特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『シチリアの奇跡』と『四川フェス』

 昨晩発表された1~3月期のGDPのニュース、個人消費のマイナスが1年続いたのは15年ぶりだそうです。

 昨今の物価高を考えれば頷ける話ではあります。これもアベノミクスの円安の祟りですが、たとえ政権交代したってどうにもならないんですよね。金利を上げれば円安は是正されるでしょうけど、そうすれば景気も悪くなるし、国債の利払いも増える。

 賃金を上げながら、時間をかけてそろりそろりと金融を引き締めて円安を抑え、物価高もゆっくりと抑えていくしか手はありません。今の状況を10年くらいは続けるしかない。日本にとって安倍晋三はまさに貧乏神みたいな奴でした(笑)。


 さて、ゴールデン・ウィークのベランダ読書の感想第2弾です。『シチリアの奇跡

 著者の島村菜津氏は東京芸大卒なのにノンフィクション作家になったという珍しい人。イタリアのスローフードという概念を恐らく日本で始めて紹介した名著『スローフードな人生!』の著者でもあります。

 『スローフードな人生!』は20年以上前に書かれた本ですが、この本で紹介されている『イタリアのスローフード運動は元共産党の運動家たちがトスカーナ地方で始めたもので、ファストフードを否定して手作りのうまいものを食べるだけでなく、地産地消や時間をかけてゆっくり食事をする行為そのものが資本主義に対するアンチテーゼ』という考え方はボク自身、とても影響を受けました。

 今作はイタリア最南端の島、マフィアの本場としても有名なシチリアについて現地取材したものです。アマゾンの紹介文と本の帯を貼っておきます。


 かってシチリアはマフィアの島として恐れられていました。WW2後 マフィアは合法・非合法の利権を貪りながら、取り締まろうとする警察幹部、軍隊の将軍、裁判官、知事などの政治家を買収したり、殺害していました。内部のことは絶対 外部には喋らないという鉄の掟があったため証言が得られず、国家も手を出せなかった。現在のイタリア大統領マッタレッラの兄はシチリアの知事でしたが1980年にマフィアに殺されています。戦後7回も首相を務めた政界の大立者、アンドレオッティまでマフィアとグルだったんです。

 しかし、この映画↓で描かれたマフィア幹部の初めての証言と民衆の怒りによって90年代以降 マフィアは次々と捕まり、現在は表面上は壊滅状態に追い込まれています。

spyboy.hatenablog.com

  この本はシチリアでマフィアが興隆した理由、そして草の根の人々がマフィアを追い込んでいった経緯を描いています。

 シチリアでマフィアが盛んになったのはWW2でアメリカ軍がシチリアに上陸する際 マフィアを利用したからだそうです。戦前 貧しいシチリアからは大勢の移民がアメリカへ渡っていました。そのコネクションを使って、マフィアに連合軍の手引きをさせたのです。
 戦後も連合軍は治安維持などでマフィアを利用した。その結果 誰もマフィアに手を出せなくなり、中央政界にも手を伸ばすようになった。

 著者はこの本↓を引用して、イタリアでマフィアが政治と結びついたのは、日本でヤクザが政治と結びついたのと共通している、と言っています。日本のヤクザのことはよく知りませんが、スト破りや60年安保などのデモ対策で資本家や政治家がヤクザを利用したのは有名な話です。

 更に著者はシチリアは沖縄とよく似ている、と指摘しています。
 辺境であるシチリアも沖縄も連合軍に真っ先に占領され、政府の目が行き届かなくなった。沢山の米軍基地が押し付けられ、産業構造が歪んでしまった。構造的な貧困の中でマフィアやヤクザが幅を利かした。イタリアでも日本でも戦後の歪みが辺境に押し付けられた。
 非常に鋭い指摘だと思いました。

 シチリアと沖縄だけでなく、イタリアと日本の政治は非常に似ています
 どちらも同じ時期に国民国家が成立した。イタリア統一と明治維新は同時期です。そして、どちらも同じWW2の敗戦国。
 ただしイタリア人は連合国への降伏後 占領したドイツ軍と血みどろになって自ら戦いました。同時に独裁者のムッソリーニを自らの手で処刑し、王政も廃止した。自分たちの力でWW2の落とし前をつけた。一億総ざんげという無責任に逃げ込んだ日本人とは大きく違います。

