特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画「『知事抹殺』の真実」と『0505再稼働反対!首相官邸前抗議』

今日は立夏だそうで、確かに暑さすら感じる陽気になってきました。時折香ってくる新緑も大変気持ちがいい。とにかくゴールデンウィークは楽しいです(笑)。特に遠出もしない普通の休日ですが、時間的余裕があってゆったりできます。撮り貯めたTVを見たり、本を読んだり、普段はなかなか出来ないことばかりです。一年中ゴールデン・ウィークだったらいいのに(笑)。
ウディ・アレンの新作を観に行った六本木ヒルズで。俗悪なところですが、これは綺麗でした。


その気持ちいい中 安倍晋三改憲とか言いだして文字通り気分が悪くなりました。が、憲法を守れという側の発信も物足りない。ただ『憲法守れ』というだけで、それ以上の話は殆どないですからね。それじゃ一般の人には殆ど説得力がないんじゃないでしょうか。『こういうヴィジョンを目指すので、その手段として 憲法を守れ』という話なら良いんですが、憲法を守ることが目的化してしまっている人が多いように思えます。それじゃ、ただ憲法を変えればいいという安倍晋三と五十歩百歩で、そんなことをやっていると『環境権』とか『教育無償化』とかを耳障りが良いことを忍び込ませて改憲をしようとする連中にしてやられかねない。

特に安全保障環境が大きく変化している現在、平和を守るためにはどうしたら良いか、良く考えなければいけないんじゃないでしょうか。アメリカの戦争に巻き込まれるのは論外ですが、北のキチガイが撃って来たらどうするのか。反撃するのか、無抵抗を貫くのか、事前に叩くのか(物理的に無理だけど)。外交が一番大事に決まってますが、近くに大日本帝国のように言葉が通じないキチガイがいるのですから、外交を機能させるためにはどうしたら良いのか。
ボクも憲法9条は残しておいたほうが得、だと思いますが、具体的な事も示さずにただ、憲法守れ、としか言えないような知識人の爺さん連中は引っ込んでもらった方が却って良いかもしれません。

さて 4月29日にNHKのBSで放送されたドキュメンタリー『BS1スペシャル「雇用は守れるか〜アメリカ ラストベルトの労働者たち〜」』はとても良くできた番組でした。


BS1スペシャル - NHK

工場の海外移転・閉鎖が続いているインディアナ州の鉄鋼労働者組合(USW)の支部長に密着したものです。彼や周りの労働者の多くは雇用を守るという公約に惹かれてトランプに投票しました。トランプのtweetに脅かされて海外移転を止めた企業も実際出ています。組合長は自分が20年以上勤めた工場が工場移転されることになると、彼らは一縷の望みを託してトランプや副大統領ペンス(元インディアナ州知事)に署名を提出したり手紙を書いたりして懸命に働きかけます。
この組合長ってかっこいいんです。自分もリストラの危険にあるんだけど、朝から晩まで他の組合員からの相談にのったりしています。ストを打って僅かながら賃上げを勝ち取ったこともありました。彼はトランプを信じ続けます。『政治家は誰も自分たちに眼を向けてくれなかった。トランプだけが俺たちのことに演説で触れてくれた。』というんです。気持ちは判ります。*ホント、ヒラリーの選挙戦略はなってなかったと思います。
だが、トランプからもペンスからも返事はなしのつぶて、何も成果はありません。労働者たちはリストラを言い渡され、途方に暮れます。新たな職探しを始めても今までのキャリアを生かせる工員の仕事は殆どなく、給与が半分以下の運転手やサービス業などしかありません。一方 トランプに脅かされて海外移転を取りやめた企業も自動化設備を取り入れて人員削減を始めます。
組合長は『俺の戦いは負ける戦いだが、それでも俺は闘い続ける』とつぶやいて番組は終わります。


