特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『蕎麦粉のガレット』とNHKスペシャル「銃後の女性たち〜戦争にのめり込んだ“普通の人々”」、それに映画『パンケーキを毒見する』

 楽しかったお盆休みも終わり、また憂鬱な日常が戻ってきました。
 ユーウツなのは自分が人間社会と言う現実を忌避しているから、というのは判っているけど、嫌なものは仕方がない(泣)。
 それでも徒歩通勤で身体を使ってお昼には安くて美味しい中華料理を食べる、という日々のルーティンは嫌いじゃありません(笑)。

●こちらは軽井沢の朝食。パンケーキならぬ、蕎麦粉のガレット。ズッキーニとバルサミコのソース。


 東京の感染状況は本当に深刻で、ボクの周囲でも、コロナや他の病気に関わらず病院に入れない、という話を聞くようになりました。
 その一方 凄く気を使っている人でも子供経由でコロナに感染する話も良く聞きます。保育園や学校、塾などでは直ぐクラスター化してしまう。そうなると保育園が閉鎖されると親も大変だし、職場での仕事の割振だって変わってくる。
 東京のある区では感染で人の手配が追い付かず、8月一杯不燃ごみの収集を中止したそうです。社会というのはそうやって複雑に組みあがっている。
 また若い人でも、ワクチンを打ってないと重症化する例も結構増えているとも聞きました。

 それでも政府も都も何にもしない。オリンピックに使う金や労力があったら検査も病床も幾らでも増やせたし、充分な休業補償をしてロックダウンも出来た筈です。

●コロナ対策もこういうことかもしれません。日本で政府を信頼しているのなんて思考停止のプロ臣民だけでしょう。

 ボクの勤め先でも、これから1か月くらい出社をさらに減らそう、ということになりましたが、個人個人で生き残りをどうするか、そんな段階に来ているかもしれません。


 さて 週末に放送されたNHKスペシャル銃後の女性たち〜戦争にのめり込んだ“普通の人々”〜」は思わず見ちゃいました。

www.nhk.jp

 国防婦人会と言えば、国民が進んで軍部に協力した活動の一つです。最盛期には一般の主婦たち1000万人以上が会員で、軍のお先棒を担いで、軍国思想を宣伝したり、徴兵や物資の供出に協力したりした。『この世界の片隅で』など様々な映画で割烹着を着て軍国思想を巻き散らすキモいおばさん集団が描かれていますが、あれです。

 番組が国防婦人会を『女性の活躍の場が少なかった時代、国防婦人会に参加することで女性たちは「社会参加」の機会を得ていた』という観点からも描いていたのは良かったと思います。「社会の役に立ちたい」と思ってた人たちが少なからず、侵略戦争に協力した。
 地獄への道は善意で敷き詰められている、と言います。国防婦人会はまさにその典型だったのでしょう。

 更に隣近所の同調圧力がそれに輪をかけた。金属鍋をどれだけ供出したかすら周りの目を気にしなくてはならない。今の日本でもこれだけ同調圧力が酷いのですから、それに逆らったら当時は日々の生活さえままならないかもしれません。

 やっぱり戦前と今は地続きだと思います。官僚機構や政治家の体質だけでなく、人々の同調圧力の強さ、付和雷同も含めて今と80年前は共通するものがある。南京陥落や真珠湾攻撃で喜んで提灯行列をして歩いたのも、コロナ下でのオリンピックや甲子園を喜んじゃうのも一緒。
 そう思えば、殆どの日本人が集団ヒステリーを起こしていた戦前のことは笑えません。今だって左右関わらず、自分で物事を考えない『空気』は同じだと思います。


と、いうことで、映画『パンケーキを毒見する

www.pancake-movie.com

 第99代内閣総理大臣菅義偉の実像に迫るドキュメンタリー。菅氏は総理大臣就任早々、大手メディアの政治担当記者と「パンケーキ懇談会」を開き、携帯電話料金の値下げやデジタル庁の新設などに着手する一方で、日本学術会議の任命拒否、国会や記者会見での答弁やコロナ禍での施策の是非などにも切りこんでいく。政治家の石破茂氏や江田憲司氏をはじめ、元官僚の前川喜平氏、古賀茂明、元朝日新聞記者の鮫島浩などへのインタビューも挿入される。

 監督はドラマ『時空警察』などの内山雄人、制作は『新聞記者』、『ヤクザと家族 The Family』などの河村光庸。


 ドキュメンタリーにしろ、ドラマにしろ、政治ネタの映画は大好きですが、特に邦画の場合、政治を扱った作品は外れが多いのも事実です。
 内閣官房が情報をコントロールする実態を描こうとした『新聞記者』なんか典型的で、松坂桃李君の好演はあったにしろ、人物描写が皆無に近く、ドラマとしてはC級で著しく説得力を欠いていました。反戦や反原発をテーマにした多くのドキュメンタリーも三上智恵や鎌仲ひとみの作品のように勧善懲悪みたいなバカみたいなものが多いですしね。

