特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ポピュリズムを考える』と映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』と『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』

明けましておめでとうございます。
ボク自身は例年通り、どこにも出かけず、家で静かな年越しでした。TVも消して、聞こえてくるのは加湿器の音だけ。人も少なくなって道を通る人もいません。文字通り寒さを感じる夜でしたが、自分としてはそういう瞬間が一番落ち着きます。宝物のような時間でした。
●遠くの海に朝陽が輝いています。冬は寒いから嫌いだけど、空気が澄んでいて綺麗な景色が多いところだけは好き!


元日 起き抜けにTVをつけたら、イスタンブールで銃乱射のニュースが流れてきました。新年のお祝いをしている人たちが100人近くも亡くなったり、傷ついた卑劣な犯行です。
今年はそういう年なのかは判りませんが、そういう時代ではあるのでしょう。年末に読んだエマニュエル・トッドの本では『ISなどのテロはイスラム教には全く関係がない。前近代的な社会が近代化に直面することで不安定になることから生じる暴力で、古くはフランス革命やイギリスのクロムウェル、ナチや大日本帝国による流血と同じ性格のものだ』、と述べられていました。そうだとしたら、特定の宗教を警戒したり、テロリストを爆撃したり、戦争をやることで暴力は押さえられません不安定な社会を豊かにし、人々の暮らしが安定する方向へ持っていくしかありません
●この人は家族の在り方から物事を考える、フランスの歴史・人類学者

                             
不安定になっているのはイスラム圏の国だけではありません。先進国全体がそうなりつつあります。格差が広がり、差別や憎しみを煽るポピュリズム的な政治家が大衆の支持を受けています。景気など経済問題にしても財政や社会保障など政治の問題にしても、旧来のシステムや政治家の問題点がどんどん露わになっています。
それに対してポピュリズムは仮想敵を作って憎しみを煽るか、過去の時代を強引にリバイバルさせることで大衆に媚を売ろうとする前者が橋下や小池でしょうし、後者はアベノミクスです。あと、何でもアメリカのせいにする愛国左翼みたいなポピュリズムもあった(笑)。彼らの言ってることの多くは事実誤認だったり、非論理的だったり、そもそもの事実認識からして間違っていることが多い。彼らの言ってるようなことは大衆の安っぽい感情を満足させることはできても、彼らに未来はありません。
                                  
年末12月22日の朝日新聞『論壇時評』小熊英二慶大教授が中間層が右派ポピュリズムに走る理由として『旧来の生活様式を維持できなくなる恐怖』を挙げています。それが『昔ながらの自国のアイデンティティや経済システムを防衛する志向をもたらす』というんです。ヒステリックな嫌韓や嫌中、円安で輸出復活というアベノミクスも、旧来のシステムや過去の成功例に自分たちを重ね合わせる点では全く一緒なんです。ポピュリズムというものはそういうもの、なのかもしれません。現実を見ない。過去の自分に逃げ込む。2000年以上前、『人間は自分の見たいものしかみない』と喝破したカエサルという人は全く大したもんです。

                                
年末にアニメ映画『この世界の片隅に』、『君の名は』を見て、文字通り戦後は終わりつつある、と思いました。『この世界の片隅に』は戦時下の一般人の生活に正面から向き合うことで、我々をリアルな現実に引き込みます。そのリアルさは死と隣り合わせの戦時下の厳しい生活だけでなく、加害者としての日本人の姿を浮き彫りにします。平和を唱えつつアメリカの核の傘の下で生きてきた戦後の偽善はそこにはありません白井聡が言うところの『永続敗戦』(アメリカに一方的に従属しつつ、国内では戦前の温存を図ろうとする戦後の偽善)はこの映画の中では見事にピリオドが打たれています。                
『君の名は』は荒唐無稽なお話の中で今までの日本のドラマにありがちな、べたべたした感情、感傷を完全に排しています。その突き抜けた感覚がかってないほど多くの人に支持されています。これを見て、世の中が変わりつつある、と思ったんです。
                                  
