特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『シュクメルリ』と映画『ジョジョ・ラビット(補足)』と『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』&『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』

 この週末、この歳にして初体験をしてしまいました。『松屋』というファーストフード店に初めて入ったのです。理由はこれ↓
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 松屋のメニューになったことで話題になっていたジョージア料理(旧名グルジア)の’’シュクメルリ’’を味見してみたかったのです。鶏モモ肉とニンニクをクリームソースで煮たものです。
https://www.matsuyafoods.co.jp/matsuya/news_lp/200112.html

 お店に入るのにはかなり躊躇しました。ボクは松屋はおろか、ファーストフード自体 殆ど入ったことがありません。高くてまずいファーストフードやコンビニ、ファミレスでの食事は人生のムダ、と思っているからです。500円でも高いものは高いし、1万円でも安いものは安い。
 子供の頃 外人向け?スーパー、青山のユアーズ青山ユアーズ - Wikipediaや原宿のオリンピア【15位】コープオリンピア(昭和の原宿) | 出没!アド街ック天国 | 原宿・表参道・青山 | テレビ東京 旅グルメで食べたハンバーガーの味が忘れられなくて、10代の頃はマクドナルドとか好きでしたけど、歳をとるにつれ、とにかく食後の食感が気持ち悪く感じるようになりました。

 映画館の近くの新宿歌舞伎町の松屋は怖かったので入るのを止め(笑)、ちょっと離れたところにある新宿3丁目の店に入りました。恐る恐る外から様子をうかがうと店内は、白い蛍光灯に、丸椅子に、カウンター、食券の自動販売機にマニュアル通りの接客。驚くくらい無機的な雰囲気です。
お客さんは日本で働いているであろう中国や中東系など外国の人が半分くらいで、店員さんはベトナムのトゥイーさん(よくある名前ですね)。
 土曜日の昼下がり、人は多くなかったのは幸いでした。ボクの隣では宅急便の兄ちゃんが牛丼の大盛りをかっ込んでいました。

 シュクメルリ自体は『こんな味かな』ということは理解できました(笑)。ニンニクが溶け込んだクリームソースに店内で焼いたらしい鶏肉、それにサツマイモとチーズがトッピングされている。味はまずくない。ただ出てきたものは『食事というより餌』、という感じでしょうか。
 予想通りだから文句はありません。ただ、同じような価格でも、ボクが普段食べる中国人がやってる中華屋で出てくる手作り料理とは質感が全く違います。愛情がこもってない(笑)。
●今日のお昼。八角が山ほど入った牛バラ肉の煮込み、820円。うまい!(笑)

 サツマイモやご飯でお腹を膨らませるのはダイエットにも良くないし、味見がてら鶏肉とソースだけ、スプーンで掬って食べて店を後にしました。

 よほどの理由がない限り、ボク自身はこういう店には行くことはもう、ないと思いますが、面白い体験でした。今の世の中、こういうところでご飯を食べる人が大勢いるわけです。現実はそういう世の中になっている。シュクメルリは家で自分で作ってみよう。


 

 そのあと、映画『ジョジョ・ラビット』を見に行きました。2度目です。

 前回感想を書きましたけど75年前から手渡される勇気:最強・最狂の反戦コメディ『ジョジョ・ラビット』 - 特別な1日
、改めて見ると、細部は結構 記憶違いがありました(汗)。
 それでも圧倒的な感動作であることは間違いないのですが、帰宅してパンフレットを読んだら、自分では全く意識してなかったことがありました。
 映画には、主人公の10歳の少年ジョジョの家の屋根裏に隠れ住むユダヤ人の少女エルサの誕生日がいつか、というエピソードがあるのですが、その日付はエルサと同じように屋根裏に隠れ住んでいたアンネ・フランクの誕生日を意識して設定されていたんです。
 

 この映画は反戦コメディというだけでなく、『迫害され奪われた魂を救済するための映画』でもあった。監督はマオリユダヤ人だそうですけど、なんという優しさか。机の前でパンフレットを読んで、また涙が出てきました。



 と、いうことで、『ジョジョ・ラビット』と同年代の日本をテーマにした映画です。新宿で映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に
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ikutsumono-katasumini.jp

広島で生まれたすずは1944年、隣の呉市に嫁に行くことになった。夫の周作や両親、それに出戻ってきた義姉たちと新しい生活をはじめたすずだが、戦況は次第に悪化してくる。ある日 道に迷ったすずは遊郭に迷い込み、リンという女性と出会う。嫁いできて初めて知り合った同年代の女性とすずは打ち解ける。やがて運命の45年8月がやってくる


 言うまでもなく、前作『この世界の片隅で』は戦争を描いた作品として、文字通り金字塔のような素晴らしい作品でした。声高に反戦や原爆の惨禍を訴えるのではなく、庶民の暮らしを淡々と描くことによって、被害者であり加害者でもある日本人の姿を浮き彫りにする超感動作でした。まさに歴史に残る映画
 と、同時に、そんな作品の制作資金が集まらず、クラウド・ファウンディングで制作されたというのも今の日本の状況を象徴しています。

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 当初 興行が危ぶまれた『この世界の片隅で』をなんどか映画館で興行しやすい2時間という上映時間にするために片淵監督はかなり妥協してお話や描写を削ったそうです。今作はそれに30分近く描写やお話を付け加えたというものです。

 と言っても、前作でばっさり削られていた娼妓のリンさんのエピソードが加わっただけなのかと思っていたのですが、全然違いました。嫉妬みたいな所謂 女性の情念(失礼)みたいな話だったら嫌だな、と思っていたのですが、見くびっておりました(笑)。

