特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『盆唄』と『金子文子と文烈(パク・ヨル)』

 寒かったり、暖かかったり、一進一退のお天気ですが、だんだんと春の足音が近づいてきました。近所の花も咲きだしましたけど、これは梅?桜?(笑)。植物とか興味ないんで全然わかんない(笑)。
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 3月になると異動や歓送迎会など色々行事も出てきて忙しい。ユーウツです。飛んでくる弾を頭を下げて懸命に避ける、そんな毎日です。そんなことより、毎年この時期はアカデミー賞がらみで見たい映画が沢山公開されるので、ボクは忙しい。今回は対照的な作品を2つ。ご紹介します。

 新宿でドキュメンタリー『盆唄

www.bitters.co.jp

 東日本大震災から4年が経った2015年、福島県双葉町の人々は依然 避難生活を続けていた。ばらばらになって暮らしていることで双葉町で先祖代々受け継がれてきた盆踊り=盆唄は消滅の危機に陥っていた。ところが、ある写真家の仲立ちで戦前 福島からハワイに移民した日系人たちの間で盆唄が、ハワイオンドとして今も愛されていることが判る。双葉の人々は盆唄を伝えるためにハワイのマウイ島へ旅立った- - -。

 沖縄を舞台にした『ナビィの恋』、『ホテル・ハイビスカス』の中江裕司監督の新作、それもドキュメンタリーです。
あまちゃんで沖縄出身のアイドル役を演じていた蔵下穂波ちゃんが主演

 ボクが生まれ育った渋谷区は昔から住んでいる古い住民が多く、子供のころから盆踊りが盛んでした。いつもはぼーっとしている年寄りがお祭り・盆踊りになると急に立ち上がって(笑)、元気になるのが印象的でした。

 ところがボクは盆踊りやお祭りが大嫌い。音楽のテンポは遅いし、リズムも変だし、何を歌っているかわからない。踊りも気持ち悪い。何よりも集団で集まっているのが耐えられない。

 今もお祭りとか盆踊りとかは避け続けています。大嫌いです。あんなもの、何が楽しいのか全く分かりません。イスラム教の宗教歌謡『カッワリー』なんかはリズムはカッコいいし、内容も共感できるから、ノレルんですけどね。あと、教会のゴスペルもうまい人が歌ってれば、マジで感動する。でも盆踊りは苦手。あくびが出る。
●『カッワリー』の第1人者。ヌスラト・ファテ・アリー・ハーンの演奏。これならカッコいいんだよなー

Nusrat Fateh Ali Khan - Mustt Mustt (Live at WOMAD Yokohama 1992)



