特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『6年前の8月30日』と映画『シュシュシュの娘 』

 もう八月もオシマイ。先週の残暑は厳しかったですが、それもあと少しの我慢でしょうか。
 全国的な感染拡大も止まりませんが、ワクチン接種が増えて感染が減るのが目に見えるようになるのも、あと2、3週間くらい?9月になって人の流れが増えてくるのとワクチン接種の効果が出てくるのとどちらが強いか。微妙なところです。


 先週 BS-TBSの報道1930で岸田の自民総裁選立候補の会見を見て、『この人、たまにはまともに喋れるんだ』と思いました。解説の堤伸輔氏が『この人、番組に出演する時はまともに喋れないが、久々に政治家が自分の言葉で喋るのを聞いた』と言ってましたが、トリクルダウンを否定し、再配分の強化を訴える彼を見て、ボクもそう思った。

 ロクでもない極右政治家ばかりが目立つ今の自民党の中では、岸田は政策や一般常識があるだけマシです。ただ政治家としての勝負勘とか実行力が殆どゼロに近いから(笑)、これまた微妙なところです。

 自民党が選挙前に好感度を上げる最後の手段は総裁選、でしょう。下村が立候補を辞退するなど、早速 菅/二階が対立候補を潰しに来てますが、選挙を大々的にやったほうが自民党には有利な筈なんですけどね。相変わらず、先の見えない奴らです。
 早く菅は替わって欲しいけど、自民・公明・維新の議席を減らさなければ、この国の政治も我々の暮らしも良くならない。難しいところです。



 今日は8月30日、6年前はこんなことが起きていました。安保法反対で国会前に数万人が押し掛けて、警官を排除して道路を占拠した日です。色んな人がデモの写真をTwitterに挙げていましたが、最初は何のことだか判らなかった(笑)。

 ちなみに、この写真↓ マイクを持つ子供の後ろに半分写っているプラカードを掲げているのがボク(笑)。

 こんな『密』状態、今からはとても考えられません(笑)。しかも雨が降ってたんだよなあ。
『戦争法案廃案!安倍政権退陣!8・30国会10万人・全国100万人大行動』 と映画『野火』 - 特別な1日

 あれから世の中はどう、変わったのでしょうか。我々の暮らしはどう、変わったのでしょうか。たぶん我々の暮らしは酷くなったし、政治も酷いまま。
 それでも、当時の安倍一強、野党ボロボロの状態よりはマシ、とは思います。少なくとも終わりは見えてきた世の中の歩みは時間がかかるもの、なんでしょう。


 と、いうことで、渋谷で映画『シュシュシュの娘
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www.shushushu-movie.com

 埼玉県、フクヤ市役所に勤める25歳の鴉丸未宇(福田沙紀)。彼女の特技は存在感が希薄で誰にも気づかれないこと。寝たきりの祖父、吾郎(宇野祥平)の介護をしながら暮らしている。ある日 同じ市役所に勤める先輩の間野(井浦新)が公文書改ざんを命じられたことを苦にして、市役所の屋上から身を投げる。職場で孤立していた自分に寄り添ってくれた彼の死を悲嘆する未宇に、元新聞記者の祖父は改ざんが指示されたデータがあるので?と示唆する。希薄な存在感を生かし、彼女はデータのありかを探っていく。

 今の感染状況では流石にボクも映画館へはあまり行きたくありません。映画館ではクラスターは起きてないし、尾身氏も映画館は低リスク,、とは言ってますけど、リスクはゼロではありませんから8月は本当に映画に行かなかった。『イン・ザ・ハイツ』、『ドライブ・マイ・カー』など見たい映画は結構あるんですけどね。

 唯一、入江悠監督の新作『シュシュシュの娘』だけは応援したい気持ちが強かったので、客が少ないであろう平日昼間に会社をサボって(笑)、KF94マスクをして見に行きました。それでも結構お客さんは入ってました。


 この映画は映画『SR サイタマノラッパー』シリーズや『AI崩壊』、『22年目の告白』、TVドラマ『ネメシス』などの入江悠監督がコロナ禍で苦しむミニシアターを支援するために、制作費は自身の出資とクラウドファンディングによる支援金で、スタッフ・キャストは自身がSNSを通じてコロナで仕事が無くなったスタッフや学生を集めて自主制作した作品です。

