特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『ケイコ 目を澄ませて』

 お休みの今日は成人の日だったのですね。長年成人式は15日というのに慣れていますから、なんか違和感があります。
 違和感と言えば成人式に行く人がいるというのも、毎年の事ながら驚きです。行きたい人は行けばいいんでしょうけど、役所主催の集まりに大勢集まって成人を祝うっていうのが端から理解できない。だいたい成人って何なのか(笑)。
 運動会だの、クラブ活動だの、朝礼だの、集団登校だの、日本という国は子供の時から学校で上意下達の訓練をやってますが、成人式はその集大成でしょうか。

 ボク自身は成人式に行こうなんて露程も思いませんでしたが、TV画面の中で大勢人が集まっているのを見ると異次元の国で起きている出来事のように見えました。


 と、言うことで、新宿で映画『ケイコ 目を澄ませて

 聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコ(岸井ゆきの)はデビューしたばかりのプロボクサー。ホテルの清掃で生計を立てながら、下町の小さなボクシングジムで日々練習に励んでいた。愛想笑いが嫌いでバカ正直な彼女だが、内心は様々な不安や迷いを抱えていた。彼女はそれを表現することができない。「一度、お休みしたいです」とジムの会長(三浦友和)宛てにつづった手紙を渡せずにいたある日、彼女はジムが閉鎖されることを知るが

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 実在する聴覚障害を持つ女性ボクサーの手記を元に作られた作品です。当初はスルー予定でしたが、2022年の日本映画ベスト1という声もあるのでとりあえず見に行きました。

 ケイコは聴覚障害のため耳が聞こえません。にも拘わらず、熱心な練習でプロデビューにまでこぎつけた。下町のボクシングジムで会長(三浦友和)らの熱心な指導を受けながらトレーニングに励んでいます。

 ボクシングで耳が聞こえないというのは致命的だそうです。セコンドの指示もレフェリーの声、ゴングの音すら聞こえない。全然判らなかったのですが、言われてみれば確かにその通りです。

 ボクサーを志したケイコは様々なジムで断られましたが、その熱意にうたれた会長は彼女を熱心に指導しています。

 しかし下町のジムは老朽化が進み、練習生もどんどん減っている。会長は体調も悪化し、内心閉鎖を考えています。

 一方 ケイコはこのままボクサーを続けていくべきか、悩んでいます。ボクシングに夢中ではあるのですが、これ以上日常生活を犠牲にするのが良いのか。もちろん親はボクシングを続けることには大反対しています。


 
 ボク自身はケイコという人物像にはあまり興味がもてません(笑)。殆ど言葉を発することが無いのはともかくとして、中盤までは全く笑わない。感情表現をしない。誰かや世の中に憤っているわけでもないし、かといって受け入れているわけでもない。そういうのも判らないでもないけれど、こちらもこの人に興味がわかない。

 ただ後半から感情を表し始めたときの鮮やかさは印象的でした。演じた岸井ゆきのはボクシングシーンも含めて、説得力がある演技をしていると思います。あと、三浦友和渋すぎ。カッコいい。

 描写が繊細です。説明らしい説明を排し、ケイコと周りの人々の日常が淡々と過ぎていくのを描いている。古い下町の光景もまた、魅力的です。再開発された街並みとは異なる世界は古ぼけてボロいけれど何とも言えない味わいがある。それを見ていると何気ない日常の中にも全て理由があり、ドラマがあることが判ります。16ミリフィルムで撮った映像も適度な情報量、光の量が非常に美しい。セリフが極端に少ない映画だから画面の美しさがより引き立っているかもしれません。

 印象的だった劇伴はないので異なる印象を持つ人はいるかもしれませんが、『ドライブ・マイ・カー』に似たテイストだと思います。これ、かなりの誉め言葉です(笑)。
 何気ない日常の豊かさを描きながら、登場人物の変化や成長、それに希望を示しているという点ではそっくりだと思う。ボクシングがテーマということでボクにはピンとこない部分もあったのですが、大変完成度が高い一本であることは言えると思います。


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