特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『世界で一番しあわせな食堂』

 うわー、今日から3月。早いですねー。
 最近のニュースを見ていると、議員の夜遊びやら、森喜朗の暴言やら、挙句の果てには7万円の接待、そんな話ばかりでうんざりします。
 一部では、『マスコミや野党がくだらないことで騒ぎ過ぎ』と尤もらしいことを言う向きも結構いますけど、くだらないことばかりやっている政治家や官僚、しかも事実を隠そうとする方が問題です。偽証や『記憶にない』とか言っている方が悪質なのに、どうして問題認識がずれちゃうんでしょうか。

 7万円の接待は虎ノ門で和牛ステーキと海鮮だったそうで、どんなお店か、大体 見当がつきます。年末に菅がステーキ会食したHか、その本家筋のAでしょう。

 ボク自身はそんなところへ行ったこともないし、行く気もありませんけど、ボクの友人は仕事で使うこともあるそうです。そういう店で一人7万円というのは安い方です。ワインだって安いものにしなければ7万じゃすまない。
 友達は自分で小さな会社をやっているのですが、企業の規模というより、動く金額が大きい業界はそういう店で接待することがあるらしい。

 彼自身はマクドナルドが一番うまい、と公言している人間で、お客さんが席を外している時に店員に『なんでこんなに高いのか』と聞いたそうなんです(笑)。帰ってきた答は『この価格に価値を感じるお客様がいらっしゃいますので』だったそうです。
 
 確かにそういうことなんでしょう。山田はとぼけてましたが、奢られる側だって価格は判ってるわけで、味とか雰囲気じゃなく、価格こそが価値なんです。まさに利害で結ばれた関係づくりです。
 医者に対する高額接待が『不公正な貿易障壁』というアメリカの圧力でほぼ消滅(笑)したのが良い例で(これも日米構造協議で取り上げられたんですよ)、時代遅れの接待文化は滅びつつありますけど、許認可など政治絡みの世界ではまだ残っているのでしょう。如何に連中がまともに仕事をしていないか、ということです。

 度重なる不祥事やコロナへの対応を見ていると、日本は政治家だけでなく、官僚機構自体も劣化しつつあるのが可視化されつつあります。7万円という金額が問題じゃないんです。合理的で透明性のある理屈ではなく、接待などの密室で物事が決まっていくことが問題なんです。

 例えば外国人とか女性、従来のダメ男社会とは異なる価値観を持つ人に意思決定に加わってもらうしか日本は立ち直れないと思います。簡単に言うと男はダメ(笑)。
 もちろん女性と言っても、こういう↓過去の男社会の価値観を拡大再生産するようなゴミ女連中はさっさとお払い箱にしなくちゃいけませんが。

●宮仕えの哀しさとはいえ、宴会で人間関係を作り、権力に尻尾を振る心性のさもしさは男も女も関係ありません。

 



 と、いうことで、新宿で映画『世界で一番しあわせな食堂

gaga.ne.jp

フィンランド北部の田舎町。村にある食堂に謎の中国人の男、チェン(チュー・パック・ホング)とその息子が迷い込んでくる。片言の英語で恩人を探していると言うが、知る人は誰もいない。途方に暮れる親子にシルカは空き家を貸すことにする。ある日 ツアーの中国人観光客が押し寄せてきて食堂を経営するシルカ(アンナ=マイヤ・トゥオッコ)は途方に暮れるが、実はチェンは元コックで見事な料理を手早く作って観光客をさばいてみせる。シルカはチェンが食堂を手伝う代わりに、恩人探しに協力することとなる。
恩人探しが思うように進まない一方で、チェンが作る料理は評判となり食堂は大盛況。次第にシルカ、そして常連客とも親しくなっていくチェンだったが、観光ビザの期限が迫り、帰国する日が近づいてくる。


 監督のミカ・カウリマスキはカンヌ、ベルリン映画祭で受賞した名匠アキ・カウリスマキの兄だそうです。というか、ボクは引退を宣言していた弟が復活したのか?と勘違いして、この映画を見に行った次第。
 でも、弟の作品同様、ユーモアと弱者への優しい視線に溢れた素晴らしい映画でした。食べ物が大きな役割を占める映画ですが、7万円の接待とは対極の価値観を持った映画です。


 高福祉国家で知られるフィンランドは近年 国連の幸福度調査で世界NO1を続けているそうです。PISAで学力NO1だったこともあります。
 人口5百万、人口、GDPとも北海道なみの大きさですが、一人当たりGDPは約49000ドル、世界15位。日本は約40000ドル、世界25位ですから、日本より遥かに豊かな国です。

 フィンランドは第2次大戦ではソ連の侵略やドイツによる占領がありましたが、国民の5分の1が戦禍に直面しながらも果敢に立ち向かい、独立を維持しました。
 戦後も西欧とソ連の間に挟まれながら、東欧のように共産主義国にならずに民主主義体制を守り抜きました。教育は大学まで無料。福祉も充実し、国民の8割が何らかのNPO活動を行っているそうです。そりゃあ、幸福度NO1も頷けます。

