特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ETV特集『パンデミック 揺れる民主主義 ジェニファーは議事堂へ向かった』と映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』

 週末は良いお天気でした。かといってボクは何か特別のことをするわけでもない、普段通りの生活です。
 とにかく頭の悪い人間と関わらずに、心静かに暮らしていたい。それだけです。それだけなんだけど、仕事にしろ私生活にしろ、これが大変なんだよな~。
 店や電車の中で連れ立ってべちゃくちゃ喋ってるマヌケやマスクなしでジョギングしている筋肉バカとか認知症じじいが居ますからね。道を歩いているだけでも、おっかないですよ~。

 お願いだから、ボクの半径3メートル以内にはバカは入ってこないで欲しい

 日曜は楽しみにしていた入江悠監督のドラマ『ネメシス』第1回の放送もあったのですが、放送が夜遅いので未だ未見。ボクは翌日に仕事がある日は9時過ぎに寝ちゃうんです。これから録画で見るのが楽しみ。

 来週は入江映画でおなじみのラッパー、般若氏が出るらしい。この人、本当の●クザにしか見えないもんなあ。


 一方 休前日の土曜深夜にやっていたETV特集パンデミック 揺れる民主主義 ジェニファーは議事堂へ向かった」は圧倒的に面白かったです。

www.nhk.jp

 今年の1月トランプ派の暴徒が国会を襲撃した際、集会に参加し現場にもいた60過ぎの元教員のジェニファー、コロナは虚偽とか民主党は幼児の人身売買をやっているというデマを撒き散らすQアノンを信奉していた女性、老後にトランプ派になって国会を襲撃した父親と縁を切ったという30代の女性、という3人のインタビューを中心に、イアン・ブレマー、フランシス・フクヤマなどの学者の解説を加えたものです。

 3人の女性のインタビューで共通しているのは、自分や老親がトランプ派になったのは『リーマンショックで経済的に打撃を受けたこと』、『白人の自分が被害者だと思っていること』、『SNSに大きな影響を受けたこと』です。それがコロナで爆発した。

 温厚な印象があった国際政治学者のイアン・ブレマーが労働者階級出身の自分の母親がトランプ派になってしまったそうで、怒りをぶちまけていたのが印象的でした(笑)。『もはや、アメリカは自国のシステムが中国やロシアに対して優位に立っていると言うことができない』って言ってました。

 トランプ派だけの問題ではありません。『格差がどんどん拡大していくなかで生活の不満を解消するために、自分のアイデンティティを国や人種に求めてしまった』というのは日本のネトウヨと変わりはありません(笑)。日常の不満解消という意味ではウヨだけの話じゃなく、例えば消費税廃止という信仰に置き換えれば山本太郎信者も一緒です。

 単なる右左のイデオロギーの問題ではなく、経済・人的つながり・教育など様々な面での格差が拡大するに従い、デマや陰謀論に煽られたポピュリズムが世界的に広がっている、それが問題の本質です。

 これらの陰謀論、宗教染みた発想はSNSによって育まれてきます。自分が好みそうな動画や意見がネット上のAIによって自動的に表示され、自分がどんどん狂っていく

 じゃあ、どうするのか。番組では二つの対策が紹介されました。
 一つは『ネット上のデマ拡散はその都度 異論を挙げていくことで抑えられる』というジョージ・ワシントン大のニール・ジョンソン教授の話。

 テロを監視する『情報疫学』の専門家である彼がネット上の拡散の量やスピードを調べたところ、トランプ支持の極右過激派とISのネット上での参加者の増加の仕方は全くそっくりだったそうです。デマがデマを呼び急激に立ち上がっていく。デマやフェイクの拡大にはスピードも寄与している。
●トランプ支持の極右過激派とISのネット上での広がり方は全く同じでした。

 しかし、デマの中に異論が入ってくると、拡散のスピードががくん、と遅くなるそうです。だからネット上のデマを放置せず、異論を挙げていくのが大事、というのです。個人としても、自分と違う立場の意見、異論に触れるのが大事なのと一緒です。


 もう一つは政治制度の問題、とするハーバード大Shoshana Zuboffという人の話が面白かった。最近 注目されている人です。
●『監視資本主義の時代』オバマ元大統領が年間のベスト本に入れたことでベストセラーになりました。翻訳待ち

 デジタルは我々に大きな利便性をもたらしたけれど、企業がデータを勝手に活用するなど我々を監視し、搾取するようになってしまったフェイクニュースやインチキな主張の拡散も過激な主張を載せればアクセスが増える、という企業の利益追求が原因です。デジタルのために民主主義社会が損なわれるようになってしまった。


 言い換えれば人間の理性や倫理はまだ、デジタルに追いついていない。我々はデジタルの利便性を生かしつつ、それを民主主義の傘の下に入れるようロジックや法制度を改革していくべきだ、というのです。
f:id:SPYBOY:20210412201056j:plain