 ちなみに、入江監督が脚本・監督した4~6月に放送されたドラマ『ネメシス』は広瀬すず櫻井翔など豪華スターの出演作でした。この映画の100倍くらい予算が使われているんじゃないでしょうか。
 全体的にもうちょっと、の部分はありましたけど、ラップと孤児院の話が泣かせる第2話やサイタマノラッパーの主人公役の駒木根隆介君が犯人を演じた第3話など、まあまあ面白かったとは思います。特に広瀬すずが死ぬほどかわいい、ということはTVを見ないボクにも理解出来ました(笑)。
www.ntv.co.jp

 この『シュシュシュの娘』の制作資金を集めるクラウドファウンディングにはボクも参加しました。ファウンディングを始める際 入江監督は以下のことを挙げていました。

・仕事を失ったスタッフ、俳優と、商業映画では製作しえない映画を作ること。
・未来を担う若い学生達と、あらたな日本映画の作り方を模索すること。
・苦境にある全国各地のミニシアターで公開すること。

 そして作品の内容は『敢えて政治的なテーマを取り上げる』のも宣言していました。さて、どんな作品に仕上がっているでしょうか。


 舞台はフクヤ。埼玉県の架空の市です。実際は監督の故郷で『サイタマノラッパーシリーズ』の舞台になった深谷市。監督の作品ではおなじみの場所が次から次へと出てきます。
 フクヤ市では若い市長が推進した『外国人排除条例』が成立したばかりです。主人公の未宇(福田沙紀)は市役所勤務、存在感が薄く、誰からも気づかれないことが特技の25歳。職場でも浮いています。

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 寝たきりの祖父の介護をしながら暮らしている彼女の家に、市役所の先輩、間野(井浦新)がやってきます。元新聞記者だった祖父に『外国人排除条例』を成立させるために市幹部から強要されて公文書を改ざんさせられてしまった、と泣きながら告白したのです。

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 翌日 間野は飛び降り自殺します。祖父は未宇に、間野がどこかに隠している筈の公文書改ざんの証拠を探すように命じます。

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 言うまでもなく、お話は現実がモデルです。改ざんを強要されたことで自らの命まで絶ってしまう生真面目な間野を井浦新が演じるのは適役、と思いました。
 
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 かといって、この映画は深刻な感じではない。脱力コメディです。福田沙紀が演じる主人公のキャラがのんびりしていて結構魅力的なのも相まって、肩の力が抜けた、クスリと笑ってしまうようなペースでお話が進んでいきます。
●未宇は毎日 朝のダンスとちくわを詰めた弁当を楽しみにして暮らしています。のんびりした役柄ですが、ダンスの時だけ動きが素早くなるのが面白い。
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 一見のどかに見えるフクヤ市は工場や商店が閉鎖され、映画の中で描かれる街の光景は不景気にしか見えません。治安の悪化も進んでいる。増えてきた外国人労働者を目の敵にすることで市長は人気取りを図ります。忖度する役人もいる。これもまた、どこかで見たような光景です。
●未宇の唯一の親友はヤンキーです。これも地方都市ならでは、というと偏見でしょうか(笑)
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 今やジャニーズを使った連続TVドラマまで撮るようになった入江監督ですが、映画では地方都市の不景気と治安の悪化、閉塞感、それに伴う人々の心の荒廃をずっと描いてきました。
●外国人を排撃する自警団の面々。入江監督はかって排外的な自警団のことも描いたことがあります。
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 脱力コメディでありながら、視点は確かです。排外主義に走る人間もいれば、外国人たちを守ろうとする僅かな人たちの姿もきちんと描かれる。今回は関東大震災での朝鮮人虐殺まで取り上げられる。
●間野の残したデータを探す未宇に産廃業者で働くベトナム人労働者が手を貸します。この、産廃業者って言うのもいかにもリアルです。
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 入江監督の作品の魅力はカメラの長回しと良く練られた脚本ですが、この作品は脚本がいまいち粗かった、とは思いました。惨めな現状を容赦なく描きながらも暗くならないのは良いけれど、入江監督らしい見事なカタルシスが無かったのは少し残念でした。
 途中から映画のジャンルそのものが変わるという荒業を見せるのですが(笑)、ボクはいまいち乗れなかったんです。
●公文書改ざんを強要した未宇の上司たち。右端が市長。いかにも維新然としています。
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 物足りない部分もないわけではありませんが、見ていて楽しい映画です。特に主人公のキャラは面白いし、脱力系のギャグも油断していると足元をすくわれるような鋭さもあります。

 ミニシアターを応援する映画なので、入江監督は暗い話にはしたくなかったそうです。深刻な状況だからこそ、笑える映画にしたい、と。ミニシアターのスクリーンに合わせた画面の大きさ、音響も1チャンネルとミニシアター向けに特化しています。上映時間も90分弱と気軽に見ることが出来る楽しい映画でした。 

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