 まず、前半部からバンバン、新しい描写が加わっています。エピソードも絵もやたらと増えている。ボクにはそこまで判りませんでしたが、旧作に加筆した絵もあったみたいです。監督が更に時代考証して、書き換えた店の看板もあるらしい(笑)。
 結果として画面がより鮮やかになっています。もとの映画が素晴らしいということもありますが、全然退屈しません。ボクは前作は2回見ましたけど、それでも今作はかなり新鮮に見える。

 付け加えられたお話はりんさんとすずさんの夫の周作との関係が中心ですけど、それが目的ではなく、主人公のすずさんがより一人の女性ではなく、一人の人間として見えるようになっている。ここがポイント。前作では幼さすら感じられたすずさんでしたが、大人の女性というより、大人の人間として描かれている。印象はかなり違っている。
 あと、それを声で演じきったのんちゃんも大したものです。今作では前作以上に彼女の声の演技は表情が豊かで、素晴らしく感じられました。

 りんさんとすずさんの旦那の話だけではなく、彼女を取り巻く環境が描かれていたのも大きいと思います。直接的な表現ではないにしろ、はっきりと人身売買の実態が描かれている。さらに嫁ぎ先に左右される女性の立場という面ではすずさんも、義姉も同じであることも描かれる。だからこそ、お話がより普遍的な『一人の人間』ということが浮き彫りになっています。

 前作をご覧になった方はご存知のとおり、この映画には直接的な描写はほとんどありません。今作もそれは同じです。
 なのに今作を見て、『酷い話だなあ』、『地獄のような話だなあ』と前回より強く思ったのは、すずさんやりんさんたちを一人の人間としてより深く感じられたからに他なりません。婚家に左右される戦前の女性の立場、人身売買が横行するような貧困、そして戦争、いったい、どこの奴隷国家
 そんな世の中でも人間には喜びも悲しみはあって、どうにか生きていくんですが、それでも酷い話だと思いました。

 前作は前作で素晴らしいけれども、今作も実に素晴らしいです。確かにまったく別物です。そう見えるのはただお話を加えただけでなく、まさに全体の構成の勝利なんだろうなあ。
 ということで、前作もご覧になってない方はもちろん、前作を何度も見たという方も機会がありましたら、今作もぜひ。今作もまた素晴らしい作品です。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』予告編

 もうひとつ、有楽町で映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて
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fishermans-song.com

レコード会社のプロデューサー、ダニーは休暇で出かけたコーンウォ―ル州の港町ポート・アイザックで、漁師たちが漁の際に歌う労働歌の合唱をしているのを見かける。レコード会社の上司から冗談で、バンドと契約を結ぶよう指示されたダニーは町に残って、彼らと交渉をしようとするが、よそ者はなかなか受け入れられない。漁師たちの中心人物は彼が泊っている民宿のオーナーでシングルマザーのオーウェンの父と祖父だったが、ダニーは彼女に暴言を吐いてしまう。



 2011年 ひょんなことからイギリス、コーンウォ―ル州の漁師たちの労働歌が全英9位までのヒットチャート入りした、という実話の映画化です。コーンウォ―ル州というとイギリスの西端。ワイト島とかマン島に連なる半島部です。こりゃまた、すごそうな田舎です。

 そこに、いかにもチャラいレコード会社に勤めるダニーたちがロンドンからBMWに乗って休暇でやってきます。
 彼らが港町ポート・アイザックで出会ったのは漁師たちが港で合唱する光景。

 みんな武骨でいい顔をしてます。寒い海に乗り出して漁をする男たちは分厚いセーター(フィッシャーマンズ・セーター)の上にピーコートを襟を立てて着こんでいます。我々が日本で着ているのとは全然違う。これぞ本物!です。カッコいい。

 歌は倍音が強調されていて、ケルトっぽいなあと思っていたら、後で調べたらコーンウォ―ル州もケルト人の縄張りだったんですね。ケルト人って、てっきり北の方の人たちだと思っていたので南の方にもいたというのは全然知らなかった。どうりで漁師たちが英語じゃない言葉(ゲール語)をしゃべっているし、『ここはイングランドじゃねー』と啖呵を切っているわけが判りました。

 今 EU離脱スコットランドアイルランドなどが独立してイギリス解体、という話もまことしやかに出ていますが、この映画を見ているとそれもあり得ると思えてきます。人為的に作ったイギリスの連合王国は分裂する運命にあるのかもしれません。

 労働歌をレコーディングしないか、とダニーが漁師たちに薦めても、最初はよそ者の言うことはまともに相手にされません。下宿のシングルマザーに恋したこともあってダニーは港町に住み込みます。
●レコード会社のプロデューサーのダニー(右)は下宿屋のシングルマザー(左)に恋してしまい、港町に残ることにします。

 誇り高いコーンウォ―ルの男たちですが、ご多分に漏れずイギリスの地方は不況にあえいでいます。街には漁業以外にまともな産業がない。街の集会場になっているパブも赤字で閉鎖の危機にある。背に腹は代えられず、漁師たちも少しずつ心が動き始める。

 商売のことしか考えないレコード会社をダニーは辞め、男たちと一蓮托生でレコーディングを始めます。

 ちょっと作りすぎている気もしますが、お話は良くできていて、盛り上がるお話です。何よりも、海の男たちの描写がカッコいい。

 無骨で誇り高くて強情で、お酒が大好きで他人の言うことを全く聞かない。チャラいダニーが次第に感化されていくのもいい感じです。

クライマックスはやっぱり泣いちゃいました。一見地味そうな見かけより、遥かに面白い、見ていて楽しい映画でした。

まさかの実話・漁師バンドがイギリス中を席巻!映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』予告編ロングver.