特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『鯛の炭火焼き』とNHK『令和未来会議 危機をどう乗り越えるか?コロナ時代の”仕事論』、それに映画『AI崩壊』

 この前、いつも行っている原宿のイタリア料理屋へ行ってきました。4月末以来です。
 日本のイタリアンの草分けのような古い店ですが、こんな事態になっても、(作り立てのものを出したいから)テイクアウトはやらない、(感染予防のため)知ってる客しか入れない(笑)という方針で営業を続けています。この時期 無謀だと思うのですが(笑)、売上は厳しくともポリシーは頑として曲げない、そういうお店もあります。 
●36か月ものの生ハムと完全主義者のシェフが自分の畑で作ってる(笑)野菜サラダ

 シェフ氏は、『補助金の申請はとっくに出したけど1か月経ってもなんの音沙汰もない』と嘆いてました。補助金の処理の遅れは色々なニュースでも取り上げられています。

www.tokyo-np.co.jp

 事務局ですら処理に時間がかかっていることを認めている。 
www.jizokuka-kyufu.jp

 この2か月の間に飲食業界では『若い人はまだ頑張ろうと言う気はあるようだが、ある程度 歳をとってくると「もう、いいかな」という気持ちになって廃業する人が増えている』とシェフ氏が言ってました。これだけ先が見えないと、しかも誰も助けてくれないのだから、頑張ろうと言う気持ちが削がれる人がでてくるのは当然です。
 かくして雇用も税収も減り、文化も失われていくことになる。

 単なる補助金の問題ではありません。社会に対する信頼感の問題です。きっと助けてくれるなんて政治に対する信頼感なんか誰も持ってませんよね。

 先週 日本の出生率が1.36と12年ぶりの低さだったことが報じられましたが、低水準の出生率が続くのは社会に対する信頼感、希望がないからです。健康の問題や仕事の問題にしろ、誰だって困ることはあります。そんな時誰も助けてくれないような社会だったら、誰が子供なんか作るかって(笑)。おまけにバカ男が家事もしないでのさばってるし。
www.nikkei.com

 そんな中でも生き残るのは自分の問題ですけど、今の政治は単に経済やコロナ対策が無能なだけでなく、日本の社会に対する信頼感、社会そのものを破壊している。

 かって新自由主義者サッチャーは『社会なんてものは存在しない。個人としての男と女、そして家族がいるだけだ(自助努力しかない)』と言いましたが、今 日本で進行しているのはそういうことだと思います。
''There is no such thing as society. There are individual men and women, and there are families''

*ちなみに同じ保守党のボリス・ジョンソンは先日 献身的な介護でコロナから生還した後、こう言いました(笑)。『コロナ・ウィルスは社会というものが確かに存在することを証明した。』
''The corona virus crisis has already proved is that there really is such a thing as society''

 あ、料理はサイコーでした(笑)。地味な料理ばかりなのに、口の中に入れると驚きがありました。
●炭火焼の鯛。付け合わせはフェンネル。一見 何気ない料理に見えますが、ナイフを入れると焼き芋のようにホクホクでした。シェフ曰く、『技術』だそうです(笑)。

  



 土曜日の夜NHK令和未来会議 危機をどう乗り越えるか?コロナ時代の”仕事論”』をぼーっと見てました。

www.nhk.jp

 現在のコロナ危機後、どうやって働いていったらよいか、様々な識者?が討論する番組です。
 内容自体は目新しいものはないんですが、その中で、テレワークの利点ばかりを強調する他の発言者に対し、マザーハウスの山口氏が『テレワークと言ってもできる人は2割くらい、仕事内容や家庭環境によって大きく格差ができてしまう。』と、言っていたのはさすがだと思いました。
 因みにバングラに工場を建てて雇用を生み出し、作った製品をフェアトレードで販売するマザーハウスの鞄はボクもこの5~6年ずっと使ってます(笑)。中々良いですよ。

www.mother-house.jp

 彼女の言う通り、医療や介護だけでなく、自粛期間でも宅急便やスーパー、コンビニで働いてくれている人が大勢いるわけです。そんな当たり前のことすら頭に浮かばない奴は頭がおかしい、と思うけれど、その当たり前の話がなかなか表に出て来ない。マスコミがバカだから。
 
 そのあと『工場だってIoTを入れればテレワークできる』とAI関連のベンチャー企業を経営している女が寝ぼけたことを言ってましたが、IoTだって電気を発電する人や材料を配送してくれる人がいなければ動かない。いや、請求書を配達してくれる郵便配達の人がいなければ、会社だって成り立たない(笑)。お前の会社のビルだって警備員や掃除の人がいるだろうに。
 どこまで頭が悪いのか。AIだか何だか知りませんが、こんなバカがやってる会社は潰れてしまえ、と思いました。

