特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『かわいい貼り紙』と『加藤陽子教授トークショー(ドキュメンタリー『国家主義の誘惑』)』、それに『0803再稼働反対!首相官邸前抗議』

いやあ、暑いというより、熱いですね。死にそう。
ボクの出身校の野球部がなぜか甲子園に出るそうで、それ自体は全く興味ないんですが(笑)、ニュースで見た彼らが日本兵 丸坊主じゃなかったのだけはほっとしました。母校愛なんか全くありませんが、出身校の生徒が新興宗教か日本軍みたいだったら、さすがに恥ずかしい。毎年この時期になると戦争特集などが放送されますが、その一方で炎天下の下での女性蔑視と軍隊ごっこで大騒ぎしているのだから、この国には全く呆れます。


甲子園だけでなく最近頻発している不祥事、日大もボクシング協会も東京医大の詐欺入試も、強いては公文書改竄も、個人に自分の頭で考えさせない旧日本軍の発想でしょう。社会や道理より、自分たちの組織が大事。外にバレなければ何をやったっていい。これでは優秀な個人や企業、特に女性はチャンスを求めてどんどん海外へ出ていくんじゃないですか。将来の日本に残るのはバカで無能なジジイとその予備軍だけかもしれませんよ。


●さっそく言われています(笑)



さて、ボクがお昼ご飯を食べる、安くて美味しい中華料理屋は中国人の大家族がやっています。スパイスを多用した本場の味ですが怪しい雰囲気も漂うこの店は調理と皿洗いは大人がやっているけれど、60席くらいある店の中はお母さんがほぼ一人で回しています。お母さんとたまに手伝いに出てくる子供たちしか日本円でお釣りを数えられないからです。今週 店頭にこんな貼り紙がしてありました。


その日は暑さでお母さんが倒れたらしく、一人でホールを切り盛りしなくてはならなくなった高校生くらいの娘さんが貼ったんです。何ともかわいらしい。お昼時は超満員になるからなんでしょうけど、清々しさすら感じました。出来ないことは出来ないのだから、事情を率直に話せばいいんです。客の側も『注文をまとめてあげる』とか『遅くても怒らない』とか『よそへ行く』などの対応をすればいい。お互いに事情がありますからね。そういうことって国籍なんか関係ありません。ちなみにおかっぱで真ん丸眼鏡の娘さんは半分パニくりながらも、その日は一人で頑張ってました(笑)
●どっさり入った花椒で文字通り痺れる、本物の麻婆茄子750円🤗



さてさて、今回は映画の感想に名を借りた講演の感想です。
東中野でドキュメンタリー『国家主義の誘惑ドキュメンタリー映画『国家主義の誘惑』

ドキュメンタリー『天皇と軍隊』を撮ったヨーロッパで活躍する監督、渡辺謙一が独仏で放送されるTV局『アルテ』向けに取ったドキュメンタリー。フランス、イギリスの歴史学者や日本の政治学者 白井聡、国会議員の山本太郎山田宏、ジャーナリストの金平茂紀、経営者の宋文洲などのインタビューを交えながら、明治維新以降 日本人の天皇観、戦争観、憲法観がどのように変化してきたかをまとめたもの


ドキュメンタリー自体はあまり新鮮な内容はありません。想像通りです。明治期から現代のデモや沖縄までを描きながら、米英仏の歴史学者山本太郎、極右の山田宏などのインタビューをはさみ、国家主義的な論調が増えてきた日本の現状を描いています。
安倍晋三の演説に集まる群衆@秋葉原


さらに『現代のマスコミはどんどん戦前に似てきている』(金平茂紀氏)、『安保の下に憲法がある日本』、『戦後は安保が天皇の替りになっている』(白井聡)、『アメリカに従属国扱いされている、独立国家とは言えない日本』(フランスの歴史学者スイリ氏)などの論も付け加えます。国家という体を為していない日本なのに、なぜか国家主義が強まっている、というのです。簡単に言うと 日本の事情を良く知らない外国のインテリ向けの深夜のTVドキュメンタリーです(視聴率は良かったそうです)。
天皇の退位宣言は安倍への確固たる抵抗だった、そうです。ボク自身は何とも思わなかったのですが。


