特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

安倍晋三の『エンゲル係数の珍説』と映画『ロング、ロング・バケーション』

今朝の東京はまた、雪でした。
先週ほどではないにしろ、5センチでも東京では大雪です(笑)。毎週金曜日の官邸前抗議も早々に中止になりました。幸い昼には道路の雪もほぼ溶けたんですけどね。
●今朝の通勤路

●ほんとかいな?(笑)。でも実際 北欧はメタルが盛んです。単に田舎だからなのか、寒さで脳みそがマヒしてくるのか(笑)




さて、4月からTVアニメ、サザエさんのスポンサーが東芝からアマゾンに代わるそうです。

「サザエさん」スポンサー、東芝からアマゾンに :日本経済新聞


他のニュースによるとメインのスポンサーは日産、他のスポンサーがアマゾン、西松屋ということだそうですけど、配分は判りません。もちろん東芝はそんなことをやっている状態じゃありませんから、当然のことではあります。しかし物事の栄枯盛衰には改めて驚かされます。アマゾンはもちろん、日産だって外資ルノーですからね。日本を代表する番組のスポンサーがいつの間にか外資に入れ替わっている。


最近の世の中の変化って本当に早い。先日のダボス会議でカナダのトルドー首相は『今ほど変化のペースが速い時代は過去になかった。だが今後、今ほど変化が遅い時代も二度と来ないだろう』と言ったそうです。1年くらいでは判りませんが、5年、10年経ったら、世の中の光景は全く変わっています。スマホが良い例ですよね。アマゾン(通販)もそう。今後は食べ物や散髪などのマッサージ、それに生鮮品はともかく、ただ物を売るだけの小売店は余程の高級店か大型店、それにマニアックな品ぞろえの店しか残らないでしょう。何でも売っているスーパーやコンビニを除けば、ものを売るだけの専門店は地方では各県に業種ごとに1店くらいしか生き残れないと思います。本屋とかレコード屋、文具店など一部の業種では既にそうなっていますからね。
これからネットやAI、バイオ技術などで世の中の変化は一層激しくなっていくでしょう。少子高齢化で日本も衰退していく(笑)。社会のありようも変わっていくはずです。我々の暮らしはどのように変わっていくのでしょうか。今が正念場だったりして(笑)。




さて、今週30日に総務省から発表されたエンゲル係数がちょっとしたニュースになりました。

エンゲル係数29年ぶり高水準 共働き増・値上げ… :日本経済新聞

エンゲル係数:29年ぶりの高水準 16年25.8% - 毎日新聞


具体的には
・家計の支出に占める食費の割合である「エンゲル係数」は2人以上の世帯で前年より0.8ポイント上昇して25.8%となった。1987年以来29年ぶりの高水準。

日本では戦後長く下落傾向が続き、記録が始まった70年には34.1%だったが、05年には22.9%にまで低下しました。しかし、第2次安倍政権発足後の13年以降は上昇に転じています(怒)。エンゲル係数は4年連続で上昇し、2016年は25.8%と1987年以来29年ぶりの高水準になったというわけです。


物価の上昇・賃金の伸び悩みで、減らすことができない食品への支出の比率が高まっている、というのが主な原因です。そりゃあ、円安にしたら輸入が多い食料品は上がるにきまっています。例えば勤労者世帯では
・食品以外の家具・家事用品は1.8%減、被服及び履物は3.4%減と消費は振るわない
可処分所得のうち消費に回した割合を示す「平均消費性向」は1.6ポイント低い72.2%で、15年ぶりの低水準


これでは景気が良くなるはずがありません。支出の4分の1が食物なんですよ。実際 『エンゲル係数は生活水準が高くなるにつれて下がっていく指標』なのは中学生でも知っています。ボクは中学生の時に知ってましたもん(笑)。
しかし、安倍晋三は31日の国会でエンゲル係数の上昇を問われて、『景気回復の波が全国津々浦々に及んでいる』と答弁しました。

エンゲル係数が上昇しても景気回復、安倍首相が斬新すぎる新解釈を披露 | BUZZAP!(バザップ!)


安倍晋三エンゲル係数の意味も分かってないんですね(笑)。中学生でも知っていることを総理大臣が知らないだけでなく、要するに人間の生活というものを理解していない。家計を考えたこともないんじゃないですか。家事をしない男が多いから世の中が良くならない、その典型でした。




ということで、今週は予定を変えて、デモではなく、映画の感想です。
六本木で映画『ロング、ロング・バケーション映画『ロング,ロングバケーション』公式サイト

舞台は2016年。古ぼけたキャンピングカーに乗って、老夫婦のジョン(ドナルド・サザーランド)とエラ(ヘレン・ミレン)が旅に出た。既に独り立ちした子供たちにも何も告げないまま。ボストンからアメリカ最南端のフロリダのキーウェストまで、大学で文学を教えていたジョンが訪ねたかったヘミングウェイの旧宅を目指しての旅が始まる。