                                        
確かに今の時代は歴史的な転換点にあるんでしょう。先進国で経済成長が止まりつつあるのもそうだし、人口が少子高齢化に進みつつあるのもそう。上り坂から下り坂の時代かもしれない。少なくとも日本では多分そうなる(笑)。そういう時代では社会が不安定になりがちだし、残念ながら暴力だって起きる。国籍や考え方を差別するような偏狭な考え方も流行る。不安です。でも、そこで過去を懐かしむだけで問題は解決しない。新しい解決策や方法論を自分たちなりに考えていくしかない。イデオロギーより現実を一歩ずつ変えていくことしかないのではないでしょうか。自分が生きている時代はダメでも、少しはマシな社会にして、誰かに小さな希望をつないでいければ良い、と思うんです。

●余談ですが:農水省が作った全国お雑煮マップ。こうやって改めて見ると面白いですね〜。


                                  
さて、年末に観た映画の感想を。 どちらも小さな希望を将来につないでいく話です。
一つは『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

イギリス軍諜報機関のパウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、ケニア・ナイロビ上空の偵察用ドローンからの情報を基にロンドンでアメリカとの合同軍事作戦を指揮している。大規模な自爆テロ計画の情報をキャッチした彼女は、ドローンで攻撃をしかけようとするが、他国で空爆をすることに内閣はなかなか承認をしない。攻撃すべきか、攻撃せずに自爆テロが起きてしまうのを待つか。しかもミサイルの殺傷圏内に少女がいることが判明する。関係者一同の決断は---

                                     
地味な公開ですが、昨年のベスト10に入れる評論家もいるくらい非常に評判が高い映画だったので見に行きました。実際とても質が高い、見事な映画でした。
戦争映画ですが、戦闘シーンなどは殆どありません。ケニアのナイロビでの軍事作戦ですが、指揮は遠く離れたロンドンから、ドローンの操縦はアメリカのラスベガス近郊の空軍基地から行われています。カメラのモニターから流れる映像を基にしながらの決断のプロセスが映画になっています。ある意味 シン・ゴジラのような会議、決断のプロセスがお話の中心ですが、この映画は更に深い。
ヘレン・ミレンってホント、意地悪そうな悪役顔だと思います(笑)。ボクはこの人のルックス嫌いなんですが、今回の軍人役はぴったり、そうなると良く見えるんですよねえ(笑)。

前半はドローン作戦の実態が描かれます。テロリストが居る国の上空を長時間飛んでいるドローンにはミサイルや爆弾が積み込まれ、テロリストをピンポイントで攻撃できます。でもそれを支えているのは現地の要員です。危険を冒して情報を集めるだけでなく、テロリストの隠れ家を外から見張る鳥型のロボットや昆虫型のロボットを操作して情報をリアルタイムで収集する。これは驚きでした。これらはカメラを搭載し、自由に移動できる。昆虫型ロボットは家の中にまではいって、状況を知ることができる。そうやってテロリストの顔を写し、それをコンピューターのデータベースと照合して顔認識し、ロンドンやワシントンの会議室で軍と内閣で攻撃するかどうか意思決定する。恐ろしいというか、今はこういう世界なんですね。
●いくらハイテク時代でも、こういう奴らがうじょうじょ居る中(1枚目)に現地工作員が命がけで潜り込まなくてはなりません(2枚目)。手にするのは昆虫型ロボットのコントローラー

映画では錯綜する意思決定のプロセスが描かれます。攻撃してテロの脅威を除くべきだという軍、意思決定の責任を取ろうとしない大臣、法律顧問。イギリスとアメリカとの微妙な関係。その間にも自爆テロの準備が進んでいるのが昆虫型ロボットのカメラからロンドンに伝えられます。てんやわんやの末、攻撃の意思決定がなされるのですが、今度は攻撃地点に少女がやってきてパンを売り始めます。ここで攻撃すれば罪がない彼女も巻き込まれる。関係者一同の迷い、実際に引き金を引く操縦士の葛藤、現地の要員の努力など見事なドラマが展開されます。
●意思決定をする軍と内閣との会議(ロンドン)、外遊先の外務大臣シンガポール)、ドローンの操縦士(ラスヴェガス)。遥かな距離を乗り越えた息詰まるようなドラマが展開されます。



