特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『フローズン・マルガリータ』と『ひと夏の終わり、人生の終わり』:映画『ポルトガル、夏の終わり』

 この前、久方ぶりに学生時代の友人と飲みに行ってきました。友達と言えども、ボクは飲みに行ったりする行為はあまり好きではないし、今の時期は猶更気が進まない。でも少し前も誘いを断ったばかりなので、今回は出かけた次第。浮世の付き合いもなかなかゼロにはできません。
 それに暑い夏には一回くらい『フローズン・マルガリータ』を呑みたいじゃないですか(笑)。それでなくてもメキシコ料理って安くて美味しいですからね。
 
●いかにもメキシコらしい、ザクロのフローズン・マルガリータ

 入店の際 検温とアルコール消毒はきっちりありましたけど、満席の店内は殆どの人がマスクをしないででかい声で喋ってる。駅ビルの中の壁がない店なので換気はOKなんでしょうけど、そんな店に入ったのは初めてだったのでびっくりしたし、正直おっかなかった。若い人はもう、殆ど感染を気にしてないようにすら見える。

 最近はマスクなしで道を歩いている人はいるし、スーパーでは相変わらずバカじじいが奥さんに金魚のフンのようにくっついて喋りながら買い物しているのを見かけます。一頃に比べて感染を気にしない人が増えている気がします。大丈夫か?
 それとも、相変わらず殆ど徒歩圏内で生活しているボクの方が過敏なのでしょうか?
●燻製にしたラム

 それはともかく、自分で会社をやってる友人の話だと、彼の会社でコロナの症状が出た社員にPCR検査をさせようとしたら、保健所に断られたそうです。他の県でも保健所で断られた話を聞きましたから、日本の現状は相変わらずです。

 仕方なく彼が自分で民間の医者を探したら証明書込みで1回約5万円。薬価が18000円ですから、そんなものなんでしょう。症状がある社員とその部署の社員全員にPCR検査を受けさせたら費用は5万×10人で50万円。幸い陰性だったそうですけど『大損害だ』とボヤいてました(笑)。日本の現状はそんなものです。


 同じ日に中国の人とTV会議をしました。彼は8月に出張で来日して帰国、現在 上海で2週間の隔離中です。普通は専用の施設に滞在しなければならないそうですけど、当局に『特別なお願い』をすると(笑)、自宅でもOKだそうです。どういう『お願い』かはご想像にお任せします。
 それでも自宅と言えども当局はきっちりスマホ接触管理ソフトで所在を監視していて、食べ物も毎日届けられるそうです(つまり監視している)。

 会議中、彼が『ちょっと待っててね』と席を外しました。隔離中2度目のPCR検査で担当者がやってきたからです。1~2分ですぐ終わり、また会議再開。
 検査なんか彼らにとってはもう、日常の出来事です。日本では未だに検査を増やしたら医療が崩壊する、とか言ってる奴がいるのとは大違いです。他国ではやれることがなぜ日本では出来ない(笑)。

 中国では健康保険番号と連動した接触管理ソフトを見せないと交通機関の切符も買えないそうです。スマホがないと切符すら買えない、ということですが、そこまで管理している。
 その是非はともかく、中国はこれでもう、4日間新規感染者は発生していないそうです。

 日本にも接触管理ソフトはありますが、全体の6割の人が導入しないと機能しない。ところがスマホを持ってる人は全員の6割。つまりスマホを持ってる人が全員導入してないと機能しない。そんなのムリに決まってます。


 PCR検査にしろ、隔離にしろ、中国と日本、彼我の差に改めて愕然とします。改めて、日本は後進国だなーと思いました。



 と、いうことで 渋谷で映画『ポルトガル、夏の終わり

f:id:SPYBOY:20200816124924p:plain
gaga.ne.jp

 舞台はポルトガル、美しい世界遺産の街シントラ。有名女優、フランキー(イザベル・ユペール)は夫、前夫、子供、夫の連れ子、親友など今まで自分に関りがあった人物たちを呼び寄せ、のんびり休暇を過ごそうとするが。


 2019年のカンヌ映画祭コンペティション部門に選ばれた作品。
 主演のイザベル・ユペールは言うまでもなく、フランスの国民的女優。いわゆる美魔女ってやつかもしれませんが、もう67歳。そんな生易しい言葉では表現できません。美貌だけでなく、演技力と底知れない存在感まで伴っているのですから、恐ろしい限りです。

 ボクとしては今作もユペール様のご尊顔を拝しに行く、そんな感じです。


 舞台となったシントラという町はユネスコ世界遺産ムーア人の砦の跡やポルトガル王室の離宮など歴史的建造物が残っているとともに、ヨーロッパ最西端の岬がある美しい自然に恵まれたところだそうです。イギリスの詩人バイロンが『この世のエデン』とも称したことで有名です。