 アメリカのデモがあれだけ激しくなったのは人種差別だけでなく、失業増・格差拡大が原因でもあることが示すように、コロナ危機は今の世の中の格差を拡大・可視化させている面もある。この3か月、ボクはどうしても、このことにモヤモヤしています

 番組では大阪市立大准教授の斎藤幸平氏が『医療や介護など生活に不可欠な仕事に携わっている人に比べて、仕事が止まっても社会に大きな影響がない広告やコンサルなどのほうが高い報酬を得ている社会構造はおかしい』と言ってました。

●斎藤氏はド左翼ですが、様々な識者と対談、編集しているこの本は良かったです。『資本主義はもう限界』という話はありふれたものになってしまいましたが、そこからもう一歩議論を進めています。昨年出た新書では一番面白かったかも。

 当たり前のことではあるのですが、こういう意見がTV や言論として出てくることは滅多にありません。

 それに対してサントリー社長の新浪が『我々メーカーはコンサルの意のままに動いているわけではない』と理屈にならない反論をしてました(笑)。誰にでもいい顔をしなくちゃならないのは企業としては仕方ないですが、社長自らTVでバカを晒すんだからサントリーもリスクを取る会社ですな(笑)。

 そもそも世の中の仕組み自体がおかしいんです。電通みたいな寄生虫が肥え太って、実体経済という本体より大きくなってしまっている。前述の交付金処理の遅れが良い例で、安倍晋三のお友達、お仲間が甘い汁を吸う一方、まじめに働いている人が苦しんでいる。

 ジャック・アタリ先生はNHK、BSのインタビューで『コロナ危機を機に、食物や文化など生命に関連する業種、仕事をもっと大事にしていかなければならない』と語ってましたけど、何も生産していない電通パソナみたいな連中がのさばる世の中は根本から間違ってるし、価値観を変えていかなけれないけない、と思います。


●内政も外交も恥ずかしい国です。何も考えない国民の反映ですかね
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 この週末から、映画館も始まったようですが、未だ電車にあまり乗りたくないんですよね~。まあ、気分の問題ではあるんですけど。徒歩圏だけで過ごす静かな生活の心地よさに慣れ過ぎてしまいました。


 ということで、公開は昨年ですがDVDが発売されたばかりの映画『AI崩壊
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 舞台は2030年の日本。天才科学者の桐生(大沢たかお)は愛妻(松嶋菜々子)を病で亡くし、医療用AIの開発に没頭する。やがて彼が開発したAI「のぞみ」が国民の膨大な個人データを基に医療や生活に対して指示を出すことで、効率的な医療を提供できるようになる。その後 桐生は一人娘を連れて隠棲してしまう。ある日『のぞみ』は将来性や性質によって人間を選別し、殺りくを始めるようになる。人々がパニックに陥る中、AIを暴走させたテロリストと断定された桐生は逃走するが、警察のAI監視システムによって徐々に追われるようになる。桐生の義弟で「のぞみ」を運営する企業の代表を務める西村(賀来賢人)は何とか事態を収束しようとするが



 TVドラマにもなった『サイタマノラッパー』や『22年目の告白-私が殺人犯です-』の入江悠監督の作品。
 日本TVが日本でもオリジナル脚本でハリウッドに負けないSF作品を作りたいということで、脚本には定評がある入江監督を起用して作られた作品です。

 オールスターキャストの大作(日本映画では)で昨年夏に公開されて興収1位になりました。入江監督は最近『ビジランテ』や『ギャングース』など地方を舞台にした社会派作品で絶好調です(興収はダメでしたが)。それに、その前に撮った『22年目の告白-私が殺人犯です-』は興収1位になっただけでなく、内容も超面白かったですからね。

ビジランテ

ビジランテ

  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: Prime Video

 応援しようと思って、昨年の公開時は初日に見に行ったくらいです。


 映画が始まるといきなり、松嶋菜々子大沢たかおが出てきて、驚きます。そういう有名なスターが出てくる映画はボクは見たことがない(笑)。さすがTV局製作です。ま、この人たち自体には全く興味ありません(笑)。
●男前3人組。左からエリート官僚役の岩田剛典、天才AI科学者役の大沢たかお、AIを運営する企業社長役の賀来賢人

