特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『ハマのドン』

 いよいよ本格的な梅雨がやってきました。雨は嫌ですが、少なくとも暑くはないですからね(笑)。なるべく良いことだけを考えて日々を過ごそうと思っています。

 アムネスティが今、映画『マイスモールランド』の無料上映会を全国でやっています。

 この映画で描かれているように今でさえ、日本で生まれ育った子供が親と引き離されたりする。入管では拷問もどきの暴力が行われる。まともな医療を受けないまま、亡くなったウィシュマさんの例は言うまでもありません。
●閲覧注意。これは映画ではなく現実です(怒)。

 今回の改悪ではいい加減極まりない難民認定や入管のやりたい放題はそのままで、難民申請中の強制送還が可能になる。無理やり親子が引き剝がされるようなことが増えたり、支援者が刑事罰を受けるような可能性もある。

 マーティン・スコセッシの映画『沈黙』で描かれた光景は今も大して変わってない。

 で、その一方 日本人だけの狭いムラ社会の中ではこの調子です。殆どギャグの世界日本人に自治能力なんかないんじゃないでしょうか。


 と、いうことで、渋谷で映画『ハマのドン

 2019年8月、横浜。父親の代から横浜港の港湾労働者を束ねてきた横浜港運協会会長、藤木幸夫は、歴代総理経験者や二階など自民党幹部との人脈を持つ保守派の重鎮でありながら、当時の政府が推し進めるカジノ誘致に真っ向から反対する。
 藤木はカジノ誘致の賛否を問う住民投票条例を求める署名が法定数の3倍も集まったことに着目し、市民と手を組んで横浜市長選にカジノ誘致反対の候補を擁立、カジノを阻止しようとするが。

news.yahoo.co.jp

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 放送人グランプリ2022グランプリ優秀賞などを受賞したテレビ朝日のドキュメンタリー「ハマのドン“最後の闘い”ー博打は許さないー」の劇場版。

www.minkyo.or.jp

 監督は松原文枝。ナレーションを俳優のリリー・フランキーが務めています。
 松原氏はテレビ朝日の社員で「報道ステーション」の元プロデューサー。2016年、改憲を目指す安倍政権が緊急事態条項の創設を画策したとき、ナチス台頭の過程との類似点を番組で指摘し話題になったそうです。真偽は知りませんが、その後政権に批判的な姿勢から報道局を外されたとも言われています。

maonline.jp

 と、いっても、もともと扇動的な態度ばかり目につくので『報道ステーション』どころかテレビ朝日そのものもボクは全く見ないし、一切信用していません。
 松原氏が関わっていた筈の『報道ステーション』の安保法の報道だって、上っ面だけで酷かった。だから、この映画も非常に印象悪かった。かなり警戒しながら、映画館へ足を運びました(笑)。


 横浜港運協会元会長の藤木幸夫氏は横浜港の荷下ろしを請け負う藤木企業という企業の会長。横浜エフエム放送社長、県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、がん医療と患者・家族を支援する会会長でもあります。


 港湾の荷役は労働のきつさから、昔はヤクザが取り仕切っていた、とも言われています。横浜港の荷役は現場から身を起こした藤木氏の父が取り仕切っていました。その一方 神戸港の荷役は山口組が取り仕切り、それで勢力を伸ばした、とも言われています。山口組の3代目、田岡組長は藤木会長の父親に港湾の仕事を教わったそうです。映画で出ていた写真には田岡組長だけでなく、住吉会の組長も一緒に映ってましたから、そういう付き合いはあるのでしょう。

 政治家との付き合いも昵懇です。二階とも定期的に会食する仲だし、横浜を選挙区とする菅は文字通り藤木氏が育ててきた存在。

亀井静香

 カジノは法案が通った時からまず、菅の地元、横浜の港湾地区に作られることが前提になっていました。このことはボクも銀行から話を聞いたことがある。
 映画の中でカジノを運営するアメリカ資本も『東京だとコストが高すぎる、地方だと集客に問題がある、横浜がちょうどいい』と語っています。カジノに対して中立を宣言して横浜市長になった林文子は態度を翻しカジノ推進に回ります。市はカジノに対する住民投票請求も無視して強引にことを進めていく。

 しかし藤木氏が菅のカジノ誘致に反旗を翻します。『カジノの常習性はパチンコよりもっとひどい、人々の暮らしを破壊しかねない』というIRの危険性を説く国学院大学の横山実名誉教授の話を聞いたからです。

 藤木氏に横山実名誉教授を紹介したのは元参院議員で自民党神奈川県連の長老、斎藤氏。保守の中でも人々の利益を考える真の保守がいる。自民党の重鎮でも上位下達が良いとは思わない人がいるのでしょう。

