特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『いま語らねばならない戦前史の真相』と『昭和天皇実録の謎を解く』、それに0508 再稼働反対!首相官邸前抗議

5月になって爽やかな陽気になったけど、勢い余って暑さすら感じます。風邪をひいている人が大勢いる。連休は銀座、渋谷、新宿と外国人観光客の姿を大勢見かけました。青山とか自由が丘にはあんまりいなかったけど(笑)。大阪なんか西成の木賃宿からリッツ・カールトンまで外国人観光客でホテルが全然取れないという話も聞きました。円安だからなあ。お金を落としてくれるのはありがたい話だ。


昨日 日本学や歴史学など米国を中心に著名な研究者187人が「日本の歴史家を支持する声明」(Open Letter in Support of Historians in Japan)と言う文章を出した。ジョン・ダワー先生やノーマ・フィールズ先生にテッサ・モーリス・スズキ先生、入江昭エズラ・ヴォ―ゲルまでいる。サービス終了のお知らせ 新聞には原文も原文のURLすら見かけなかったが、探して読んでみた。*原文→https://networks.h-net.org/system/files/contributed-files/japan-scholars-statement-2015.5.4-jpn_0.pdf まさに『慰安婦問題を避けて通るな』がテーマだが、非常にバランスが取れて、尚且つ事実に基づいた、建設的な文章表現だ。朝日新聞は爪の垢でも煎じて飲め(笑)。まともな判断力さえあれば、どんな立場の人が読んでも文句が言いようがない文章だ。勉強になりました。


最近読んだ歴史本の感想を二つ。
まず、『いま語らねばならない戦前史の真相

いま語らねばならない戦前史の真相

いま語らねばならない戦前史の真相

孫崎氏は退官直後の日米同盟の正体『戦後史の正体』は感心することが多かったが、訳の分からない陰謀論も多くて、『この人の話は話半分で聞かないと危ない(笑)』とも感じた。最近は遠ざかっていたが、今回は元一水会鈴木邦男氏との対談なので手に取ってみた。
                                                 
本の内容は明治維新から太平洋戦争敗戦までの歴史を述べたもの。孫崎氏が主に語り、鈴木氏が突っ込みを入れる形で進んでいく。個人的に目新しい話はあまりなかったが、孫崎氏が『今 原発を維持しようと必死なのは役人や電力会社の利害だけでなく、銀行が電力会社に貸し付けている11兆円があるからだ』、と指摘していたのは鋭いと思った。
だが孫崎氏は相変わらずわけの判らない発言も多い。根拠を明示せずに『真珠湾ローズヴェルトの陰謀』とか(他でもアホがそういうことを言っているが、さすがに鈴木邦男氏は異議を唱えている)、『ゾルゲ事件アメリ共産党の陰謀』(笑)とまで断言しているのを見ると、やはり、この人の脳味噌は大丈夫か〜と思ってしまう。本人が『思う』と推測しているものは構わないんだけど、思い込みを根拠も挙げずに断言している話が多すぎて疲れる。やっぱり大丈夫か、この人。
                                              
一方 鈴木邦男氏の発言は公安に狙われた話など基本的には自分の体験談なので、納得できるものばかりだ。彼が東條由布子東條英機の孫娘。議員に立候補したことがあるゴリゴリ右翼)から直接聞いたという、『戦前 国民から東條英機宛に送られてきた『なんでアメリカと戦争をしないんだ』という抗議の手紙の大量の束が今も家に残っている』というのは非常に面白かった。鈴木氏は、そういう盲目的な愛国心が国を滅ぼすのだ、と言う。そして今 国民の間にそういう雰囲気が醸成されているのではないか、とも。
●毎度お馴染み日本人ジョーク