イタリアで大ヒットした『人間の値打ち』のパオロ・ヴィルズィ監督が、アメリ東海岸を舞台に撮った新作です。

精神病患者の施設から脱走した女性二人の旅を描いた前作『歓びのトスカーナ』は素晴らしかったので『オバマケアを守った男』と映画『歓びのトスカーナ』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)、気が重くなりそうなテーマの今作も見逃すまい、と思って出かけました。
歓びのトスカーナ [DVD]

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ジョンとエラ、二人暮らしの老夫婦の旅物語、いや、人生最後の旅の物語かもしれません。原題は『The Leisure Seeker』(自由な時間を探して)。二人が旅する古ぼけたキャンピングカーの名前でもあります。
元英語教師だったジョンは認知症を患っていて、時折 訳が分からなくなる。エラはしっかりしていますが、まれに激痛の発作が起きる。認知症のジョンは近くに住む長男が引き取る予定でしたが、それを振り切って二人は旅に出ます。
ヘレン・ミレンドナルド・サザーランド、名優同士の共演です。


映画はカーリー・サイモンの『It's too late』が流れる中、住宅街にトランプの演説『America Make Great Again』を連呼する宣伝カーが走る光景から始まります。歌詞は『もう、遅い』(笑)。いきなり、パンチの利いた演出です。この映画、只者ではないと思わされます。


画面に出てくる古いキャンピングカーは驚くほど、ぼろい。白煙を吐きながらノロノロ走っている。乗っているのは老夫婦、ジョンとエラ。車のぼろさは2人の旅を象徴しているかのようです。


ハンドルを握るジョンは時折記憶を無くしたり、徘徊したり、過去の世界にいると思いこんだり、失禁したりします。その癖 突然 昔の記憶が蘇って結婚前に付き合っていたエラの初恋の相手に嫉妬したりもする。
●ボケているときのジョンは『ハンバーガー食べたい』としか言わないときすら、あります。


それでもエラはジョンの面倒を見ます。道を指示したり、身の回りの世話をするだけでなく、警官を相手にしたり、銃で強盗を追っ払ったりします。でも、自分を置き忘れてジョンが走り出した時は激怒する。今のことを覚えていないジョンが昔の教え子(女性)だけは覚えていて、彼女と話している時も嫉妬して不機嫌になる。


夫婦が知っていたアメリカの光景はずいぶん変わってしまった。何よりもトランプが当選しようとしている。二人も歳を取りました。熱心な民主党支持者だったジョンはボケてしまい、トランプ支持者のデモに楽しそうに入り込んだりする。


それでも夜は二人でキャンプ場で昔の写真をスライドで一緒に見て過ごします。美しい光景です。二人が過ごしてきた時代をゆっくりと振り返る。でも、懐かしんでばかりもいられません。過去の闇が混乱した記憶と共に湧き上がってくる。
●夜のキャンプ場で回想にふける老夫婦。


主演のヘレン・ミレンって意地悪そうな感じのルックスなので、昔は好きではありませんでした。でも近年の『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場『ポピュリズムを考える』と映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』と『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)や『黄金のアデーレ、名画の帰還10月の実質賃金と映画『リ・ライフ』&『黄金のアデーレ 名画の帰還』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)などの作品で素晴らしい演技を見せています。この映画の中でも、歳を取ったが故の可愛さと賢明さを感じさせる見事な演技をしています。ウィッグをつける前の姿までさらけ出す熱演です。この人のチャーミングさが重苦しいテーマの作品を救っている。彼女はこの作品で、今年のゴールデン・グローブ賞ではコメディ部門の主演女優賞にノミネートされています。そう、この映画はコメディなんです!
●チャーミングな70代!。齢を重ねたが故の引出しの広さ、凄み、そして業の深さ(笑)。今回も名演。


お話が進み、二人が南下するに従い、画面の光が明るくなってきます。晩夏のフロリダの陽光の中で二人が最後の力を振り絞るかのように今現在の自分たちの人生を目いっぱい味わいます。この歳になっても、やはり人生は苦く、時には甘い。人生最後の旅にも新しい発見がある。劇中 ジャニス・ジョプリンの『ミー・アンド・ボビー・マギー』が何度か流れ、『自由というのは何もないこと』というフレーズが何度も繰り返されます。
●時々エラは電話をするだけで、長男と長女(2枚目)には場所は教えません。


表面だけ見ると気が重くなるような結末ですが、これはハッピーエンドです。本人たちは幸せだったし、子供たちも納得して受け入れた。こういう人生の幕引きもありかも、とまで思わせる。さすがイタリア人監督、人生に対して正面から向き合いつつも、受け止め方が多層的です。単細胞なアメリカ人には描けない表現です(笑)。そういえば、ヘミングウェイの最後は猟銃での自殺でした。そういうところまで良くできている作品です。
●フロリダの明るい陽光は、どことなく終わりを感じさせます。折しも晩夏です。


見終ってから余韻がまだ残っています。自分に置き換えたらどうなのか、考えこまずにはいられません。見て楽しくなるようなテーマではありませんが、深く心に残るのはロマンティックな映画になっているからでしょう。見事な作品だと思います。