特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

漢前(おとこまえ)の時代:『グローバリゼーションとBABYMETALの欧州ツアー』と映画『マネーモンスター』

先週土曜のTBS報道特集』のヘイトスピーチ特集、良かったです。川崎のヘイトデモが市民と警察によって止められた経緯がきちんと報道されていました。ヘイトデモの主催者の顔にモザイクが入っていたことだけはおかしいと思いましたが(抗議する側は顔が写っているのに、ヘイトをするようなクズの顔を隠す必要はない)、それ以外は大変良い報道だったと思います。最低でもこれくらいの放送時間がないと、物事をきちんと伝えることってできないのでしょう。
                          

さて、イギリスでは23日の国民投票で、EUからの離脱懸念が高まっているそうです。
おかげで今日 株は500円も下がりました、ドル円は105円台へ。ユーロは3年ぶりに120円割れ、ポンドは150円台半ば、150円割れもあり得そうです。いい迷惑です(笑)。英フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、『6月6日現在では「EUに残留すべきだ」と答えた人は全体の45%、「離脱すべきだ」との回答は43%。一般的に、ロンドンなど豊かな都市に住む若者は残留派が多く、地方に住む低所得の中高年ほど離脱を求める声が強い』とされています。英国とEU、近づく選択の時 編集委員 小平龍四郎 :日本経済新聞 それに加えて環境や金融などに対するEUの規制を嫌ったサッチャーの残党の新自由主義者がEU離脱を主張しているみたいですね。調査によっては離脱派が残留派を上回って居るものもあります。確かにイギリスのEU離脱の現実味は増しているようです。

EUから離脱すれば、為替など世界的な混乱が生じるだけでなく、イギリス経済は打撃を受けます。イギリスに拠点を持っていた企業・工場なども撤退するところがでてくるし、EUに残りたがっているスコットランドの独立が再燃することも考えられます。『経済協力開発機構OECD)の試算によれば、楽観的に考えても英国の国内総生産(GDP)はEUにとどまる場合に比べ、30年までに2.7%落ち込む見通しです。悲観的に試算すれば8%近い落ち込みが予想される』そうです。移民の問題、ギリシャやスペインなどの経済危機の問題、雇用の問題がEU離脱を唱える人の根拠だそうですが、実際にはEUに反対する『地方に住む低所得の中高年』こそ困るはずです。
                                 
グローバリゼーションの進展につれ、地域社会や個人の暮らしが脅かされる例が出てきます。企業や工場は人件費が安い海外へ出ていけますけど、地域で暮らす個人はなかなかそうはいきません。競争に負ける産業では多くの失業者が出ます。しかし、その反面 安い製品、時には安くて質が高い製品で多くの人が恩恵を受けます。現実には中国に敵意を燃やすネトウヨユニクロなどの中国製の服を着て、中国産の安い冷凍食品を食べたりしているわけです(笑)。
かってNAFTA(北米自由貿易協定)で起きたことはそういうことだし、TPPで起きることもそういうことでしょう。月並みですが、最適解は少しずつ環境変化に対応していくこと、ではないでしょうか。日本の農業が典型ですが弱った産業に税金で延々と補助金を出すのはただの無駄です。消費者に高いものを買わせる、国の財政を圧迫する、何よりも働く側がやる気がなくなって、働いている人そのものが不幸になる。
かといって急な変化は人間には対応できません。環境変化のスピードを和らげる努力は必要です。そういうためなら補助金や産業転換のための職業訓練は必要でしょうし、規制だって要る。特に金融のように秒単位で大量の金額が移動するようなことは、社会にとって必ずしも良いとは思えません。だからこそEUは金融取引税を検討しているわけです。また、医療や教育などは市場原理になじむとも思えません
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しかし、こういう話は一言で説明できない。判りにくい(笑)。そこが扇動政治家のねらい目です。トランプにしろ、ルペンにしろ、自分の権力のために扇動をしています。『移民が職を奪っている』、『EUが規制を押し付けている』、『日本や中国、メキシコが職を奪っている』。ありもしない在日特権を煽る日本のネトウヨも、何でもかんでも大企業や武器産業のせいにする日本の左翼も一緒です。連中は問題を他人のせいにすればよいと思っている。
ケン・ローチ監督は『イギリスがEUから離脱すれば、極右が支配するだろう』と言っています。イギリスがEUから離脱すれば日本にもかなり影響があるでしょう。そうならないことを望みます。