番組で描かれていることってまさに現代を象徴していると思うんです。アメリカでもフランスでも日本の地方でも同じことが起きている
80年代以降 世の中は、法律にしても税制にしても規制緩和にしてもお金持ちが有利な方向に進んでいます。お金持ちの所得税を減税して消費税を導入したのがその典型です。一方 政治家は必ずしも一般の人たちの側に立っていないし、99%の側が判る言葉で話しかけもしない。世の中があまりにも複雑になっているから仕方ない部分もありますが、一般の人たちは疎外感を感じざるを得ない。
人々に判り易い言葉で話しかけるのに長けているのは左右を問わず、ポピュリストやテロリストです。エリート、公務員、外人、大企業、宗教、人種などのせいにして連中は世の中の問題を単純化します。ポピュリストの言ってることは一理あることは多いですが、根本的なところは間違っているから問題は解決しない。彼らは自分たちの権力が目的ですから、嘘をつくことも平気です。

もちろん答えは、ポピュリストが唱える『××ファースト』など判り易いけど偏狭な、間違った屁理屈を拒否しつつ、グローバリズムの良い点は受け入れ悪い点は拒否していく、一人一人が冷静な目で対処していくしかありません。でもそうやって自分の頭で考えようとする態度は往々にして、人々の熱狂や移り気の中で埋もれてしまう。昔のサルトルアンガージュマンじゃありませんが(笑)、それを防ぐためには個人個人の思索と実践・社会参加が必要だと思うのですが、そういう実用的な声はどうも少ない気がします。7日に投票が迫ったフランスの選挙はどうなりますか。




今回は 原発関連の映画のお話をします。渋谷のアップリンクで映画『「知事抹殺」の真実』 ドキュメンタリー映画「『知事抹殺』の真実」公式サイト

1988年から5期18年福島県知事を務めた佐藤栄佐久自民党出身だったが、地方分権道州制、そして原発で国に物申す知事だった。特に原発に関しても厳しい態度を取っており、2003年にはトラブル隠しの東電では安全が確認できないとして、東電の原発全17基を稼働停止させたこともあった。映画はその彼が2006年に収賄額ゼロ円という奇怪な収賄容疑で知事から抹殺される過程を描いたもの。
映画「『知事抹殺』の真実」が描く国策捜査と報道の“闇”|日刊ゲンダイDIGITAL


福島県佐藤栄佐久知事が収賄容疑で逮捕された時は大きなニュースになったのは良く覚えています。しかし裁判も含めて、ボクはあまり関心がありませんでした。彼のことは全く知らないし、どうせ田舎の多選知事だろう、という意識しかなかった。311後 彼は原発に消極的だったから潰されたという話がささやかれるようになりましたが、ボクは事実関係も知らないので実際はどうなんだろう、と思ってました。そういうこともあってドキュメンタリー、それも当人の挨拶付きの上映を見に行ってきました。ボクは出来る限り現物・現場を見て判断しようと思ってるんです。
●映画より。マスコミに囲まれる知事


冒頭 映画を製作するにあたって過去の記事・映像提供は一社を除いてマスコミからは全て断られたというクレジットが出ます。マスコミもグルになって知事を抹殺したと主張する映画の内容を象徴するような話です。ちなみに『当社は中立的な立場に立つ』として唯一 記事提供をしたのは共同通信だそうです。


映画はまず、佐藤知事が父親から服飾会社を継承し経営したが政治家になる際に弟に譲ったこと、政治家になってからも民間・公問わず金絡みの話は全て突き返してきたこと(当時は市町村から県に対してお祝いなどの金銭授受が行われていたそうです)、東電が原発のデータ隠しをした際 厳しく対応して運転を止めさせたことなどが本人の口から語られます。
●カメラの前で語る佐藤知事の弟。好々爺といった感じでした


で、アエラ朝日新聞!)を皮切りに弟の会社の工場用地売却に関する『疑惑』がマスコミに掻き立てられるようになり、やがて佐藤知事は検察に逮捕されます。当人は全く身に覚えがなかったそうですが、服飾会社社長の弟や会社の役員なども過酷な取り調べを受けます。弟は睡眠3時間の取り調べが50日続いた!そうですし、関係者では自殺未遂が3人出たそうです。びっくりしました。弟は取り調べの際 検察から『なんで佐藤知事は反原発なんだ』、『佐藤知事は日本のために抹殺しなければならない』と言われたそうです。

佐藤知事は「周りに迷惑をかけないためには自分が罪を被ればいい」と考え、一旦 自白します。その気持ちは良くわかりました。ですが、裁判になって検察の証拠があまりにもいい加減なのを目の当たりにして戦うことを決意します。裁判では県の土木部長だけが知事が圧力をかけたと証言するのですが、それは知事の面会記録から覆されます。にもかかわらず、最高裁は知事を有罪認定します。収賄額はゼロ円なのに、です。なんなんだよ!