 最近で言えば、男女差別を鋭く告発した『プロミシング・ヤング・ウーマン』やイラク戦争をでっち上げたチェイニー副大統領を描いた『バイス』もそうですが、商業主義のハリウッドですら政治的メッセージと作品の質を両立させたものが多いのに、日本の作品は政治を扱うと極端に質が落ちてしまうことが多いのは何故なんでしょう。


 現職の総理大臣、菅を描いたこの作品はどうでしょうか。
 まず、菅が就任当初に行った「パンケーキ懇談会」のことが触れられます。就任当初の高支持率に繋がったパンケーキと秋田の農家からのたたき上げ、というストーリーがマスコミによって報じられる。

 実際は菅は町会議員の息子で家も裕福だったそうですけど、それ自体は誰でも知ってる話です。退屈。
 見え見えの猿芝居に載せられる国民の方が悪いに決まっています。デマばかり流すことで悪名高い元朝日新聞記者の鮫島浩がインタビューに出てくるのも印象悪い。唯一、パンケーキは美味しそうだった(笑)。


 そのあと映画では官房長官当時から今に至る迄、菅がまともに答弁に応えないことが挙げられます。法政大の上西教授が国会の録画を流しながら解説する。なるほど編集されたNHKのニュース映像とはずいぶん違います。ただ、これも目新しい話じゃない。

 ただ 上西教授が『菅たちは酷い答弁を繰り返して国民をウンザリさせることで、投票率を下げることを狙っているんじゃないか』という指摘はなるほど、とは思いました。


 お話は良く嚙み砕かれていて、テンポ良く進んでいきます。判りやすいし、まあまあ面白い。ここはこの映画、良くできています。一方的に菅を断罪するように声高な語り口ではないところも良いです。それほどは押しつけがましくはない。
 度々インタビューが挿入されます。菅が国会議員に立候補した当時を知る江田憲司の話や『投票を義務化しろ』という石破、『きちんと議論をするべき』という正論を吐く村上誠一郎らの話は面白かった。

 だけど、この映画、あまり新鮮な視点はありません。新しい事実が出てくるわけでもなし、斬新な切り口で菅や菅を支持する国民の行動を分析するようなところもない。赤旗が情報公開請求で機密費を自民党総裁選の時でも使っていたのを暴いたことは知らなかったけど、そんなものだろうな、と言う範囲です。

 前述の鮫島浩や古賀茂明のような怪しい連中が出てくると胡散臭さすら、感じます。この映画作り自体に古賀茂明が関わっているようです。だから凡庸な視点に終始しているのか。極端に偏っていたり、デマを主張するような作品ではないですが、デマや扇動もどきのことばかりやっている岩上安見や田中龍作みたいな似非ジャーナリスト、ペテン師の映像が度々使われるのもボクは気になる。

 お話の間に挿入されるアニメや芝居も今時珍しいくらいセンスが悪い。C級色が色濃く感じられます。


 こういう映画ってどうなんだろうって思うんです。
 封切り以来 客入りは良いようで、ボクが見た回も中高年の客を中心に満席でした(キャパは半分ですが)。でも、こういう映画は自民党や維新の支持者は見に行きませんよね。一般の人は勿論、無党派の人も行かないと思う。
 じゃ、この映画、何のために作られたんだろう

 そんなに偏った語り口ではないから多くの人への間口は開かれているとは思うけど、誰かの本音を引き出すようなドキュメンタリーとしての面白さや、新鮮な視点はない。質としては凡庸な出来です。取り柄がない。


 
 終盤 日本は賃金も自殺率もワクチン接種率もG7の中で最下位クラスに甘んじている。G7転落も現実味を帯びている。投票率もG7の中では指折りに低いことが指摘されます。やっぱり投票に行かなきゃ、ではあるんですけど、それだけでは日本は変わらないと思います。

 それを超える何かがこの映画にあるかと言えば、ない。やっぱり浅いといえば浅い映画です。TVでタダで見たら文句はないですが、時には感動するNHKスペシャル報道特集などと比べても内容は浅い、遥かに劣ります。

 マイケル・ムーアサシャ・バロン・コーエンボラット)みたいに徹底的に権力をコケにしまくるわけでもなく、鋭さもない。『君はなぜ総理大臣になれないのか』や『はりぼて』、『主戦場』のように人間の隠れた本質や事実を引き出すような巧みさもない。
spyboy.hatenablog.com

 一言で言って、この映画は手抜き、単なる取材不足(笑)だと思う。
 つまらないわけではないけれど、暇だったらいいか、ってレベルの映画です(笑)。


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