                                    
と、いうことを考えながら、イギリスのニュースを見ていたら、こんな写真が目に留まりました。全米ツアーのあと、ヨーロッパツアーに出たBABYMETALのイギリスでのステージ風景です(6/10 Downlodad festival UK)。なんと観客動員12万!

                                
もちろん単独公演ではなく、他の出演者と一緒の大規模フェスですけれど、前座ではないメインステージでのアクトです。坂本九から始まって、今までロック、テクノ、さまざまなジャンルで海外進出を試みた日本人音楽家は居ましたが、ここまで海外に通用したのはこの娘たちくらいです。この大観衆は日本の音楽ファンにとってはある意味、夢の世界でしょう。
●イギリスのタブロイド紙から。メガデスオジー・オズボーンを差し置いて、フェスで2番目の見どころと報じています。Top 10 Bands to see at Download Festival 2016 | Music | Entertainment | Express.co.uk

                   
ボクはヘヴィ・メタルって音楽は嫌いです。頭悪いから(笑)。メタルは海外で生まれたフォーマットですが、形式美のみを追いかけて窒息しそうなジャンルでした。歌詞はバカだし、音は軟弱で退屈。時代遅れの音楽です。日本のアイドル文化も海外で受け入れられていますが、ごく一部の人たちのものであることは否めません。その二つを結合させることでまるっきり新しいものを作った。経済学者シュンペーター先生の新結合(異なる要素を組み合わせることで生まれるイノヴェーション)を絵に描いたような娘たちです。メタル(それも様々な流派のミックス)+アイドル+ダンスで新しいジャンルを作ったのです。メタルが嫌いなボクもこれならOKです。
                                  
グローバリゼーションの時代にどうやって生き残っていくか、この娘たちの姿に学ぶべきところがあると思うんです。例えば一足先にアメリカでも受けた少女時代や江南スタイルみたいなK-POP、ボクも嫌いじゃないけど、あれはモロにアメリカ流の製品にアジアのエキゾティシズムを振りかけたものです。従来の工業製品の輸出と同じです。ですが、この娘たちは違う。違う概念を海外に持ち込んだ。ちょっと前の東洋経済で『メタル×カワイイはブルーオーシャンだった! BABYMETALという戦略』という特集が組まれていました。確かにこの娘たちは独自の存在です。彼女たちは競争相手がいない『ブルーオーシャン』に立っている。

                       
どこかの外人ミュージシャンがこの娘たちのステージを『ゾンビみたいな白塗りのバックバンドの前で小さな女の子たちがカラテをやっている。これはどう考えても変だ。』と言ってました。確かにそれくらいブチ切れている。だから日本語で歌い、キツネ様に呼ばれて降臨したというギミックまで押し付けても(笑)、外人に受け入れられている。
●キツネ様サインをする頭の悪そうなメタルファン(笑)。ボクもやりたい(笑)。 

あともう一つ。当日はものすごい大雨で、ヒールを履いて激しく踊るには最悪のコンディション、というか危ないくらいだったそうです。そのステージが始まる前にモップ掛けをするオジサンが目撃されています。プロデューサーのKOBAMETAL氏(芸能事務所アミューズの社員)です。

                                                                       
これは如何にも日本的な光景です。たとえばアジア各地の工場では欧米系の企業では派遣されてきた幹部社員と現地の社員とでは食堂もトイレも別、だといいます。ところが日本の多くの企業は違う。ボクの勤務先もそうですが、食堂もトイレも一緒なのは当然、普段の生活も現地の社員とサッカーをしたり、カラオケをやったりするのが普通です。その替わり幹部級の給料が安い(現場と幹部の給与の差が小さい)というのはあるのですが、そうやって現地の人の共感や忠誠心を獲得しています。だいたい、海外のミュージシャンのステージでプロデュ―サーがモップ掛けをするなんて1000%あり得ない。同一労働同一賃金とは正反対の姿です(笑)。
●大雨でステージは思い切り濡れています。マジで危ない。

