特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『ヒルビリー・エレジー』と映画『はじまりへの旅』

 週末は気持ちの良いお天気でした。
 ボクはゴールデン・ウィークは暦通りなので、この週末はいつもと同じなんですがそれでも何となくウキウキする。映画館を移動するために渋谷から新宿まで明治神宮の中を歩いたのですが、気持ちよかったです。

 この何年か 明治神宮は外国の人の数が増えました。特に中国・台湾や韓国の人が凄く多い。その中で見かけた数少ない日本人らしき爺さんが祭殿じゃなく入り口の鳥居で深々と頭を下げていました。
 
ボクは子供の時から明治神宮は遊び場ですが、昔はそんな奴は見たことがない。明治神宮なんて別に神様を祭ってるんじゃなくて、たかだか明治天皇じゃないですか。そんなものに、なんで頭を下げなければいけないのか。
 
 鳥居に頭を下げようが、切腹しようが、首を吊ろうが、個人の自由だけど、ちょっとおかしいよね。お辞儀してたのはジジイ(認知症?)だったからしょうがないんでしょうが、こんなところまで右傾化の傾向が蔓延っているのかと思うと、多少ムッとしました(笑)。
●似非神社の明治神宮も新緑は実に美しい。

●右傾化の傾向に対抗して(笑)、お昼ごはんは中華にしました(ウソ)(笑)。


 土曜日は北朝鮮のオンボロ・ミサイルが発射されたということで、東京では地下鉄が止まりました。
 韓国だって止まってないのに北朝鮮への敵愾心を煽るためのキャンペーンでしょうか。それか単なる責任逃れのために上司の意を忖度したのか(笑)。人が多い平日にそんなくだらないキャンペーンをやられた暁には、暴動ものでしょ。人が少ない土曜の朝に既成事実を作ろうとする、そういうところがセコイよね。


 それに今日は自衛隊に米艦の防護命令がでました。自衛艦を米軍の補給船の護衛につけるそうですが、出動する『いずも』は文字通りヘリ空母で単艦では自衛用の武器も満足に持っていません。しかも、護衛のあとそのままシンガポールへ向かうそうです。この緊張感の無さ(笑)。
 護衛と言っても完全にポーズで、とにかく既成事実を作りたいんでしょう。防衛のためにどうしても必要な行為というわけではない。つまり、やってることがセコイ。既成事実を積み重ねて、役人どものフリーハンドを広げようというんでしょうけど、必要性も不明確なまま、こんなことをやっていていいんでしょうか。


 こうやって、この国の為政者は常に国民をごまかそうとする。国民だってバカにされたって事は判る。政治が自分たちと関係のないところで動いていることは判る。それがポピュリズムを育てていく。
 そうやって既成政党が信用を無くしていくと、国民は疎外感を募らせる。そして国民はポピュリストのアウトサイダー、アホ独裁者を待ち望むようになるんじゃないでしょうか。
 
 トランプの支持者(の一部、南部に住む白人の低所得者層)を活写しているとして『ヒルビリー・エレジー』という本が話題になっています。南部の超貧困地域に育った白人の著者が自分の育った環境を描いたもので、アメリカでは大ベストセラーになりました。買うまでもないと思って立ち読みをしたんですが、非常に納得できる部分がありました。

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち

 それは『白人の低所得者層がオバマを嫌いな本当の理由は肌の色じゃない』というところです。
 彼らがオバマを嫌いなのは『学歴も完璧、頭脳も明晰でスピーチも格調高い、きれいで賢い奥さんに可愛らしい子供たちというオバマを見ていると、そうじゃない自分たちが責められている感じがする』からだそうです。
自分たちは良い親ではないし努力が足りないのもわかっている。そうじゃないオバマを見ていると自分が責められているような気がする、というのです。

 自分で自分の首を絞めているのに白人の労働者がトランプに投票する理由が初めて分かった気がしました。彼らは、わざと下品にしゃべるトランプにも、純粋に頭が悪いブッシュにも、自分たちと同じ要素を感じて共感を抱くんでしょう。実際はトランプもブッシュも労働者とはかけ離れた、金持ちやウォール街の代表者ですけどね。労働者たちがヒラリーを大嫌いなのもよくわかる。彼女のスピーチを聞いていると、ボクですら説教されているみたいに感じますもん(笑)。
 ルペンやBrexitに投票するような人にもそういう傾向はあるのかもしれない。理屈じゃなく、疎外されている自分たちの声を聴いてくれる政治家がほしいということなのかもしれません。もちろん現実にはかなわぬ夢なのですが(笑)。


 現在のトランプへの支持率は歴代最低だそうですが、トランプに投票した人の96%は彼に満足しているそうです。トランプを支持しているような人はフェイクニュースが心地よいのでしょう。
だけど、それって人間の性でもある。日本のネトウヨや狂信的な反原発の人も同類、橋下に投票するような人も一緒でしょう。カエサルいわく『人は自分の見たいものしか見ないし、聞きたいことしか聞かない』。
 
 我々は現実をマシにしたいと思うのなら、まず事実を見なければいけないのだと思います。2000年前と変わらず『世の中の多くの人は自分の見たいものしか見ない』、そのうえで『じゃあ、どうするか』ということが問われているのかもしれません。



ということで、新宿で映画『はじまりへの旅』(原題:Captain Fantastic)はじまりへの旅|2017年4月1日公開


アメリカ北西部の森の奥深くで約10年、社会と交わらずに生きることを選んだ父、ベン(ヴィゴ・モーテンセン)と子供たち6人は、病気療養中に自殺した母親の葬儀のために森を出て、南西部のニューメキシコへと向かうことにした。ところが社会のことを全く知らない子供たちは行く先々で騒動を巻き起こす。


