特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

テフロンのフライパンと沖縄:映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

 さすがに感染がガンガン広まってますね。今日 出社したら、全国から感染もしくは濃厚接触者の知らせが何件も入ってました。先週まで殆ど、そう言う話は殆ど聞かなかったんですけどね。

 土曜の夜はスマホ津波警報がガンガン鳴ってました。トンガの被害も心配ですが、あれだけ大きな噴火だと91年のフィリピンのピナツボ火山噴火後の冷夏でコメ不足になったように、世界的な冷害が起きる可能性があります。

 今日は兵庫の大震災があってから27年目。あの日の朝も寒かった。その頃から30年、5~6年おきに災害や経済などで大きな危機が起きるのが当たり前になりました。大変な世の中です。
●今朝の夜明け。27年前も空が赤かった。

 ところが日本の政治家も男社会に代表される世の中の在り方も昭和の頃とあまり変わっていないように見えます。日本はリーマンショックで中国にGDPで抜かれ、今回のコロナ期に韓国に一人当たりGDPで抜かれた。何か危機があるたびに、日本と北朝鮮だけが(笑)世界から取り残されていきます。

●確かにこう考えると日本の現状も合点がいきます。いまだに大統領選は不正選挙だったと思い込んでるバカが大手を振ってる田舎の州みたいなものか。


 と、いうことで、有楽町で映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男

dw-movie.jp

舞台は1998年、オハイオ州。多くの化学メーカーを顧客にする大手法律事務所で働く弁護士ロブ・ビロット(マーク・ラファロ)は、ウェストバージニア州の農場主、テナントからある調査依頼を受ける。それは大手化学メーカーのデュポン社の工場から出た廃棄物が土地を汚染し、190頭の牛が病死したというものだった。調べるうちにロブは、デュポン社が発がん性物質の危険を隠蔽(いんぺい)し、40年にわたってそれを廃棄していたことを知る。ロブは地域の住民7万人を原告にして、デュポン社に対する集団訴訟を起こすが。

 2016年1月にニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、弁護士ロブ・ビロットが20年近くにわたってデュポン社と戦い続けた一部始終に関する記事を読んで、『スポットライト 世紀のスクープ』や『超人ハルク』、『はじまりのうた』などで売れっ子の俳優マーク・ラファロは映画化を決意したそうです。実生活では環境活動家でもある彼はお話の映画化権を買い取り、プロデュース、主演を買って出ます。

 監督は忘れ得ぬ作品だった『キャロル』のトッド・ヘインズ

 共演はアン・ハサウェイティム・ロビンスと豪華な顔ぶれです。ついでに政治的にもリベラルな俳優さんたちですね。
●弁護士ロブ・ビロットを演じるマーク・ラファロ

●本物のロブ・ビロット。そっくりです。

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  弁護士のビロット(マーク・ラファロ)は多くの化学メーカーを主要顧客に持つ名門法律事務所に勤めています。オハイオの田舎で祖母に育てられ、苦学して弁護士になり、今や法律事務所のパートナーにまで上り詰めた。
●法律事務所の上司役のティム・ロビンス(写真左)

 ある日、彼の元に彼の祖母の知り合いと言って粗野な男たちが押しかけてきます。ビロットの故郷の農場主です。彼らの農場に隣接するデュポン社の工場から出た廃棄物が土地を汚染し農場の牛が大量に病死した、というのです。

 化学メーカーの側の利益を図ってきた法律事務所には場違いな男たちの訴えですが、祖母の知り合い、それに『デュポン社を憚って地元の弁護士には全て断られた』ということでは無下にはできません。ビロットは適当に調べてお引き取りしてもらうつもりで、生まれ故郷へ調査に向かいます。

 ビロットは調べるうちに汚染源がデュポンの工場から出た有機フッ素化合物(PFOA)であることを突き止めます。それは焦げ付き防止のテフロン加工のフライパンに使われています。PFOAは水も油もはじく特性があり、フライパンに限らず、防水スプレーやレインコート、カーペットといった日用品、化粧品、半導体や自動車部品、さらには航空機火災用の泡消火剤まで使われているデュポンのドル箱でした。

 牛たちが大量に変死しているだけでなく、PFOAを扱う工場の労働者や、工場近くを流れる川の流域住民たちにガンや奇形の発生など健康被害が相次いでいることがわかってきます。PFOAは水道にまで入り込んでいたからです。

 当時 PFOAは法的な規制の対象外の物質でした。被害者たちはデュポンの責任を追及するにはPFOAと健康被害との関係を立証しなくてはなりません。情報公開制度を使って公開させた莫大なデュポンの内部文書にビロットは一人、取り組みます。
 

