特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

悪意に関する映画について:映画『セッション』と『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

今日 家への帰り道 駅頭で共産党系の団体が安保法制への抗議を訴えていた。タイムリーに抗議の声を挙げられるところは共産党の良いところだと思った。さすが上位下達の組織ってことか(笑)。世論調査を見ても安保法制への反対が多数なはずだ。それなのに国民へのまともな説明なしに勝手にどんどん進んで行く。意味あることが何もできない我が身が虚しい。NHKの世論調査では内閣支持率は依然51%もある。最も多い支持理由は『他より良さそうだから』だった。安倍晋三のような奴がのさばっているのも、結局は信頼に足る野党がない、のが問題らしい。それは訳の分からない政治家に投票したり選挙に行かない国民の側の責任でもある。原発を止めるのにはコストがかかるのと同じように、民主主義にもコストや手間もかかるってことなんだろう。

                      
今度の日曜は大阪都構想住民投票だそうだ。ボクは都構想の内容は全く興味もないし、知らないので、とやかく言う気はない。大阪の人に言わせると、確かに大阪府大阪市の公務員はたるんでいて酷い、という話も聞く。だが、働く人が同じなのだから、府を都にして市を区にしても問題が解決するとも思えない。以前 大阪の地域経済のアドバイザーとして橋下に招へいされた人に会って話を聞いたことがあるけど、その人自体は常識的でマトモだった。だが議員にしろ、区長にしろ、教育長にしろ、維新の連中はロクでもない奴ばかりだったことを考えると、そんな連中が何かやるんだったら何もしないほうが良いのも間違いない(iireiさん曰く『Do Nothing』「Do Nothing」(都市工学用語)は文明批判の証し - 虚虚実実――ウルトラバイバル) あんな連中だったらパンダに市長をやってもらった方が遥かにマシだろう。
問題なのは都構想の住民投票で勝利したら維新の連中が国政へ出てくると言ってることだ。そんなことになると改憲とかロクでもないことを言い出すだろう。それだけは勘弁してくれよ。橋下の害悪は大阪だけにしておいてください(笑)。大阪の人たちの良識を期待しています。
                                                                                          
さて、人生を過ごしていく中で、どうしても避けて通れないものに『悪意』というものがあります。他人が自分に向けてくるものもあるし、自分が他人に向けるもの、自分が自分自身に向けるもの、さまざまなものがある。基本的には誰かに悪意を向けると自分に跳ね返ってくるものですが、時には謂れのない悪意が自分に向けられることもあります。そういう悪意を乗り越えていくことが活力源になる人もいるかもしれませんが、そんな根性がないボクはどうしても悪意から逃げ回ることが習慣になっています。いい歳こいて、ボクが人付き合いに積極的になれない理由もそこにあります。人付き合いから時折感じる喜びより、悪意から受けるダメージのほうがどうしても大きく感じてしまう。そうやっていると人生から得られるものは少ないかもしれないが、投入するエネルギーも低いしリスクも低い。つまり省エネ人生(笑)。そうしていれば、老子が言うように少なくとも心の平静は保ちやすい。それはそれで合理的なんだけど、人生に対して正面から向き合わないことでもある。人生の半分を折り返すとそれでいいのだろうか、と時折 思わないでもありません(笑)。
                     
                                                     
そこで社会勉強のための『悪意の物語』を2つ(笑)。どちらもアカデミー賞絡みで話題の作品。ともに悪意、ニューヨーク、ドラム、色んな記号が共通していたのは面白かった。
まず、映画『セッション』(原題:whiplash)

舞台はニューヨーク。全米屈指の音楽学院に入学した主人公。有名教官のジャズ・バンドでレギュラーの座を射止めることを目指すが、教官は常軌を逸した特訓を課してくる。


たった3億円の製作費で大ヒット、それに教官役のJ・K・シモンズがアカデミー助演男優賞を取ったことで話題の作品。また日本公開に当たっては『素晴らしい作品』とする映画評論家の町山智弘と『ジャズが判ってないクソ映画』とするジャズミュージシャンの菊池成孔の論争が話題になったばかりだ。
J・K・シモンズ先生。顔は怖いがカッコいい。

                                              
教官のいじめがあんまり怖いのは嫌だな、と思いながら、見に行った。人間の悪意を見せつけれられるような作品はやっぱり気が重いから。
だが、杞憂だった。鬼特訓のシーンもな〜んともない。それは主人公が死ぬほどイヤ〜な奴だからだ(笑)
●主人公。中産階級出身の18歳

      
この主人公は自分のことしか考えないし、音楽も名誉や自分の達成欲のためにやっているような奴だ。おまけにバカ。性格も頭も驚くくらい悪い。せっかく自分から声をかけて可愛い女の子と付き合い始めたのに(笑)、自分のドラムの練習時間が減ると言ってあっさり捨てるようなことをする。これほど思い入れが持てない主人公も珍しい。文字通りのカス野郎だ。
●フツー、こんな可愛い子を練習の邪魔になるとか言って、振るか?(怒)。