今回 ボクが見に行った目的は上映後の加藤陽子東大教授と監督のトークショー(1時間)です。
加藤教授の『それでも日本人は戦争を選んだ』はベストセラーになりましたが、膨大な資料の提示と解釈で話が終わってしまった観がありました。2016年に出した近著『戦争まで 歴史を決めた日本の交渉と失敗』はどうすれば日本は戦争を避けることが出来たか、という現代的な問題意識で書かれていて、実に冴えている本でした。ということで、加藤教授の話を生で話を聞いてみようと思ったんです。

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗


一度 話し出すと止まらなくなる加藤教授の話で印象に残ったのは以下のようなことです。ボク自身が抱いていた問題意識と重なる部分が多くて非常に興味深かった。
加藤陽子東大教授(右)と監督の渡辺氏。


●今度 日本が国家主義的な方向へ進むとしたら、ミリタリーのミの字も出てくるわけがない、
将来 日本は確かに国家主義的な方向へ進んでいく可能性はありますが、戦前のように軍国主義みたいな方向に行く可能性は少ないんじゃないか。もっと陰険な方向(笑)、例えばお金持ちが支配する息苦しい社会がやってくるリスクがあるのではないか、加藤教授は指摘しました。
ボクもここは同感なんです。良く軍産複合体や軍需企業が世の中を操っている、という人がいます。それって事実を見ていないし、時代遅れの発想です。自動車関連の産業規模は下請けや企業城下町の商店まで含めれば日本のGDPの約3割に上るのに対して、武器産業の産業規模はGDPの1%もありません。規模が小さすぎる。もちろんアメリカは違いますけどね。


そんなことより、社会の格差が広がって、その反動で言論の自由や社会的弱者を圧迫するような方向へ行くリスクの方が大きい生活保護叩き、外国人叩き、そしてLGBTへの差別と社会の根底にある女性差別と、既にその兆候は大有りじゃないですか。もちろんそれだけでなく、貧困層が軍隊、いや、民営化された防衛産業や警備会社に就職する経済的徴兵制のようなことはあり得ます。
忘れてはいけないのは、そういう社会には貧困層が自ら格差社会を支えようとするメカニズムが埋め込まれていること。その最たるものが日本の自己責任論だったり、アメリカのアメリカン・ドリームだったりします。いずれにしても『平和を守れ』と言うのなら、まず経済のことを考えるべきでしょう。
ともかく、これからどんな戦前がやってくるのか、来るのなら我々は知恵と想像力をもってその姿を見極めて、抵抗しなければならないと思います。
●加藤教授はいったん口を開くと、出典とともに歴史的な事実が洪水のようにどわーと出てきます。事前に本を読んでいたからよかったですが、そうでないと正直ついていくのは大変です(笑)。でも非常に刺激的な話でした。


●リベラルが愛国主義を強調する危険性
映画の中では内外の学者から日本は独立国の体を為していないという話がありました。確かにそうなんでしょう。しかし、リベラルの側が、国民国家の主権を取り戻せ、のような主張は案外リスクはあるのではないか、と加藤教授はやんわりと指摘していました。
映画の中でフランスの歴史学者スイリ氏が『日本は明治期以降 生き残りのための戦争をしたことがない』と指摘していました。日本には戦略的な目標がないんですね。資源が欲しいと言った漠然とした目標や鬼畜米英のような感情的な敵意だけで、政治家も国民もどうすれば生き残れるのかという発想はあまりない。だから『カミカゼ』みたいな発想が出てくる。フランス人から見たら、日本人はただ死ぬために太平洋戦争をしたのではないか、というのです。
●フランスの歴史学者、スイリ氏、日仏会館の元館長だそうです。