                            
大雨で濡れたステージで、ヒールで激しく飛んだり踊ったりして、もし転べば、怪我だけでなく下手したら命にだって係わります。やるべき対策は幹部が率先して、とことんやる。そして現場は思い切り、演じる。そこには心の繋がりがあり、パッションがあります。ボクは男がどうのこうという表現は大嫌いですが、この娘たちとチームは実に漢前(おとこまえ)だと思います。少し前のNHKの特集で言っていた通り、この娘たちは文字通り闘っている。
●ヴォーカルのSU-METALちゃんの漢前ぶりは勿論です(これは違う日)。

                                       
確かにグローバリゼーションにはメリットもありますが、世の中に歪ももたらします。競争はどうしたって厳しくなる。しかし、全く競争を否定すると東京電力のような独占企業や親方日の丸になります。例えばTPPに反対している農協なんて、日本の農業の未来なんかどうでも良くて、ただ自分たちの権益を守りたい、要するに補助金をくれと言ってるだけでしょ(笑)。
世界と闘いながら、自分たちで道を切り開くこの娘たちとは正反対です。 イノベーションを引き起こし、新しいジャンルを作って『ブルーオーシャン』を実現する。自分たちの強みを生かすだけでなく、そのベースにはパッションがあるグローバリゼーションに対する答えの一つがここにあると思います
厳しい競争の中でどうやって生き残っていくか、企業にとっても我々自身にとっても大きな課題です。どうやれば独自の存在でいられるか。この娘たちからは学ぶべきところが沢山ある、と思いながら、この週末はキツネサインを練習していました(笑)。

●6/10 Downlodad festival UK


と、言うことで、新宿で映画『マネー・モンスター

リー・ゲイツジョージ・クルーニー)が司会を務める財テク番組「マネーモンスター」。ディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)の指示を聞かず、アドリブ全開でリーが生放送に臨む中、拳銃を手にした男(ジャック・オコンネル)がスタジオに乱入してくる。彼は番組に騙されて財産を失くしたと憤慨して番組をジャック。放送中に自分を陥れた株取引のからくりを説明するよう迫るのだが。

監督はジョディ・フォスター。プロデューサーはジョージ・クルー二―。これだけでどういう映画か判らないでもありません(笑)。
                                                                                              
株などの財テク情報をエンターテイメントとして流す番組『マネーモンスター』、いかにもインチキそうな番組です。人気を博したトランプの番組『アプレンティス』もこんな感じだったんでしょう。ダンディなスーツを着こなして、攻撃的な煽り文句を並べ立てる司会者、ゲイツ役のジョージ・クルーニーはいかにもぴったりです。うまい!格好いいが故のマイナスってあるんですね〜(笑)。敏腕ディレクターのパティは内心 番組にうんざりしています。実生活でも×3のゲイツに惹かれながらも、他社への移籍話を受けるかどうか迷っています。
                                    
●この前見た『ヘイル、シーザー!』同様、前半はジョージ・クルーニーのセルフ・パロディのアホ芝居がさく裂します。いつもながら非常に似合ってる

●敏腕ディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)(右)はゲイツと心が通い合う仲ですが、アホな番組に嫌気が指して、他へ移籍しようか迷っています。

                            
ある日 番組が勧めたファンド会社の株が暴落します。プログラムによる高速コンピューター取引が売り物だったファンド会社ですが、プログラムのバグがあった、というのです。そんなことはなかったことにして番組を放送するつもりのゲイツでしたが、生放送中の番組に株暴落で財産を失った若者が押しかけてきます。番組スタッフはゲイツお得意のアドリブ演出かと思い、銃を持った若者がスタジオに入ってくるのを止めることができませんでした。
●番組は株価急落の財産を失くした若者にジャックされます。彼は生放送で株価急落の原因を説明するよう要求します。