昨年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門の最優秀監督賞を取った作品です。

ボクはヒッピーってあんまり好きじゃありません。理由はそういう連中はバカが多いから(笑)。資本主義に背を向ける彼らの自然保護とか自由を大事にする姿勢は共感できるんですが、享楽的というか、自分たちに対する厳しさが足りないから、連中はすぐ陰謀論に走る。
日本にもマリファナ万歳って女優がいましたけど、連中は宇宙人とか、地震兵器とかに走る(笑)。三宅洋平みたいに(笑)。ボクは右左にかかわらず、バカは嫌いなんです。

ということで、この映画はスルー予定でしたが、前述のとおりカンヌ映画祭で受賞したり、主人公を演じるヴィゴ・モーテンセンが今年のアカデミー&ゴールデン・グローブの主演男優賞候補に挙げられたり、非常に評価が高い。ということで、半信半疑で見に行ってみました。
●この格好はまさにヒッピーです。


 映画は父と6人の子供たちの森の中での自給自足生活の描写から始まります。体に泥を塗って偽装し、動物を仕留める。仕留めた動物をさばいて食事を作る。食事のあとは格闘訓練、絶壁登攀訓練、夜は理論物理学や数学の勉強。享楽的どころじゃないです(笑)。子供たちは元大学教師だったベンのもとで6か国語を自在に話し、数学と理論物理学を勉強させられています。長男に至ってはプリンストンにハーバード、ブラウンにMITと、あらゆる名門大学に合格する有様。
●子供たちは毎日 バカオヤジと一緒に森の中で肉体訓練と勉強に明け暮れています。


 ちなみに父親の教えに背いて大学に行くべきか悩む長男役は『パレードへようこそ』でカメラマン志望のゲイの少年役が感動的だったジョージ・マッケイ君です。『おお、久しぶり』と声をかけたくなりました(笑)。

 彼らは大企業や資本主義を否定し、クリスマスは祝わないけれど、ノーム・チョムスキー(リベラルで超有名なハーヴァード大の教授)の誕生日はお祝いする、いまどき珍しい極左家族です(笑)。

●オヤジは子供にお酒を飲ませても平気です(アメリカはヤクは緩い?かもしれませんが、未成年のお酒は厳しいですからね)。と言っても彼なりに医学的な知識は確認済み。


 お話は風変わりな彼らと一般社会との摩擦をロードムーヴィーの形で描いていきます
●オンボロバスにのって家族は旅に出ます。


 結論から言うと、この映画、すごくおもしろかったんです。
 まず主人公たちの造形がいい。元大学教師のベンは極左のヒッピーオヤジですが、だらしなくない。普通のヒッピーと違って禁欲的、ストイック、それに子供たちや妻に深い愛情を抱いている。
ヴィゴ・モーテンセンはこの役でアカデミー賞ゴールデングローブ賞、両方の主演男優賞にノミネートされました。

                          
 子供たちはベンの極端な思想に影響は受けていますが、努力することや自立の大切さが染みついています。賢い子たちだから時には、ベンに対して疑問を抱いたりもするのですが、自立心も家族愛もちゃんと持っている。実にいい子たちなんです。
●次女役のアナリス・パッソという子(1枚目)はカリスマがあります。多分これからスターになるんじゃないですか。


 映画は彼らを客観的に描写しています。資本主義、商業主義を否定して、ダイナーへ入っても『コカコーラは毒の水』と言って、何も食べられずに出てきてしまうような彼らです(ボクは結構共感します)
でも、世間のことを何も知らない彼らが巻き起こす珍騒動や理不尽な行動を直視することも映画は忘れていません。思い通りに生きているかのように見える主人公たちは実は自分たちに不安を抱いている。自分の見たいものしか見ない、ではないんですね
現実にぶち当たった彼らの限界もたびたび描写される。この映画は視線が押しつけがましくないんです。
●妻の葬儀を取り仕切る義父(左)は大金持ちの極右ジジイです。最初は『死ね!』と思いましたが、孫たちへの愛情は実に深い。


 だから見ていて非常にさわやかです。極端な主人公たちの極端な生活を描いていますが、彼らも我々と同じで常に迷っているし、しばしば間違える。けれど、できれば『より良い人生』を送ろうとしている。右でも左でもイデオロギーでカチコチになっているようなバカとは違う。共感できます。
ヴィゴ・モーテンセンら、出演者一同が実際に演奏するシーン、実に楽しそうなんです。


 あと音楽がすごく良い。アコースティックなロック(ガンズ&ローゼズの曲を出演者たちがアコースティックで演奏!)、バッハ、環境音楽シガーロス)が交錯する音楽はセンスが良くて静謐で、映画全体を心地よい雰囲気に包みこんでいます。帰宅してすぐ、iTunesでサントラ買っちゃいました。それくらい雰囲気が良い。
●映画ではアコースティックな音楽と共に、バッハがかかりまくります。登場人物たちの調和を希求する気持ちは凄く良くわかる。

はじまりへの旅  【サントラ盤】

はじまりへの旅 【サントラ盤】

●付記:素晴らしい紹介漫画でした

サバイバル家族、森を出る!『はじまりへの旅』紹介マンガ | シネマズ PLUS

 ヴィゴ・モーテンセンの演技もアカデミー賞にノミネートされるだけのことはあります。それ以上に子供たちがすごくいい!

●カンヌで中指を立てる出演者・スタッフたち(笑)。この映画の精神を象徴しています。


 ということで、見終わったあと、とってもさわやかな気持ちになる作品です。風変わりな家族の愛情と成長がゆったりと描かれています。子供たちだけでなく、凝り固まっていたベンもまた、一歩成長する。小品ではあるんですけど、丁寧に作られているし、結構深い。拾い物というか、すごーくおもしろかったです。良い映画です!