特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ポケモンの涙:映画『シリア・モナムール』

都知事選の結果は残念でした。しかし、良く考えれば今回と同じように石原慎太郎、猪瀬、舛添を圧倒的多数で選んできたのが東京都民(笑)です。そういうもの、なのかもしれません。これから小池百合子にどんなスキャンダルが出てくるか楽しみ(笑)です。少し前 EU離脱に賛成したイギリス人を心底からバカだな、と思いましたけど、他人のことは笑ってちゃいけませんね(笑)。極右の小池百合子の台頭は、EU離脱や、トランプ旋風マイケル・ムーアは本選ではオハイオなどスイング・ステートの労働者の支持が期待できるトランプが勝つと言っています)、EU各国の排外主義的な動きなどと日本もまた例外ではない、ということを示しています。現代の経済環境の悪化と格差の拡大に対して、既存のエスタブリッシュメントの側も対抗する左翼などの側も機能不全に陥っています。だから排外的な主張や核武装など極端な主張を唱えるポピュリズムが台頭する。今回の選挙では宇都宮や民進党共産党の支持者ですら、小池に投票した人が多かったようですから、右とか左とか言う問題ではないと思います。問題はポピュリズム反知性主義です。上杉隆のような嘘つきや在特会のクズが10万票も獲得する世の中です。反知性主義に関する本を書いている内田樹ですら、先の参院選三宅洋平を支持するような反知性主義に陥るのですから(笑)、問題は相当 根深いものがあります。
                                                   
そういうポピュリズム反知性主義に対してはどうしたらいいんでしょうね。残念ながらボクは、自分で自分を疑い続ける、そして、なるべくバカとは関わりを持たないようにする、以外の処方箋は持ってないです。ゼロには何をかけてもゼロ、バカには言葉は通じないからバカと言うのですから、これは仕方がない(笑)。

もちろん鳥越陣営にも問題点がありました。特に準備不足という失敗は参院選に続いて2度目です。わざわざ投票前日に岡田が代表選に出ないことを表明したのも酷かった。宇都宮と言う人の、いかにも日本のオールド左翼らしい器量の小ささ、ダメさ、役立たずぶりも見事に露わになりました。世の中を変えるより、自分のちっぽけな正義が大事という宇都宮の発言を聞いてると、こんな能無しは要らない、とつくづく思います。それでも宇都宮は過去2回の選挙で100万票も取れなかったのに対して、投票率の違いはあるにしても今回の鳥越氏は130万票取れた野党共闘は効果がありましたし、それを推し進めるべきですけれど、野党共闘だけでは足りない。いかに東京都民がバカばかりでも、無党派層の多くが小池に投票したんですから、問題は大アリです。憲法がどうのと言ってるだけじゃ、安倍政治はずっと続くでしょう。今の政治に代わる現実的な選択肢(イメージだけでも)が必要だと思います。小池は勿論、政権の側だって現状維持以外の大した案は持ってないんですから(笑)。市民の側は直すべき点は直しながら、よりマシな日常を一歩一歩積み上げていくしかありません。ニコニコ、へらへらしながら笑みを浮かべて、です(笑)。絶望したり、変な悲壮感に囚われたりするのこそ反知性主義だと思うんですよ。




さてポケモンGOというゲームが世界的に流行っているそうです(もうピークを過ぎたという説もありますが)。近所でもポケスポットと呼ばれるポケモンが居る場所にスマホ片手の人が集まっていたりします。そういうゲームのことはボクは全く興味ないんですが、釈然としない気持ちがどうしても消えないんです。それはこの記事を読んだからです。

Pokemon's tears for Syria - BBC News
                             
5年以上も戦火が続くシリアの人たちがポケモンGOをやってるわけではありません。アサド政権に反対する現地の人がツイッターなどで、こういう画像を拡散させて世界に援助の手を求めているんです。

                       
戦禍の中で暮らす子供たちは、シリアに来て助けてくれ、と言っています。でも、どうしたらいいんでしょうか。アサドの側はまともじゃないけれど、反政府側もアルカイダだったりISだったりするんです。どちらも、まともとは言い難い。現地の事情もボクには良くわかりません。はっきりしているのはこういうことで犠牲になるのはいつも、子供たちだってことです

●このツイートはスウェ―デンに逃れたシリア難民の人のもの。確かにこれはないですよ。今の現状は絶対におかしい。


青山でドキュメンタリー『シリア・モナムールhttp://www.syria-movie.com/

フランスに亡命した男性映像作家とシリアに暮らしながら現地の状況を記録し続ける女性映像作家(クルド人)との交流を軸に、現地で何が起きているかを描いた1001の映像を編集したドキュメンタリー作品です

