特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『パディントン2』と『ベロニカとの記憶』

先週 朝 通勤電車が故障して、目的地より5つくらい前の駅で降ろされたんです。まあ、いいかと思って徒歩で勤務先へ向かいました。慣れないところですので、自分の場所が表示されるiPhoneの地図を見ながら、歩き始めたのですが、半分くらいはあったバッテリーが15分くらいで切れてしまいました。歩く時のお供、iPodもそうでした。零度以下の気温だと電池が早く消耗してしまう。ネットを見たら、そういうことは結構あるらしい。寒空の下 慣れない場所で危うく遭難するかと思いましたよ(笑)(嘘)。我々がいかにスマホiPodに頼って生きているかってことですよね。


先週末 野中広務氏が亡くなりました。政治資金や利権のうわさもある人でしたが、戦争絶対反対のハト派でもありました。ボクもこの本↓を読むまで、この人のことを理解していなかったのですが、こういう人が現役の政治家でいてくれたらなあと思わせる人でした。権力への欲求と弱者の立場に立つ、その二つが共存するユニークな人だと思ったんです。

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

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綺麗事、理想論を言ってたって現実の政務担当能力がなければ政治家としては用無しですし、かといって、絶対譲れない一線というものを持っている人でなければ人間として信用できない。野中氏は『戦争につながるようなことはしてはならない』という明確な一線を守り続けた。それだけは言えると思います。彼は野党の政治家より遥かに世の中に貢献したでしょう。30年前に社民党共産党にこういう現実的な人がいたら、今の政治もだいぶ違ったんじゃないか、そう思えてなりません。



ということで、今回はイギリス映画2つです。
まず、六本木で映画『パディントン映画『パディントン2』公式サイト | Blu-ray&DVD 好評発売中!

ペルーからロンドンにやってきて、ブラウン家の一員として暮らしているクマのパディントン。ペルーの老クマホームにいるルーシーおばさんの100歳の誕生日プレゼントを探していた彼は、骨董品屋ですてきな絵本を見つける。高価な絵本を買うためにバイトを始めるパディントンだが、絵本が盗まれ、犯人として逮捕されてしまう…。


ボクが本当に好きな映画は可愛い子が出ているものです。普段は色々屁理屈こいても、基本的には子犬とか子クマとか可愛いものが画面に出てきて、ゴロゴロ幸せそうにしているだけで充分なんです。でも、そういう映画って本当に少ない。脚本が頭悪かったり、商業主義の気持ち悪さが前面に押し出されていたり、わざとらしいお涙頂戴だったり、可愛くてまともな映画って、滅多にぶつかりません。


そういう意味で前作の『パディントン』は名作でした。

パディントン【期間限定価格版】Blu-ray

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クマちゃん可愛さで見に行ったら、実は難民との共生を訴える映画でびっくりさせられた、大人も楽しめる作品でした。後で原作自体がナチスから逃れてロンドンのパディントン駅に着いたユダヤ人難民の子供たちがモデルだったことを知って、なるほどと思ったのですが、全然 説教臭くない。夢のような画面のなかで、可愛いクマちゃんが暴れまわり、笑って泣かせる前作は素晴らしすぎました。だから、今作も本当に公開を楽しみにしていました。
パディントン駅でパディントンとダンスをするキャサリン妃


今回見に行った字幕版を上映している劇場はほぼ満席。六本木という土地柄でしょう、外国人の親子連れでいっぱいです。ボクはこの映画、大真面目なので(笑)、自分はこの子達と同じくらいの精神年齢なのかと、多少の居心地の悪さを感じながら客席に座りました。
●ペルーのジャングルからやってきたパディントンはブラウン一家の一員として暮らしています。ダメダメなブラウン一家全員の見せ場があるところも好きなんです。


監督も主な出演者も前作と変わらず。毛のそよぎや涙まで再現する圧倒的なクマちゃんのCG、模型やSL、ロンドンの街並み、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさも変わりません。前作の方がミュージカル色は強かったですが、今回も音楽も楽しい。パディントンの声を演じるベン・ウィショーにモーションカメラをつけて豊かな表情を作ったクマちゃんには感情移入してしまいます。