 登場人物たちはこの町で休暇を過ごすためにやってきました。



 今年67歳のユペール様演じる主人公は登場するや否や、プール際でガウンを脱ぎ、ビキニの水着になったかと思ったら、直ぐトップスを脱ぎ捨て、プールに飛び込みます。こっちの方がビックリ(笑)。

 大スターの大胆な行動に孫娘らしい若い娘がパパラッチを心配しますが、彼女は全く意に介しません。他人の見る目など気にしない強力なキャラクターだということが分かります。

 映画界の大スターである主人公、フランキーが呼び寄せた人たちにはあまり共通性がありません。
 若い娘は彼女の孫のような年代ですが、黒人ですから血がつながっているわけでもなさそうです。

 ちょっと頼りなげな中年男性は馴れ馴れしくフランキーの部屋に出入りしています。息子のようです。

 ジャケット姿で人が好さそうな夫はいつもフランキーに指示されているかのようです。彼とは対照的なスリムな前夫も来ています。なぜか二人は仲がよさそうです。そして彼女を慕うアメリカ人のヘアメイク、アイリーン(マリサ・トメイ)とその恋人。

 この人たちはどういう関係なんだ?というのが前半です。人種も年齢も国籍も全然違うが主人公とどういう関係なんだろう、という軽い謎解きがフランキーのキャラクターを間接的に浮き彫りにさせる。どうしてもユペール様本人とも重なる主人公も、映画の中で英語とフランス語を使い分けている。

 こういう群像劇はボクが大好きな故エリック・ロメールの映画を思い起こさせます。監督もそれを狙ったそうです。
 ロメールの作品には緑の光線海辺のポーリーヌなどノルマンディの海岸での休暇を描いた名画がありましたが、この映画でのポルトガルの海、休暇の描写もそれによく似ています。劇的なことは起きないんだけど、だからこそ心に残るものがある。



 イザベル・ユペールが演じる主人公は近年の出演作同様、意思が強くて、強情で、優しくて、複雑です。そして多くを語らない。
 性的なものにしろ、物質的なものにしろ、知的なものにしろ、自分の欲求、エゴに対して全くためらいがないことも、時折見せる大人らしい抑制や思いやりもなかなか真似できるものではありません。ユペール様お得意の意地悪ばあさん(古い)(笑)のような表情も炸裂する。
 成熟とはこういうことなのかなあ、と思いながら人生勉強をしております(笑)。

 いつも通りファッションもさりげなく美しい。この人は本当に紺が似合う。


 後半になると主人公の狙いが徐々に見えてきます。彼女はガンで余命宣告を受けていました。人生の最後に人々を集め、彼らが幸せに暮らしていけるよう、彼女なりに手を打とうとしていた。自分の人生の痕跡を残そうとしていたんです。もちろん、それは彼女の勝手な思惑にすぎません。

 この映画に出てくる男たちは例によってダメダメな連中が多いですが、

 アメリカ人ヘアメイクのアイリーン(マリサ・トメイ)とフランキーの友情はまさに大人の感情の交流です。
 死を前にしたフランキー、そしてそれを受け止めるアイリーンの思いを知ると、ポルトガルの夏の光線もまた、違って見えてきます。

 映画の原題は『Frankie』。しかし 邦題の『ポルトガル、夏の終わり』の方が映画の内容とマッチしています。このお姿↓を拝観できるだけで十分(笑)。



 体裁は今の時期にふさわしいバカンス映画。見ていて楽しいです。でも、それだけはありません。

 主人公がそうだったように、自分の人生が終わる時、人は何を思うのでしょうか。 

 人生を四季に例えたら、ボクの人生もおそらく夏は終わり。日が落ちる時間も毎日少しずつ早くなってきています。
 自分の人生はおそらく、何も残さない泡沫のようなものだと思うし、そのことに後悔はありません。出来ねえものは出来ねえよ(笑)。ただ、何かやり残したことがあるのでしょうか。自分の人生は何だったのか。

 欧州最西端、ロタ岬の日没の美しい光景の中で、フランキーは自分の想いの結果らしきものを目にします。それを彼女は静かに受け止める。ちっぽけな人間の想いが自然の中に呑み込まれていくような美しい映像を眺めながら、観客も自分の人生の終わりにも考えを思いめぐらさざるを得ません。
 人生の儚さ、虚しさを感じるラストシーンではありますけど、奇妙な高揚感も覚えたのは自分でも不思議な気がしました。


 イザベル・ユペール様の存在感と美しいシントラの街の魅力で押し切った(笑)映画ではありますけど、美しい映像を見ながら物思いにふける2時間は時間の過ごし方としては悪くありません。何度も見返す価値がある映画ですけど、ぜひ、今の時期に(笑)

【公式】『ポルトガル、夏の終わり』/本予告