特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『2.18 ラファに手を出すな!全国連帯デモ』と映画『夜明けのすべて』

 ニュースになっていたナワリヌイ氏の件、勿論 プーチンに殺されたんでしょうね。

news.yahoo.co.jp

 以前 ナワリヌイ氏のドキュメンタリーを見ましたが、反プーチン以外に考え方は判らないけれど非常に勇気のある人、とは思いました。

spyboy.hatenablog.com

 毒ガスで殺されかけてもこういうことを言える人です。

 これはドキュメンタリーのワンシーン、拘束直前、奥さんと抱き合うナワリヌイ氏。先日も記者会見に出てましたけど、奥さんもめちゃめちゃ気丈な人です。

 ただ、こういうことでもあります。


 日曜日は 夕飯の支度の前に新宿へ行ってきました。首元にドット柄のスカーフを巻いて。


 150万人のパレスチナ人が押し込められているガザ南部のラファに、イスラエルが攻撃を仕掛けようとしています。既に3万人もの人が、1万人以上の子供が、イスラエルに殺されています。イスラエルはまだ、罪のない人たちを殺そうというのか。
 ボクには何もできないけれど、ただ黙っている事も出来ません

 新宿駅南口の歩道には大勢の人、1000人以上は集まっていたんじゃないですか。時間が遅くなるにつれ、人数はどんどん増えていきました。

 最終的には2000人、と聞きました。日本人が8割です。

mainichi.jp

 日本の戦後初の海外援助はパレスチナ向けでしたし、これまでも比較的パレスチナ寄りの立場をとってきました。が、今回はクソ政府がUNRWAへの資金拠出を止めやがった。普段はグズの癖にこういうときだけ反応が早い。全く許し難い。

 北朝鮮並みに言葉が通じない野蛮国家、イスラエルに対しては、BDS、つまりボイコット(Boycott),投資引き上げ(Divestment)、経済制裁(Sanctions)をやっていくしかないのでしょう。
 これらの企業をすべて自分の目でも検証したわけじゃありませんが、少なくとも疑いの目は向けておかないと。


bdsmovement.net

 もともとボクはずっと工業製品でも農産物でもソフトウェアでもイスラエル製品は極力買わないし、仕事でもイスラエル絡みの話はできる限り潰してきたつもりです。
 一度なんか大使の紹介で製品の売り込みにやってきたイスラエルベンチャー企業のアホが『3次元のベクトルを特定する対人ミサイルの技術を使った製品です』と、いけしゃあしゃあと抜かしてたもんなあ。日本に居てもぼーっとしてるとあいつらの人殺しに加担してしまう
 もちろん、その時は即刻お引き取り願った。自分が恥ずかしいと思わないのか。死ね、クズ。

 ナチス大日本帝国と同じように国際法も言論も全く無視する連中は21世紀でも存在します。今でもプーチンやネタニヤフのような国家レベルの人殺しが同時代に存在する。残念だけど、それが現実です。
せめてイスラエルイスラエルに加担する連中をボイコットしようじゃないですか。南アのアパルトヘイトもそれで潰せたんだし。



  と、いうことで、日比谷で映画『夜明けのすべて

月に1度、PMS月経前症候群)で感情の高ぶりを抑えられなくなる藤沢美紗(上白石萌音)は大学を卒業して就職するも長くは続かず、現在は学童用プラネタリウムを扱う中小企業で働いている。同じ会社に転職してきたばかりの同僚・山添孝俊(松村北斗)はまったくやる気がなさそうに見えたが、実はパニック障害を患っており、生きがいや気力も失っていることを知る。

yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp


 『そして、バトンは渡された』の原作などで知られる瀬尾まいこの小説を映画化。パニック障害を患う男性を松村北斗PMS月経前症候群)の女性を上白石萌音が演じています。ボクは見ていないので知りませんが、この二人はNHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で夫婦役だったそうです。

 監督・脚本は『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱。昨年公開された『ケイコ』は聴覚障害の女性ボクサーを岸井ゆきのが演じたものでしたが、障碍者の立場に立ちながら、研ぎ澄まされた抜身の刃を突き付けてくるような鋭い感性と優しさが共存する素晴らしい作品でした。

spyboy.hatenablog.com

 『夜明けのすべて』も見に行くべきか迷いましたが、三宅監督の新作、というのが決定打になりました。

 映画は藤沢のモノローグから始まります。そして大学卒業後 大企業に就職した藤沢がPMSの発作を起こし、職場にいられなくなるまでが描かれます。安っぽいテレビドラマじゃあるまいし、いきなり説明かよと思いましたが、ボクも含めてPMSパニック障害に関する知識が全くない観客にとっては仕方がない、とも思いました。
 形が見える障碍や病気とは違って、主人公たちの病気は外からは全くわからないからです。

 普段はおとなしい藤沢は生理の時期になると、いきなり周囲の人間に食って掛かり大騒ぎする。薬で発作を抑えようとすると副作用で眠気に襲われてしまう。いくら病気とは言え、いきなり周囲の人に大声を上げて喧嘩を売ってくるのは流石に迷惑もいいところ、職場にいられなくなるのは当然です。