                           
リベラルな?孫崎氏も右翼の鈴木氏もどちらも対米自立が根底にあるところが面白い。だが、へそ曲りなボクは最近出てきた対米自立論は理解はできるけど、今は距離を置こうと思っている。自立は結構だけど、今の自立論の多くは自立してどうするの?というところが欠けているからだ。日本という国家に対して無自覚と言っても良い。まるで、『安倍晋三みたいな売国政治家を放逐すれば、それだけで日本はhappy〜(はーと)』みたいに聞こえるのだ。そりゃあ、少しは良くはなるだろうけど(笑)。
それと引き換え、この本の中で鈴木氏が『日本は国家としての資格がない戦争などできるはずがなかった。』と指摘しているのは流石だ。それは近代の国民国家成立のための国民統合のシンボル、ストーリーが日本にはないからだ。アメリカもイギリスもフランスも北欧もイタリアも、近代に成立した国民国家は統合のためのシンボルやストーリーを持っている(ボクは例外を思いつかない)。だからこそ明治政府も君が代だの日の丸だの靖国だの、統合のシンボルを粗製濫造したが、所詮は役人のでっち上げ(笑)。天皇をシンボルに、という意見もあるかもしれないが、所詮は他人の家の話(笑)。ドイツのメルケル首相は戦後70年の記念式典で連合軍兵士に感謝の意を述べた。『ドイツ人も敗戦でナチスから解放された』という統合のシンボルとなる物語を強化するのに必死だ。フランスのような共和国は勿論、イギリスのように立憲国家として形式的に王政を維持するにしても、宗教や独裁なしに国家が成り立つには清教徒革命や名誉革命のような国民自らの物語が必要なのだろう。

そもそも対米自立するにしたって人材の問題がある。対米従属が省是?のような外務省は別にしても、古くは宮沢喜一のような政治家、今の企業でも官僚でも、頭がいいと思うような人の多くはアメリカ留学や外資系企業を体験している(留学はアメリカが意識的に仕掛けてきたことでもある)。この人達が全員従米というわけではないが、基本的には親米だ。一方 対米自立を言っている人たちの多くは孫崎氏のような怪しげな陰謀論がベースだ。そりゃ、勝負にならない(笑)。対米自立を説くなら、数十年単位で人材の育成をどうするか、から始めないと。
鈴木氏の話は面白かったが孫崎氏の話はやっぱり『話3分の1くらいにしておかないと危ない』(笑)、と言うのが感想。堤未果みたいなデマゴーグよりはマシだが、時間が勿体ないので、孫崎氏の本はもういいや(笑)(*それでも『日米同盟の正体』は素晴らしい本だと思います、念のため)。

                                      
もう一つ、『昭和天皇実録』の謎を解く

昨年 宮内庁から正史として発表された『昭和天皇実録』を半藤一利、保坂正康を中心に磯田道史御厨貴などが座談会形式で読み解いたもの。訳の分からない陰謀論は唱えない人たちだ(笑)。流石に全60巻の実録を全部読むなんてことはできないので、便利な本だと思って読んでみた。実録は基本的に昭和天皇の立場を自己弁護するための本であるのを踏まえた上で(ここがポイント!)昭和天皇の幼少期から昭和初期、開戦直前、戦中、終戦、戦後と、お互いが感想を述べ合う形になっている。新書なので気楽に読めたが、特に以下の点は面白かった。

東京裁判で有罪となったA級戦犯への祭祀料下賜は行わないよう天皇が指示を出していること
昭和天皇A級戦犯への不快感は以前から富田メモなどでも述べられているが、これはそれを裏付けている。しかも『議論すら必要なし』という強い意志が示されている。
・軍部の大多数にとって国体護持は『軍は武装解除されない』、『戦争犯罪人免訴』、『賠償金は払わない』ことだった。一方 天皇にとっては『皇祖皇宗の継続』、『三種の神器保全』だった。
→どちらも自分の事しか考えていなかった(笑)。
・軍部は天皇に戦争の正確な情報を報告しておらず、天皇アメリカの短波放送で戦況を確認していたこと
・戦後 皇太后が皇宗に申し訳ないとして、昭和天皇に退位を迫ったこと
靖国神社へのA級戦犯合祀を受け入れた宮司松平永芳を、天皇が『大馬鹿』と発言したこと
・戦争中も昭和天皇ダーウィンリンカーンの肖像を飾っていたこと。

