特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ヴィーガン朝ごはん』と映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』

 楽しい楽しい3連休はあっという間に終わってしまいました。連休の終わりはいつもこればっかり(笑)。

 年末にかけて、忘年会だの各種行事だの仕事関係の雑事、要はボクの大嫌いな宴会(笑)がだんだんと増えてきます。ここ数年、コロナで宴会は少なかったから余計にウンザリです。嫌だと思うから余計に嫌になる(笑)。
 気持ちは暗いですが(笑)、なんとか頑張って耐えていきたいと思います。

●中庭の木々も色づいてきました。


 イスラエルの現職閣僚がガザへの核攻撃を示唆しました。流石のネタニヤフも火消しに入っていますが、本音が出たということでしょう。

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 よく『イスラエルパレスチナの問題は難しい』とか言ってる奴がいますけど、間違っています。今のガザの問題は宗教の問題というより、極右のファシストが一般人を虐殺している、のが本質です。

 イスラエルに限らず、極右のようなアホ連中が政権に就いてしまう、ということが起きています。現実への不満が高まるにつれ『世界的に左右を問わずポピュリズムが盛んになり、ファシズムが伸長しているように見える』のはボクだけでしょうか。


 3連休は 良いお天気だったし、家の前の公園にあるカフェに朝ご飯を食べに行きました。先週末はラーメンフェアで酷い目にあったばかりです。

 普段はわざわざ外で朝ご飯を食べる、なんて勿体ないことはしないのですが、東南アジアの人みたいに一回くらい朝から外食してみようと(笑)。お天気も良いからか、まだ朝の8時なのにお店は満員でした。確かに公園の緑に向かって開け放した空間は気持ちが良い。

 注文したのはヴィーガン・タコス。肉の代わりに大豆ミートが使われたヴィーガン料理です。なんてことはありませんが、ヘルシーだし、先週のラーメンよりは遥かに食後感は良かったです。
 ただ食後のコーヒーは不味かったので、早々に家に戻ってコーヒーを入れ直しました(笑)。


 と、いうことで、渋谷で映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?

 フランスの原子力企業アレバ社で労働組合のトップである書記長を務めるモーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)は、技術移転を巡る中国との交渉を知り、会社の未来と従業員の雇用を守るため内部告発に踏み切る。様々な議員や大臣に訴えるも埒が明かず、オランド大統領に直談判する約束を取り付ける。約束の日の朝 自宅で何者かに襲撃され、彼女はレイプされる。警察の捜査が始まるが、事件が自作自演であることを自白するように強要される。

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 フランスを代表する女優、御年70歳のイザベル・ユペールの新作です。第79回ヴェネチア国際映画祭の革新的な映画を集めたオリゾンティ部門で労働・環境人材育成財団賞受賞。
 お話は驚きの実話、それもつい最近のお話です。実際の事件を追った雑誌記者の手記が原作になっています。現代はLa Syndicaliste(組合活動家)。


 
 アレバ社と言えばフランスを代表する原子力企業。往時は世界最大の総合原子力企業だったそうです。福島の原発から出た汚染水を浄化する装置『アルプス』で日本でも有名になりました。導入費用だけで320億円もかけて鳴り物入りで導入されたもののトラブル続きで、実際は全く役に立たなかったのも印象に残っています(笑)。
www.j-cast.com
www3.nhk.or.jp

 その後、アレバは福島第一事故などによる外部環境の悪化とともに、鉱山会社の買収失敗、フィンランドでのオルキルオト3号機(OL3)建設プロジェクトの長期化・コスト増などで巨額の赤字を垂れ流す経営危機に陥り、2018年にフランス政府によって実質的に解体されました。奇しくも東芝と同じ運命を辿ったわけです。

【フランス】 アレバの経営危機を背景とした仏原子力産業の再編が完了 - 海外電力関連 解説情報 | 電気事業連合会

 本作の主人公モーリーン・カーニーはアレバの組合のトップ、書記長です。

 日本と異なりフランスやドイツでは組合は経営に参加することが法律で定められており、社長や役員など経営陣は、組合に対して賃金や雇用、教育など従業員に関わる重要事項は報告義務があるなど大きな力を持っています。
 モーリーン・カーニーはアイルランドからフランスへの移民で、アレバ社では海外赴任者向けの英語教師を務めていました。それが組合活動で頭角を現し、トップになった。雇用や教育など組合員の利益のために不退転の姿勢で戦う姿勢は信頼を集めていました。

 またアレバの社長、アンヌとも男性社会の中で戦う女性同士の信頼関係がありました。
●モーリーンとアンヌ(右)

 しかし当時の大統領のサルコジはアンヌを交代させ、自分の意のままになる新社長、ウルセルを送り込みます。

●モーリーンとウルセル(右) 

 やがて政権は右派のサルコジから社会党のオランドに交代します。
 経営が悪化するアレバ社の中でリストラを進めようとするウルセルと組合員の利益を守ろうとするモーリーンは対立が深まります。

 やがて彼女の元にアレバとEDF(フランス電力公社)が秘密裏に中国の国営企業と提携しようとしているという内部告発が寄せられます。アレバの技術と中国の低コストでイギリスの原発建設を受注しようというのです。しかも裏にはその取引からリベートを得ようとする政治家や経済界の大物がいるらしい。
 しかし中国との提携が実現すると従業員の大規模なリストラと技術流出のリスクがあります。

