特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『戦争法案廃案!安倍政権退陣!8・30国会10万人・全国100万人大行動』 と映画『野火』

先週の土日は京都へ小旅行へ行ってきました。家庭内接待です(笑)。一回 川床へ行ってみたいということで、貴船まで行ってきたんです。洛北の出町柳から叡山電鉄に揺られて眺める京都郊外の景色は大変興味深かったです。街中からたった30分くらいなのに『山が深い』と思わせるような光景でした。牛若丸とか叡山の僧兵とか言ってた面影は今も残ってる、と感じたんですが、それはボクが関東の田舎者だからでしょうか。京都は外国人がいつもにも増して多く、ボクが乗った叡山電鉄の車両は中国系の人が半分以上でした。
貴船の青紅葉の参道と川床、その他諸々


 
 
●小倉山の朝もやと所々色づき始めた青紅葉(良く言ったものです)、それに朝の嵐山


                                                                                                                                                   
 そんなわけで30日の集会は時間的に間に合わないと思っていました。でもSEALDsの諸君が抗議を5時までやると言っていたので、京都からの帰り道 国会へ直行しました。お土産の買い物袋を抱えたままで(笑)。
 『午後2時には国会前の警備が決壊して、車道に溢れだした』というこの写真を、新幹線の中でジリジリしながら見てました。悪天候にもかかわらず主催者発表国会前で12万人、延べ35万人も集まったそうじゃないですか。ネットでは数千とか言ってるバカが居ますが写真見ろって。右左を問わず、頭が悪くてしかも机の前で座ってるだけの連中(笑)は始末が悪いものです。行きたくても行けなかった全国の人のことを考えれば、大変な数だと思います。
朝日新聞twitterより


                          
 ボクが霞が関に着いたのは4時過ぎ。雨も降りだしてピークは過ぎていましたが、熱気はまだまだ残っています。
●抗議風景

●ボクには警察が途方に暮れているように見えました。

●でも、奴らは目立たぬところで突入&強制排除?の準備もしてるわけです。

                                          
 国会前の車道は人通りが溢れて、占拠状態でした。広場のようになった状態の道路のあちこちで、色んな人たちが思い思いに抗議をやっています。
 その傍らで路上のゴミを黙々と集める人たちが居ました。それを見ただけで、今日の抗議が整然と行われたことが判りました。これだけの人が集まっても何の混乱もなく殆ど逮捕者も出なかったそうです。それだけでも大勝利だと思います(笑)。*警官に食って掛かった60代(失笑)が二人捕まったそうです。相変わらずです。
●ゴミを集める人

●各種コール


                                                    
霧雨の雨の中を前列まで行ってSEALDsの子たちが本当に大勢の人たちと一緒に『安倍はやめろ!』とコールをしているのを聞いたら、ちょっとウルウル来てしまいました。雨なんかに関係なく、年寄も若い子も子供も女性も男もこれだけ大勢の人が反対している。集団的自衛権も集団行動も嫌いなボクですが(笑)、ちょっと感動しました。

●高校生たちのコール

                                            
 帰宅したら、御用放送と化しつつあるNHKもさすがに国会前での野党党首のスピーチの様子はニュースで報じていました(群衆の姿は映さなかった)。
 場違いな背広を着た、ダメダメ野党党首の面々を見て、改めて、こいつらに投票したくない(嘆息)とも思ったんですが、彼らはこれだけの人たちが居るからストリートへ出てきたわけです。民主の岡田なんか安保法案以前、原発や秘密保護法ではデモや集会に出てきたことはないと思います。今は人々が政治家を動かし始めています!
 良く考えれば、これが本来の民主主義です。政治家なんて市民の想いを実現するために税金で養われているんです。SEALDsの子たちが言うように『民主主義はここにある』ということでしょう。


 30日の抗議は大成功だったと思います。今朝の朝日新聞で(貧困運動にかかわっていた)湯浅誠氏が『政権はデモに耳を傾けるべきだ』としながらも、『デモの単純化したスローガンは求心力を高めるのには良いが、意見を賛成・反対に2極化し議論を困難にする恐れもある。』、そうなると『政権が数の力で押し切ってしまうことを促進してしまう』 とも言っていました。まさにその通り。
 視野が狭い合理性はあっても実証性や客観性を欠いた反知性主義は議論することを困難にしてしまいます。市民の側は議論の力に依らずして、何に依拠すれば良いのでしょうか。我々は、もっともっと政治家に圧力をかけ続けなければいけない。と、同時に自分の頭でもっと思考し議論していかなくてはいけないと思います。これで終わりではありません。自分自身判らないことも一杯あります。これからも行動しながら考えていこう、と思っています。