確かに酷い話です。日本の検察の『国策捜査ということは良く言われますけど、まさにその言葉がふさわしい。それをマスコミが後押しする。映画では証言が佐藤知事の側からのものしかないので割り引いて考えなきゃいけないですが、有罪にする明確な証拠はないのは確かなようです。あやふやな県の土木部長の証言だけですが、それも裁判の途中で覆された。その土木部長はその後 検察から不起訴処分を受けて裁判後 姿を消してしまったそうです。検察と話が出来上がっていたのでしょうか。映画の中で佐藤氏は『日本は司法と言う面では後進国』と言ってましたが、アメリカが日本にだけは米兵の裁判権を渡さないくらいですから確かにそうなんでしょう(笑)。そんな国で共謀罪なんて入れたらどうなるのか。


ドキュメンタリーとしては、はっきり言ってド下手です。3流、いや4流と言っても良い。インタビューなどで垣間見える人間の思わぬ瞬間をとらえているわけでもなければ、面白い証言があるわけでもない。何よりも佐藤元知事ご本人と側近(私設秘書と弟さん)の証言が9割がたというのは一面的だし、単調でもあります。さらに最後に流れる『本当のこと』と称する主題歌が酷い。昔の4畳半フォークを下手くそなメッセージソングに仕立てた曲は聞くに堪えない。ドキュメンタリーの音楽選びって結構 作り手の意志や能力を象徴するとボクは思ってるんです。昔 地球温暖化を描いて大ヒットしたドキュメンタリー『不都合な真実』なんか最後に流れるメリサ・エスリッジの大仰な主題歌を聞いて、これはインチキだと思いましたもん。

不都合な真実 (字幕版)

不都合な真実 (字幕版)


佐藤知事の側からの証言しかないというのはこの映画の重欠点です。ですが 知事はどうも嵌められたというのは事実のようです。先日NHK「境界の家 沖縄から福島へ・ある原発技術者の半生NHKネットクラブ 番組詳細(ETV特集「境界の家 沖縄から福島へ・ある原発技術者の半生」)で取り上げられた元技師の名嘉さんが 映画の中で『佐藤氏がまだ知事を続けていたら東電も津波対策をして311の事故は起きなかったかもしれない』といっていました。同じことは映画の推薦文で福島県出身の西田敏行も言っています。確かにそうかもしれない。彼のような態度の知事が居たら311の悲劇は防げたかもしれない。
舞台あいさつに立った佐藤氏の姿だけでなく、休憩時間にくつろぐ彼をジッと見ていたんですが(ボクは意地悪い)、自己弁護や何らかの政治的意図があるようには見えませんでした。


この映画は今、全国各地で上映会が行われているそうです。渋谷の上映館は定員が100人にも満たない小さなところですが、ずっと満席が続いています。映画の質としては問題ありますが、一見の価値がある作品であるのは確かです。我々だって、いつ冤罪に問われるかわからないのですから。

●舞台挨拶した佐藤氏。話を聞くと素朴な田舎のおっちゃんでした。これからも闘い続けると語っていました。




ということで、今週も#金曜官邸前抗議へ。お日柄も良く、連休の真ん中で人も少ないだろうと思いましたが、ボクは映画の時間を夕方にずらせば行けるので(笑)。やっぱり行ける人が行って声を可視化しないと。今日の参加者は主催者発表で600人。連休と言うことで わざわざ地方から出てきた人もいたようですよ。
●今日のコールは「地下鉄を止めるより、原発止めろ!」




●この人、伊丹十三の映画などに出ていた俳優の高橋長英氏。流行りの細いパンツを履いて皮のリュック姿です。背筋がシャキンと伸びて、発声がやたらと良い。姿勢もずっと変わらない。後でググったら74歳ですって。かっこよすぎ。良いものを見せてもらえました。