特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯 』

 お盆も終わりとともに夏の終わりの雰囲気が漂ってきました。
 週末の埼玉県知事選、野党共闘の候補が勝ちましたが、現職の後継だし、枝野の地元だし、ここで勝てなければ仕方がないという感じです。候補者自体もヘイト発言をするなど問題もありそうですし。
www.jiji.com
www.nikkansports.com


 顔を見て思い出したのですが、自民党の候補だった青島健太って、ボクが学生の時 学校に教育実習に来てたんです。あの時のはつらつとしたお兄さんが今は白髪の爺さんになっていたのも驚いた。まあ、ボクも齢を取ったということでもありますが(笑)。教育実習に来ていた当時も性格はさっぱりしていて学生には好かれていたんですが、騙されて?立候補させられちゃったんだろうなー。

 これで年内の衆院解散はなくなったんじゃないでしょうか。
 しかし投票率も前回から5ポイント上がったとは言え、32%と超低率。何よりも野党の側は激変する環境変化に対して、政策もはっきりしないですから、大丈夫でしょうか。もちろん安倍晋三対米追従嫌韓以外に何か政策があるわけでもありません。

 アメリカとの通商交渉がまとまったとニュースに出ていましたが、自動車は相手の主張を丸のみ、農産物はなんとかTPPの線で許してもらった、というだけですよね。政府としては予定通りの線を守ったようですが、相手の言うことを受けただけで交渉の体を成していない。
www.yomiuri.co.jp

 それだけではありません。トランプはこう言っています。
 ブルームバーグの記者(しかもホワイトハウス担当の上級レポーター)のツイッターを引用します。

トランプ:中国にキャンセルされて余っているトウモロコシ全てを日本が買い取ることになった
そのあと安倍はこう補足した。政府じゃなくて、民間企業が買い取るんです

 ブルームバーグの記者はなおも続けています。

https://twitter.com/JenniferJJacobs/status/1165620704710156292

『日本政府じゃなくて 民間がアメリカの余ったトウモロコシを買い取る』とトランプの言葉を訂正した安倍晋三に対して、トランプは再度こう付け加えた。
日本の民間企業は政府の言うことを聞くんだろ。アメリカじゃ、ちょっと違うけどな(笑)。』

 このやりとり、トランプに完全に舐められているどころか、『言いなり』ってことですよね。日本のマスコミは全然報じないじゃないですか。
 さすがに日経はトウモロコシの輸入のことは報じてますけど、読売も朝日もTVニュースも、安倍とトランプの間でまるでスネ夫ジャイアンのようなやりとりがあったことは全然報じない。
 そのトウモロコシは飼料だそうですけど、どこの商社が買って、どこへ流すのでしょうか?(答えは明確ですが)(笑)。
www.nikkei.com

 今のような属国状態、植民地状態ならボクは日本はアメリカの51番目の州になることを目指した方が良いと思っています。それならアメリカ国民としての権利は守られるじゃないですか。基地を押し付けられている沖縄の人たちにとってはまさにそうです。
 今回のトランプとのやり取りを見て、ますますその思いを強く持ちました。それにしてもアメリカにはペコペコ、韓国には居丈高にふるまう。今の日本は実に醜い国です。


 ということで、渋谷で映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯

www.kamejiro2.ayapro.ne.jp


 ドキュメンタリーにも関わらず7万人を動員するヒットとなった2年前の『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロ』の続編です。
spyboy.hatenablog.com

米軍が最も恐れた男~その名は、カメジロー~ [DVD]

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 前作に引き続いてTBSテレビの佐古忠彦氏が監督、制作もTBS。音楽は坂本龍一、ナレーションは役所広司。題名が紛らわしくて最初は続編とは判りませんでした(笑)。丁度 8月18日深夜放送のTBS『ザ・フォーカス』で、この映画の特集が放送されました。
www.tbs.co.jp

 前作は、戦前から米軍占領統治時代もずっと沖縄の自由と解放を求め続け、共産主義者として獄中に幽閉されたこと。そのあと圧倒的票数で那覇市長になるも米軍からは嫌がらせを受け、水道を止められるは(当時は米軍が水を供給していた)、予算を差し押さえられるは、挙句の果てにはリコールまで受けたこと。それでも彼の代わりの候補者を那覇市長に当選させ、自身は選挙権と本土渡航の自由を奪われたこと。それでも彼は運動を続け、本土復帰後は沖縄県初の国会議員になった、文字通り「不屈」の政治家、瀬長亀次郎の生涯を描いたものです。

 今作は彼の残した230冊の日記や新たな資料を掘り起こして、彼の人となりをより深く描いた、という作品です。
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 戦前 医者を志して鹿児島の高校へ入学するも治安維持法によって退学をせざるを得なかったこと、終戦直後5日間ひたすら野山に散らばる遺体を拾い集めたこと、占領期の米軍の執拗な弾圧や那覇市長当時の妨害、子供とのエピソードなどの家庭生活、前作にはなかった様々なエピソードが語られます。
●末娘と
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 前作では『こんな人が居たんだ』という驚きが大きくて、膨大な情報量についていくのが大変なところもありました。
 今作も情報量が多いのは一緒ですが、他の家庭のようにTVを買ってくれという幼い末娘をなだめたり、ハワイで出稼ぎをしている父親から『アカ』と罵られ縁を切られたことなど、印象深いエピソードがありました。父から縁を切られたのは亀次郎には非常なショックだったそうです。
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 あと保守系の実業家とのつながりも面白かった。沖縄の実業界は当然のことながらビジネス優先、例えば銀行各社は「亀次郎の沖縄人民党の党員は自社に就職させない」と新聞広告を出すなど対立関係にありました。
 しかし瀬長氏を応援する実業家も多かった。彼の人間性を応援していたと同時に、「右の政治家だけになったら沖縄は占領軍や日本政府の言いなりになってしまうから瀬長のような政治家も必要だ」というバランス感覚があった。賢いですよね。その受け皿になった瀬長氏は文字通りオール沖縄の元祖ではあったわけです。