 話がずれました(笑)。
 双葉町では『盆歌』と呼ばれる盆踊りが盛んだったそうです。村落ごとにチームを組んで村の広場で歌と演奏を披露し、町民が周りを踊る。ところが今は町民は避難生活を余儀なくされ、そんなことはできない状況です。
●この人が主人公、人々が離散しても『盆唄』を残そうと奮闘する電気工事店のオヤジ。
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 2015年、このままでは盆歌が滅んでしまうと危機感を抱いた一部の町民たちは、ハワイの日系移民の間で盆歌が歌い継がれていることを聞いて、交流しようとします。仮に双葉町で盆歌が滅んでしまっても、ハワイの日系移民たちに伝えておけば、いつか復活させることができるかもしれない。そう考えたからです。
●日系移民たちに盆歌を教える双葉町の人たち。双葉町が廃れてしまっても、盆歌を残しておきたい、という思いでハワイへ出かけました。
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 ハワイの日系移民には福島出身の人が多かったそうです。土地が貧しく、ハワイに活路を求めたからです。差別や辛い労働の苦しみを慰める為、盆踊りは彼らにとって貴重な娯楽でした。それがいつしか『ハワイオンド』と名を変え、今も伝えられている。
●ハワイオンドは現地でダンス/ライブみたいなイベントになっています。
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 双葉町の盆歌とハワイオンドとの比較が面白いです。歌詞などは殆ど同じなのですが、ハワイの方はずっとテンポが速く、合いの手も派手です。まるでダンスミュージックみたいです(ボクはこの方が好き)(笑)。双葉町の人たちは日系人たちに盆歌を教え、それを伝えて行こうとする。
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 映画では盆歌のルーツも述べられます。双葉町の盆歌の原型は富山県のものだそうです。江戸時代 飢饉で移住してきた富山の人たちが差別や辛い労働を耐えるために歌っていた歌がいつの間にか双葉町の人々の間にも受け入れられた。ハワイの日系移民たちと同じだったんです!江戸時代の光景などはアニメで表現されるのですが、それもまたユニークです。作為的なものがなくて、美しかった。
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 この映画の細大の魅力は双葉町の人たち。どこにでもいそうな市井の人たちですが、話を聞いてみるとユニークで面白い。中心となっている電気工事店のおっちゃんは趣味の人。家に楽器部屋を作って、家にはドラムセットや何十本ものギターが置いてあります。
●おっちゃん二人。要するにこういう人たちです。こういう人 好きです。同類なので(笑)。
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 原発建設を請け負っていた工務店のオッチャンもいます。原発建設に使ったコンクリートを使って、自分の家も建ててしまった(笑)。夫婦で盆歌をやっていた人たちもいる。避難先では太鼓をたたいたり、大声で練習することもできなくなって、しょぼくれてしまっている。
●今も何も通らない線路
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 この映画では東電や原発を声高に非難することはありません。そこが良いんです。多くの双葉町民も原発から利益を受けていたわけですし。しかし、今は何もかも変わってしまった。人々の故郷を失い、戻ることができない深い悲しみが伝わってくる。観ている側も何とも言えない気持ちになります。
●懐かしい双葉町の自宅は今やこの通り
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 2017年 双葉町の人たちは避難住宅の広場で盆唄を復活させようとします。封鎖されている双葉町へ戻って、楽器ややぐらを持ち出し、盆踊りを開こうとします。離れ離れになっていた人たちが集まり、練習する。人々のつながりが徐々によみがえっていく。今までしょぼくれていた人たちが急に元気を取り戻していく。ハワイで歌を教えていたときと自分で演奏している時とは表情が全然違う。
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 最後の20分、クライマックスの各地域の人たちの演奏シーンは美しい映像も相まって、本当に感動的です。原発事故という現実を音楽が乗り越える瞬間が確かに描かれています。奇跡のような映像です。ボヘミアン・ラプソディ』のライブ・エイドのシーンなんか全くメじゃありません。
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 スターが出ているわけじゃないし、劇的なことが起きるわけではない。。でも映画として面白かったし、感動的でした。どこにでも居るけれどユニークな市井の人々の物語、盆歌の謎解き、それに美しい映像や音楽、まさに傑作ドキュメンタリー映画です。
www.tokyo-np.co.jp

 映画では盆歌の中心人物として描かれていた電気工事店のオヤジが舞台挨拶で『この映画が出来て盆唄を映像で残すことができた。将来双葉町が無くなってしまっても、いつかは盆唄を復活させることが出来ると思う。』と言ってました。明るく楽しい映画ですが、その言葉は実に重かったです。

映画『盆唄』予告編

●公開初日の舞台挨拶では映画に登場した双葉町の人たちが盆歌を披露しました。右端でかりゆしを着ているのが中江監督
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●この人が原発の資材を使って、ついでに自宅を建てしまった工務店のオヤジ(笑)。

●この人が主人公の電気工事店のオヤジ(右)。嬉しそうに太鼓をたたいています。


これと対照的だったのが、青山で見た映画『金子文子と朴烈
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www.fumiko-yeol.com

1923年、関東大震災前の東京。社会主義者のたまり場となっていた有楽町のおでん屋で働いていた金子文子(チェ・ヒソ)は、朝鮮人アナキストの朴烈(イ・ジェフン)が書いた『犬ころ』と言う詩に惹かれ、彼のところへ無理やり押しかけてくる。やがて一緒に暮らすようになった二人は同志、恋人として生きて行こうとするが


 関東大震災直後に収監された朝鮮人アナキストの朴烈とその恋人、金子文子を描いた映画です。具体的には、関東大震災の際の朝鮮人虐殺、そこから目をそらすために朴烈と金子文子を皇室暗殺を計画したということでの逮捕、それに取り調べ中の二人の写真が「怪写真」として世間に配布されたエピソードが描かれます。17年に公開された韓国では動員200万人を超える大ヒットだったそうです。一部でネトウヨが『反日』と騒いでいたんで、これは是非見に行こう、と思ったわけです(笑)。
www.tokyo-np.co.jp

