特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHK-BSドラマ『風よあらしよ』と映画『LOVE LIFE』

 楽しい楽しい3連休。久々の3連休で嬉しくてたまりません。台風が直撃している地域は大変ですが、穏やかな休日を過ごしています。ただ、関東は明朝の天気が心配です。

 今日は代々木公園に国葬反対のデモへ行こうか、と思っていたのですが、こんな密集状態↓だから行かなくて正解でした。主催の『総がかり』の爺さん連中にはやっぱり、あんまり関わりたくない。アホが染りそう。


 ニュースを見ると内閣の支持率は毎日も共同通信もフジサンケイですら、駄々下がりです(笑)。所謂『危険水域』というレベルにまで踏み込んできた。


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 この30年 日本の政治は常に政治家が下手にやる気を出してくだらないことを始めると失敗、というパターンでした。『改革』とか『維新』とか『取り戻す』とかくだらないことを始めるたびに、どんどん世相は悪くなっていく何もしない方が遥かにマシなんです。

 岸田はコロナや景気対策は何もしない癖に、原発再稼働に国葬とくだらない事を始めだした。野党の選挙準備が整っていないのに付け込んで10月に解散、なんて話も出ていますが、岸田に代わる現実的な選択肢を提示できない野党の側も問題は大きい。結果として戦前同様、民主主義がどんどん形骸化していく。
 民衆が政治に興味を失った後、出てくるのはファシスト政権ですからね。


 さて、18日の日曜日に最終回が放送されたNHKのBSで3回に渡って放送されたドラマ『風よ あらしよ』は出色だったと思います。

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 言うまでもなく、ドラマは大正時代、女性解放運動家の草分けで関東大震災の際 警察に拉致されて殺された伊藤野江の生涯を追ったものです。
 普段は時間が勿体ないのでTVドラマを見ることは少ないのですが、伊藤野江とアナキスト大杉栄が警察に拉致されたのはボクの実家の直ぐ近くだった、ということもあって、興味がありました。実際に伊藤野江と大杉が警察に拉致されたのを見た人は近所にはいないけれど、亡くなった祖父からは大震災当時の朝鮮人虐殺や不穏な世相は子供のときから聞いていました。伊藤と大杉の拉致もそのような雰囲気の中で起きた出来事に違いありません。

 最初は伊藤野江を演じる吉高由里子にやや違和感を感じました。当時の日本人女性らしい風貌ではあるのですが、伊藤野江らしい激情を感じなかったからです。
 でも素朴な田舎娘が次第に自己主張をするようになっていくところは見もので、トータルとしては凄く良かった。権力の恐怖におびえながらも毅然とした態度を見せるところも良かった。実際の伊藤野江という人は強烈で周囲にはかなり迷惑な人、と思いますが(笑)、吉高由里子流の解釈がきちんと成り立っていた。
 松下奈緒平塚らいてう役はきれいすぎて外人にしか見えない(笑)。これはどうなんだ、とは思いました。今はあまり見かけないけど、大正期の日本人って外人みたいに顔の掘りが深い人が時々いるんですけどね。

 総じて、ドラマのお話も演技も終盤に向かうにつれて、どんどん良くなっていきました。庶民の暮らしなど時代の世相が暗くなっていくところの描写はいまいちでしたが、吉高由里子の演技力で説得力を持たせた、という感じでしょうか。日本にもかって、こういう人がいたと、今の時代に訴えかけてくるものはありました。
 言うまでもなく、9月は伊藤と大杉の命日があり、来年は伊藤野江の生誕100年の記念行事も予定されているそうです。NHKはドラマは頑張っている、良くこんな題材を扱った、と思いました。


 と、いうことで、有楽町で映画『LOVE LIFE

 市役所勤めの妙子(木村文乃)は同じ市役所に勤める二郎(永山絢斗)と再婚して1年、元夫との間に生まれた息子・敬太(嶋田鉄太)と3人で表面上は穏やかに暮らしていた。ある日、思いも寄らぬ事故が起きる。突然の出来事にぼうぜんとする一家の前に、妙子の元夫で何年も失踪していたパク(砂田アトム)が現れる。⼆郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。
lovelife-movie.com


 第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』やフランスでは800館で上映された『よこがお』などで世界的に評価されている深田晃司監督の新作。
●悪意の籠った(笑)凄い映画でした。

 「どんなに離れていても 愛することはできる」という歌詞から始まる矢野顕子の同名曲(91年発表)をモチーフに作った今作も、ヴェネツィアトロント、釜山、ロンドンの映画祭でコンペティション部門に選ばれています。


