特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

Eテレ『バリバラ 外国人技能実習生はいま・・・』と映画『愛と銃弾』

 昨日 日曜の夜 夜7時のNHKニュースにチャンネルを合わせようとしていたら、チャンネルを変える途中で映った隣のチャンネル、NHK E-TVから目が離せなくなりました。
 ニュースでは外国人観光客か何かの白々しい話が流れていたのに対して、E-TVの方では外国人実習生の女性が深刻な顔つきで話していたからです。
 『バリバラ』バリアフリー・バラエティ)という番組でした。

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www6.nhk.or.jp

 愛媛県の紡績工場で働いているベトナムからの実習生の女性は、表向きは工場で働いて婦人服などを縫う技術を取得することになっていました。
 しかし、実際は早朝から深夜まで分厚いタオルを縫い続ける長時間労働、休みは月2回しかない、残業代はまともにつかない。ちなみに彼女たちの月間の残業時間は約180時間、過労死基準の倍です。


 業務内容も労働時間ももちろん違法ですが、工場の社長からは『文句を言うと強制帰国させる』と脅かされています。彼女たちは実習生になるために借金を抱えています。また、決められた職場を移ることもできません。彼女たちが番組の中で言っていたように『家畜のよう』、『奴隷扱い』です。

 10年くらい前、ボクがベトナムへ行ったとき、工場に勤める現地の女の子が『私が子供の時は、ベトナム戦争の影響で多くのベトナム人が家畜と一緒に家の中で住まなくてはならない貧しい生活だった。しかし今は外資の工場が出来て、そんな生活から抜け出すことが出来た』と言っていました。
spyboy.hatenablog.com

ところが今、ベトナムの人が日本に来たら、家畜扱いだった過去に逆戻り、という訳です(怒)。
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 番組では、彼女たちの証言だけでなく、彼女たちが実際にスマホで撮った深夜労働の映像が流されました。違法労働の動かぬ証拠です。そのあと彼女たちは工場側から強制帰国させられそうになりますが、支援者と番組スタッフが工場に押しかけて、彼女たちを何とか保護することが出来ました。
番組は実習生だけでなく、経営者側の声も取り上げようとします。その点も公平な姿勢です、エライ。しかし、経営者側は取材拒否。


 外国人技能実習生は今 全国に30万人もいるそうです。深夜労働のコンビニだけでなく、特に高齢化が進む農業や漁業などでは、その存在は欠かせないものになっている、と言われています。高収入で知られる長野県川上村のレタス農家などは有名です。その一方 実習生たちの長時間労働や賃金未払い、過労死など、その労働実態は問題点が指摘されています。
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 番組で取上げられた工場は愛媛県、分厚いタオルを縫っているということですから、おそらく『今治タオル』じゃないでしょうか。今治タオルは品質の良さで日本の地場産業の生き残り例として、マスコミなどで度々取り上げられています。国産品で安心などと言われていますが、こういう実態もある。全部が全部、そうではないのかもしれませんが、画面に映った実態は絶対に許せないです。
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 実名・顔出しで番組に出演して『実態を知ってほしい』と語る女性4人の話を聞きながら、番組のホスト側の司会やタレント(IVANとか言う人)も目に涙をためていた。ボク自身 改めて申し訳ないというか、実に情けない思いがしました。
実習生制度は日本の恥、汚点です。今回の入管法改正はそれを継続、拡大しようと言うんでしょ。

 TPPがらみなどで、日本の農業や漁業を守れ、とか言ってる人がいますけど、技能実習生がなければ成り立たないような産業や会社なら存在しない方がいいさっさと潰れてしまったほうが社会のためには良いんです。もちろん、そんな産業や企業はサステナブルじゃないから、どうせ潰れるしかないんですけど、犠牲者は一人でも少ない方が良い。
www.change.org


 障碍の問題がテーマの番組の筈の『バリバラ』が、こういう話題も取り上げるんだ?と思っていたら、出演している障碍者の人が『障碍というのは身体のことだけでなく、生きずらいということだ。そういう意味で彼女たちはボクらと一緒だ』と言ってました。これには眼が覚める思いがした。
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 日本の恥部を直撃する番組でした。それをゴールデンタイムで放送している。これなら受信料を払う価値があります(笑)。Eテレと総合テレビ、同じNHKでこれだけ違うかな~。それもまたびっくりです。今週9日木曜深夜に再放送があります。
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ということで、恵比寿で映画『愛と銃弾

aitojuudan.onlyhearts.co.jp


舞台は現代のイタリア、ナポリ。カモッラと呼ばれる凶暴なギャングが闊歩する街。漁師の父親が亡くなってみなしごになったチーロ(ジャンパオロ・モレッリ)は魚介を利権とするギャングのボスに育てられ、暗殺者としての訓練を受ける。ある日 チーロはボスの秘密を見てしまった看護師を殺すことを命じられるが、彼女を殺そうとした瞬間、彼女は孤児時代に愛し合っていたファティマ(セレーナ・ロッシ)だったことに気が付いた。彼女を守ろうとするチーロはナポリの裏社会全体を敵に回してしまう。


