特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『TBS報道特集(2/25)』と映画『バビロン』

 この週末はロシアのウクライナ侵略1年、ということでニュースでも大きく扱われていました。日本ではあまり報じられないけれど現場では、トルコ・シリアの大地震以上にひどいことになっている筈です。
 現地取材の様子を流した2月25日のTBS報道特集を見ていましたけど、民間人を狙った攻撃や虐殺、それに子供の誘拐も全てロシアが悪い。

 ノーベル賞作家のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ氏のインタビューが印象に残りました。この人は1年前にNHKのインタビューでこの戦いを『テレビと冷蔵庫との戦い』と言っていました。この戦争を終わらせるにはプロパガンダを垂れ流すテレビと庶民の生活への圧迫とどちらがロシア人に影響力があるか、にかかっている、というのです。

 1年後の今、(必ずしも積極的ではないにしろ)ロシア人の多くが侵略戦争を支持しているという現実に対して、氏はこう言っています。
 ソ連崩壊後のロシア人はそもそも自由というものをよく知らなかった、というのです。

 自由より政府の抑圧やプロパガンダの方が慣れっこである、と。

 だからロシアの国民は、自尊心をくすぐるようなプーチンの耳障りの良い言葉に簡単に引っかかる。

 日本も全く一緒、と思ったんです。最近NHKのニュースを見ているとやたらに『G7の議長国として』という言葉が目につきます。岸田は二言目にはそういうし、ニュースの解説でもやたらと『議長国』を多用する。別に抽選で回ってくるんだから、日本が偉いというわけでもなんでもないのに(笑)。
 人権侵害そのものの入管行政や技能実習生制度が放置されているのが典型で、日本人自体 自由や基本的人権という概念に対する意識が甚だ薄い。日本人だって自由というものをよく知らない(笑)。

 現状が惨めになればなるほど、為政者やマスコミはナショナリズムをくすぐる。現実を直視するのではなく、国民が『聞きたい言葉』を口にすることで自分に権力を集めようとする。


 
 岸田だけの話だけじゃなく、『対案もない癖に安全保障の論議すらまともにしようとしない一部のリベラル』や『減税や消費税廃止といった物理的に不可能なことを主張する野党』も一緒です。どちらも耳障りの良いことばかりを主張する挙句 自家撞着に陥っている。現実を直視しない。
 ウクライナ侵略はロシア人の罪、落ち目の日本も日本人の罪、ということでしょうか(笑)。


 と、いうことで、六本木で映画『バビロン

 映画製作を夢見てメキシコからやってきたマニー(ディエゴ・カルバ)はハリウッドの邸宅で開かれるパーティーに象を連れていく仕事を引き受ける。そこで奔放な駆け出し女優ネリー(マーゴット・ロビー)、サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)と出会う。ジャックに気に入られたマニーは彼の助手になり、ハリウッドの世界へ入り込んでいくが。

babylon-movie.jp

 2016年の『ラ・ラ・ランド』でアカデミー監督賞を取ったデイミアン・チャゼル監督の新作です。映画創世記のハリウッド、サイレントからトーキーへ時代が移り変わっていく時代を3人の登場人物の眼を通して描いた作品です。

 この監督の作品、『セッション』、『ラ・ラ・ランド』にはボクは共通した感想を持っています。
 映画としての完成度はめちゃめちゃ高い。また音楽は躍動感があふれている。プロットも工夫されているし、起承転結もばっちりで面白い。

 だけど、感情移入できない。好きになれない。描写に深みがないし、人間の描き方が冷たい。登場人物や音楽に対する愛情が全く感じられない。
 完成度も高いし面白い映画であることは認めるけど、ボクは正直 この監督、好きではないです。ブラッド・ピットマーゴット・ロビーを起用した大作である今作はどうでしょうか。

 冒頭から30分程度続く、大パーティーの場面には度肝を抜かれました。着飾った男女、服を着ていない男女が飲み、食べ、踊っている。文字通りの『酒池肉林』とはこういうものか、と思いました。

 それを視覚で再現しているのだから大したものです。お金もいくらかかっているのだろうと思わせるようなシーンです。しかも、それが躍動的な音楽とシンクロしている。監督は脚本を作曲家に渡して音楽を作ってから撮影しているそうです。

 無声映画の時代からハリウッドはそんな狂乱が続いています。当時の撮影自体も人海戦術、出演者、大道具、小道具、照明、撮影で莫大な人手がかかっています。無声映画だから演奏が使われるわけでもないのに、撮影現場を盛り上げるために楽団の生演奏まで行われている。それを再現したシーンには度肝を抜かれます。

 映画のエピソードの中心となる無声映画時代の大スター役のブラッド・ピットも、手段を択ばずのし上がろうとする新進女優、ネリー役のマーゴット・ロビーもすごい。

 二人の演技や存在感はど派手なシーンにも全然負けていない。これは特筆ものです。

 やがて時代は第1次大戦後の好況から大恐慌へ、映画も無声映画からトーキーへと変わっていきます。世の中の風潮も保守的になり、声や演技など役者に要求されるものも変わってくる。無声映画の大スターだったジャック、漸くスターに成りあがったネリーにも逆風が吹いてくる。

 狂乱のハリウッドを巡るお話に次第に哀感が漂ってきます。しかし、お話は浅い(笑)。
 プロットもちゃんとしているし、よくできたお話ではあるんですが、人間に対する見方が表層的です。冷たい。黒人やアジア系への人種差別も取り上げるなど現代的な視点も盛り込まれてはいるんですが、心に残らない。この監督のいつものパターンです。

 ただ、ジャックを演じるブラッド・ピットの演技、人物造形は非の打ちどころがありません。美味しいところを持っていきます(笑)。

 ギャング絡みの後半の展開はかなりスリリングです。よくできてはいるけど、マーゴット・ロビーも良くこんなバカな役を受けたな、とも思いました。色々な考え方はあるでしょうけど、そういう風に見える、ということです。

 豪華絢爛なシーン、躍動する音楽、主役陣の演技、美しい画面と揃ってます。質は高い。ただし好きにはなれない(笑)。

 悪い映画じゃなく、上映時間の3時間、ずっと楽しめる。全く退屈しません。
 客観的に見て、めちゃめちゃ面白い映画ではあるんですが、心に残るものがあんまりない。登場人物に共感できないからです。これも『ラ・ラ・ランド』と一緒です。冒頭のパーティーのシーンだけで充分元は取れるし、見て損はない映画ではあるんですが(笑)。


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