特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

グローバリゼーションと取り残される人々:映画『T2 トレインスポッティング』

良い気候になりましたねー。
雨さえ降らなければ、寒くもなければ熱くもない気候は本当に気持ちが良い。なんとなく心がウキウキします。どこかへ出かけたくなる。と言っても人混みは嫌いなので映画などの用事がなければ出かけたりはしないんですが(笑)。外に行くからこそ、人間関係のトラブルや事故に遭遇したりする。余計なお金も使ったりする。客観的には布団を被って寝てるのが一番、とは思うんですが、なかなかそうもいきません。
●映画の幕間に食べた有楽町の慶楽の角煮焼きそば。普段はダイエットしていても、時々どうしてもこういう野蛮な物が食べたくなります。煮るのではなく蒸して作ったふわふわの角煮は家ではとても作れません。


フランスの大統領選は中道のマクロンと極右の決選投票になるようです。この結果は既成政党が人々のニーズと遊離しているということなんでしょう。これは正に日本も含めた先進国共通の現象だと思います。日本の場合は既成政党が極右化しちゃってるところは病は一段重いんでしょうけど。
昨日のNHKスペシャル『シリーズ 激震 “トランプ時代”第2集  炎上 ヨーロッパ 〜広がる“自国第一主義”〜NHKスペシャル | シリーズ 激震 “トランプ時代”第2集 炎上 ヨーロッパ~広がる“自国第一主義”~がルペンの陣営を取り上げていました(トランプを取り上げた土曜の第1集はそんなに面白くなかった)

この女の言ってることを聞いて思ったのは、やっぱり詐欺師だなってことです(笑)。番組ではまともそうな人々もルペンに惹かれているのが描かれていましたが、どうやって減税と福祉の充実を両立させるんでしょうか。財源はどうするんでしょうか。雇用がないのがなぜEUのせいなんでしょうか。例えば外国からの労働者の受け入れを止めても、機械化・自動化が進むだけですロボットと仕事競えますか 日本は5割代替、主要国最大 :日本経済新聞外国人労働者の受け入れを止めても、時流に合ったスキルのない中高年労働者を昔のような給料で雇用するなんてことがあるわけないです(笑)。

番組の中で取り上げられていたEUから安い農作物が入ってくるという話も、じゃ、物価が値上がりしていいのかという話です。雇用にしても農作物にしても答えはそれぞれが創意工夫して、特徴あるものを作って差別化するしかないでしょう。農業だけでなく、工業もサービス業も一緒です。みんなそこで苦労・工夫をしている。日本の農協もそうですが、自分はやることもしないで補助金よこせというのは単なるボッタくりでしょう。

グローバリゼーション、特に金融には大きな問題があります。ですが経済的なメリットに加えて、国々の結びつきを強め平和につながるのも確かです。まして資源がない日本です。考えなければいけないことは、グローバリゼーションを簡単に否定してしまうのではなく、飼いならすための規制をどうするかということだと思います。
トランプに投票した人もBrexitに賛成した人も、ルペンやメランションに投票する人も理屈じゃなくて、判りやすい甘言と簡単な答えを求めています。でも彼らはすぐ裏切られることになるでしょう。連中の言ってることは嘘ばかりですから。そんな中で、判り易い安易な答えに逃げない多くの人々の姿には勇気づけられました。EUを守れという人たちのテーマソングと言うベートーベンの『喜びの歌』が戦乱が続いていた時代に作られた、平和と統合を希求する歌だったとは知りませんでした。
ルペンが当選してEUがおかしくなれば、日本経済にも大きな悪影響があります。それ以上に日本の場合は既に圧倒的多数で極右政権が誕生してしまっているわけです。これは笑ってられない。少子高齢化もグローバリゼーションも日本は先進国が抱える問題の最先端にいます。そこで問題を解決できれば日本は圧倒的な優位に立てる、という考え方もあります。どちらを選ぶかは政治家ではなく、我々次第でしょう。