                                   
●攻撃の寸前、テロリストの家の前で少女がパンを売り始めます。関係者はなんとか無関係な彼女を救おうとします。

                                     
一人の少女を救って数百人が死ぬ自爆テロを黙って見過ごすか、一人の少女を巻き添えにして自爆テロを防ぐか、皆さんだったらどうお考えですか? オバマ氏が撤兵はしてもドローン攻撃を続けたのはどうだったのでしょうか。机の前で理想論はいくらでも言えます。でも現実をどうすればいいんでしょう。ボクはこの映画を観て、希望はあると思いました。深く考えさせる本当に素晴らしい映画でした。

                                   
もう一つはローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

帝国軍の巨大兵器デス・スターによって、銀河は混乱と恐怖にさらされていた。天涯孤独の身で世の中を生き抜くために悪事を重ねてきたジン(フェリシティ・ジョーンズ)は反乱軍に加わり、デス・スターの設計図を奪うという、困難かつ無謀なミッションを引き受けるが。
                             

今までボクは、スターウォ―ズって興味ありませんでした。子供のころ第1作を映画館で観て、子供心に『これは子供だましだ』と思ったんです(笑)。壮大そうな話なのにただの親子のドロドロした話、フォースが使える選ばれた親子の話じゃないか、セコイ、と思いました。

                      
ただTVで見た第3作目、クマちゃん宇宙人(イウォーク)が帝国をやっつけるのはとても面白くて、クマちゃんが活躍するシーンだけを録画して、たまに見返したりはします。ボクの基準ではクマちゃんとか犬が活躍する、というだけで、10割増しの評価なんです。あとは全く興味なし(笑)。




ところが、なかなか良かったハリウッド版ゴジラを撮ったギャレス・エドワーズ監督が手掛けた今回は、今までのスターウォーズものでベスト、と言われるくらい非常に評判が良かったのと、フェリシティ・ジョーンズちゃんが主役だったので思わず見に行ってしまったんです。
●左側がフェリシティ・ジョーンズちゃん

                              
フェリシティ・ジョーンズは昨年の『博士と彼女のセオリー』でホーキング博士の妻役を好演していました2015-05-04 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。この役は非常に興味深かったんです。一見 夫を支える慈母のようなキャラクターを想像しますでしょ。ところがそうじゃない。昭和の時代のメロドラマじゃあるまいし、そんな頭の悪い話じゃない。フェリシティ・ジョーンズが演じたのは夫を愛しつつも自分の人生も大事にする女性でした。同志としてのホーキング博士は尊重するけど、バカ夫はさっさと離婚する。これはかっこよかった。彼女にはスターになりそうなオーラも感じられて、思わず名前を覚えてしまったんです。
博士と彼女のセオリーでのフェリシティ・ジョーンズ

                                                 
で、今回はどうだったか。お話自体はやっぱりクダラなかった(笑)。お金がかかりまくった映像は面白いけど、特に前半はとっちらかっているし、なんてことない。ところが中盤以降は俄然 感情移入できる話になっていきます。登場人物たちは主人公を始め、皆強いけど一般人、それもダメダメな人間ばかりです。フォースが使えるとかそういう超人じゃない。そのダメダメ人間たちが『希望』を将来につないでいく話なんです。彼らは自分たちが小さな希望を紡げば誰かが受け取ってくれるだろう、それだけを信じて闘い続けます。ここはもう、感情移入しまくりでした。

                             
で、フェリシティ・ジョーンズちゃんはどうだったか。前半は見事なアクションを見せます。『ほんとに強い〜』と言いたくなるような圧倒的な強さ。相当 格闘技を練習したんでしょう。後半はどんどん美しくなっていく。表情も崇高なものに変わっていく。カリスマさえ感じられる。これぞ女優!という感じです。それこそ昔の映画『ディープ・インパクト』を思いださせるような、彼女のラストシーンは最高でした。


                                                  
ということで、スター・ウォーズに全く興味ない人間でも面白かった。特に中盤以降は本気で萌えました。たぶん本編の100倍は面白いんじゃないでしょうか。フェリシティ・ジョーンズちゃんの映画はまた見てみたいと思います。そこかよって(笑)。