特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

奔流の中で人生を讃える:映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 良いお天気で穏やかな週末でした。近所の河津桜の木も満開になりました。

 引っ越しまであと2週間。旧居での荷物整理や各種手続きで本当に慌ただしい。今年の春は足早に過ぎていきそうです。

●朧月と河津桜

 今日 韓国政府が徴用工問題の解決策を発表しました。

www.yomiuri.co.jp

 水面下で日本の政府と『握った』んでしょうが、合意ができたのは凄く良かったと思います。どんな形にしろ、話し合い、少しでも合意を作る事。現実を変えるには少しずつ動くしかありません。

 安倍晋三殆ど唯一の功績はアメリカに強要されてまとめた慰安婦合意でした。残念ながら韓国がほごにしてしまいましたが、被害者のことを考えれば何らかの形で合意をすることは最優先の筈です。
 今回も同じです。被害者への見舞金受け取りを妨害したり合意をぶち壊した裏で、自分たちはカネを使い込んでいた挺対協ってほんとに酷いクズ連中です。ああいう強硬論に固執する連中は皆 同じです。どこの国にもれいわ支持者やバカウヨみたいな連中はいるものです。

 韓国政府の解決策に応えて被告企業が含まれる経団連が韓国企業と一緒になって、留学制度など日韓の将来のための協力事業をするそうです。せっかくのチャンスなんですから、日本の政府も大人の対応をして欲しい。
 中国、ロシア、韓国、北朝鮮と日本は隣国全てと問題を抱えている世界でも稀有のアホな国です(笑)。隣国と合意を作っていくことは日本の最良の安全保障だし、将来の日本の財産になることだと思います。


 と、いうことで、日比谷で映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

 中国系の移民、エヴリン(ミシェル・ヨー)は優柔不断な夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)と大学を退学してしまった反抗期の娘、認知症気味の父と暮らしている。破綻寸前のコインランドリーを経営している彼女は税務署の係官(ジェイミー・リー・カーティス)に呼び出される。税金申告の締め切りが迫る中、エヴリンはウェイモンドに突如、現在の世界と並行して存在している世界、マルチバースに連れて行かれる。そこでカンフーの能力に目覚めたエヴリンは、全人類の命運を懸けて巨大な悪と闘うことになるが。
gaga.ne.jp

 今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞助演女優賞など最多10部門11ノミネートでノミネートされている作品です。アカデミー賞の大本命でしょう。

 制作は『ムーンライト』『ミッドサマー』など名作ばかりを製作している映画会社、ブラッド・ピットが経営するA24、監督は『スイス・アーミー・マン』などのダニエル・クワンダニエル・シャイナート、’’ダニエルズ’’が監督を務めています。

 主人公は『グリーン・デスティニー』などの往年のカンフースター、ミシェル・ヨー、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『グーニーズ』の子役だったキー・ホイ・クァンが主人公の夫、税務署の係官を『トゥルーライズ』や『ハロウィン』シリーズなどのジェイミー・リー・カーティス

 中国系移民のエヴリンは優柔不断な夫、ウェイモンドと反抗期の娘、ジョイ、それに頑固な実父、ゴンゴンと暮らしています。朝から晩まで懸命に働いてきたエヴリンが文字通り一家の大黒柱です。ウェイモンドは頼りにならない、反抗期で大学を退学した娘はレズビアンをカミングアウト、しかも白人の恋人を連れてきた。おまけに頑固な実父は認知症気味。

●エブリンの一家。左から娘のジョイ、夫のウェイモンド、エヴリン、実父のゴンゴン

 経営するコインランドリーの経営は破綻寸前なのに、税務署からは税金の督促で呼び出しを受けている。担当の係官(ジェイミー・リー・カーティス)は脱税を厳しく追及してくる。

 中国を離れて異国の地で、若いときから一生懸命働いてきたのに今は八方ふさがりのエヴリンです。自分の人生はただ老け込むだけのものだったのだろうか。
 税金の締め切りが迫る中 エヴリンは突然別人のようになったウェイモンドに現在の世界と並行して存在する別の世界、マルチバースへ連れていかれ、自分が世界を救うべき存在であることを告げられます。

 はっきり言って、前半のお話自体は良く判らないです。マルチバースの説明も判りにくいし、人物描写の密度もいまいちです。なんかなーと思いながら見ていました。ミシェル・ヨーキー・ホイ・クァンがやたらと深い演技をしているので見て居られたというのが正直なところ。しかし、この映画の真骨頂はそんなところにはありません。

 映画は中盤以降 奔流のように展開していきます。見事なカンフーアクション、圧倒的な映像のイマジネーション、一発ギャグや下ネタも含めたコメディに圧倒されます。

 それがいつの間にか深い哲学的な話になり、普遍的な愛にまで昇華される。最後は落涙せざるを得ない。

 この映画全体で通奏低音のように流れているのが、人間への深い愛情です。
 登場人物たちは誰もが問題を抱えている。ぱっとしない。特に主人公は『自分の人生はこんなはずではなかった』という思いを抱えている。巨大な悪はそこにあるのかもしれない
 それだけではありません。演じているミショル・ヨーやキー・ホイ・クァンジェイミー・リー・カーティスまで当人たちの実際の過去をなぞらえたかのような映像が挿入される。

 大熱演のミシェル・ヨーが七変化宜しく、まるで永井豪の漫画、キューティーハニーのように様々な役を演じるのは、アジア系の俳優として悪戦苦闘しながら道を切り開いてきた彼女自身の足跡を辿っているかのようです。この映画でこの人が主演女優賞を取らなければ、アカデミー賞はどうかしていると思います。

 アカデミー助演男優賞にノミネートされているキー・ホイ・クァンインディ・ジョーンズグーニーズの子役以降 アジア系には仕事が全くなく不遇をかこって裏方に追いやられていたそうです。その鬱憤を晴らすかのように、ここで見せる彼のアクション、演技は本当に素晴らしい。

 そして、かっては売れっ子だったのに精神不安定ということでハリウッドから干されていたジェイミー・リー・カーティスの『男たちに頭がおかしいと決めつけられた女たちが、実際は世界を作ってきたのよ』というセリフには泣かざるを得ません。彼女もこの映画でアカデミー助演女優賞にノミネートされています。

 この映画は溢れるようなイメージの奔流の中で、順風満帆とはとても言えない彼らの人生を掬い上げ、思いを語らせることで、平凡で辛い人生を送っている登場人物、いや一般の人々、我々の人生をも讃えている
 なんと深い愛情に溢れた映画でしょうか。だから涙が出てくる。多少のあらがあっても関係ない。先週取り上げた、完成度抜群だけど人間に対する愛がない『バビロン』とは全く正反対です。

 コメディなのか、アクションなのか、SFなのか、哲学映画なのか、ファミリードラマなのか、どういうジャンルか判らない。それでいてアジア系やLGBTQなどのマイノリティへのプライドと愛を語り、平凡な人生を過ごしてきた市井の人々の人生を讃える賛歌になっている。こんな映画は初めて見ました。

 マルチバースという設定は判りにくし、この映画自体 ボクは大好きとは言えません。でも、新しい映画、新しい映像表現を切り開いた、という点では本当に素晴らしい。ギャグとアクションの奔流の中で真に新しい表現を見せてもらった
 好き嫌いはあるにしても、客観的には大傑作でしょう。大画面で見るべき、素晴らしい作品でした。


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