特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『NO 選挙,NO LIFE』

 11月ももう後半。朝の寒さが本格的になってきました。
 徒歩通勤の途中で富士山が見えるようになってくると、そろそろ冬の訪れです。

 


 岸田の支持率がまた下がって2割台、自民党が政権に復帰してからの最低記録を更新しているそうです。今や国民の75%が岸田に反対している。

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 しかし、これだけ不人気でも自民党の中で代わりと言われるのはもっと酷い連中ばかりです。それに政権を任せられるような野党もありません。

 以前 話題に挙げたアルゼンチンの大統領選、通貨安で物価が前年の2倍以上になったハイパーインフレで国民の4割が貧困層に転落という現状でもまだ、バラマキを続けると言い張る左翼の経済相と極右の経済学者の決選投票(笑)になって、極右が勝ちました。公約は自国通貨をドルに切り替えるドル化政策や中央銀行廃止、公共支出の大幅削減だそうです(笑)。


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 右も左も表面的な国民の人気取りしか頭にない候補者しかいないアルゼンチンは不幸だと思いますが、日本も全然他人事ではない。将来の日本の姿がここにある。そう思うのはボクだけでしょうか。


 と、いうことで日本橋で映画『NO 選挙,NO LIFE

 2022年7月の第26回参議院議員選挙フリーランスライターの畠山理仁氏は6議席を34人が争う東京選挙区で候補者全員に取材を試みる。選挙現場を一人で回り、睡眠時間は平均2時間で、経済的にも困窮する生活を続けてきた彼は、50歳を迎えて限界を感じ、同年9月の沖縄県知事選の取材を最後に引退することを決める。カメラは沖縄へ向かう畠山氏に同行するが。

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 選挙取材歴25年を超えるフリーランスライターの畠山理仁氏に迫るドキュメンタリー。監督は『なぜ君は総理大臣になれないのか』、『香川1区』のプロデュ―サーの前田亜紀、同2作の監督を務めた大島新がプロデューサーを担当しています。

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 畠山氏の名前は選挙期間中 ネットで良く見かけますし、大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』やダースレイダープチ鹿島の『劇場版 センキョナンデス』、『シン・ちむどんどん』などにも登場してきます。

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 現場に密着する選挙報道のプロ、とは思っていましたが、実際はどういう人なのか、詳しくは知りませんでした。彼はイデオロギーや当選可能性に関わらず全ての候補者を取材することを信条にしているそうです。泡沫候補者を取り上げたこの本、『黙殺』で開高健ドキュメンタリー賞も受賞しています。

 
 映画は昨年の参議院選挙、東京選挙区での取材に密着します。彼の取材は選挙管理委員会に立候補受付でやってきた候補者へのインタビューから始まります。 

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 ご存じの通り、候補者は玉石混交、ロクでもない奴も多いわけです。スーパーマンの衣装を着ているような候補者を取材してもしょうもないだろうと思うのですが(笑)、畠山氏は愚直に彼の話を聞きます。

 畠山氏は『自由に立候補できる選挙は民主主義の基本であり、私生活やお金を犠牲にして立候補するだけでも尊敬できる。だから、その声を社会に伝えたい。』というのです。確かにその理屈は間違っていません。
 一方 大手のマスコミは有力な候補者の声しか伝えない。確かに選挙でUFOがどうとか言われても困りますけど(笑)、一方的にノイズを切り捨てることで人々の選挙への興味が薄れている面もあるのではないか

 しかし約10日間しかない選挙期間内にすべての候補者の声を拾い上げるのは大変です。議員が全て選挙区にいるとは限りません。例えば蓮舫などは他の議員の応援で全国を飛び回っており、自分の選挙区には入れなかった。畠山氏はわざわざ長野まで車を飛ばし、彼女の声を拾います。それらの声を文字おこしし、記事にまとめる。文字通り走り回り、不眠不休の作業です。

 彼の取材を見ていると確かに演説に集まった人たちの雰囲気も判るし、候補者の人となりも見えてくる。政党による違いは勿論です。自民党組織力はやはり全然違います。
 現場にしかない情報は確かにある、ということは改めて感じました。
 
 しかし、これだけやっても彼の取材は赤字だそうです。もともと雑誌の原稿料なんて安い。それに断片的な情報を速報で出すことが好まれるネットの時代では、候補者の本質や集まった人たちの熱気など読者に考えさせるような情報は好まれない。赤字を埋めるために他のアルバイトをしながら取材を続けている状況です。