 やっぱりボクは異なる立場の人の話も聞きたいんです。この映画で言えば、米軍統治に協力した人、日本政府に協力する人。そういう人の話も聞かなければ我々は事情を理解することはできないと思う。足りないとは言え、今作で保守派の人の話が出てきたのは話に厚みを増しています。


 亀次郎は基地のない沖縄というより、自衛隊も含めた『軍隊のない沖縄』を生涯追い求めました。米軍、日本軍双方に苦しめられた戦争体験者ならでは原体験に基づいています。
 しかし米国政府も日本政府も沖縄の基地だけは手放そうとしません。沖縄の返還協定は国会では強行採決だったんですね(前作でも描かれていたが、今作を見て改めて理解できた)。しかも、基地付きの協定に抗議する沖縄の屋良首席(県知事)が羽田に到着する寸前に採決された。当時から日本政府は沖縄の意志を聴こうとしなかったんです。
●初めて選挙で選ばれた沖縄県知事(首席)、屋良氏(中央)と亀次郎(右)
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 この映画の白眉はやはり、復帰当時の国会で行われた首相の佐藤栄作衆院議員、瀬長亀次郎との論戦、11分間です。
 亀次郎は戦争当時のことを語りながら佐藤栄作に詰め寄ります。『あれだけ犠牲を払った沖縄が何で米軍基地を押し付けられなくてはならないのか。どうして本土以上の基地を押し付けられなくてはならないのか
●当時のフィルム
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 佐藤栄作は『米軍基地を残しても、沖縄の本土復帰を優先するほうが良いと思った』と苦虫を噛んだような表情で答弁をします。それでも、すぐブチ切れる、こいつの血縁のバカ首相とは違って日本語としては意味が通っています。少なくとも佐藤栄作は自分の言葉でしゃべっている。しかし亀次郎は全く納得しない。
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 結局 佐藤栄作は『将来は基地無しの沖縄を目指すことに私は同意する』と答弁せざるを得なくなる。
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 佐藤栄作を非難するのは簡単ですが、その立場も判ります。米軍は基地を保持しなければ絶対に沖縄を返還しなかった。未だベトナム戦争をやっているし、沖縄にはいつの間にか核兵器や毒ガスまで貯蔵しているのですから。ですが、亀次郎は絶対に納得しない。それもまた当然です。
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 その論戦が終わった後、佐藤栄作は亀次郎のところへ来て、占領下の沖縄のことを書いた彼の著書「『民族の怒り』を呉れないか」と頼みに来たそうです。亀次郎はサインを描いて本を差し出したそうです。

民族の怒り もえあがる沖縄

民族の怒り もえあがる沖縄

 佐藤栄作だって、ある程度はわかっていた。瀬長の話を聞こうとしているし、一応は妥協点を見出そうとはしていた。
 自分の言い分だけを一方的にまくしたて、異なる意見を聴こうともしない安倍晋三とか言うバカはとことは文字通り月とスッポンです。どうして人間の質がこんなに違うのか。今の国会の風景とはあまりにも違い過ぎる
 この映画ではやっぱり、それが一番印象に残った。


 瀬長亀次郎が亡くなったのは2001年、そんなに昔のことではありません。しかし、ボクも前作を見るまで瀬長のことは知らなかったし、本土では今も知らない人は多いでしょう。それだけ沖縄のことは殆ど変化がない、ということです。
 当時も今も本土の人は沖縄のことにあまり関心がないし、意見にも興味がない。沖縄の言ってることも聞こうとしないから、基地に関する意見も『国益』や『安全保障』という大雑把な言葉で大上段に切り捨ててしまう。深く考えてみようともしない。
 今回 映画を見ていて思ったのは返還当時と沖縄の状況はあまり変化がない、ということでした。
●亀次郎の資料を保管する『不屈館』を運営している次女の内村氏。
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 前作を見ていても見ていなくても、分かりやすい、それに考えさせられるドキュメンタリーです。良い作品です。今回は瀬長氏や佐古氏の著書の紹介もあったので、ぜひ読んでみようと思いました。これから全国各地で巡演されます
映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」公式サイト » 劇場情報

「米軍が恐れた不屈の男」瀬長亀次郎の生涯

「米軍が恐れた不屈の男」瀬長亀次郎の生涯

 監督の佐古氏は筑紫氏、金平氏と続くTBSの気骨ある報道畑の系譜に居る人です。膨大な時間をかけて沖縄に通い、映画を2本も作ってしまったし、TBSもテレビスポットを出すくらい、社内でも応援している人たちがいる。ボクはTV、民放は殆ど見ませんけど、やっぱり、そこは応援しようと思って、公開初日に見に行きました。


 ただ、TV局が作った、こんな充実したドキュメンタリーを映画館ではなくTVで放送できない。約2時間という制約もあるし、それほど視聴率が見込めないからなんでしょうけど、いずれにしても視聴者の問題です。
 復帰当初から蔑ろにされ続ける沖縄の現状も含めて、今日のようなひどい世の中を作ってしまったのは安倍晋三だけでなく、アホな国民の責任でもあることを痛感せざるを得ません。
●公開初日の佐古氏(中央)の舞台挨拶。瀬長亀次郎氏の次女の内村氏(右)と一緒に。余談ですが、還暦近い長峰アナ(左)がTVより遥かに美しいのにはびっくりしました(笑)。
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