 渋谷のユーロスペースで映画『野火

太平洋戦争末期、フィリピン戦線。日本軍は敗走を続け、もはや軍隊の体を為していなかった。肺病を患った田村一等兵は自分の連隊から見捨てられ、一人 山中をさまよっていた。兵たちはわずかに原住民から食料を奪って糊口をしのいでいたが、それも難しくなり、次々と道端に倒れていく。生き残った兵たちの間では、やがて人肉食が始まる---
                                                                   
 実際にフィリピン戦線に従軍して九死に一生を得た大岡昇平の原作を、海外でも評価が高い塚本晋也監督が自主制作で映画化したもの。
ボクはグロい描写はとにかく苦手だし、基本的に内容は判ってますから、見に行くべきかどうか迷いました。塚本監督の前作『KOTOKO』はダメだったし、結構冷やかでした。でも結論として、見に行って良かったです。
                                     
 映画はフィリピン山中、塚本晋也監督演じる田村一等兵が肺病を病んで、上官から野戦病院行きを命じられるところから始まります。と言っても健康のことを思いやったのではない。体のいい口減らしです。野戦病院(と言っても、重症患者が呻いているだけの丸太小屋)へ出頭すると、糧秣だけ取り上げられた彼は直ぐ原隊へ追い返されます。原隊ではまた、彼を追い出す。やがて行くところが無くなった田村は山中を彷徨うようになります。
●監督演じる田村一等兵。平凡な風貌がリアリティを増しています。

                                             
 見ていて感じるのは、不合理さ、理不尽さです。この時点ではもう、日本兵は敵と戦っているわけではないんです。明日の食べ物すらないんだから、敵と戦う力なんかどこにもありません。
 ただ山中を彷徨って、食料を現地民から盗んだり、芋を掘ったりしているだけです。やがて米兵や現地民のゲリラから追われて、行き倒れていくだけの存在です。誤解を恐れずに言えば、彼らの存在自体全く無意味、です。無意味な戦争は人間を完全な無意味な状態に変えてしまうんです。
                         
●小銃しか持たない日本兵は米軍に圧倒されます。もはや戦争ではなく、家畜のように屠殺されるだけです。僅かしかない戦場シーンが効果的でした。

                                
 物語の冒頭では弱った仲間に食料を分け与えるような人間だった田村が次第に変容していきます。ちょっと演出としては判りにくいところもあったけど、その形相だけでも良くわかります。変わっていくのは田村だけではない。日本兵同士で食糧を奪い合ったり、殺しあったり。危険なのは米軍より友軍です。気を許したら食われてしまいます。
 そんな中で『俺には弾があたらない』と豪語していた古参兵(ブランキー・ジェット・シティ中村達也)ですら、精神が崩壊してしまいます。新兵に自分の世話をさせてしぶとく生き延びている、リリー・フランキー演じる古参兵も実に怖かったです。
●死を覚悟したら、木の下など静かなところへ逃れようとするものなのでしょうか。

 正視できないシーンはいっぱいありましたが、特に道端で死にかけている真っ黒な日本兵の描写は印象に残りました。人間はこうなってしまうんです。でも、これは本当に起きたことですから。
●まるで人間が土に戻るのを体現しているかのようでした。

                              
 極限状況の中で追い詰められることで人間は被害者になるだけでもなく加害者にもなっていく。その後に待っているものは精神的外傷を抱えたり、人間性そのもの崩壊です。戦後の一時期 復員した日本兵の犯罪が非常に多かったと聞きます。ベトナム戦争イラク戦争後の米兵が自殺したり、犯罪を犯したりすることが多いと言われているのも理由は同じでしょう。作品では帰国後の田村の姿が描かれますが、そこは表現が理解しがたいものがありました。

                               
 この映画は戦場の非人間性、バカバカしさを観客に容赦なく突きつけてきます。学校の授業かなんかで見た方が良い作品です。国会議員全員見ろって。『平和を守れ』と100万遍唱えるより効果あるでしょう。観客に物語を説得するだけの完成度もあるし、人間にとって、いかに戦争がバカバカしいものであるかを徹底的に判らせる映画だと思いました。