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 もともと、深田監督の作風は故エリック・ロメール監督そっくりです。フランス芸術文化勲章「シュバリエ」を受賞するなど、彼がフランスで受けるのは良く判る。作風は穏やかな日常の中で何気ない人間の営みを描くものです。そういう作風はボクは好きだから、新作が発表されると必ず見に行く監督です。

 一方 彼は旧態依然とした日本映画界のセクハラや暴力などを告発する活動の中心にもなっている人なので、ニュースなどで名前をご覧になった方もいるかもしれません。 

 ただし最近はこの人、作風が変化してきて、この作品もある意味 人間に対する悪意に満ちているようにも取れます(笑)。しかし、正反対の希望に満ちた映画としても解釈できる。一筋縄ではいかない(笑)。


 登場するのは、一見平凡そうな三人家族です。共に市役所勤めの妻、妙子と夫の二郎、それに幼い子供。それに同じ団地の敷地内には義父母が住んでいる。家族と職場の同僚で義父の誕生日を祝おうとするところから映画は始まります。
●幸せそうな3人家族です。妙子(木村文乃)、二郎(永山絢斗)、敬太(嶋田鉄太)

●二郎の同僚たち。妙子が敢えて目を合わせていない女性に注目(笑)。

 ところが徐々に一家のほころびが見えてくる。義父母は息子が前夫との子供を連れた妙子と結婚することには猛反対でした。妙子との間にはまだ、わだかまりが残っています。 
●義父母。あの『野火』の田口トモロヲが父親役なのは笑います。凄い俳優だと思う。

 集まった同僚たちの中には二郎の元カノ、山崎(山崎紘菜)もいる。実は二郎は彼女と結婚寸前でした。親にも紹介済みだった彼女を捨て、二郎は妙子に『乗り換えた』のです。

 そんな中で思わぬ事故が起きる。風呂場で足を滑らせて頭を打った敬太が風呂で溺死してしまう。大人たちは義父の誕生祝いをやっていて気が付かなかった。自らを責めながら、悲しみに暮れる妙子と二郎たち。

 しかも葬式に敬太の実の父親である妙子の前夫、パクが現れます。ろう者であるパクは敬太が生まれてから直ぐ、母子を捨てて失踪、ホームレスになっていました。

●パクを演じる砂田アトムは実際もろう者、近年盛んになっている当事者キャスティングです。

 幸せそうだった妙子たち一家はどうなってしまうのでしょうか。

 登場人物たちは平凡で善良な人たちばかりです。

 例えば、妙子は熱心にホームレスの支援活動に取り組んでいます。執拗に描かれる支援活動の描写には深田監督のこだわりを強く感じます。

 しかし、妙子は思わぬ行動にでます。『こいつ、ウルトラ・アホじゃねーの』と思うほどの。
 

 二郎も山崎も義父母も同僚たちも似たようなものです。アホだし、狭量だし、自分に嫌気がさして宗教に走ったり。その弱さが人間というものなのでしょう。

 

 平凡で善良な登場人物たちですが、映画の中では常に、互いに視線を外している。それも微妙に(笑)、です。映画の始まりではフランクで善良そうだった人たちは、実はどうしようもなく孤独です。

 


 監督は矢野顕子の『Love Life』を二十歳の時に聞いたそうです。ボクが昔、この歌を聞いた時、人間そのものを拒否する歌だと思いました。一度しかない人生、『良いものだけに囲まれていたい』けれど、人間は人間と関わるから、それがかなわない。
 映画でもまさにそういう光景が展開されます。しかし、監督は劇中2回流れるこの歌にボクとは真逆の感想を持っているらしい。面白いなあ。


 人間に対する希望と悪意に満ちた映画です。どこへ行くか判らないストーリー展開は実にスリリングです。それでも必ずしも成功作とも言えないかなあ。こだわるところには凄くこだわっている反面、粗を感じる部分もある。よく出来ているからこそ、バランスの悪さを少し、感じてしまう。
 田口トモロヲを始め、脇を固める俳優さんたちには文句はないけれど、主役の木村文乃は演技しているのは初めて見ました。すごく綺麗な人だけど、ちょっと?という演技もある。

 しかし、緩やかに過ぎていくラストシーンのこの穏やかさは何なんでしょうか。このシーンだけでも、映画を見る価値があると思いました。監督の思いが込められた質が高い映画であることは間違いありません。


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