今回の悪役はヒュー・グラントですが、クマを相手に実に楽しそうに演じています。イギリス版阿部寛という感じでしょうか。


難民との共生を訴えるメッセージ色も相変わらず明快です。前回出てきた近所の排外主義者が今度は自警団をやっています。先週の『はじめてのおもてなし』にも排外主義者のカスが自警団をやっているのが出てきましたが、まさに現代を反映しています。そいつに対するブラウンお父さんの啖呵が泣かせます。説教臭くなく、笑っているうちにいつの間にか泣かされてしまう。そういう映画です。


アフリカ系もラテン系も東欧系もインド系も犯罪者もみんなで歌って笑って大団円。前作以上という声があるのもうなづけます。唯一の不満は1時間40分という上映時間が短すぎるということでしょう。子供が飽きるからかもしれませんが(笑)、インド映画みたいに3時間くらいやっても良いでしょう。一生やっててもいいよ(笑)。前作から全くパワーも落ちていない、実に幸福な時間でした。


もう一つは、銀座で映画『ベロニカとの記憶

一人暮らしの老人、トニー(ジム・ブロードベント)は年金生活の傍ら、ロンドンで小さな中古カメラ店を営んでいた。別れた妻マーガレット(ハリエット・ウォルター)とも友情を保ちながら、近々シングルマザーになる娘のスージー(ミシェル・ドッカリー)の面倒も見ている。ある日、高校時代の初恋相手ベロニカの母親の遺品に関する通知が届く。彼に残したものがあるという。トニーは書類をそろえて相手先に送るが、手紙に書かれていた遺品である日記が引き渡されない。ベロニカが渡すのを拒んでいるというのだ。トニーは音信不通だったベロニカに会いに行くが- - -


素晴らしかったインド映画、『めぐり逢わせのお弁当』のリテーシュ・バトラ監督の2作目です。ボンベイ生まれの監督がロンドンを舞台にイギリスの老人をテーマにした映画を撮る。そういう時代なんですね。カズオ・イシグロらも受賞したブッカ―賞を取ったジュリアン・バーンズの小説を映画化したもので、前作とは打って変わってロンドンを舞台にした重厚な人間ドラマです。
●主人公は年金生活をしながら、中古カメラ店を営んでいます。

映画は主人公の高校時代と現在が交錯する、ミステリアスな作りになっています。
●若き日の主人公は初恋の人ベロニカ(中央)の家に滞在します。


齢をとっても昔のことは覚えているといいますが、主人公の初恋と恋人の母親、自殺した親友。かっての心の傷が老年になって甦るってどういう感じでしょうか。



パブリックスクールのような高校生活や細部にこだわったティテール、ボンベイ生まれの人が60年代のイギリスを描くというのは面白いです。


クラシックなイギリスと近代的なロンドンのバランスが見事な対比になっている。今は老人になったトニーとベロニカがテムズ川にかかったミレニアム歩道橋を渡ったときは、ボクも渡った!と思ってしまいました(笑)。あとトニーの爺さん仲間がインスタやSNSを始めるところは面白かったです。先週の『はじめてのおもてなし』でも爺さんが女の子をナンパするためにインスタを始める描写がありましたが、ドイツもイギリスも同じなんですね。
●時代は変わりました。自らシングルマザーになろうとしている娘の母親学級に付きそう主人公。


主役のトニーという爺さんを演じるジム・ブロードベントという人の演技は素晴らしかったです。頑固で強情だけど茶目っ気のあるところも見せる老人像はいかにも現実にありそうで、非常に感心しました。


ベロニカを演じるシャーロット・ランプリングは圧倒的な存在感なんですが、ボク、この人は昔から嫌いなんです。お洒落で超綺麗な老人像はさすがなんですが、この人、フランケンシュタインみたいで不気味に見えてしまう。頑固ババア役はぴったり。


終盤 『何事も失わず、何事も得なければ、傷つかないで済む。それでいいと思っていた』というトニーの述懐は心から共感できました。ボクもそう思ってましたし、今もそう思ってます。自分に欠落したものを外の世界に求めても空しいだけですからね。自分が死ぬとき、果たしてどう感じるでしょうか。この映画の原題は『Sence of Ending』(人生の終わりを迎える感覚)。まさにそういう映画です。


完成度は凄く高いです。文字通り『終わりの感覚』が濃厚に漂っています。端正な雰囲気の中で死とはどんなものか、非常に考えさせられる。お話としてはいまいちのところがあるんですが、この雰囲気は嫌いじゃないです。