 驚いたことにPFOAに毒性があることをデュポンは40年前から知っていました。工場の労働者を使って毒性を調べる人体実験までやっていた。しかし対策は取らなかった。水俣病を起こしたチッソと全く同じです。映画ではあまり触れられませんが、デュポンだけでなく、これまた世界的大企業のスリーエムもPFOAを扱っている。

●世界的大企業であるデュポンに、田舎の弁護士や農民が盾突いてくるなんて想定外です。莫大な利益をもたらすテフロンはアメリカの誇り、とまで言われていました。

 ビロットは裁判所と掛け合い、住民約7万人の健康調査をメーカー側の費用で行わせることに成功、公的な疫学的調査が始まります。しかし結果が出るまでには10年近くの時間がかかりました。
 大企業にとっては幾ら時間がかかろうと問題ありませんが、ビロットの法律事務所は経営難に陥り、収入は激減する。朝から晩まで資料漬けの日々が続き、ビロットの家庭までおかしくなる。被害者たちも病で次々に亡くなっていきます。

アン・ハサウェイはビロットの奥さんを演じています。

 今まで地域経済を支えてきたデュポンはリストラを行い大量失業が発生します。地域住民たちからの不満はビロットにも向けられる。彼は経済的にも人間関係でも孤立してしまいます。

 地味な筋立ての映画ですが、アン・ハサウェイティム・ロビンスにもちゃんと見せ場があって、スカッとします。エンタメ性もあります。

 ビロットは10年近くの戦いをどうして続けることが出来たのでしょうか。

●ネタバレになるから詳細は書きませんが、このシーンは号泣します。

 7年後に出された調査の結論では、PFOAが六つの病気と関連する可能性を認めました。腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎甲状腺疾患、高コレステロール、妊娠性高血圧症を引き起こす可能性があるのです。更に引き延ばし戦略を図っていたデュポンですが、2016年にやっと和解に応じ、3500人を超える原告に760億円を超える莫大な和解金を支払うことになります。つい最近の話です。

 今でも、PFOAを使ってコーティングしたテフロン加工のフライパンは空焚きしなければ一応無害、という事になっています。ただ欧州を中心にPFOAを使っていないフライパンが多々発売されるようになっています。これはどういうことを意味しているのでしょうか。


 前述のとおり、映画としてはちゃんとエンタメになっています。『キャロル』を作ったトッド・ヘインズですから、そこはちゃんとしている。感動したりスカっとするシーンも盛り込まれた、良くできた映画です。Aクラスに面白い。

 しかし、映画はめでたしめでたしで終わりません。エンドロールでは『PFOAのような化学物質はフォーエバー・ケミカルと呼ばれ、何百種類もある。これらは自然界で分解されないまま蓄積され、今や人間の99%に入り込んでいる』と言うテロップが流されます。問題はPFOAだけではないんです。
 2019年、“PFOA”は国連でもっとも危険なランクの物質として認定され製造と使用の禁止が決議されました。日本ではやっと20年10月に経産省が製造や輸入を禁止したばかりです。

www.news24.jp

 沖縄では米軍基地から泡消火剤に含まれるPFOAなど発がん性がある’’フォーエバー・ケミカル’’の大規模流出が起きています。昨年8月にはドラム缶にして320本分の汚染水を下水道に放出した。その時はボクはフォーエバー・ケミカルのことなんか知らなかったし、意識もしてなかったのですが、全然他人事ではない。

 
webronza.asahi.com

 東京の横田基地周辺でも、かって軍用機の墜落事故の際に使われた消火剤のPFOAなどが地下に蓄積され、今も基地外の井戸水に検出されています。
 米軍だけでなく、空港の泡消火設備などはどうなのでしょうか。それに家庭でも、です。ボクは元々怪しいと思っていたので、テフロン加工のフライパンなんか使っていませんが、防水スプレーや洋服(撥水性の生地)にだって使われている可能性は高い。日本でだって殆どの人にこれらの物質は入り込んでいるでしょうね。あ、よく考えたらボクの家のティファールの玉子焼きフライパンはテフロンかも(泣)。

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 規制はまだまだ進んでいません。だからマーク・ラファロはこの映画を作った。まだまだ軍や消防ではPFOAなどが幅広く使われています。彼はロブ・ビロットや何人かの議員と一緒にフォーエバー・ケミカルに規制を掛けるよう、特に軍や消防では使うな、というキャンペーンを始めています。
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 ということで、良くできたエンタメではあるけれど大きな問題を扱った映画です。東京では1館でしか上映していないけれど、これはもっと皆が関心を持つべき話だと思いました。

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