この本の中では終戦直前、米軍が中京地区へ上陸して来たら伊勢神宮に避難させた3種の神器が危ない、という話に昭和天皇が真っ青になったという話を紹介している。天皇が本気で終戦を決意したのは、国内革命を怖れたから(この本でも吉田茂近衛文麿が『陸軍の中央は親ソ派の共産主義者で、このままだと彼らが共産主義革命を起こす』という上奏をしたエピソードがでてくる)とか、高松宮と交代と言う声が出てきたから(全米図書賞を取ったハーバート・ビックスの『昭和天皇』)とか色んな説があるが、徹頭徹尾 国民のことをメインに考えているわけではない、のが面白い。
感想として、天皇はかなり立派な教育と帝王学を受けている(例えば『リーダーは人前では好き嫌いを出してはいけない』なんてことを子供の時から仕込まれている!)、また、当然のことながら自分の家の継続しか考えていない(それが悪いと言っているのではない。普通の人間なら当たり前のことだ)、のが印象に残った。時代の波に押し流されながら、昭和天皇は一人の人間として自分の役割(皇宗の護持)を懸命に果たそうとしていた。ただし、それが国民の生命や利益と全て合致しているかどうかは別だ(笑)。面白く読める、興味深い本だった。


                            

と、いうことで、今週も官邸前
午後6時の気温は22度。もう、めっきり夏の陽気だ。陽が高い。今日の参加者は官邸前600人くらい、国会前他で600人くらい、併せて1200人くらいだろうか(主催者発表1300人)。
●抗議風景









                                                   
先週 経産省が発表した電力コストとエネルギーミックス案のことに触れたけど3月の実質賃金と電力コスト試算、0501 再稼働反対!首相官邸前抗議 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)、その案に関して、経産省総合資源エネルギー調査会原子力小委員会の委員の吉岡斉九州大学大学院教授の話が面白かった。経産省案「原発比率20~22%」は非現実的だ | 原発再稼働の是非 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
経産省案は『電力コストの計算は信頼性が低いし、原発比率20〜22%も非現実的だ』と評しているのはうなずけるが、更に吉岡教授は原発の将来についてこう言っている。
原子力規制委員会の安全性審査をより厳しくする前提で既設原発の再稼働は中期的に認めたうえで、2027年ごろまでに原発ゼロを目指すべきだと考えている。即ゼロにすると(設備の一括償却に対する)補償金で国民負担が多大になりかねない。そこで、1997年以前に建設された原発については運転30年で建設費を回収したうえで廃棄する。1998年以降に建設された原発は5基だから、その程度であれば補償金も少なくて済む。

廃止コストまで考慮した脱原発の意見を聞いたのは久方振りだ。ちょっと、ほっとしましたよ。即原発全廃って言うだけなら簡単だ。命が大事だからと、コストや原発立地のことも考えずに即原発廃止なんて共産党でも言える(笑)。事故からもう、4年も経ったんだからなあ。
原発&核燃料の電力会社の簿価分 5兆円を増税して補償金に回し、即原発廃止を目指すのか』、もしくは吉岡教授が言うように『27年頃まで我慢して使い続けて最低限のコストで脱原発を目指すのか』 いい加減、こういう冷静な議論が拡がっていけばいいのに。それができないのは政府や電力会社だけでなく、野党や脱原発を目指す側にも大きな責任があるだろう。事故当初なら仕方がないが、『命が大事』なら、そろそろ頭も使うべきだ。そうでなければ、東條英機に『即時アメリカと開戦しろ』と抗議の手紙を送った昔の国民と変わらないよ(笑)。

●国会前