今朝は寒かったです~。ボクが住んでいる世田谷は最低気温は2度、と言っていました。いよいよ冬の到来です。
通勤路から富士山も見えるようになりました。
●朝陽を浴びる富士山
寒くても甘いものへの欲求は衰えません。特にソフトクリームなどは店が空いていてベストシーズン(笑)。
●北参道で食べたメロン・ソフトクリーム。
ということで、新宿で映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
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1995年。21歳の佐藤(森山未來)は食品工場で単純な作業に飽き飽きしながら働いていた。ひょんなことから雑誌の文通欄で小沢健二好きということで知り合ったかおり(伊藤沙莉)と原宿のカフェで会うことになった。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」と言われ、佐藤は工場を辞め、テレビの美術制作会社で働きながら小説家を目指すようになった。その後かおりとも別れ、小説家にもなれなかった彼はテレビ業界の片隅で働き続けていた。バーテンダー(SUMIRE)との出会い、新たな恋人の恵(大島優子)との別れなどを経て、気が付けば佐藤は2020年、46歳になっていた。
18年にヒットしたというWEB小説の原作をネットフリックスが実写化、劇場と配信とで同時公開されました。当初はスルーの予定でしたが、森山未來君が出ているし、今年を代表する邦画の一本、と評判が高いので見に行ってみました。
2020年、「46歳、つまらない大人になってしまった」という独白から映画が始まります。そのあと泥酔した主人公の佐藤(森山未來)とおかまバーのおっさん、二人が新宿のゴミ捨て場に倒れこむ。鼻白むような展開ですが、どこか引き込まれる。
続いて場面は華やかなパーティーのシーンに移ります。30年も続いたTV番組の終了記念らしい。そこには下請け制作会社で働いている佐藤も参加している。そして『この間 日本は沈んでいくタイタニックのようだった』という主人公のモノローグが入る。
華やかなTV業界で下請けとして激務をこなす佐藤はどこか醒めています。46歳になっても、こんなはずではなかった、という思いが常に残っている。その佐藤はかってはどうだったのか。お話は2020年から95年まで徐々にさかのぼって展開していきます。
当然のことながら、佐藤の25年には色々なことがあります。結婚しようとしたこともあったし、仕事でもプライベートでも様々な人々と巡り合います。その出会いが佐藤を作ってきた。
他人を傷つけることもあったし、理不尽な事にも散々直面する。というか、理不尽なことばかり(笑)。TV業界が華やかに盛り上がり、そして衰退していく様子は日本の社会とも重なります。その栄枯盛衰は下請け仕事を続ける者には一層厳しい。
25年前に知り合ったかおり(伊藤沙莉)は、佐藤が今の仕事に就く切っ掛けになりました。彼女と知り合ったことで佐藤は『何者か』になろうとする。
映画で描かれる90年代、00年代の渋谷や原宿の光景や風俗は興味深いです。
90年代、ボクは『渋谷系なんてバカじゃねーの』と思ってましたし、今もそう思ってます(笑)。小沢健二なんか何が良いのかさっぱりわからない。雑誌の文通欄!で知り合ったかおりと佐藤はセゾン系のCD屋、WAVEのビニール袋を目印に原宿で待ち合わせをするのですが、そんな人たちがいたんですね。信じられない。
WAVEなんてチェーン展開する前、80年代の六本木の店しか知らねーよって(笑)。民族音楽を扱うCD店やロメールやゴダールの作品をやってた映画館など文化施設が入ったビル丸ごと、堤清二の奥さんがやってたって言うんでしょ。
だけど映画を見ているうちに、その時間に、その場所に、確かにボクも居たことを思い出した。宗旨が違うボクでも記憶は共有している。
●森山未來君は勿論、伊藤沙莉(右)は思いがけずの適役でした。
かおりと佐藤との初デートにボクが通っていた原宿の喫茶店が出てきたのは思わず悶絶しました(笑)。
原宿のラフォーレなどのビルや服、ガラケーやワープロまで良く再現したなーと思いました。
当時のディスプレイやビルを再現したCGと言い、何気ない豪華キャストと言い、地味なようでお金がかかっています。ここいら辺はネットフリックスの有り余る?制作予算の賜物でしょう。
拷問をするのに眉の毛一本動かさない憲兵を演じた『スパイの妻』でもそうでしたが、東出昌大って本当に良い役者だと思います。感じの悪さを演じさせたら天下一品(笑)。
やたらと多い夜の映像が美しいです。暗闇が東京の醜さを隠しているからかもしれませんが、心に残ります。
この映画で感心したのはノスタルジーに溺れるのでもなく、今の時代のお話になっているところです。
時には気恥ずかしくなるようなかおりとの思い出を含め、様々な人たちとの出会いと別れを描きながら、映画は2021年、46歳の佐藤に戻ります。何者かになろうとした佐藤は何者にもなれなかった。しかし自分にはなることが出来たかもしれない。
21歳から46歳まで演じた森山未來君が違和感がないのにも驚きましたが、46歳のおっさんさ加減、伏線の回収の仕方、そして未来への決然とした視線、どれもが素晴らしい。
ボクはかなり、心に響きました。感動した。今年のベスト10には必ず入る映画です。
これから日本が沈んでいくのは避けられないでしょう。この映画は主人公だけでなく、我々もまた、沈んでいく船に乗り合わせた乗客の一人ってことを描いています。渋谷系とか90年代の文化や風俗に全く興味がないボクにすら、説得力があった。
この映画は沈んでいく日本の絶望を普遍的なテーマに昇華させています。沈んでいく船の乗客として、自分ならどのように生きていくかを観客に思い描かせるのです。
東京では1館の上映ですが、ネットフリックスで見られます。
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