 1点だけ不思議なのはそんな文明国が、ヘビメタファンの人口当たりの比率も世界1と言うところです(笑)。要は娯楽がない田舎の素朴な人たちだから、とボクは思っています。多くの人たちにとって一般的な娯楽は自転車でのピクニックと日光浴、だそうです。


 この映画の舞台はフィンランドの北部。フィンランドの中でも特に田舎です。町には週1回しか商品が入荷しないよろず屋の商店と主人公のシルカが経営するレストランが一軒ずつしかない。
●主人公のシルカ

 シルカのレストランのメニューも毎日、ビュッフェ形式のソーセージとマッシュポテトと生野菜しかない。どう見ても、まずそうです。画面からもまずさが伝わってきます。(笑)。
●ソーセージを茹でるか焼くかソースで煮るか、毎日のメニューにはそれくらいの違いしかありません(笑)。

 人間って、馴れたものが美味しいと感じるところがありますよね。特に田舎の人はそうかもしれない。村人たちは美味しそうに食べていますが、こんな食生活だからか、村には血圧や糖分過多などの成人病を抱えている人が多い。
●レストランの客はこういう田舎のおっさんばかりです。毎日同じ食べ物と酒ばかり飲んでいる。

 そんなところに中国人の男と子供がやってくる。何やら人を探しているらしいのですが、お互い片言の英語ですからうまくコミュニケーションができない。やがて親子はテーブルに突っ伏したまま眠り込んでしまう。

 宿もない田舎の村です。親切なシルカは親子に空き家を貸してやることにします。

 ある日 シルカのレストランの前に観光バスが止まり、中国人の旅行客が押しかけてきます。昔の日本人みたいです(笑)。
 途方に暮れるシルカを見かねて、男は自分は元料理人だった、と名乗ります。彼は出来合いの材料で見事な中華料理を作ってみせます。

これが評判になって観光客がシルカの店に押しかけるようになります。男は自分はチェンと言う名前で、かって助けてくれた恩人を探しにこの村へやってきたことを明かし、シルカはチェンの人探しを手伝う代わりにレストランで料理を作ることになります。

 まず、フィンランドの人たちの描写が面白いです。主人公のシルカバツイチ、離婚を切っ掛けに親戚が営む村のレストランを引き継ぎました。彼女は『この村には既婚者かアル中、もしくはその両方しかいない』と言います。

 確かに村には文字通り田舎の気の良い、そして保守的な老人ばかりです。
 ソーセージとかマッシュポテトばかり食べていた村人たちは初めての中国料理におっかなびっくり。しかし勇気を出して食べてみると、これがうまい(笑)。しかも体に良い。薬膳の効果で体調を崩していた老人たちの健康も改善されていきます。
●魚の丸揚げなんかもちろん食べたことありません。

『美味しいものは人を幸せにする』というチェンの口癖はまさにその通りです。

 一方 チェンはつらい過去を抱えていました。
 上海の高級レストランで腕を振るっていた彼は妻を交通事故で亡くしてから酒におぼれ、莫大な借金を抱えていたのです。

それを救ってくれたフィンランドの恩人を探しにわざわざやってきたチェンですが、妻を亡くした悲しみから、未だに心を閉ざしたままです。息子ともうまくいかない。

 しかし親切なシルカや気のいい村人たち、そしてフィンランドの美しい自然と触れ合ううちに、凍り付いたチェンの心も次第に溶けていきます。
●チェンはサウナにおっかなびっくり

 チェンは料理で村人たちに希望を与えました。が、また村人たちはその心根と思いやりでチェンに希望を与えるのです。

 お話はよくあるような話です。が、この映画 ディテールが素晴らしい。
 チェンやシルカの心を推し量るかのような繊細な描写、また村人たちの描写が実にいい味を出しています。ただの気のいい田舎者っていう描写だけでなく、彼らは彼らなりに考え深かったりするところも判ります。

 シルカやチェンの料理、調理も真に迫っている。ここいら辺のリアルさは料理を扱った様々な映画の中でもトップクラスかも。

 また描写を細かく見ていると、フィンランドの教育や福祉がやたらと手厚かったり、田舎の学校にアフリカ系など様々な人種がいることなど社会の多様性も理解できる。

 そして何よりも美しいフィンランドの景色。
 こういう話はともすれば偽善的になりがちですけど、この映画のリアルで繊細な描写の積み重ねはお話に強い説得力を持たせています。


 お話がやや平板で中盤は若干 間延びもするところもありますが、実に良い映画です。演技も料理も感情もまさに本物です。何よりも見た後、優しい気持ちになれます
 ストレスやイライラばかりの仕事や都会の生活で、ボクが日頃見失っていた感覚を取り戻したような気さえしました。

映画『世界で一番しあわせな食堂』予告編