特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『#入管法改悪反対デモ@高円寺』と映画『 レッド・ロケット』

 楽しかった5連休もあっという間に過ぎてしまいました。
 お天気も良い前半はベランダにデッキチェアを広げて本も読めたし、ギターの弦も張り替えた。引っ越しで半年以上できなかったことができるようになって、やっと生活が戻ってきた感じです。
 

 さて、連休の最終日、日曜は高円寺まで行ってきました。先日与党が衆院の委員会で強行採決した
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入管法の改悪に反対するデモです。

 5月2日のBS-TBS『報道1930』で法案の取りまとめの中心だったという自民党衆院議員、宮崎政久が「日本で難民認定を申請している人たちには本当の難民は少ない」,『島国の日本に航空機で来るような人は難民ではない』と滅茶苦茶なことを言っていました。

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 ちなみに宮崎政久はカジノ誘致で中国企業から資金提供を受けた疑惑の人物です。

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 統一教会の会合に出席、挨拶もしている議員です。

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 こんな連中がとりまとめた法案です。内容は推して知るべし。

d4p.world

 ちなみに『報道1930』では『オーストラリアもイギリスも日本と同じ島国でしょう』と突っ込まれて、宮崎は話を転換して逃げていました。 

 ボクの家から高円寺は遠いし行ったこともないし(笑)、大雨も降ってたけど、昨年 映画『マイ・スモールランドを見てしまった身としては何かやらざるを得ない

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 明日は我が身の話、です。
 名古屋入管で殺されたウィシュマさんの例が示すように、この国の役人は人権なんかどうでもいいと思っている。いつ国民の側へ牙を向いても不思議ではありません。

 さらに言えば、入管法の問題はこれから戦後民主主義が崩壊したあとの日本社会のアイデンティティの問題の一つでもあることです。
 戦後民主主義では右翼も左翼も対米自立がテーマでした。そこで長年の間 思考停止していたことで、右も左も所詮は同類、結果として日本は右も左もムラ社会が続いてしまった
 入管法の問題は日本のムラ社会を如何に打破していくか、少数派が生きやすい社会にするか、というテーマに繋がる。

 雨は激しかったですが、会場の高円寺中央公園には人が一杯。ウィシュマさんの妹さんや問題に長年関わっている指宿弁護士らがスピーチしていました。
 

 雨の中 女性や若い人を中心にボランティアの人が大勢居て、誘導やサポート、カンパ集めをやったり、主催側の趣旨説明のステートメントを配っています。各人が自分がやるべきことを判って動いているようで、やたらと手際が良い。
 311後に反原発デモを始めたのも高円寺の人たちが最初ですが、さすがデモ慣れしています(笑)。

 段取りの良さも国会前などのロートル左翼とは全然違う。長年 知的怠惰をむさぼっていた連中とは知能指数が違うのでしょう。

 高円寺から阿佐ヶ谷まで歩くとのことでしたが、ボクにはどこがどこだかさっぱりわからない(笑)。途中ボクの妹が通っていた女子美の中学・高校があったので、そうか、ここにあったのかと変なところで感心しました。

 デモの参加者は4000人近くになったようです。大雨の中、政党も労組もない、市民だけでそれだけ集まった。
 立憲の国会議員や区会議員、それに共産党の国会議員の山添拓も来ていましたが、看板を持ったり、スピーチをするわけでもない(立憲の石川大我だけはスピーチした)、個人としての参加です。反原発デモでもそうですが、山添にしろ吉良ちゃんにしろ、東京選出の共産党参院議員のそういうところは立派です。独善的で非民主的な共産党は大嫌いですが。

 集会で指宿弁護士が『与党は法案改悪を強行採決するだけの議席を持っているが、それをやるだけの度胸はないと思う。今 諦めてしまったら、それで終わりだ。それだけは間違いない。』と言っていました。真偽はともかく、彼が言うと説得力があります。

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 コロナで人ごみは極力避けていたので、デモに参加するのはほぼ3年ぶりです。また、こうやってデモに行かなければならない、というのもやりきれないものですが、この国はそういう国なのでしょう。

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と、いうことで、渋谷で映画『レッド・ロケット

 舞台は大統領選を控えた2016年、テキサス。ポルノ映画のスター俳優だったマイキー(サイモン・レックス)は落ちぶれて、無一文の状態で故郷のテキサスへ舞い戻る。別居中の妻レクシーと義母リルに煙たがられながらも、マイキーは彼女たちの家に居候させてもらうが、17年間ポルノ俳優をやっていたことがブランクとなって仕事はない。マリファナの密売で日銭を稼ぐ中、マイキーはドーナツ店で働く少女と出会い、彼女との交流を通じて再起を図ろうとする。
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 第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映された作品です。監督はアカデミー賞にもノミネートされた前作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が本当に素晴らしかったショーン・ベイカー

