特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『労働者階級の反乱〜地べたから見た英国EU離脱』と映画『キングスマン ゴールデン・サークル』

まだまだ冬本番ですが、だんだん陽が落ちる時間も遅くなってきました。春というものが世の中にはあることを少しは実感できる気がします(笑)。寒い冬は嫌いですが、嫌なことにも終わりはある。
●日没前、青と赤が混じり逢う瞬間

●寒い夜は蕎麦屋で一杯(ウーロン茶ですが)




国難だと言っている割には外遊ばかりして金をばらまいている安倍晋三ですが(笑)、日本の外務省の指示に反して大勢のユダヤ人を救ってクビになった外交官、杉原千畝の記念館に詣でたのは実に恥ずかしい。杉原氏は2000年に河野洋平が名誉回復させたとはいえ、日本政府はそれまで黙殺していたわけですから。ニュースでは安倍晋三の画像は極力見ないようにしてますが、相変らず人をいやーな気持ちにさせることだけはうまい奴です。



今回はイギリス特集?です。
まず、軽い読書の感想です。労働者階級の反乱〜地べたから見た英国EU離脱

著者のブレイディみかこ氏はイギリス在住の保育士、ライター。パンク音楽に憧れてイギリスに渡り、保育士として働きながら、日本語でイギリス事情を伝えています。ネットなどで文章を見かけた方も多いかもしれません。このブログでも1回、彼女の著作を取り上げたことがあります。映画『黒い牡牛』と読書『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』、それに『1104再稼働反対!首相官邸前抗議』=愛国心は悪党の最後の隠れ場所 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)


この本の内容は2016年の英国のEU離脱(ブレクジット)は「労働者階級の排外主義の現れ」とも報じられたが、むしろ労働者階級のグローバル主義と緊縮財政に対する怒りの表れだった、というものです。具体的には3部構成で、1.ブレクジットの分析2.著者の周りの労働者階級へのインタビュー3.この100年のイギリス労働者階級の歴史に分かれています。


第1章は、ブレクジットはイギリスの田舎の労働者/年配者の既存政党への怒りの表れで排外主義的な傾向は強くない、というもので、それはそうかもしれません。『ロンドンで最もうまい料理はカレーだ』とは現地の人に良く聞く話ですが、イギリス社会は古くから外国人労働者を受け入れてきた実績があります。
しかし今回のブレクジットは頭の悪い人たちが排外主義的なペテン師と保守政治家に騙されて、自分の首を絞める選択をした、という事実は変わりません。EUを離脱しても、旧来の産業、例えば石炭産業などが復活するわけがありません。アメリカの労働者たちがトランプに投票しても、労働者たちの工場はどんどん無人化を進めているのが良い例です。


第2部の『著者の周りの労働者階級のインタビュー』第3部の『イギリス労働者階級の歴史』は非常に面白かったです。
第2部のインタビューではブレクジットに賛成した労働者も多いけれど排外的な意識より、政府や既存政党に対する反感が強いことも感じられたし、第3部の労働者階級の歴史ではイギリスの労働者は時折 政府や資本家に対する怒りを爆発させて世の中を変えてきたことを思い出させます。第一次大戦の頃の婦人参政権もそうですし、第二次大戦勝利の後、選挙でチャーチル内閣を倒して労働党に政権を取らせ、『ゆりかごから墓場まで』で有名な福祉国家の方向へ舵を切ったこともそうです。今回のブレクジットもそれに連なるものではないか、と著者は言います。それはどうでも良いと思いますが、労働者階級のこの100年の振り返りは非常に面白かった。


ボクはこの本からは2つ示唆がありました。
まず、日本は、どうしたら、EU離脱のように自分の首を絞める選択をしないようにできるか。
格差が広がり生活に対する不満が高まっているにも関わらず、既成政党が国民のニーズから遊離しているのはイギリスも日本も同じです。そうなってくると左右に限らずポピュリズムが広がってきます。ポピュリズムにも有益なものと、単に愚かなものがある。例えば日本のTPP反対論もほとんどが根拠のない愚かなものでした。ブレクジットに賛成したイギリスの労働者のことなんか笑ってられない。我々は余程 注意しなければ愚かなポピュリズムに取り込まれてしまう


あと、もう一つ。緊縮財政の恐ろしさです。単に新自由主義だけでなく、イギリス労働者のこの100年を振り返るとこういう流れがあるように思えます。

減税(主に金持ちや企業)→政府が赤字になる→緊縮財政(福祉予算の削減/小さな政府)→格差拡大&不満増大→戦争or革命

日本の80年代以降の流れも似ています。すごーく単純化すると、こうじゃないですか。

消費税導入&金持ちの所得税率減税→政府の赤字化→緊縮財政(福祉削減・小さな政府)→格差拡大&不満拡大


今 日本でも法人税を減税しつつ、生活保護を削っています。全く同じです。
政府の赤字は確かに問題です。でもそれを口実に一般国民への予算を削り、ついでに金持ちに減税する。それが小さな政府の正体です。そういう政策を一般国民が支持する(笑)。でも、この流れを理解していれば、そんなことは自分で自分の首を絞めているのと同じなのが判ります。