 戦後も社会党と馴れ合った保守の長期政権が90年代初頭まで続いたのも日本と一緒です。
 米軍基地が国内に沢山あり、不利な地位協定を結んでいるのも一緒
 ただし、イタリア(NATO)のアメリカとの地位協定の状況は日本とは異なります。どちらも条文上は平時には米軍にも国内法が適用されます。ただし米軍が訓練なども有事と言い張れば、米軍には国内法は及びません。
synodos.jp

 しかし地位協定の運用は異なります。イタリアでは98年に海兵隊の飛行機が低空飛行してロープウェイのケーブルを切って20人の犠牲者が出た際は世論が激昂し、その結果 両国の合意で飛行高度や低空飛行回数の制限が行われました。米軍がイタリア当局に毎週 飛行機の訓練計画を提出しなくてはならないことも決められています。日本なんか世田谷区の住宅地でも米軍が勝手に低空飛行してますからね。

 イタリアはNATOの一員として、米軍と立場上は対等に集団的自衛権を行使するということもあるでしょう。イタリアは核シェアリングも行っているし、日本と異なり、アメリカに防衛を依存しているという関係ではない。
 結果として、イタリアでは地位協定の運用改善は行われている。

https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/017/466/italy03.pdf

 ちなみに、ドイツでもベルギーでも地位協定の運用改善は行われています。少女が米軍の装甲車にひき殺された韓国でも民衆の怒りが爆発して、在韓米軍の地位協定は米兵の逮捕や賠償の項目が変更されています。これらの国は全てアメリカと集団的自衛権を結んだ関係です。

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000451_po_022015.pdf?contentNo=1
https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/017/466/kankokugaiyou.pdf

 
 イタリアでは冷戦後 社会党共産党が解党し大同団結?して中道左派の『オリーブの木』を形成、左翼が現実的な政権担当能力を示しているところも日本とは違います

 一方 ベルルスコーニのように安倍晋三と同じアホなポピュリズム右派政治家が長く政権を握ったり、五つ星運動のような山本太郎と同じアホなポピュリズム政党が台頭したのも、日本とイタリアは似ています。現在イタリアの議会は中道右派が多数派で、首相は極右(ある程度は現実的ですが)、大統領は中道左派という状態です。


 ボクは他山の石というか、イタリアの状況は非常に参考になると思っています。
 日本もイタリアも政治的な状況は似ており、政党があまり機能していないのも同じですが、イタリアは市井の人々が自分たちの力で社会問題を解決しようという機運が日本よりはるかに強い

 前述のスローフード運動が典型です。
 かってのトスカーナはまがい物の作物や食品も多い、衰退した田舎だったそうです。そこを一部の農民たちとスローフードの活動家たちが農作物をブランド化し、原材料や製法が認証されたハムやワインなど手作りの美味しい食べ物の生産とライフスタイルを実践することでトスカーナは世界的に憧れを持たれる観光地に生まれ変わった。

 先週書いた、キアニーナ牛が良い例です。農民たちが自ら出荷制限や通常の1.5倍以上の期間をかけてゆっくりと飼育して、ブランドと品質を大事に守っている。ちょっと高いけど、あれくらい美味ければ全く文句ない(笑)。

 日本の農業のように米作への補助金頼みだったり農協頼みといった他力本願と企業への参入規制を続けた結果、事業者の平均年齢が70歳近くになってしまい今や風前の灯、というのとは訳が違います。

 この本でも人々の自律した動きが描かれています。マフィアの幹部が捕まった後もシチリアの日常生活にはマフィアが根付いていました。最近問題のオリーブオイルなどの産地偽装にも関わっているそうです。
 観光業やレストラン、農業などシチリアの主要産業にはマフィアが影響力を保ち、『みかじめ料』を徴収していました。国家予算の1%にも及ぶ額ですから半端ではない。

 それに対して若い観光業者や農業者、商店主たちがみかじめ料支払い拒否の運動を始めた。彼らは危険にさらされましたが、今度は地元の人々が彼らを守った。子供たちまで反マフィアのデモをしたり、みかじめ料拒否の若者たちが団結して仕事を回しあって商売を広げ、行政や一般の人々もそれを応援した。