●これが主役の二人のアナキスト。文烈と金子文子。これだけ見ると爽やかな青春劇みたいで、いい感じですが。
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 丁度 先週の土曜日の朝日新聞朝刊にこの映画の主演女優さんのインタビューが載ってました。
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 映画は、見ていてつまらない、というほどではなかったんですけど、出来はいまいちでした。特に脚本、脚色が全然ダメ。とにかく人物描写が薄っぺら。その一語に尽きます。

 まず、金子文子が朴烈に惹かれたきっかけが良く判らない。映画の中では、唐突に彼女が朴烈のところへ押しかけてくるだけ。詩に感動しただけで若い女性が見ず知らずの男のところへ押しかけてくる。それだけです。そんなことってあり得ますか?後半に説明は有りますが、台詞で説明してるようじゃ映画としてはどうなんでしょうか。
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 また、朴烈や金子文子アナキズムに惹かれた理由も全く語られない。ただ彼らは『天皇への反感』を持っていて、途中で『天皇と日本人民とは違う』という言い訳みたいなことが述べられるだけ。爆弾を手に入れて殺そうとまでするのにそれだけなんでしょうか。金子や朴烈の思想的なこともほとんど語られない。薄っぺらすぎる。
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 この映画では震災当時の内相、水野錬太郎が主導して関東大震災時の朝鮮人弾圧を図ったかのように描かれていますが、なぜ水野らがそんなことをしたのかも描かれません。ここではただ、水野が朝鮮人に対する反感を持っていて、それを押し通そうとする。バカみたいです。大げさな演技と単純な台詞。説得力がありません。
●水野役も韓国人俳優が演じています。
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 そもそも史実では震災の翌日 内務大臣は水野から後藤新平鶴見俊輔先生の祖父)に交替しています。ぜんぜん違うやんけ。台湾で善政を敷いた後藤新平朝鮮人虐殺なんかするはずがありません。正力松太郎ら警察官僚が朝鮮人虐殺で果たした役割も描かれない。全部 水野のせいにしている。肝心の朝鮮人虐殺に関するところを幼稚なフィクションにしちゃ、全然ダメですよ。
●こんな格好してる日本の裁判長っていたのでしょうか。もう、なんだかわからない
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 さらに二人が収監されてからも、なぜ取り調べ時の写真がマスコミにばらまかれたかも描かれません。史実では右翼が倒閣のためにばらまいたらしい。二人は単に利用されたんです。
●これが実際の写真。取り調べ中に撮られたという写真は当時のスキャンダルになったそうです。
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 他にも電車が好きなボクは、映画の冒頭に出てくる路面電車が全然違うだろ、と思ってしまった(笑)。『いだてん』の爪の垢でも煎じて飲め。それに渋谷育ちとしては舞台となる渋谷区富ヶ谷とか有楽町の街並みも??と思いました。人物描写だけでなく、そういうところがいっぱいあります。日本帝国主義への反感をエンタメとして煽ってるだけの幼稚な映画、それもかなり稚拙だと思う。

 ただ、俳優さんたちの演技は結構良かったです。頑張ってるなーと思いました。
 特に金子文子役のチェ・ヒソは日本語も完璧だし、激情を良く表現していたとは思います。大阪生まれらしい。単純に可愛いので観ていて楽しい。だけど、ルックスがかわいすぎるし(笑)、それを強調する演技をするものだから、話が嘘くさくなって仕方がありません。可愛いからいいけど(笑)
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 男性陣も美男ぞろいで目の保養ではあるけど(笑)、逆にこれは何なんだ、と思いました。やっぱり嘘くさい。画面を見ていて楽しいけれど、朴烈の思想や思いに対する説得力などは皆無に近い。その説得力がないところがアナキストアナキストたるゆえんなのかもしれませんが。
●取り調べの検事。二人に同情的ですが、映画ではいまいちよくわからない。
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●正義を追及する日本人弁護士も登場しますが。
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 公開初日とあって客席は満席だったし、上映後 拍手とかしている人も居たけど、こんなマンガみたいな映画、有害無益でしょう。インチキなんだもん。題材は良いんだけど、話が軽すぎる。エンタメとしても3流のTVドラマみたいな演出です。

 思考停止のオールド左翼は褒めるのかも知れないけれど、そいつらの頭の中同様に、薄っぺらい中身の映画でした。見るとバカになりそう、というと言い過ぎでしょうか(笑)。韓国で大ヒットしたというのが信じられません。あの国も案外、日本と同じような愚民政策が跋扈しているのかもしれません。

映画『金子文子と朴烈(パクヨル)』予告編