結論として我々は余程注意深く考える癖をつけてないと、政府や大資本に騙されてしまう。小さな政府論なんて、ボクは馬鹿げていると思います。オバマ前大統領が言ったように『大きな政府か小さな政府が問題ではなく、賢い(SMART)政府かどうかが問題』なんです。歴史的に見て、小さな政府は大抵の場合 金持ちに減税するための口実になっています。イギリスのことを描いた本ですが、第2章、第3章は面白いです。日本は今後どうしたら良いか考えるための良い材料になると思います。


ということで、六本木で映画『キングスマン ゴールデン・サークル

古来から平和を守ってきた、国家から独立したスパイ組織『キングスマン』。しかし世界的な麻薬組織「ゴールデン・サークル」によって、キングスマンは壊滅してしまう。残ったのは、かってハリー(コリン・ファース)にスカウトされて育てられたチンピラ上がりのエグジータロン・エガートン)と、メカ担当のマーリン(マーク・ストロング)だけだった。二人はゴールデンサークルと戦うため、同盟組織の「ステイツマン」の協力を求めてアメリカへ渡る。


前作『キングスマン』は面白かったです。世界中のオタクの心を鷲掴みにした『キック・アス2011-02-07 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)マシュー・ボーン監督らしい、どこの国にも属さないスパイ組織という奇想天外な発想と濃厚ブリティッシュ・テイスト、それにアクションや演出のマニアックさが組み合わさって、多くの人が楽しめる作品でした。


今作はまず、超豪華スターの共演には驚かされます。前作で死んだはず(笑)のコリン・ファースジュリアン・ムーアチャニング・テイタムジェフ・ブリッジスハル・ベリー、それにエルトン・ジョンまで!
コリン・ファースが出てくると途端に画面が締まります。

●残念ながら主役のタロン・エガートンくんにはボクはあんまり魅力を感じないんだよなー。次作では彼の交代がありそうな展開で、良かったよかった。


冒頭のアクションからキングスマンの壊滅へと息をもつかせぬ展開が続きます。ここいらへんはとても面白かった。ワクワクします。あと、ジュリアン・ムーアのファンシーで極悪非道なボスぶりも素敵でした(笑)。
ジュリアン・ムーアのファンシーな極悪非道ぶりは最高でした。手にしているハンバーガーは人肉(笑)。演技力の無駄遣いという気もしなくないですが。


中盤、アメリカにわたってからはちょっとダレたところもありますが、お金のかかった画面とセンスの良さは健在ですので、楽しさは変わりません。お話自体はかなり辻褄が合いませんが(笑)、まあ、いいかって感じになるのはエルトン・ジョンの怪演があるからです。
ジュリアン・ムーア演じるゴールデン・サークルのボスはカンボジアの奥地に根拠地を持って、孤独に暮らしている。そこにエルトン・ジョンをさらってきて、退屈しのぎにピアノを弾かせているんです(笑)。そんな役を本人がずっと演じているんだから、マジでびっくりしました。
●これはもう、強烈過ぎて何も言うことはありません(笑)。演奏シーンだけでなく、彼の戦闘シーンまであります(笑)


今作ではキングスマンが麻薬組織と戦うわけですが、単純に麻薬は悪という話になっていないのはとても良かったと思います。おバカなアメリカ映画や邦画とは違います。前作でもコリン・ファースが頭の悪いバカウヨをまとめてぶち殺していましたが、今作の『麻薬撲滅を狙う側の方が極悪だった』というのはマシュー・ボーン監督の面目躍如です。世の中は勧善懲悪では片づけられないんですよ。
アメリカ側の組織『ステーツ・マン』のボス役、ジェフ・ブリッジスはカッコいいなあーと思いました。


簡単に復活したコリン・ファース、世界3大映画祭で女優賞を取ったジュリアン・ムーア、それにチャニング・テイタムハル・ベリー、それにボクの好きな渋い女優エミリー・ワトソンまで、豪華俳優の無駄遣いだとは思いました(笑)。でも前作で死んだとしてもコリン・ファースが出てきた方が画面が締まることも確かです。それもこの映画の奇想天外さなのでしょう。
●お美しいハル・ベリーチャニング・テイタムは何しに出てきたんだろうという気はしました(笑)。


新春らしい華やかさですけど、商業主義のいやらしさやわざとらしさはありません。豪華な出演者と特撮、キレキレのアクション。お話の完成度は別にして、見て楽しめる面白い映画ではありました。また続編もありそうです。