 50歳を迎えようとする畠山氏には奥さんと子供二人がいます。奥さんは『誰もやっていないことだから続けるべき』と言いますが、彼自身はそろそろ選挙取材は止める潮時だと考えています。
 
 『卒業旅行』と称して、彼は最後の取材、沖縄知事選に密着する3週間の旅に出ます。

 現職の玉城デニー自民党が推す候補、元維新の候補との三つ巴の選挙選でした。
 どの陣営にもそれぞれ個性があります。しかし共通しているのは選挙に対する熱量です。

 例えば道端には候補者名が書かれた幟が大量に立っているのですが、これは公職選挙法違反だそうです。しかし与党も野党も皆がやっているから、選管も警察も取り締まらない(笑)。いかにも沖縄らしいおおらかな光景です。しかしそれだけ選挙に対する熱量があるのです。本土とは明らかに違う。

 映画の中では『アメリカの占領下で沖縄は戦って権利を勝ち取らなければ生きて来られなかった』、『選挙に行かなければ、本土は沖縄の意見を全く無視してしまう』などの声が紹介されていましたが、なるほどと思いました。
 与野党関係なく選挙に夢中になる人たちを見て、畠山氏の心情も変わっていきます。彼は今も取材を続けています。

 泡沫候補も取り上げる畠山氏のルポですが、右翼的な候補が増えていることは気になりました。

 泡沫といっても参政党やNHK党などは昨年の参院選議席を獲得しただけでなく得票率は2%を越え、国政政党として政治資金が交付されるようになっています。はっきり言って社民党より勢力はあるわけです。
 NHK党は得票率2%を獲得して政治資金を得るためだけに70人以上もの候補者を立候補させた、と公言していますし、赤尾敏の姪も加わっている参政党は右翼であるだけでなく反ワクチンで、事務所でも誰もマスクをしていない。うそばっかり垂れ流しているれいわも酷いけど、今やそんな連中が国政政党です。

 現状に向き合わない時代遅れのリベラルが『バラモン左翼』(ピケティ)と化していったことで、与党の新自由主義的な政策に追いつめられた人々の不満の受け口がNHK党や参政党、れいわなどに向かっている。気持ちは判るけど、まさに世も末、です。これが今の日本の民度なのでしょう。


 終わったあとは畠山氏、前田監督、大島新プロデュ―サー、朝日新聞記者でありながら岩手に在住し原発事故などを取り上げたルポを書いている三浦英之氏のトークショー

 なぜ泡沫候補も取り上げるのか、と問われて、畠山氏は「無名の候補者をバカにするのは無名の有権者である自分自身がバカにされるのと同じこと」と、言ってました。
 泡沫候補の話にも聞くべきところがあって、それを全て切り捨ててしまってよいのか。そういう話や主張も取り上げることこそ、この世界が豊かであるということを示しているのではないか、と言うのです。
 記者会見の場で自分の意見を滔滔と主張して他人の話に耳を傾けない東京新聞記者の望月衣塑子などとは全く対照的な態度です(笑)。そういえばNHK党や参政党と望月衣塑子はまともな対話が出来ないという点ではよく似ています。

 ちなみに彼は差別主義の政治家と話をする際は『先方が思う通りに話をさせた後に、質問をして突っ込む』と言っていました。『自分はジャーナリストであり、まずは読者に伝える義務があるから』だそうです。その上で矛盾を突っ込む。政府の言ってることを垂れ流すだけの大手マスコミとも自分の言いたいことだけをまくしたてる望月衣塑子とも明らかに違う。

 使命感というより、楽しそうに取材をしているところも良い。畠山氏は、人々の本音が露わになる選挙という現場が本当に大好きみたいです。

●左から前田監督、畠山氏、三浦記者


 ドキュメンタリーとして、かなり面白かったです。選挙に関わるユニークな人たちの光景は勿論ですが、畠山氏の人柄や心の変化も浮き彫りになってくる。取材は冷静だけど内面は熱くて優しい、畠山氏のキャラクターにも惹かれました。ボクはこの人、好きになりました(笑)。それこそ、こういう人が市井にいることで世の中が成り立っている。

 社会の矛盾や不正義を訴える映画も判りますけど、世の中は善悪でスパッと割り切れるような単純なものではありません。こうやって考えさせてくれるようなドキュメンタリーこそ、見る価値がある映画だと思います。


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