特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『福田村事件』

 今朝の東京は久しぶりの雨。滾るような暑さだった地面が文字通り、雨で冷やされているような感じがします。

 9月を迎えて、秋の足音が近づいてきました。今年も残りあと3分の1。早くご隠居になりたい(笑)。煩わしいことから逃れて静かな暮らしがしたい。

●サザンが外苑の緑伐採に反対する新曲を出しました。ボク自身はサザンなんか興味ないですが、元地元民として伐採は大反対。


と 言うことで、新宿で映画『福田村事件

1923年春、智一(井浦新)は妻の静子(田中麗奈)と共に、日本統治下の朝鮮から故郷の千葉県福田村に帰郷する。彼は日本軍が同地で犯した蛮行を目撃して、ショックを受けていたが静子にはそのことを話せないままだった。そのころ、香川県からの行商団一行15人が香川から関東を目指して出発していた。やがて9月1日、関東大震災が起こり、朝鮮人が井戸に毒を入れているというデマが広まるようになる。9月6日、行商の一行と地元の人とのささいな口論が村民たちを刺激し、悲劇へ発展していく。
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 関東大震災直後に千葉県の野田市の福田村で起きた実際の虐殺事件を題材に、数々のドキュメンタリーを手掛けてきた森達也が監督を務めた作品。
 出演は井浦新田中麗奈永山瑛太東出昌大豊原功補柄本明ピエール瀧水道橋博士、元『水曜日のカンパネラ』のコムアイなど。音楽はムーンライダーズ鈴木慶一
 

 森監督はクラウドファウンディングで制作資金を集めたそうですが(文化庁助成金も入っている)、ボクの感覚だと豪華オールスター映画です(笑)。先週NHKクローズアップ現代でも取り上げられていました。番組はつまんなかったけど(笑)。

www.nhk.or.jp

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 他にもマスコミの露出は結構多かったみたいです。


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 脚本は『仮面ライダーV3』などの佐伯俊道、『止められるか、俺たちを』などの井上淳一、『ヴァイヴレーター』などの荒井晴彦と、センスの悪さは折り紙付きの全共闘世代の爺さまたちです。不吉な予感もします(笑)。彼らが同世代を描いた『止められるか、俺たちを』は大好きなので一概にはこの人たちを否定しませんけど。

 福田村事件とは『23年9月6日、千葉県東葛飾郡福田村に住む自警団を含む100人以上の村人たちにより香川から訪れた薬売りの行商団15人が讃岐弁で話していたことで朝鮮人と疑われ、幼児や妊婦を含む9人が殺された。自警団員8人が逮捕され実刑になったものの、大正天皇の死去の恩赦ですぐに釈放された』というものです。

 関東大震災の際の朝鮮人や沖縄の人が暴徒に虐殺されたり、大杉栄のような社会主義者が警察に虐殺された話は有名ですが、福田村事件はボクもこの映画の話を聞くまで知りませんでした。
 最近は数千人が殺された虐殺を否定しているバカがいるそうで、日本人の知的劣化は頭が痛いところです。

 ボクは亡くなった祖父から、その目で見た当時の様子を聞いています。鳶の棟梁だけど気が小さい祖父(笑)は心底、嫌そうな顔をしていました。背中一面に極彩色の入れ墨は掘っていたけど、暴力沙汰は大嫌いだったんです。虐殺はあったんだよ。下等生物ども。

 そういう時代にこういう題材を映画化したのは良し、としましょう。

 映画は画面を見ている分には結構面白いんです。オールスターキャストだし、役者さんたちの演技は凄くよい。演出は確かなんでしょう。水道橋博士在郷軍人会会長役には驚かされたけど、ぴったりでした。

 それに、ボクは井浦新は大好きです。

 映画の画面で初めて見る田中麗奈も妖艶で凄く良かった。なっちゃんも大人になったね(笑)。

 なんと言っても出色なのが元『水曜日のカンパネラ』のコムアイ。存在感あって、こんな演技が出来る人とは思いませんでした。バンドを辞めても演技の仕事、一杯来るんじゃないですか。

 永山瑛太東出昌大もすごく良かった。予定調和になりがちなこの映画に新鮮な風を吹かしてくれました。東出昌大はスキャンダルで干されてたみたいですが、本当に良い役者だと思います。この映画の役は実生活のスキャンダルがそのまま反映されていて笑いましたけど、この人は男のボクが見ていても色気がありますよ。

●夫が戦地から帰ってこない咲江(コムアイ)は渡し船の船頭(東出昌大)と不倫関係にあります。

 あと部落問題を絡めたのも慧眼だと思いました。朝鮮人差別と二重構造にすることでお話の深みを増しています。そんな様々な人々のエピソードを描きながら9月6日に向かって収斂していく。その構成は良かったです。