                                                     
番組では強気のゲイツも銃を目の前にしては怯えるばかりです。ディレクターのパティだけが落ち着いて時間を稼ぎ、不要なスタッフを退避させ、犯人と交渉を続けます。犯人は番組でファンド会社の株が何故暴落したのか説明をするよう、要求します。ファンド会社の社長を番組に出せ、というのです。飛行機で移動中で行方不明の社長に替わって、ファンド会社の広報責任者兼社長の愛人(カトリーナ・バルフ)は通り一片の回答をしますが、勿論犯人は納得しません。仕方なく彼女は株が暴落した理由を社内で探ろうとしますが、株の暴落に絡んできな臭い雰囲気があるのに気が付きます。
この広報役のカトリーナ・バルフという人、超美しい(笑)。アイルランド系の人だそうですが、この人が映っているだけで目の保養、楽しかった。

●事件にうろたえる男どもとは対照的に、ジュリア・ロバーツ演じるディレクターの敏腕ぶりは文字通り漢前で惚れ惚れしてしまいます。

●株価を操作するファンドの社長(ドミニク・ウェスト。『パレードへようこそ』に出ていた人)と広報責任者兼愛人(カトリーナ・バルフ)。このカトリーナ・バルフと言う人、アイルランド系の超クール・ビューティです。これだけ美しい人が画面に映っているだけでも話は充分に説得力があります。はっきり言って惚れました。

                                                 
犯人はゲイツに爆弾付きのチョッキをつけさせ、自分は起爆装置を握ります。犯人を撃ったら爆弾が爆発すると言うわけです。怯えながらも説得しようとするゲイツでしたが、『時給14ドルで働いている俺になんのチャンスがあるんだ!』(時給1500円です!)という犯人の話を聞いているうちに考えが変わってきます。自分がやってきたことの意味を理解するようになるのです。

                                     
この逆転劇は見事です。ゲイツの表情も前半とは全く変わってくる。ジョージ・クルーニーが俄然かっこよく見えてきます(笑)。ファンなら堪えられないところでしょう。ウォ―ル街のど真ん中に乗り込んでいく姿は本当に格好いい。良くこんな撮影をしたと思いました。まさにエンターテイメントです(笑)。
それだけでなく、ところどころに入れられる描写も効果的です。ひたすら情けない男たちと聡明な女たちゲイツが銃を向けられている中継をせせら笑いながら見ているウォール街の人間、『ウォール街再占拠だ』といいながら路上に集まった野次馬たち、TVを見ているだけで何もせず、番組が終わればゲームに戻るだけの普通の人たち。南ア鉱山のデモ。ここいらの細かな演出は、さすが高IQで有名なジョディ・フォスターという感じがします。すべてに伏線がある。ちょっとハッカーを万能視しすぎている脚本は多少ご都合主義かもしれませんが、明確なメッセージを打ち出しつつも単純な勧善懲悪にしない展開はお見事なものです。




映画は主演の二人が、TVの中でロバート・ライシュ先生が『ウォ―ル街は国家に寄生する吸血タコのような存在だ』とコメントするのを見ているところで終わります。制作側の立場は非常に明快です(笑)。
ジョディ・フォスタージョージ・クルーニー、二人の気合、漢前(おとこまえ)ぶりが感じられる映画でした。あまり期待しないで見に行ったのですが、エンターテイメントとして、すっごく、面白いです。で、尚且つ訴えたいところも明快。世の中の問題のたぶん半分くらいはウォール街です。他の産業とはけた違いの莫大なカネを動かしているだけでなく、連中が政治家や学者を使って決算や株取引など日本も含めた世の中のルールを作っているんですから。保育園に入れない子供からお年寄りの年金生活者に至るまで、我々はそれに踊らされているんです。ジョディ・フォスター監督があくまでもエンターテイメントとして、こういう作品を作ったことには脱帽します。今年のベスト5には入らないかもしれないが、ベスト10には確実に入る優れた作品だと思います。