 で、初めて映画で見る松嶋菜々子という人はどういう役者なんだろう、と思っていたら、2,3分であっさり難病で死んでしまいます(笑)。なんと豪華なんでしょう(笑)。

 悲しみに打ちひしがれるAI研究者の夫、桐生(大沢たかお)は、妻の想いを実現すべく、難病の治療をも可能にする医療用AIの開発に寝食を忘れて取り組みます。

 数年後、ありとあらゆる医療用データはおろか、スマホやセンサーから収集した国民一人一人の健康のデータまで分析できる医療用AI『のぞみ』が完成します。『のぞみ』は桐生の義弟の企業が運営しており、リアルタイムで日本人に健康上のアドバイスや治療方針を送ることで難病に苦しむ人を救うようになります。
 桐生は日本人を救った天才とたたえられますが、妻を失った悲しみを忘れることができない桐生は、一人娘を連れて南の島に隠棲してしまう。

 ところが、突然 『のぞみ』は暴走を始めます。その人の余命や健康状態、知能などで人間を選別、一定以下のスコアの人間は生かしておいてもムダ、と判断して、殺戮を始めます。
 国民のヒーローだった桐生は一転、AIを暴走させたテロリストと断定され、逃亡を余儀なくされます。

 AIを治安のために活用しようとしていた内閣官房も密かに準備していた警察用のAI監視システムを稼働させ、桐生の追跡を始めます。
 一方 定年間近の昔気質の刑事(三浦友和)は若いアシスタント(広瀬アリス)とともに勘と経験で桐生を追跡します。三つ巴の追跡劇はどうなるのか。

 ある意味 主役のAIについては有名研究者の東大の松尾教授がアドバイザーに入っているだけあって、話のつじつまは合ってます。それも日本映画では珍しいんじゃないですか(笑)。技術面にしろ、国民の意識の低さにしろ、2030年の日本はこうなるかも、というリアルさは確かにあります。

 映画の中の、日本中に溢れるスマホやセンサーからの映像を組み合わせたり、ネットでの集団リンチなどの画面は結構面白い。
●警官隊は本物のスマートグラス(AR映像やPCからの情報と現実を組み合わせるゴーグル)を付けてます

 中盤までの大沢たかおの逃亡劇は昔のドラマの『逃亡者』や『超人ハルク』みたいで、結構面白い。

 実際の道路を使った大規模なクラッシュシーン、巨大なAIを収納するマシンルームなど、確かに最近の日本映画には見られない大規模なセットのシーンは見られるものになっています。

 ボク自身はそういうシーンは興味ないですが、日本映画でもそういうものを撮ることが出来る、という面では意味があるのかもしれません。

 

 大沢たかおや松島奈々子、あと若い子に大人気らしい桐生の義弟役の賀来賢人、日本の支配を目論む官僚役の岩田剛典(エクザイル?)、広瀬アリスなどの豪華俳優陣は少なくとも飽きさせません。
 その中でも老刑事役!の三浦友和はマジで味がありました。三浦友和が主役だったらよかったのになーと思いました。
●この二人はマジでよかった。かなり良かった。

 特筆すべきなのはAIを使って治安強化を目論む内閣官房の姿です。自分たちの目的のために国民を切り捨てる彼らの発想をかなり辛辣に描いています。ボクには昨年の『新聞記者』なんかより遥かにリアルに感じられました。TV局資本の映画でこんな描写をしていいのか、と思いましたもん。入江監督、ここはかなり攻めています。

 ただ、エリート官僚役の岩田剛典がハンサム過ぎて浮世離れしてます(笑)。確かに彼が演じるエリート官僚の新自由主義、効率優先の発想は最近の若い子にいるいる、と思いましたが、流石にこんなルックスの奴はいないんじゃないか、と(笑)。でも女性客はそれに惹かれて見に来てたみたいですから、ま、仕方ないか(笑)。

 問題なのは、お話。中盤までは面白かったのですが、肝心のオチがいまいちなんですよね。邦画としてみれば悪くはないレベルだけど、あまりにもミエミエ過ぎて、えーこれで終わっちゃうの??と思いました。あまりにも、ありきたりなんですよね。


 映像は悪くない、豪華キャスト(あまり好きではない人たちでしたが)、権力への厳しい視線と見るべき点はいくつも揃っているんですが、入江監督が一番得意なはずのお話でコケちゃったのは残念でした。
 それでも日本のTVでやってるTVドラマよりは面白いですから、レンタル・映像配信でしたら、悪くないと思います。いずれ、TVの金曜ロードショーででも放送されるんじゃないでしょうか。これだけ政府に対する厳しい視点が込められた作品が地上波で放送されることを考えたら、少しうれしい(笑)。
 入江監督には次回作を期待しています。

映画『AI崩壊』本予告 2020年1月31日(金)公開