ということで、グローバリゼーションと人生とのかかわりを語る映画のお話です。新宿で『T2 トレインスポッティング映画『T2 トレインスポッティング』 | オフィシャルサイト| ブルーレイ&DVD&UHD発売


20年前に大ヒットした『トレインスポッティング』の続編です。監督も主な出演者も20年前と同じです。監督のダニー・ボイルトレインスポッティングで大ヒットさせたあと、アカデミー賞を獲った『スラムドッグ・ミリオネア』『ティーヴ・ジョブス』などで世界的な監督になりました。ロンドンオリンピックの開会式の演出はダニー・ボイル監督、音楽監督はこの映画の主題歌『Born Slippy』のアンダーワールドが担当です。 『トレイン・スポッティング』は名実ともに現代のイギリスを象徴する作品ということなんでしょう。といっても、ヘロイン中毒の映画だし、主題歌の『Born Slippy』もゲイが少年をナンパする歌です(笑)。日本でそんな作品が高い評価を受けてスタッフが国家的行事に抜擢されるなんてありえないですよね。そんなザマだから、この国は閉塞感が漂っているのでしょう(笑)。

●名曲です。昨年 テレビ朝日ミュージックステーションアンダーワールドが演奏しているのを見て、可愛い男の子をナンパする歌だったんだと初めて気が付きました(笑)。


麻薬取引の金を仲間たちからちょろまかしてアムステルダムに逃げていたレントンユアン・マクレガー)が20年ぶりにエディンバラに帰ってきた。妻と離婚して家を失い、生まれ故郷に帰ってくるしかなかったのだ。だが彼のかっての仲間たち、シックボーイは美人局、スパッドはジャンキーと20年前と変わったのは年を食っただけで、相変らず酒と麻薬におぼれている有様。そんなある日 彼を恨んでいたベグビー(ロバート・カーライル)が刑務所を脱走、レントンを追い始めた。

●左から、まだヘロイン中毒のスパッド、一文無しで故郷に帰ってきたレントンユアン・マクレガー)、刑務所を脱走したベグビー(ロバート・カーライル)、麻薬の売人兼美人局のシックボーイ




前作はスコットランドエディンバラを舞台に、仕事もなければ金もないダメダメな若者たちがヘロインにおぼれながらも、チャンスをつかもうとするお話でした。主人公のユアン・マクレガーが便器に顔を突っ込んで水に落としたヘロインを必死になって探すオープニングが本当に衝撃的だったんですが、覚えているのはそれだけ(笑)。自分の健忘症度合いはやばい、と思っていたんですが、いつも名文を綴っておられる ぷよねこさんもそう仰っていたので2017/4/17 忘れていた! - ぷよねこ減量日記 new / since 2016、安心しました。今作は前作を覚えていなくてもお話は分かる親切ストーリー(笑)


というか、ストーリーはどうでもいいかな という感じです。描写と音楽、映像が面白いんです。
●他人の事は言えませんが、ユアン・マクレガーもオッサンになりました。
●前作でロバート・カーライルが演じるベグビーを見たとき、噂には聞いてたけどスコットランド人ってこんなに激昂しやすいのかと思いました。


ダメダメな彼らを通じて見えてくるイギリス社会の地方の姿が印象的です。一部には再開発で近代的なビルやおしゃれな店ができています。空港で『エディンバラへようこそ』という宣伝をするキャンペーンガールスロバキア人にルーマニア人。主人公たちと絡む美人ガールフレンドもブルガリア出身。片田舎にもグローバリゼーションが進んでいます。
一方 再開発された商業地区ではない、人々が住む街は20年前以上に寂れています。昔からの家は廃墟になりかけています。公営アパートの廊下は電気がつかなかったり、ゴミが放置されている。公共予算削減で、社会インフラもボロボロ。昔ながらのパブにはジジイの客しかいない。地域にはまともな仕事はない。公務員や資格を持った専門職になれたものはいいけれど、あとは親の店を継ぐくらいしか、仕事はない。若者は大学教育を受けて新しい職を目指すこともできますが、大学も出てない普通の労働者、特に中高年齢の者には職なんかない(まさにBREXITに投票した人たちです)。親や親せき、幼馴染など地域の紐帯も崩れかけている。政治家は地域には目もくれない。あとはケチな犯罪や麻薬に手を染めるしか、やることはないんです。
●ビールとヘロイン、そして乾杯