●行商を演じる永山瑛太も良かった。

 あと、鈴木慶一の音楽も流石です。画面の雰囲気を反映したミニマムな音作りが効果的なのと同時に、音を挿入してくるタイミングが絶妙です。ムーンライダーズの音楽もそうですが、敢えてワンテンポ外してくる。だから非常に印象的かつ効果的。複雑なビートが響くクライマックスのシーンの音楽も素晴らしかったし、映画をワンランク上のものにしていました。
 

 ここまでがこの映画の良いところ(笑)。それ以外はかなり酷い(笑)。同じように社会派映画として話題になった数年前の『新聞記者』よりはマシですが、かなり問題あるレベルです。

 まず、なんでもやたらと台詞で説明するんです。
 映画はボクの大好きな井浦新が妻役の田中麗奈と汽車に乗っているシーンから始まります。そこに沈痛な表情で遺骨を抱えた女性が乗ってくる。シベリア出兵で亡くなった兵士の妻です。そこで、いきなり登場人物たちが『戦争なんか意味がない』とか言い出すんです。普通、公衆の面前でそんなこと言いますか?しかも戦前に(笑)。最初からドッチラケ(笑)。

 荒井晴彦の台詞がくどいのは知ってましたけど、この映画はいつも以上に酷い。言いたいことがあるのは判るけど、『新聞は真実を伝えるものでしょう』なんてセリフで説明しちゃオシマイです。役者さんの表情やお話、映像で表現しなければ、映画の意味がない。
 挙句の果てには主人公の抱えるトラウマまでセリフで説明するだけ(笑)。お話のある意味、根幹です。さすがに井浦新も可哀そうです。

 それに伏線の貼り方もすごく雑。例えば虐殺の切っ掛けを作る最初の加害者は意外性があって良かったんですが、そこに至る迄の伏線が手を抜き過ぎ。前述した主人公のトラウマを終盤に持ってくるところも取ってつけたようで説得力は皆無だった。
 とにかく脚本は酷い。学芸会レベルです。

 その割に、全く意味がない正義感溢れる新聞記者のエピソードとか社会主義者の話など余計な話も入っている。上っ面だけしか描いてないから、焦点が散らばるだけでした。

 特に社会主義者の虐殺のシーンはインチキ臭い。例えば大杉栄伊藤野枝は警察だか特高だかに、かなり酷い拷問を受けたあとに殺されました。多くの社会主義者はそうだったと思います。でも、この映画では顔や体に傷一つない。舐めてんのか
 あと全体的に日本刀の使い方も酷かった。素人が日本刀であんなに簡単に人を殺せるわけないじゃん。実際はもっと無様で、血生臭い話だったんじゃないですか。

 もっとも悪いところは虐殺する側の心理を全然描いていないところ。森監督は『集団心理の怖さを描きたい』『加害者側も人間』クローズアップ現代で言ってたと思いますが、加害者側を全然描いてない(笑)。虐殺する側の人物描写が殆どないんですもん。

 え?って感じです。何故 人間はそんな蛮行に及んでしまうのかを描かない映画なんか意味がないでしょう。せいぜい水道橋博士が孤軍奮闘しているだけ。撮影当時に彼が患っていた鬱病そのまま、という感じもしましたが(笑)。


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 例えばカンヌで脚本賞を取った黒沢清監督の『スパイの妻』では主人公を拷問する憲兵隊の司令官役にこの映画にも出ている東出昌大が出てました。鬼気迫るような彼の迫力は狂気そのものでした。存在感がある役者が敵役にいると、映画の深みが全然違います。
 この映画は折角のオールスターキャストなのに、主だった役者は皆、虐殺を止めようとする側なんだもん。全然意外性がありません。バカみたい(笑)。

 だから映画が心に残らない昔 酷い虐殺事件があったのね、ただそれだけです。そんなの、テキスト記事で読めばよいだけで、映画で見る必要はありません。
 この監督は何が言いたかったのでしょうか

 タブーや忖度なしに映画を作った。でも出来は酷い(笑)。邦画はそんなのばっかりです。いい加減そんな間抜けな映画を持ち上げるのはやめたらどうか。観客の民度も低いんでしょう。一言で言えば、幼稚(笑)。

 オールスターキャストを見ているのは楽しかったので2時間、退屈はしなかったです。『新聞記者』みたいに言い訳がましい不快な感じもない。けれど結論が判り切ったヘタクソなテレビドラマのように心に残らない映画でもありました。


 同じメッセージ性の強い映画でも最近見た『バービー』とはえらい違いです。あちらの方が遥かにメッセージは強烈でラディカルなのに、良質のエンタメでもあり、心に残る作品でした。どうしてここまで差があるのか。
 才能の違いですから比べるのは酷でしょうが、邦画はまだこんなレベルなのか、と少し愕然としました(笑)。もう少し頭を使って欲しいものです。


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