特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHK Eテレ『スイッチインタビュー』と映画『SISU/シス 不死身の男』

 先週、先々週の金曜日の夜、NHK教育テレビで、ムーンライダーズ鈴木慶一と映画『ドライブ・マイ・カー』やドラマ『エルピス』の俳優、三浦透子の対談をやっていました。ボクは両者ともにファンなので楽しく見ていました。

www.nhk.jp
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(今週 6日0:25から再放送があります)

 45歳の年齢差にもかかわらず、鈴木慶一が三浦に『わたくしは』と話していたのがいかにも、でした。三浦はずっと前からライダーズを聞いていたそうで、好きなアルバムもマニアックでかなりヤバい(笑)。子役出身で大学で数学を専攻した三浦が『言葉を排したコミュニケーションという意味では数学は演技と同じ』って言ってたのも面白かった。

 印象に残ったのが、どちらもエゴ(自我)の問題を話していたこと。ライダーズは日本語フォークからスタートして、無国籍音楽、パンク・ニューウェイブ、テクノ、アバンギャルドと常に音楽が変わり続けています。三浦も様々な役に合わせて自分自身がどんどん変わっていくそうです。でも、どこかに変わらないものがある。

鈴木慶一は文字を手書きするのは自分のエゴを押し付けているようで大嫌い、と言っていました。全く同感です。下品ですよ。

 ともに自分たちは変わっていくけれど、最後に残るものがある。それが自分じゃないか、と言っていました。三浦曰く、『隠そうとするんだけど出てしまうものが自分』。鈴木慶一曰く、『自分らしさを排除して排除していっても、コントロールできないコアがどこかに残る』。
 自分では自分というものは判っていない。そして、自分は不完全である。

 ボクも最近ようやくそういうことが少し分かりかけてきた気がします。見えなかったものが見えてくる。それが人生なんでしょうね。見えなくていいものもあるでしょうけど(笑)。



 と、言うことで、六本木で映画『SISU/シス 不死身の男

第2次世界大戦末期の1944年、ナチスドイツに国土を焼き払われたフィンランド。金塊を掘り当てた老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ)は荒涼としたラップランドを旅する途中 ノルウェーへ撤退途中のドイツ部隊に遭遇し、金塊も命も奪われそうになる。かつて祖国に侵略してきたソ連兵を大量に殺した伝説の兵士であるアアタミは、持っていた1本のツルハシと不屈の精神“SISU”を武器に、次々とナチスを血祭りに上げていく。

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 フィンランドはWW2で非常な苦渋を舐めた国です。
 具体的には2度に渡ってソ連の侵略を受けて孤立無援の戦いを強いられ、ソ連との休戦後はナチスとの戦いで国土が焦土になった。
 戦後はソ連の影響下に置かれたものの社会主義には与せず、自由経済と高福祉、非同盟中立の体制を守り、幸福度世界1、学力世界1になりました。
 人口10万人あたり60以上ものヘヴィメタルバンドが存在するなど、人口1人あたりのヘヴィメタルバンドの数が世界で最も多い国でもあります(笑)。

 先ごろ 長年 重武装+非同盟中立を守ってきたフィンランドNATOに加入、集団安全保障体制に加わったことも含めて、日本はフィンランドに学ぶべきことは多々ある、とボクは思っています。メタルはごめんですが(笑)。
 
 難しい映画ではありません。戦車まで持っているナチスの大部隊に不屈の老兵が単身立ち向かう、というか、ナチスを全部ブチ殺す(笑)、というお話です。

 

 ナイフとつるはししか持っていない老兵が戦うということで、ちょっと殺人描写がえぐいんですが、それ以外は痛快です。

 犬がかわいいのもポイント高い。

 とにかく、この老兵、絶対に死なない(笑)。映画の中の台詞を借りれば『死ぬことを拒否している』。撃たれて傷ついても、地雷原の中に追い込められても、水の中に追い込まれても、首つりにされても、とにかく死なない。不屈の精神でその都度立ち上がります。

 西部劇や漫画のような描写も多いジャンル映画ですが、フィンランドが戦中どんなことをされたのかはきっちり描写されています。ナチは撤退の際 今のイスラエル軍のように村々を破壊、民家を焼き払い、無差別に民間人を殺しました。一般人を首つりにしたり、女性たちに乱暴した。

 この映画ではナチは攫ってきた少女達を戦車の弾除けに使っています。

 絶対にあきらめないフィンランド人の精神をSISUというそうです。ソ連の大軍が侵略してきても、ドイツに国土を焦土にされてもあきらめない。

 あまりの武力の差にいったんは降伏したり、休戦することはあっても、結局は戦い続ける
 ソ連ですら、フィンランドを侵略して大苦戦に追い込まれ、結局は休戦協定を結ばざるを得なかった。戦後もワルシャワ条約機構編入する事もできずに、フィンランド自由主義体制のまま中立を維持しました。

 ドイツ軍に連行された少女の台詞『弱い事も負ける事も問題ではない。私たちは絶対に諦めない』には本気で胸が熱くなりました。

 1時間半と上映時間も短いし、とにかく痛快な映画です。人間の盾にされていた女の子達が武器を取って自らの手でナチスをブチ殺すところは思わず拍手をしちゃいました。
 残念だけど、現実は必ずしもこの通りではありません。でも、夢を見るのも映画の効用です。


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