24時間の情事』(ヒロシマ・モナムール)という映画があります。戦禍が癒えつつある広島で日本人建築家とフランス人女性とのつかの間の情事、それに戦争と人間の姿を描いた作品で、ボクの生涯ベスト5に入る、非常に美しい映画です。広島に初めて出張したとき、この映画で映された光景を求めてひたすら夜の街を一人、歩いたくらいです。50年前の映画ですから、街には面影くらいしか残ってなかったですけどね(笑)。

                                      
『シリア・モナムール』は邦題。この映画の中に出てくる、現地のシネクラブで上映された『ヒロシマ・モナムール』を見た後に殺された男性のエピソードから来ています。原題は『銀の水』。映画に登場する女性映像作家の名前です。

映画は警察が少年を裸にして拷問するシーンから始まります。少年は壁にアサドの悪口を書いたことで捕まり、拷問されています。少年の家族が取り戻しに行くと、警察から『その子供はいなかったものと思え。また子供を産めばいいだろう』と返答されます!! それに続いて赤ん坊が生まれ、取り上げられるシーンが流されます。シリアの現状と希望、対照的な二つが提示されるのです。
●こうやってアサド政権に対するデモ(非暴力です)をやってると政府軍のヘリが飛んできて人々を撃ち殺します。

                                                      
前半部はYouTubeなどシリアから発信された映像がつなぎ合わされています。シリアからパリに亡命した監督はその映像にナレーションを入れます。映像は驚くようなものばかりです。ボクはこれだけ死体が頻出する映画は見たことがありません。例えばアラブの春に影響を受けたシリアの村人がデモをしている光景。ボクらがやっているようなデモと一緒で平和的なデモです。やがて軍のヘリコプターが上空にやってきます。そのあと広がるのは血と道路に倒れるおびただしい死体です。う〜ん。
                             
●この人たちは政府軍から逃げてきました。しかし、こうやって、ただ逃げているだけの人も政府軍に襲われます。

                                          
映像は子どもも女性もキリスト教徒もイスラム教徒もお構いなしの殺戮が続きます。そして政府の拷問。傷つけられた死体。拷問がなんで公開されているんだと思ったら、見せしめの為に敢えて政府が公開しているそうです。う〜ん。監督も我々もそれを見ても何もできません。嘆くことしかできない。
●負傷した子供。政府軍も反政府軍も子供にも見境なく撃ってきます。

後半は現地に残っている女性映像作家が撮った画像を映しながら、監督と女性映像作家とのメールのやり取りがモノローグの形で展開されます。子供たちがスナイパーに狙われる日常、子供たちや動物が被害を受ける日常。三本足のネコが道端をあるいている町。廃墟からつりさげられた死体を見ながら子供が歩く街。女性作家も撮影中に足を撃たれます。このころには政府軍だけでなく反政府軍の姿も画像に写っています。やってることはどちらも同じです。絶望しかない光景です。それでも人々は、子供たちも、動物たちも生きる。いや、生きようとする。
●シリアの街。この瓦礫の中にも両軍のスナイパー、それに人々や犬や猫などが居ます。

                             
なんという作品でしょうか。多少 残酷なシーンはカットされているとは言え、この映画で映される光景はボクが今までみた映像の中でもトップクラスに酷い。残酷というだけではありません。残酷と感じる余裕がないくらい衝撃的です。


この映画の日本公開は映画祭でたまたま目にした一般の人、二人が使命感に駆られて自費で日本公開にこぎつけたそうです。終了後のトークショーで、シリアでは1000万人が難民化していると言ってました。政府軍・反政府軍・IS・アルカイダがぐちゃぐちゃになりながら、自分たちの敵と住民たちを殺し続けています。そして400万人が海外へ難民として逃れ、それがEUの問題、イギリスのEU離脱にまでつながっている。そして日本にまで影響を与えている。決して他人事ではありません。

でも、どうしたらいいんでしょうか。正直 ボクには判りませんでした。『シリア・モナムール』はそういう、どうしようもない現実を我々の目の前に突きつける鮮烈な体験であることは確かです。見て楽しい映画ではありません。でも眼をそむけてはいけないんでしょう。この映画はこれから全国各地で上映されるそうです。


●上映後のトークショー。右側が中東問題の専門家、東京外語大の青山教授。左が個人で配給権を買って、日本公開にこぎつけた人(映画業界とは関係ない人だそうです)。話を聞いてようやく理解できたことが沢山ありました。