 現在では運動はさらに発展し、接収されたマフィアの土地を使って有機農業を若者たちが行うようになっています。今やシチリア島有機農業の先進地になったそうです。
 それでも口で言うほど良い話ではなく、様々な困難もあったし、現在もマフィアは隠然とした力を保ってはいます。しかし、かってのように気に入らない人間は全て殺す、といったことはできなくなりました。
 
 似たような政治状況にあって、イタリアと日本との違いは人々が自らの問題は自らで解決する姿勢、だと思いました。役所や政党任せではない。
 ムッソリーニを自分たちで処断したことに始まり、アメリカとの地位協定の運用改善も、イタリアの左翼が政権担当能力を持つ政党に生まれ変わったのも、マフィアの土地から有機農業への先進地へというシチリアの歩みも、自分たちの問題は自分たちで何とかする、という同じ流れの中にあります。イタリア人の自律性と現実性って言えばいいんでしょうか。

 日本人だって不平は漏らすけれど、自ら現実的な解決策を造ったり実行した例は少ない。
 日米地位協定だって不満の声はあるけれど、国民の大多数は怒らない。政府も野党も市民の間でも防衛政策の議論だって起きない。そればかりか、アメリカから指摘を受けている代用監獄など前近代的な司法制度を改革しようともしない。『代用監獄のような野蛮な制度がある限り、兵士への裁判権なんか任せられる筈がない』というアメリカの言い分は尤もな話です。

 先細りになっている農業も商店街だって、自民党も産業従事者も参入規制や補助金などの既得権益を守ることに主眼が置かれていました。野党だって補助金をせびったり参入規制などの既得権益を守るだけで、政治家らも産業従事者からも将来の産業をどうするか、という産業政策なんか聞いたことがない。TPP反対論が典型です。

 政治の側も当事者たちも、自らの産業そのものの改革はおろそかだった。例外はあるにしても、トスカーナの人たちのようにブランドを守ったり品質を高めるために出荷制限までするような戦略は殆どなかった。国や県の農産物認証制度やブランド化なんて、つい最近始まったばかりです。そのような無為無策では日本の農業や商店街が落ち目になったのもある意味 自業自得です。

 軽く読める本ではあるのですが、勇気づけられると同時に、日本とイタリア、彼我の比較を考えると笑ってしまうような本でした。良い本です。

●江戸時代から続く総菜屋、弁松の卵焼きや煮物はまさにスローフード。甘じょっぱい江戸っ子の味は文化遺産です。


 先週末 中野で行われた『四川フェス』へ行ってきました。様々なガチ中華の店が麻婆豆腐を提供するというイベントです。
 ここ数年行われていたのは知っていましたが家から遠いので中々足が向きませんでした。今回は近くまで行く用事があったので、立ち寄ることができました。


meiweisichuan.jp

 場所は中野駅前の公園です。芝生が気持ちいいし、人もそれ程多くない。

 運営スタッフは諸葛孔明のコスプレをしています。ボランティアの人たちです。お客さんもチャイナドレスでコスプレしている人もいました。

 色々なお店が屋台形式で出店しています。


 味坊や陳家私菜など普段行く店は避けて、食べたことがないものを選びました。
 まず、ボクが食べたのは藤椒酸菜豆腐。酸っぱい漬物と唐辛子で作った豆腐煮込です。

 緑麻婆豆腐。上には青唐辛子が載っています。これは驚くくらい旨かった。

 屋外だし、出来立てという訳でもないので、料理は若干冷めています。店で食べた方が美味しいに決まってます。でも食べたことない味ばかりで中々良かったです。特に青唐辛子の緑麻婆豆腐は芝麻醤?のまったりとした味の中にピリッとした青唐辛子が効いていて、とても美味しかった。

 昨年 近くの駒沢公園でやっていた『クラフト餃子フェス』へ行って、高い、まずい、混んでいて座る場所もない、という商業主義にウンザリしたところです。
 こちらはまったりとした空気が流れています。ボランティアでやっている運営側も来ているお客さんもどこか緩い(笑)。いい感じです。商売ではあるけれど、各々が好きでやっている。これもまたスローフード的です。

 隣には中野サンプラザ。色々なコンサートを見てきました。取り壊して再建築が決まっており、今はもう立ち入り禁止です。まだまだ使えそうなんですけどね。勿体ない。これでSDGSがどうの、と言ってるんだからなあ。