主人公たちは前作と同じ面々ですが、驚くくらいオヤジになっています。しわや贅肉は増え、体力は落ち、健康に不安も抱えている。20年前と変わらずヘロイン中毒のままのスパッドが主人公に『まだ、そんなことをやっているのか』と責められて、『ジャンキーの俺に金なんか渡しても、薬に使っちゃうに決まっているだろう!』と開き直るシーンがあります。思わず笑ってしまったんですが、もっともだなーと思ってしまったんです。我慢して勉強したりできる人はいいです。でも、そうでない人もいます。そういう人の方が多いかもしれない。じゃあ、そういう人はどうしたら良いか、という話ですね。まさにBREXITにもつながる話です。
●心優しいヘロイン中毒のスパッド、売人兼美人局のシックボーイも前作から変わらず。役柄もうだつが上がらないのも一緒です。ただ20年もヘロインをやってて死なないのか?とは思ったんですが。


●前作と唯一変わったのがガールフレンドがブルガリア人になったこと。スコットランドの片田舎にもグローバリゼーションが押し寄せています。

                                             
正直、ボクはBREXITに投票したような奴、トランプに投票するような奴、ルペンに投票するような奴は救いようがないアホだと思っていました。自分で自分の首を絞めるのは明快なのに、わざわざ、そういうペテン師に投票するんですからね。そのくせ、後で文句だけ一人前に垂れる。
だけど、この映画の投票人物たち、ヘロイン中毒・元中毒の愛すべきダメ人間たちを見ていると、そういう人っているのかもなーとも思いました。理屈じゃないんですね。仕事もなければ、教育もない。周りもそんな人ばかり、狭い世界に住んでいると外部の人間が幾ら説いても心を開かせることは難しい。それは誰にでも当てはまる人間の性じゃないでしょうか。
●20年経っても彼らのやってることは本質的に変わってない。


と言っても、主人公たちはスコットランド人です。どうせカネを盗むのならイギリス残留派が集まるパブに忍び込んでちょろまかしたり、とか地方色は非常に濃厚です。400年前のイギリスとの戦争をまだ根に持っている人たちが大勢いるんです。他にも主人公たちがしゃべる言葉のなまりがきつくて全然わからなかったり、ブチ切れて暴れまわるスコットランド気質だったり、この映画に描かれている地方色は本当に濃厚です。その中に再開発やグローバリゼーション、現代の要素が皮肉いっぱいにぶち込まれている。そこが面白いんです。
スコットランドの自然も変わらず美しい。ただしオヤジたちは丘に登るのは息が切れる(笑)


映画が全然退屈しないのはダニー・ボイル監督の映像も非常に貢献しています。前作と同じように麻薬中毒の幻覚を再現した?不可思議な映像が度々挿入されます。イギー・ポップルー・リードなど前作と同じテイストの音楽もやっぱりカッコいい。懐かしいブロンディの『Dreaming』の使い方はホント、良くわかってるなーと思いました。オジサンの心を鷲掴みです。



騙し、騙され、それでも何とか生きていく主人公たち。20年前より世の中は確実に厳しくなっているんですが、描写は前作より明るく?なりました。相変わらず悲惨な彼らですが、クスリを抜こうとしたり、ちょっとした努力もないわけじゃありません。何よりも悲観しないで、笑いながら、たくましく生き抜いていく。そういうオヤジたちを見るのは楽しかった。グローバリゼーションと地方の不況の中で生きる労働者階級、悲惨な環境がスタイリッシュに、ユーモアをもって描かれています。カッコいいって大事ですよ。 面白いです! 先行公開されたイギリスではまたまた大ヒットしているようです。