 モーリーンはそれを阻止しようと国会議員や大臣にロビーイングを進めますが、なかなか耳を貸してくれません。社会党政権になっても体質に大きな変わりはないのです。その一方 彼女には度々脅迫が行われ、身の危険を感じるようになります。

 最後の手段として彼女はオランド大統領との面会の約束を取り付けます。しかし約束の日の朝、彼女は自宅で謎の男たちに襲われて強姦されただけでなく、椅子に縛り付けられ、お腹にナイフでAの字が刻まれ、ナイフの柄を膣に入れたまま放置される、という暴行を受けてしまいます。信じられない話ですが、実話です。

 椅子に縛られたままの彼女を家政婦が発見、警察や夫が呼ばれ、捜査が始まります。

●コンサート等の舞台音響を営む夫。懸命に彼女を支えます。

 警察(憲兵隊)は捜査を始めますが、目撃者もおらず、物的証拠も指紋も発見されない。逆に身体への屈辱的な調査を何度も受けさせられます。

 やがて警察は暴行はモーリーンの自作自演だとして彼女を責め立て、強圧的な取り調べに耐えられなくなった彼女は虚偽の自白をしてしまいます。警察は彼女を偽証で起訴。
 その一方 アレバの社長、ウルセルは急死します。彼は政府から経営不振やモーリーンの事件が騒ぎになった責任を責められていました。死因はガンということにはなっていますが、体調不良で社長を辞任してから僅か1か月での死去でした。

●夫と娘。独特な個性を持った家族ですが、彼女の長きにわたる裁判を支えます。

 一審では彼女は有罪。うつ病にもかかり、職も失い、巨大権力との長い戦いに挫けそうになります。しかし、彼女の下に警察内部の女性から『数年前に水道の民営化を営む巨大企業ヴェオリアのリベート不正を告発した重役の夫人が彼女と全く同じ手口で暴行を受けたが有耶無耶にされた』という情報が寄せられます。
 彼女は戦い続けることを選びます。

 結果として彼女の疑惑は晴れ、18年には無罪を勝ち取ります。つい、最近です。
 しかしアレバは解体されて従業員5万人は解雇、技術者1200人と燃料再処理など有望な事業はEDF(フランス電力公社)の傘下に入ります。

 事件の真相も闇に覆われたままです。犯人も首謀者も全く判りません。
 映画ではアレバの社長だったウルセルや元社長のアンヌについて、疑問が残る描き方をしています。特にウルセルはモーリーンの事件の担当検事とは大学の同窓でした。裏で繋がっていた。
 またヴェオリアの元会長で後にEDFの会長になったプログリオなどの名前が何度も挙げられているし、モーリーンたちがデジタル産業大臣に会ったあとに裁判書類が保管されている自宅の地下室で火災が起きるなど不可解な出来事も起こります。真相は判りません。

 ちなみにヴェオリアはアホの宮城県知事が決めた宮城県の水道民営化の受託先です。そんな企業ですから、日本にもリベートを受けている政治家がいても不思議ではないかもしれません。

weekly-economist.mainichi.jp

 ちなみにヴェオリアの日本法人の会長は麻生太郎の娘です。面白いですね~(笑)。日本ではまだ大きな実績がないヴェオリアですが、何故か今年 彼女は経団連の副会長に就任しています。

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 ごく最近の、あまりにも酷い話なのには本当に驚かされます。
 映画としては暗くもなければ、ショッキングな描写もありません。むしろ、派手なファッションを着たイザベル・ユペール様のお姿を鑑賞するスター映画のようにすら見えます。ボクは結構楽しんでしまいました。こんな美しい70歳、有り得ないでしょう(笑)。
 ユペール様だから、こういう派手な格好をしているのかと思ったのですが、実際のモーリーン・カーニーがそういう人だったみたいです。

●本物のモーリーン・カーニー(右)とイザベル・ユペール。驚くべき役作りです。

 ただでさえ女性で移民、しかも派手なファッションで労働者や女性の権利を強硬に主張する。男社会のアレバのような国策企業で、彼女に対する風当たりが強かったのも良く判ります。

 ユペール様の演技、特に表情芸の素晴らしさは言うまでもありません。演技は終始 非常に抑制されていますが(抑制し過ぎと言う不評もあるようです)、最初から最後までこれでもかという怒りがビシビシ伝わってきます。抑制がむしろ怖い。執拗と言ってもいいかもしれない。ボクは彼女の怒りばかりが気になりました(笑)。

 公開されるとアレバの元社長ウルセルの遺族から抗議が寄せられるなど、映画では忖度なしに実名が使われています。メジャー資本でフランスを代表する大女優がつい最近のこういう題材で映画を作り、それが観客を50万人も動員してヒットするのだから、いくら腐敗しているといってもフランスは日本よりは遥かにマシです。日本は100年前の福田村事件を扱った映画ですら、大資本では作れないのですから。

 原子力企業の闇というだけでなく、政治家や財界の大物たちのネットワークから男性社会の抑圧まで、我々が暮らしている社会は、民主主義と言っても民主的でもなければ自由でもないことを思い知らされます。フランスですらこう、なんです。事件の真相は未だに判らない。
 映画の構成はちょっと散らかったところもありますが、ボクはかなり楽しめました。楽しむような映画ではないけれど、楽しめました。
 

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