特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『雇用の話』と映画『博士と彼女のセオリー』

昨日 渋谷で映画『インヒアレント・ヴァイス』(面白かった)を見に行ったら、上映館の前を日の丸や日章旗を掲げたデモが通り過ぎました。大体300人くらいだろうか。自主憲法がどうのこうのわ〜わ〜言ってました。アメリカに押し付けられたからと言って何で憲法を変えなければいけないのか、ボクにはさっぱり理解できませんが、少人数とはいえ、こんなデモがお天道さまの下を歩いているようじゃ世の中も変わってきているのか、と思いました。確かにいわゆる護憲派憲法9条を守れ』と言ってるだけなのもさっぱり説得力はないと思うけど、自主憲法と言っているだけなのも思考停止にしか見えません。慶應憲法学教授、小林節は『あんな改憲派、トンデモナイ奴だ』とボクが学生の頃 散々悪口を言われていたが(言ってたのは主にボクですが)(笑)、今は彼が良心的な論陣を張っているように見えるくらいです。
憲法だけに限った話ではないが、原発集団的自衛権理屈を尽くして議論をしないまま、世の中が進んでいくように見えます。それは政治家の資質の問題でもあるが、対抗する側の問題でもあります。マスコミや野党だけでなく、理屈を尽くして議論をしないのは一般国民にも共通しているのではないでしょうか。安倍晋三が何か言いだす度に、ついさっきまでの問題がまるで川に流されるかのように、国会の議論やマスコミからあっさり消えてしまう。結果として無責任な政治家に国民は踊らされている。我々はもっと賢くならなければいけない、とつくづく思います。



先週金曜は賃金統計だけでなく雇用統計も発表されました。ボクには実質賃金の22か月連続低下より、こちらの方が衝撃的でした。マスコミは相変わらず『雇用が改善されている』とか言っているが有効求人倍率、3月横ばいの1.15倍 失業率改善3.4% :日本経済新聞、実際は驚くべき結果です。具体的には役所が発表した『労働力調査』の中身を見て、アベノミクスが始まった2013年1月と直近の2015年3月と雇用者数の増減を比較してみます。
●年代別雇用者数の増減(2013年1月と2015年3月比較)(単位=万人)

青棒が雇用者全体の数、茶色の棒が正規雇用者の数、緑の棒が非正規雇用者の数。
アベノミクスが始まった当初から、全体では雇用者の数は78万人増えているが、正規雇用は65万人減り、非正規雇用は150万人増えています。非正規雇用だって増えないよりはマシだが、今の労働環境が改善しているとはお世辞にも言えません。更に問題があるのは年代別の内訳。雇用者数、正規/非正規雇用が大幅に増えているのは65歳以上の層です。高齢化の問題もあるが、この年代は企業にとって雇用延長などで給与が安くて済むのも関係しているに違いありません。
もっとも問題なのは働き盛りの25歳〜34歳、35歳〜44歳の層です。この層は正規雇用が大幅に減少してトータルの雇用者数まで減っている。非正規雇用だって大して増えてない。特に25〜34歳の層は絶望的です。今日もTVニュースで少子化が進んでいるとか言ってたが、こんな状況で子供が増えるわけありません。
正規・非正規の問題だけでなく、若い人に職がないということも大きな問題なんです。カネをじゃぶじゃぶ垂れ流して物価上昇を人為的に起こそうとするアベノミクスは株や土地など既に資産がある人間には有利ですが、自分の労働だけで生計を立てなければならない中間層以下の人間にとっては厳しい政策です。即ち、アベノミクス多くの若い人にとっても厳しい政策ということが良く判ります。国民の実質賃金は減り、若い人の職は減少し、待遇の悪い雇用だけが増えた。これがアベノミクス2年間の結果です雇用が改善された、なんてバカじゃないの?このままじゃ改憲とか集団的安全保障とか、それ以前に日本が沈没するんじゃないでしょうか。


さて、それほど期待しないで見に行ったのは映画『博士と彼女のセオリー』(原題:The Theory of everything)
今年のアカデミー主演男優賞(エディ・レッドメイン)受賞。

ブラックホールの研究で名高い、難病で全身不随の科学者スティーヴン・ホーキング博士の半生を描いたもの。
クレジットにもあるが、お話は博士の元妻であるジェーンの回顧録が元になっています。半生というより夫婦生活に焦点を当てたもの、という紹介が良いかもしれません。

スティーヴン・ホーキングは大学院在学当時 文学部の博士課程に居たジェーンと知り合う。やがて二人は恋人同士になるが、ホーキングは全身の筋肉が弛緩していくALSを発症し、余命2年を告げられる。自暴自棄になったホーキングだが、ジェーンは余命が短いからこそ結婚するとして、周りの反対を押し切って結婚、子供まで作ってしまう。
●若き日のホーキング博士とジェーンとのデート。最初はロマンティックなラブストーリーだ

ホーキングのALSは悪化して全身が動かなくなり、瞬きでしか意思表示できなくなります。だがジェーンの助けもあって研究を続け、ホーキングは世界的な学者になり、3人の子供にも恵まれます(*劇中 全身の運動神経とは神経系統が違うという説明がある)

ホーキング博士役のエディ・レッドメインはアカデミー主演男優賞だけあって流石に大したもんだ。言葉は殆どしゃべれない、表情がマヒしている、身動きもだんだんとできなくなる、という設定の中で凄い演技をしている。カメラが回っている間中 マヒしている表情を作るだけでも常人にはできるもんじゃありません。

一方 ジェーンは子供の世話とホーキングの世話とに追われるうちに自分の人生を考え直し始めます。それを察したホーキングは思い切った行動に出る。実話ではあるんだけど、この映画が凡百の恋愛もの・難病ものと違うところはここからです。ジェーンは自分の人生、キャリアや身体的なことも含めた愛情生活をも考え始める。ホーキングの天才には及ばないにしてもジェーンも博士課程を目指していた優秀な頭脳の持ち主だし、生身の人間です。人間には自分の幸せを追及する権利がある。

                                           
映画ではホーキングは社会主義者無神論者、ジェーンは敬虔なイギリス国教会の信者として描かれています。その二人が如何にお互いを認め、如何に決別を告げていくか、がこの映画の見所でもあります。
やがてホーキングも介護をしてくれていた女性に心を移し(これもすごい)、結局 ジェーンとは離婚する。それ以降も二人は良い友達であり続け、ホーキングがエリザベス女王から勲章を受ける際 同行を頼んだのはジェーンだった。

ホーキング博士の伝記というより、これは大人のラブストーリー。ほろ苦くもあるけれど、苦くないラブストーリーなんか世の中に存在するのだろうか?良くできたラブストーリーはなかなか面白かったです。人間の可能性のすばらしさを描いた良い映画です。