加藤氏は『さすが怜悧なフランス人』という感想を述べていました。第二次大戦で国土も軍備も破壊されたフランスが5大国の地位を戦後も保ち続けられたのはド・ゴールらの構想力と外交力だ、というんですね。国家の戦略的目標、意思と言っても良い。確かにフランスの戦略的な発想、構想力は日本とはレベルが違うのかもしれません。
近年の日本では国家主義的な誘惑は右派だけでなく、左派でも高まってきていると思います。日米地位協定や対米従属の問題が良い例です。確かに首都圏の西側半分の航空管制権が外国に握られている国なんか主権国家じゃないでしょう。
しかし、対米従属から脱却して、どういう社会を目指すのでしょうか。どういう構想を目指すのでしょうか。そこいら辺の議論はさっぱりなされていないと思います。戦略的な目標がないのに地位協定改定とか、国家主権とか言ってるのはそれこそ愛国的な国家主義に足元をすくわれるリスクは大きいでしょう。かっての新左翼は対米従属ということを指摘していたそうですが、新左翼にしろ、現代のリベラル層にしろ、対米従属の非を唱えるだけなら、トランプのアメリカ・ファーストとさほど変わりません。感情的だし、非現実的な発想は自分で自分の首を絞めるばかりです。


ちなみに先週読んだ、白井聡鈴木邦男の対談『憂国論 戦後日本の欺瞞を撃つ』の中で、笑いながらではありますけど二人は、将来の日本の政治は絶望的で『日本はアメリカに大政奉還するしかないんじゃないか』という結論に達しています。アメリカの51番目の州ですね(笑)。あと、オバマ氏を日本の首相としてスカウトしてくるという案も挙げていました。日本人が統治するより、国民にとってはその方が幸せかもしれません。


他にも、天皇家日本国憲法を擁護するわけ、など興味深い話が続いて、1時間はあっという間に終わってしまいました。
激しい環境変化に多くの人が戸惑い、きな臭くなってきた世の中です。ボクは今こそ 歴史から学ぶべきだと思う。また 日本人が自ら戦争や独裁政権を選ばないように、です。国家主義にしろ、戦争にしろ、歴史は必ずしも同じ形では繰り返さないでしょうけど、同じ構造のままだったらまた酷いことが繰り返される可能性があるでしょう。『それでも日本人は戦争を選んだ』を出した頃、この人の話を聞いたときはもっと歴史考証のことばかりだった気がしますが、今の加藤陽子氏の話はもっと聞いてみたかったです。


ということで、今週も官邸前抗議へ。
今日の午後6時の気温は31度。それでも夜風が吹けば気持ちいいんですけどね。参加者は550人。
●夏休みの抗議風景





今週 原子力規制委が原発廃炉に伴う放射性廃棄物の廃棄基準案を出してきました。現在廃炉作業中の原発9基だけでも、廃炉廃棄物は計約8万トン発生する見通しだそうです。このうち汚染度が高い制御棒など2200トンのごみは10万年!保存しなくてはならないそうです。

廃炉ごみ:行き場なく 制御棒など、9基分2200トン - 毎日新聞
規制基準案:廃炉ごみ、地下70m以深で10万年保管 - 毎日新聞


地震・火山・津波と天災のデパート、日本列島で10万年も核ゴミを安定的に保管できる場所が果たしてあるのか?殆ど人智の及ぶところではありません(笑)。でも、仕方がないですよね。もう廃棄物は作ってしまったし、保管しておくしか処分方法がないんだから。これから廃炉は更に増えますから、汚染度が高い放射性廃棄物も更に増えます。せめて核燃料の再処理を止めて、高レベル放射性廃棄物プルトニウムをこれ以上増やさないようにするのは当然じゃないでしょうか。


●おまけ
杉田水脈の件、自民党が『注意した』とかくだらないこと言ってましたけど、相変らず謝罪も撤回もない!じゃないですか。ふざけんなボケ! 8月5日〜6日は東京、大阪、福岡、伊賀、四日市など各地で抗議が行われます。これとは別に今日、入試の女性差別受験詐欺)の件で東京医大前で抗議が行われました。