特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

「Hongkong Is Dying」と映画『ゴジラ-1.0 』

 いよいよ11月も終盤です。
 11月は仕事絡みの宴会が2回もあって気分がブルーでしたが、今のところ12月は忘年会の予定が入っていません。口を開けば宴会の悪口を言い続けてきて、とうとう誘われなくなったのか(笑)。このまま行ってくれれば実に嬉しいです。残り少ない人生、宴会なんかで無為な時間を過ごすのはお断りです。


 勤務先で香港に行ってきた人の話を聞きました。
 あちらでは中国共産党の政治を嫌ってイギリスなどへ移住する人がどんどん増えているそうです。香港の基幹産業だった金融はシンガポールへ移ってしまったのもありますが、脱出するのは特に高学歴・高収入の人や若い人が多いそうです。香港の経済面でもかなりの打撃でしょう。

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 既に小学校では広東語ではなく北京語が教えられているそうで、共産党言論の自由どころか、文化ごと香港を破壊しようとしている。ガザのように廃墟になっている訳ではありませんが、文化的な『虐殺』が行われている。香港人アイデンティティそのものを抹殺しようとしている。現地では多くの人が’’Hongkong Is Dying’’と言っているそうです。

 一見ソフトには見えるけど内実は中国共産党ソックリの世襲と縁故、それに国民の言うことは聞かない強権的な政治の日本です。他人事には思えませんでした。


 と、いうことで、新宿で映画『ゴジラ-1.0

WW2の敗戦で焼け野原となった東京に突如 ゴジラが現れ、戦争の惨禍を生き抜いた元特攻隊員(神木隆之介)たちに襲い掛かる

 ゴジラの新作、大ヒット上映中らしい。『ALWAYS 三丁目の夕日』、『永遠のゼロ』、『アルキメデスの大戦』のヒットメーカー、山崎貴が監督と言うことで、見に行くべきか非常に迷いました。モロに頭が悪くなりそうじゃないですか(笑)。

 色々評判を調べてみて『思ったよりは酷くない』が大勢だったので、とりあえず見に行ってきました。
 因みにボクの職場にいるアニメ大好きな若い中国の子の感想は『ゴジラ、サイコー』でした(笑)。映画に大日本帝国軍の元軍人や兵器が出てくるのは知ってたので『君はムカつかないの?』と尋ねたら、『映画ではダメな象徴だったからいいんです』って言ってました(笑)。


 映画が始まると直ぐ、登場人物たちに違和感を覚えました。
 最初の舞台として、ゴジラ第1作に出てきた架空の島、大戸島が出てくるのは良いのですが、主人公を始め、旧日本軍の兵隊たちが全く兵隊に見えない。今の若い俳優さんたちだから戦前とは思えないくらい体格も立派だし、食うや食わずの状態だったのに、あんなに血色が良い筈がない(笑)。
 主演の神木隆之介という俳優さんは好きですが、彼も特攻隊員と言う感じは全くない。後半にかけて芝居は良くなってくるけど、最初に感じた違和感は最後まで残りました。

 何よりも登場人物たちのセリフが良くない。いちいち、いちいち全部説明する。芝居の余韻が全くない。テレビドラマってこういう感じなんでしょうか。正直 頭痛くなりました。

 正直 前半は唯一まともな芝居をしている安藤サクラが出てくるシーンになるとホッとするくらいです。

 あと浜辺美波という人は昭和顔で、この人は戦後直ぐの登場人物として違和感ありませんでした。良く知りませんが、最近の女の子でもこんな顔をしている子が居るんだ(笑)。


 一方 CGというか、VFXは素晴らしい。本当に素晴らしいです。戦後の焼け跡や復興しかけた銀座などが見事に表現されている。今の技術だとここまで出来るんですね。監督自体がVFX出身だそうですが、これは素晴らしかった。ただ、色調など嘘っぽく感じられる部分もないわけではないので、模型を使った特撮の素朴なノリが懐かしくもある(笑)。


 お話自体はまあまあ、でしょうか。設定はかなりムリがあるけど、脚本がかなり練りこまれているのは判ります。想像以上に良くできていた。
 『永遠のゼロ』の監督だから特攻賛美のお涙頂戴になるのを危惧していたのですが、旧日本軍の人命軽視へのアンチテーゼがお話の最初から最後まで強調されています。それに戦前も戦後も『日本という国家はあてにならない』ことが強調されています。それは正しい。

 ただ『ゴジラ』(第1作)、『シン・ゴジラ』と比べると、とにかくお話がセコい。
 『ゴジラ』は戦争の犠牲者への鎮魂と強烈な反戦のメッセージがテーマでした。芹沢博士を演じた平田昭彦先生を始め、演者も製作側もが実際に戦場の死線を潜り抜けてきた人たちだから迫力が違う。画面の中で圧倒的な存在に対する無力感と荘厳な美しさが共存していた。

 『シン・ゴジラ』は日本の戦後民主主義が見て見ぬふりをしてきた対米従属や意思の不在などの構造的な欠陥を指摘しつつ、僅かな可能性を提示して見せた。今にして思えば、製作当時の民主党政権のカラー・雰囲気が強烈に反映されていた。

 『ゴジラ-1.0 』は、かって特攻から逃げた主人公がそれをどう克服するか、という個人的な話がテーマになっている。ゴジラという超自然の存在感も希薄だし、勿論 映画の登場人物である旧軍の兵隊たちは被害者でもあったけど加害者でもあったことはおくびにもでてこない。軍民併せて日本人だけでも300万人、アジア・太平洋全体では2000万人が亡くなった太平洋戦争全体では、日本軍の人命軽視なんて枝葉末節に過ぎません。ゴジラまで出して訴えるような話ではない(笑)。

 荒唐無稽な設定は別にして、お話はよくできているけど、セコい(笑)。まるで日本人特有の『私小説』です。もっと悪く言えば『日本語フォーク』や『JPOP』(笑)。つまり視線は内向き、意識が自閉していて、お話の普遍性を欠いている。いかにも今の日本の風潮を象徴しているともいえる。

 終戦直後というシチュエーションを生かして絶望感だけでももっと強調できていたら、全然違う映画になっていたと思います。

 
 とはいえ、それなりには面白かったです。ヘイトも軍国主義賛美もないし、それなりに楽しめるんじゃないですか。『ゴジラ』や『シン・ゴジラ』は勿論、ギャレス・エドワーズのハリウッド版『ゴジラ』にも及ばないけれど、合格点ではあるでしょう。ただこの調子で続編とか出たら怒るな(笑)。

 映画館に入った途端 普段ボクが映画を見る際の客層とは雰囲気があまりにも違うと思ったのですが、映画が始まっても最初から最後まで途中でトイレに立つ人が途絶えませんでした。世の中の多数派である、そういう客層を動員することで、大ヒットしているのでしょう。
 ボクとしては予告編で流れたアップルTVで放送されるアメリカ版ゴジラの実写ドラマ『モナーク』の方が面白そうでした(笑)。


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