 日本ではプロモーションもほとんどない地味な扱いですが、昨年 イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ドナテッロ賞で最優秀作品賞、助演女優賞、音楽賞、歌曲賞、衣装賞など最多受賞した作品です。当然イタリアでは大ヒットの作品。

 シチリアのマフィアと並ぶ、超怖い犯罪組織として知られるナポリのマフィア、『カモッラ』を描いた作品ということで怖い作品なのかと思ったのですが、全然違いました。犯罪組織が舞台のサスペンスではあるものの、ラブストーリーであるばかりでなく、コメディでもあり、ミュージカルでもあります。
●組織の殺し屋チーロ(右)と看護婦ファティマはかって愛し合った仲でした。二人はカモッラからの逃避行を続けます。
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 映画は教会での厳粛な葬儀から始まります。強面のギャングたちが棺桶を担ぎ、一癖ありそうな金髪美人がウソ泣きをしている。
 すると、棺桶の中の死体の男が歌いだす。それも今風のカッコいい音楽ではなく、ベタなカンツォーネ。『俺は何で死んだんだ』とか『あの女が葬式にきてくれない』とかくだらない愚痴を大声で歌い上げる。笑うしかありません。まさかミュージカルとは思わなかったですからね、びっくりした。
●棺桶には一癖ありそうな金髪美人妻(中央)が寄り添っています。
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 それから、お話は少し前に戻ります。魚介を利権にするカモッラのボスが対立組織に尻を銃で撃たれて殺されかけます。あれ、ボスの顔はさっきの死体とそっくり(笑)。ボスは自分そっくりの男を殺し、自分が死んだことにしようとしたんです。その際 病院で看護師に生きている自分を見られてしまう。

 そこでボスは自分の警護役の殺し屋、チーロに口封じのために看護師を殺すことを命じます。ボスは孤児のチーロを拾いあげ、殺人マシンとして育ててきたのです。ところがいざ、チーロが看護師を手に掛けようとすると、彼女はかって愛し合っていた女性、ファティマだったことが判ります。チーロは過去の愛に生きることを選びます。そして彼女を守るためにナポリのマフィアをバカバカ、ぶち殺していきます。
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と言っても、死体が歌ったり、病院患者が踊ったり、そんな演出ばかりです。ぜんぜん怖くない。ゲラゲラ笑ってました。
●病院でチーロとファティマが再会するシーン。ミュージカル仕立てになっています。

AMMORE E MALAVITA dei Manetti Bros. - Clip "L' ammore overo" (What a feeling)


 チーロ役の俳優さんは人間離れしてカッコいい。ぎゃあぎゃあ喚き続けるファティマ役の女優さんはあんまり好きになれなかったのですが、ともかく美男美女。ナポリの美しい海や空の下、美男美女がマヌケなギャグと共に逃避行を続けます。ベタなカンツォーネと共に、お話しのテンポも速い。見ていて怖くない(笑)。とにかく見ていて楽しい。
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 あと、特にボスを始めとしたマフィア側がとにかくお洒落。綺麗な色の麻シャツやジャケットの着こなしが実に美しい。伊達にダビッド・ドナッテロ賞で衣装賞を受賞しているわけではないんでしょう。こんな服はどこで売っているのだろうと思いました(ナポリで売っているんでしょうけど)。
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 約10年前、カモッラを取り上げたノンフィクション『死都ゴモラ(映画にもなりました)を書いた作家がカモッラから死刑宣告を受けて、警察の庇護を受けて身を隠したものの、守りきれず、結局国外逃亡したという事件がありました。確かに、絶望と恐怖が支配する街を描いた『死都ゴモラ』はマジで怖かった。
 7,8年前にも警察がカモッラを取り締まったところ、カモッラがゴミ収集を取り仕切っていたため、ナポリ中のゴミが溢れたという事件がありました。そんな連中をギャグにできるのですから、事情はだいぶ変わってきたのかもしれません。それとも、マフィア構成員の巣窟のようなナポリのスラム街でロケを敢行したことも併せて、敢えて現実を笑い飛ばしたのでしょうか。
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 とにかく、文句なしに面白い!。美しい海や空、美男美女、ベタなギャグにお洒落な服。どんでん返しのお話しも見事です。とにかく、見ていて楽しい要素が盛りだくさんです。奇想天外な演出も相まって、これは見ないと勿体ない。大当たりの作品でした。

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