 藤沢が転職した中小企業、栗田科学工業に入ってきた山添も、傍目からは困ったちゃんです。仕事にやる気がないばかりか、周囲とのコミュニケーションを全く拒否している。仕事中もずっと強炭酸水を飲み続けている。流石に職場の雰囲気が悪くなる。まして人数が少ない中小企業だとなおさらです。

 実は山添はパニック障害という病気で、人ごみの中に入ることができない。電車に乗ることもできなければ、外食することもできない。味も感じない。本人曰く、『徒歩で活動できる範囲が世界の全て』です(ボクも徒歩圏での活動が90%くらいなので似たような感じですが)(笑)。

 傍目では我儘にしか見えない山添に対して、藤沢は当初イライラをぶつけます。しかし山添がパニック障害の発作を抑えるために自分と同じ薬を服薬していることを知り、藤沢は彼と正面から向き合うようになります。

 前作の『ケイコ』でもそうでしたが、当初 主人公は嫌な奴なんです。藤沢は発作が起きると般若のような形相で理不尽に暴れだすし(これは上白石萌音がうまい)、山添はコミュニケーション不全なばかりか内心エリート風を吹かせている。ハンディキャップを負った登場人物を聖人君子に描かないところが逆に良い。

 藤沢も山添も病気で前の職場には身の置き場がなくなってしまった存在です。確かに周囲とやたらと喧嘩を起こしたり、自分の殻から全く出てこない人間だったら、仕方がありません。今回のように傍目では全くわからないのだったら猶更です。労働条件、給料は同じなのだから、差別でも何でもない。

 しかし、栗田科学工業では少し違います。藤沢が発作を起こしてわめき始めても、山添が他の社員と全くコミュニケーションをとれなくても目くじら立てない。かといって手助けするわけでもない。社長の栗田(三石研)も従業員たちも、藤沢や山添をつかず離れず見守っている。 

 栗田は毎週金曜になると一人、事務所の片隅にある写真の前に酒を注いで供え、手を合わせます。一緒に仕事をしていた弟が自死して以来、彼は自死遺族のサークルに通っています。だからどう、という描写はありませんが、だからこそ観客には余韻が残ります。考えさせられる。

 前作の『ケイコ』でも最も魅力的だったのは主人公ではなく脇を固めた三浦友和だったのですが、今作も脇を固める三石研や渋川清彦が本当に素晴らしい。特に三石研がいなければこの映画は成り立たなかった。彼の映画といっても良いと思います。
●中小企業の社長役の三石研(左)

●山添の元上司を演じる渋川清彦(右)

 
 栗田科学工業のような雰囲気は中小企業だったら、似たような雰囲気を持つ会社は昔は沢山あったように思います。市場経済の縛りから比較的逃れることができるから、良い意味でも悪い意味でも経営者は自分が思うように運営できた。

 しかし今は中小と言えども余裕がなくなってきているのも事実。栗田は新年の会社の方針を問われて『会社がつぶれないこと』と答えますが、正直なところでしょう。

 ボクも普段の仕事では生産性を向上させるにはどうしたらよいか、みたいなことばかりやってますから、非常に考えさせられました。会社がつぶれても困るし、生産性も上げて給与も上げていかなければいけないことは事実ではあるけれど、それでも反省した(笑)。

 こういうまったりとした会社も生き残っていってほしいけど、給料は上げられないし、福利厚生も限られる。金が全て、儲かれば良いという企業こそ潰れてしまえと思いますが、それはそれで中々難しい話です。

 東京の人しか判らないかもしれませんが、舞台が大田区の馬込、というのも絶妙な感じでした。
 大田区でも町工場が並ぶ地域とは異なり、文教地区ではある。城南地区だけど、どこか下町っぽさを残している。田園調布のような高級住宅地ではないし、治安が悪いジャングルランド(笑)でもない。商業的な再開発が進む地域とも異なり、人間が呼吸する余地が残っている、とでも言ったらよいでしょうか。

 今作の主役は夜、かもしれません。夜の光景が美しい。特に暗い闇の中に街の明かりがいくつか光っているシーンが象徴的に何度も挿入されます。それが終盤の感動的な展開につながっていきます。夜は暗いけれども、探せばどこかに明かりがあるかもしれない

 互いを救いあおうとする主人公たちだけでなく、主人公たちを取り巻く人々や夜の光景、空気感がこの映画の感動の源でした。

 前作『ケイコ』も素晴らしかったけど、主人公の性格が悪いのと(笑)ボク自身は全く興味がないボクシングの映画だったので、個人的にはいまいち乗れませんでした。

 この作品は違います。若い主人公たちを包み込む美しい画面と成熟した表現は見た人の心を揺さぶります。そして見終わった後に余韻が残る
 視線はあくまでも弱者の立場に立っているけれど、お涙頂戴や正義を押し付けたりしない(笑)。静かに静かに、時間が流れていく。
 今年のベスト10には必ず入るであろう素晴らしい映画でした。


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