 前作は売春をしながら娘を育てるシングルマザーとアパートの老管理人との交流のお話でした。世界中から観光客が押し寄せるディズニーワールドがあるフロリダが舞台です。
 眩しい太陽の光の中、貧困白人の壮絶な生活をこれでもか、とばかりに描きながら、時折 垣間見える『希望の瞬間』を描写した作品には胸が熱くなりました。

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 今作の舞台は2016年、テキサスの海沿いの街。演説や看板など『アメリカを取り戻す』というトランプの選挙キャンペーンがやたらと目につきます。元来 テキサスはアメリカでも保守的な風潮で知られています。

 漁業や農業など従来 経済を支えていた産業は斜陽に陥り、新たにITや石油などの産業が勃興している。特に石油は価格上昇に伴い活況を呈しています。その反面 従来の産業に従事していた労働者の暮らしは厳しい。

 そんな街に舞い戻ってきたのがマイキーです。保守的な田舎町を捨て西海岸に移ったマイキーはポルノ映画のスターになりましたが、落ちぶれて無一文の状態で故郷へ帰ってきた。高校生でも自動車に乗っている車社会でマイキーの移動手段は自転車です(笑)。

 自動車はおろか、宿代もないマイキーは籍だけは残っている妻、レクシーと義母のリルが暮らす借家に強引に転がり込みます。とにかく、口だけのサイテー男です。

 宿代を払え、とレクシーとリルに責められるマイキーですが、まともな職歴もない彼にはなかなか職が見つかりません。ちなみにレクシーは元ポルノ女優、マイキーの同僚です。マイキーは気が付きませんが、今は時折、売春をして生計を立てている。

●妻のレクシー(右)と義母、リル

 テキサスに戻ってきたばかりのマイキーは役所の生活保護にも相手にされません。仕方なく昔の伝手を辿ってマリファナの密売を始めますが、素人の悲しさ、それも上手くいかない。馴染み客を持っていないからです。

 近辺で景気が良いのは精油所だけ。上客の製油所の労働者相手の麻薬の密売はギャングたちの利権です。下手に手を出すと命が危ない。仕方なく彼はドーナッツ屋でドーナッツを買いに来る製油所の労働者相手にゲリラ的な密売を始めます。

 ドーナッツ屋でマイキーはまばゆいばかりの少女、ストロベリーに出会います。彼女は18歳まであと3週間。

 ストロベリーに惚れながらも、マイキーは彼女をポルノ女優にスカウトしようとする。クズのクズたる所以ですが、彼女もまんざらではなさそう。彼女だって望みがない田舎の街から出て行きたいのです。かってマイキーがそうだったように。

 今のアメリカ下層階級の典型なのでしょうか、登場人物たちは殆どが麻薬に毒されています。
 正確にはレクシーやリルに至っては貧しくて麻薬も買えない。合法の鎮痛剤(オピオイド)を使っています。成分は覚せい剤で、トランプですら非常事態宣言をするくらいオピオイド中毒は大きな問題となっていますが、製薬会社のロビー活動で規制を掛けられないのが現状です。

 映画では登場人物たちのどん底生活とテキサスの美しい光景、活況を呈する石油産業、そして政治家の壮言大語がひたすら対比されます。ここには救いがない。犬ですら、ぐうたら暮らしています(この描写、大好き!!)
 

 マイキーもレクシーも義母のリルも清廉潔白ではないどころか、ロクなもんじゃない。終盤に見せるレクシーとリルの邪悪な表情にはびっくりしました。いかにも純真そうな17歳、ストロベリーもそれなりです(笑)。

 だけど登場人物たちは根っからの極悪人ではありません。マイキーもストロベリーもお互いに相手を思いやる気持ちをもっている。レクシーだって何年も音信不通だった無一文のダメ亭主を一応は家に向かい入れる。リルは隣に住んでいる黒人の麻薬の売人とも助け合っている。軍歴詐称で捕まった前科があるマイキーの幼馴染は唯一の味方です。

 題材が題材だけに、ボクの苦手な暴力シーンでもあるのではないか、とハラハラしながら見ていたのですが、暴力やセックスの直接的な描写は注意深く避けられています。この点は素晴らしい。知的です。最後に一か所だけマイキーのフルヌード(笑)がありますが、誰もが爆笑するこのシーンはこの映画を象徴しています。
 
 過酷な現象を見据えつつも、ユーモアを持って人々の温かな心持ちを描いたコメディ、です。前作に続いて、声なき人々に声を与えようとする志に加えて、高い完成度。社会派ぶって正義を押し付ける凡百の日本映画とは違います。お見事、としか言いようがない。
 悲惨な現実の中でも人々は生きていこうとする。それを見つめる美しいテキサスの夕景が印象に残る、実に良い映画でした。


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