 藤木氏は既に90になっています。足は多少引きずっていますが、それでも積極的に現場へ足を運び人々の話を聞く。だから藤木氏の話はとても面白いだけでなく、説得力がある。

 藤木氏は、『戦前から人々が文字通り血と汗を流してきた山下ふ頭で人々の生活を破壊しかねないカジノなんかやらせるわけにはいかない』といいます。『港湾労働者たちもばくちをやってたが、プロ(ヤクザ)には介入させなかった』と言うのです(笑)。 


 彼はカジノ予定地にある港湾協会の建物に本当にマットレスを運び込み、最後の一人になっても立て籠もる、とまで宣言します。

 しかし自民党県連はカジノ推進で固まっています。議会では自公が圧倒的多数です。
 折しも横浜市長選が近づいてくる。藤木氏はカジノ反対の署名を集めた市民と手を結び、カジノ反対の市長を生み出そうとします。余談ですが、下の写真の着物のおっちゃんは官邸前抗議に来て、毎週スピーチしてた『横浜の●●』氏(笑)。


 
 神奈川を地盤とする立憲民主の江田憲司が連れてきたのは大学教授の山中氏。

 市長選はカジノ推進の現職、林文子、

 現職閣僚(国家公安委員長)を辞めてカジノ凍結を唱えて立候補した、菅の子分の小此木、

 他にも元国会議員の松沢や田中康夫などが立候補する大混戦になります。


混迷する横浜市長選 最多9人が出馬予定、再選挙も(1/3ページ) - 産経ニュース

 90歳を超えた藤木氏は自ら街頭で演説し、町会の集まり?など人々の中へ入っていって票の掘り起こしに努めます。カジノ反対の市民たちと一緒になって、90歳の爺さんが現場へ行って汗を流す。全然偉ぶらない。すごい人だなあと思いました。だからこそ人がついてくる。

 結果は大差で山中氏の当選。横浜のカジノは一旦阻止されます。しかし、自民党はまだカジノ建設を諦めていないようです。

 映画そのものより、藤木氏という人が面白いです。言葉は率直だし饒舌、異様に説得力がある。横浜大空襲に遭った体験談も港湾の仕事の話も成程と思いました。国交省大臣時代の前原が訪ねてきてオドオドしながら話してきた、と言う話しも面白かった。

 自民党に真っ向からケンカを売ることになるカジノ反対の市長候補者が見つからないときでも、藤木氏は『自分で立候補してもいいからカジノを阻止する』と言い張ります。また毎朝 自宅の郵便受けに新聞を取りに行くとき周囲に怪しい人影がないかは確認する、とも言います。カジノを妨害しているのだから、身の危険が及ぶようなことは充分あり得ます。

 それでも藤木氏は『もう90歳の自分はどうなってもいい。港にカジノなんかを造らせたら、もうすぐあの世へ行く自分は港の先輩たちに顔向けができない。』と言うのです。命懸け、という彼の言葉に嘘はありません。

 ちなみに彼が会長をやっているエフエム横浜では家庭を破壊するサラ金のCMは一切禁止だそうです。映画の中で藤木氏は『すまないなあ』と営業部員たちに頭を下げていましたが、話に筋が通っている。少年野球の子供たちにまで頭を下げ、対等に話をする姿はやらせではありえない。


 確かに彼は魅力的な人柄です。だからこそ、港湾労働者を束ねることができるし、人を動かせる。自分の正しさだけを主張して他人のことを考えない多くの左翼、リベラルとは大違いです。
 映画では出てこないけど、たぶん裏の顔もあるんだろうなとは思いました。ヤクザではないにしても、この人の影響力の源泉は人格や人望だけなのか。そこいら辺まで突っ込むことは、このドキュメンタリー、出来ていません。

 また自民党にはしごを外された林文子の恨み節や突然カジノ凍結を言い出した小此木が何を考えていたのか、はもっと突っ込んで欲しかった。江田憲司が連れてきた山中氏を藤木氏がどう考えていたのかも。

 しかし藤木氏の魅力と迫力だけで、映画は押し切った(笑)。保守とかリベラルとか右とか左とかイデオロギーの違いは、人間の価値には関係ないことは改めて良く判る。面白かったです。日本にもまだ、清濁併せ呑む大物が残ってました。ただ、これは例外かもしれません。

 たまたま横浜は藤木氏という特異な人がいたからカジノは阻止出来ました。しかし他の地域、そしてこれからの日本はどうなるでしょう。


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