だからこそ、この映画は落ち着いて見ることができる。こんな奴が苛められても何とも思わないから(笑)。特訓シーンは確かに迫力がある。J・K・シモンズの理不尽なシゴキのシーンはやっぱり凄い。顔がマジで怖いんだもん(笑)。演出も上手い。最初はドヘタだったドラムが段々うまくなっていくのが作中うまく表現されているのは感心した。ジャズミュージシャンの菊池成孔この映画は音楽の『グルーブ』や『アンサンブル』が表現されてない、という批判をしていて、確かにそれはその通りだが、主人公はトコトン嫌な奴で最初から他人と音楽を作ろうなんて気はないんだもん。それはそれで、いいのかもしれない。

今年見た『はじまりのうた』は監督も出演者も音楽が大好きで、音楽のマジックで救われる人物像を見事に描いていたが、この映画はそうではない。音楽を利用しようとした男二人の愛憎を描いた作品だ。監督は音楽に対して悪意があるんじゃないかと思えないでもない。それ自体は個人の価値観だから悪いとは思わないが、かといって、それが良いとも思わない。音楽が大好きなボクとしてはいや〜な主人公と適度な距離感が保てて良かった、というだけだ(笑)。

この映画の最後のシーンは確かに息を呑むほど凄いし、一見の価値はある。だけどジャズというより、派手なおかずを入れればいいというメタル(笑)みたいなドラムだし、『オーケストラ!』の最後のシーンのように演奏そのもののカタルシスもない。この音楽では人間は救われない。

オーケストラ! スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

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だけど演奏自体はあまりにもバッチリ決まっているから感動する人は多いと思う。すごい。そして音楽を利用しようとした男二人は結局は音楽のマジックにひれ伏すことになる。
音楽に対して思い入れがある人(笑)が見たらムッとするかもしれないけど、それほど悪い映画ではない。脚本は結構いい加減だけど、それ以外は完成度も高い、良くできたエンターテイメント映画です。ボクとしては心理的なダメージもなく、軽く楽しめる小品でした。

                                                         
                                              
次は新宿で『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

かってアクション映画『バードマン』の主役として大スターだった主人公。再起をかけて自ら主演・脚色のレイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』を演劇にしてブロードウェイで演じようとしている。そんな彼を、腕利きだが性格が悪い共演者、辛口の批評家、麻薬中毒からリハビリ中の娘などが取り巻く。無事に彼は初日を迎えられるだろうか。

今年のアカデミー賞を総なめにした、要するにブラックコメディ。オープニングは60年代のゴダールみたいな、黒字にアルファベットが徐々に浮き出てくるタイトルロールで始まる。劇中の音楽は伴奏なしのドラムソロが中心。軽快なリズムに載せてお話が進んでいく。シンプルで軽快で、実に恰好いい。画面はワンカットで撮ったかのような映像が時間が離れた場面でも連続しているかのように思わせながら進んでいく。映画自体がまるで劇中劇のようだ。時折挿入される夜景や青空などの光景も大変美しい。とにかく非常にスタイリッシュな作品だ。ハリウッドのゴシップやロラン・バルトなどの固有名詞が頻発するスノッブさに嫌味を感じる人もいるかもしれないが、それも計算ずくだろう。
●父と元ヤク中の娘(エマ・ストーン

                                    
描かれるのはかっては大スターだった男の悲喜劇。惨めな中年男のボヤキが周囲の勝手気ままな行動で拍車がかかる。かってバットマン役をやったマイケル・キートンは勿論 主人公に重ね合わさって見える。ネタとしてはセコイけど、タイムズスクエアを闊歩するブリーフ姿も素晴らしい。

Mr.オクレによる映画のPR@大阪。Mr.オクレという人にボクは何となく親近感を感じてしまう(笑)。

(c)2014 Twentieth Century Fox
                                       
エドワード・ノートンは実に良かった。男前で演技力があって、それでいて嫌味で下衆な役者役というのは彼のハンサムな外見にはぴったりかも(本人は立派な人らしい)。ウディ・アレンの新作で可憐な姿を見せていたエマ・ストーンの元ヤク中役も良かった。映画のラストシーンが彼女のアップなのも、それに耐えうるだけの演技をしているからだ。
●やたらとブリーフ姿が目立つ映画ではある(笑)


                                      
と、言う感じで、スタイリッシュさの中に自虐的な悪意を散りばめたブラックコメディを楽しむ2時間。ここで描かれているのは人間そのものへの悪意であると共に、人生が過ぎていく中で多くの人が味あわなくてはならない悲哀に対する悪意でもある。人生を笑い飛ばす、こちらの悪意には共感できる大人は多いかも。お洒落で都会的センスに溢れた面白い映画です。ただ1時間半だったら、もっと良かった(笑)。
PS.こちらの感想もご参照を。かの『ビリギャル』との共通点ってなんでしょう?(笑)『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(原題:Birdman or The Unexpected Virtue of Ignorance)劇場鑑賞 - Stantsiya_Iriya