 確かにそうだな、と思いました。ネット上のデマやフェイクは言論の自由、と単純に片づけてしまってはいけない。デジタルの利便性と社会の利益に調和させるロジック・倫理(と制度)を考えていかなくてはなりません言論の自由にはフェイクやヘイトで他人を傷つける権利はないんです。
 キャスターの道傳愛子氏の的確なインタビューも相まって、見る者の思考を拡げる番組でした。すごく良かった。今週 再放送あります(4月14日(水)深夜24時 [15(木)午前0時])。

 と、いうことで、新宿で映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争
f:id:SPYBOY:20210406164925p:plain
bitters.co.jp

 津平町で暮らす露木(前原滉)は毎朝 楽隊が演奏する音楽で目が覚め、寝床から出て顔を洗い、服のほこりを払って仕事に出かける。第一基地という建物で制服に着替えたら、準備運動をして、夏目町長(石橋蓮司)の訓示を聞く。そんな日々を送る中、露木は翌日から楽隊に異動するよう命じられるが。

 
 昨年の映画祭、東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞した作品です。受賞理由は『ユーモアと想像力に溢れたこの映画は独自の映画的世界を自由に創造している。その虚構の世界は、私たち皆が住む現実世界について基本的ではあるが忘れられがちな質問を投げかけている。』


 主人公の露木(前原滉)は毎朝 楽隊の音で目が覚めます。昭和のような家屋が並ぶ住宅地を4人編成の楽隊が行進しています。露木は身支度をして背広にネクタイ姿で出勤する。

 隣家に住む同僚の藤間(今野浩喜)を始めとして、

 登場人物は全て曲がるときは直角に曲がり、セリフは棒読み、感情がなく機械仕掛けの人形のように動いている。
●主人公が毎朝食事をとる謎の煮物屋

 理由は判らないが村は隣村と戦争をしています。誰も隣村の人間のことを知らないが、何やら恐ろしいところらしい。
毎朝 人々は『第1基地』という古いレンガ造りの建物に出勤、兵隊の服に着替えます。それから体操をして、町長の訓示を聞く。

 町長(石橋蓮司)は兵隊たちに『戦争をする理由はわからないががんばりましょー』という訓示を繰り返すのみです。

 兵隊たちは毎日朝9時から5時まで戦争に従事します。河原に伏せて川の向こうへ、時折 銃を発射する。たまに向こうから弾が飛んできて戦死者やけが人も発生しますが、騒いだり嘆くものはいない。時間は淡々と過ぎていきます。

 昼休みは定食屋で食べる。店主(片桐はいり)は上流の激戦地で戦っている息子の自慢話ばかり。

 やがて主人公は軍楽隊への異動を申し渡されます。

 戦場の河原でトランペットを練習していた彼は、向こう岸からもトランペットの音が聞こえてくるのに気が付きます。

 そんなある日 村民は村長から『どんなものかは判らないが、すごい兵器を持った、すごい部隊がやってくる』ことを知らされます。
●村人は毎朝古いレンガ造りの建物に出勤して、戦争を始めます。

 映画は、奇妙だけど懐かしいような風景と人々を描いていきます。そう、これらの風景や人々はまるで日本人の強烈な戯画のようです。
 型にはまった感情表現、議論はしないけど全会一致の集団行動、産む機械として扱われる女性、人々は疑問を持たずひたすら、決まりきった日常に没入しています。

『理由は判らないけど戦争をします』って、まさに上意下達の日本人の行動原理です。理由も説明しない政治家とそれを問いたださない国民の馴れあいが奇妙な日常を作り出している不条理が延々繰り返されるとともに当たり前になっていくそれが今の日本じゃないですか。
 

 ただ、決まりきった日常の描写が延々続くのはいいんですが、ちょっと繰り返しが長い。オフビートで強烈なパロディにはなっているんだけど、日本人がバカで非論理的なのは最初から判っています。だからそれだけをひたすら強調されても新鮮味がない。

 映像としてはボクでも知っているような有名俳優が出ているので、それほど退屈はしないですが、これでいいのか(笑)。無表情に棒読みのセリフを繰り返す人々を見ていると、日本人にもまだまだ面白い顔の人がいるなーとは思いますが。


 決まりきった日常にはやがてカタストロフが訪れます。戦争なのか、原発事故なのか、ハイパーインフレかは判りませんが、将来の日本もそうなりかねないのはまさにその通り。

 かなり強烈な反戦映画ではあります。映画の中に日常のなかのほころびが見えなくもないのですが、繰り返し描写が強調され過ぎていて埋もれてしまっている。日本はダメダメ論者のボクでも流石に、もうちょっと、と思いました(笑)。猛毒でユニークな映画であることは間違いありません。

www.youtube.com