかけ、政党への参加など日本人は圧倒的に政治的活動は少ない。

 日本人は政治は重要だと思いつつも、自分では行動しない文句を言うだけ、です。かっては日本でも米騒動学生運動、公害反対運動など直接的な政治行動が盛り上がっている時代もありましたから、日本人は政治的行動はしない、と言う訳ではありません。現在はそうなっている、というだけです。

 一つの理由は、社会の高齢化。デモなどの発生件数はその国の平均年齢と反比例すると言われています。あと、もう一つは今の日本の社会はどんどん貧乏になってきているんでしょうね。物質やお金だけでなく、知性や心性も貧しくなっているから、政治活動すらやる余裕がない。


 そんなことを思ってたら、先週の金曜深夜 面白い番組をやってました。土曜日はE-TVで斎藤浩平と柴咲コウの対談とかをやってましたが、大したことがなかった。断トツに面白かったのがこちらです。

 NHKのBS『レギュラー番組への道 今のうちに聞いておかないと一生後悔するよ 「学生運動」』
 

www.nhk.jp

 60年安保、70年安保反対運動の際、学生運動をやっていた人にその子供が本音を聞く、という番組です。今まで子供たちは家では学生運動の話は聞いたことがないそうです。司会はジャニーズの井ノ原という人。


 60年安保は、元ブント(共産主義者同盟)の中心メンバーで唐牛健太郎全学連委員長と一緒に逮捕・勾留されていた人と40代後半の息子との対話です。オヤジの方はラム酒を一杯やりながら(笑)、息子からの質問を受けます。

 『学生運動をやった結果、何か得るものはあったのか』という息子の質問に対して、父は『謙虚になった』と答えます。

 『自分が信じたことでも、明日になれば疑いが出てくることがあるのが判った

 さらに『学生運動で日本を良くすることが出来たのか、学生運動は勝ったのか』という息子の問いに対しては、こう答えます。

 『勝ったと思っている。安保条約は成立したけれど、岸は退陣して正反対の路線(経済重視)の池田内閣になったし、戦争への道は遠のいた。

 と答えたあと『それが良いことか悪いことかは別だが』と付け加える。

 政治というものは様々な要素が作用・反作用を繰り返して成り立つものなので、安保反対運動は勝ち負けで判断できるような単純な問題ではない、とボクは考えていますが、この父親は随分 率直に答えています。

 『自分が信じる事が常に正しいとは限らない。どこかが間違っているのではないか、と自分を疑ってかかる姿勢』こそが、人間として健全な姿勢ではないでしょうか。イデオロギーにしろ、宗教にしろ、自分が正しいと思っている奴ほど危ないものはありません。この父親は知的に誠実、と思います。

 その後 学生運動が分裂して、暴力を伴う内ゲバまで始めてしまったのは、学生運動に関わった人たちの全員が知的に誠実ではなかった、ことを示しています。父親は内ゲバに疑問を持ってブントを抜けたそうです。

 そう言いつつも『自分たちは勝った。それが良いことか悪いことかは別だが』という父親の最後のアンビバレンツな答えが人間の限界と良心を表している、と思いました。味わい深い。


 70年安保は、東大安田講堂を占拠し最後まで立てこもった東大全共闘50人の中の一人、という父親と20代半ばの娘との会話でした。
●学生時代の父の写真を見る娘。笑う娘に父親は『キャンパスを歩いていたら石が飛んできた』と言い訳していました。

 面白かったのは父親の「安田講堂に立てこもりつつ、食事などは近所の商店街に食べに行っていた」という話です。商店街の店主は殆どが全共闘の味方でサービスしてくれた、と。そういう世相だったんですね。

 安田講堂は機動隊の突入で陥落、500人が逮捕されます。そのうち東大生は50人。父親はその中の一人でした。突入の前夜、学生たちは安田講堂に残るべきか話し合った結果、各人の判断に任せる、ということにした。逮捕されることは判っていて、残ったわけです。

 そんな学生運動とは何だったのか?と娘に問われて、父親は『判らない。永遠に解はない。』と答えます。更に『でも自分で考えて、どう考えてもおかしいと思ったら行動したほうが良いよね』と続けます。そういうことが言えるのは『自分はやり遂げた』と思っている人が持つプライド故、なのでしょう。

 番組に出演した二人とも筋金入り(笑)ですが、党派色も少なくイデオロギーで硬直しておらず、学生運動の中でも非常に良質な部類の人たちだった、と思います。自分が学生運動をやったことに対して、自分で自分に責任を取ろうとしている人たちです。卒業後 就職したら企業のイデオロギーを内面化した社畜になったり、定年後にYouTubeを見てネトウヨになったりするような人たちではない。
 ちなみに、70年安保に参加した80歳の父親は今 飯館村に移住して村の再建に従事しているそうです。

 それに加えて、子供が尋ねるということで、また話す側も一杯飲んでいることもあって、かなり率直な会話になっていました。好企画です。ノンポリであろう司会の井ノ原君が『自分がその時代に生まれていたらどうしただろう』と語っていたほどです。これは台本ではなく、アドリブで思わず出た言葉だと思う。

 ボクは他人とお酒を飲む機会は滅多にありませんが、それでも学生運動をやっていた人を見つけると極力 話を聞くようにしています。数か月入獄した人の話も詳しく聞いたことがある。戦争の話、原爆の話もそうですが、このような学生運動の話も「学び」になるからです。これは体験、歴史です。歴史に学ばない人間は愚か、とボクは思います。

 ちなみにボクは学生運動の体験者の話を聞いて、いつも思う感想は『自分が当時の学生だったらデモには行くけれど、党派や集団の活動には一切参加しない。団体行動はお断り。まして勝ち目がない武装闘争なんかやる奴はただのバカ。』です(笑)。


 番組の中で「我々は若い人たちに体験を語ってなかった」という反省を70年安保の父親が語っていました。確かに自分たちの経験を総括し、語ることをしている人は少ないと思う。多くは社畜になってしまったから総括できないのかもしれません(笑)。
 戦争も原発事故の話もそうですが、日本人は自分たちの過去、体験、歴史を大事にしない。だからコロナでも太平洋戦争と同じような無為無策を繰り返す

 40分程度の短い番組でしたが、良い意味で当時の人たちの本音を聞くことができる見ごたえのある番組でした。良質な人を選んで子供から本音を聞きだした、本からは得られないお話です。
 この前 公開中の映画『パンケーキを味見する』の感想を書きましたけど、こういう番組こそ、ドキュメンタリーだと思いました。