特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

全方位にケンカを売りまくる傑作(笑):映画『バービー』

 秋の気配はあるにしても暑い。今週は処暑だというのに、暑さが収まるでしょうか。

 ボクは自民党政権に良いところがあるとしたら、それほど強引なことはしないことだと思っていました。強行採決民主党政権だって散々やってましたからね。
 だけど原発再稼働にしても汚染水排出にしてもマイナンバーのゴリ押しにしても、岸田はロクなことをしない。やるべきことはやらない。

 よく言われる話ですが、仕事でも日常生活でも一番迷惑なタイプは『やる気があって無能な人間』です。同じバカでもやる気がない方が害は少ない。

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 日本の経済に多大なツケを残した安倍よりはマシかもしれませんが、岸田もまさに『やる気がある無能』です。未解決の課題を解決しようなんて下手な欲があるから良くない。身の程知らず

 これだけ政権が無能でも野党の側には選択肢がない。こちらもバカばっかり。あまりの議席差でチェック機能も働かない。今に始まった話じゃありませんが、困ったものです。


 ということで、新宿で映画『バービー

 バービーたちが暮らす’’バービーランド”はバ―ビーたちが肌の色や国籍、障害の有無にかかわらず、どんな自分にでもなることができる、夢のような場所。そこに暮らすバービー(マーゴット・ロビー)は人間たちの世界も自分たちと同じと信じていた。ある日、体に異変を感じたバービーは原因を追求するべく、ボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)と共に人間の世界へとやってくるが

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 バービーをマーゴット・ロビー、ケンをライアン・ゴズリング、バービーの発売元、マテル社のCEOをウィル・フェレルが演じる。監督は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などのグレタ・ガーウィグマーゴット・ロビーは自ら映画化権を買い、プロデュースも兼ねています。

 才能ある女性二人がタッグを組んだこの作品はアメリカで今年 最大のオープニング週末興行成績を記録し、女性監督の映画としては史上最大の成績という大ヒットを記録しています。

 同時期に公開されたクリストファー・ノーラン監督の新作『オッペンハイマー』と絡めた宣伝SNSでひと悶着があったようですが、日本で文句を言っているのは映画を見てもいない癖にフェミニズム映画にケチをつけたいバカウヨばかりです。もちろんアメリカ側の宣伝は不手際がありましたが、作品の価値には関係ない。


 マーゴット・ロビーの完璧なルックスはまさにリアル・バービーとしか言いようがありません。そんな彼女の主演ははまり役に見えますが、よくある商業主義的なステレオタイプでもあります。

 この映画はそれを逆手に取って、バービーそのものやバービーが社会にもたらす影響、旧態依然とした男社会やそれを内面化した女性まで徹底的に相対化しています。いや、戯画化してバカにしている(笑)。流石、グレタ・ガーウィグです。

 映画はバービーの発売元のマテル社の全面協力で制作されましたが、そのマテル社までぐちゃぐちゃにコケにしています。ちょっと同情するくらいのレベルでコケにしている。これ、良く企画が通ったと思いました。
●名優ウィル・フェレル率いるマテル社の経営陣(笑)

 日本では知名度が低いがアメリカでは大スターのコメディアン、ボクの大好きなウィル・フェレルは今作でもサイコーです。お得意のせこいギャグがたまりません(笑)。

 大企業をコケにするには彼ほどの適役はいないでしょう。


 と言っても、お堅い映画じゃありません。
 前半のバービーランドの描写はまさにエンタメ。マーゴット・ロビーのルックスは目の保養だし、最新のヒット曲満載なのも楽しい。ミュージカル仕立てです。実は戯画なんですがね(笑)。

 巨大なセットを構築するために、ピンクの塗料が品薄になったというのは本当なんでしょうか(笑)。

 ライアン・ゴズリング演じるケンは自分の意思も知能指数のかけらもない、アホアホ男です。この役を受けたのはエラいと思う。

 多様性とか女性を尊重とか綺麗ごとを言いながら、現実の人間社会では男どもが権力を握っているのを見て影響を受けた彼は、バービーランドを男性優位社会に変えようとする。映画では男性性が強調される乗馬やスポーツだけでなく、特に金融を槍玉にあげているのは流石です。
 

 資本主義ばかりかフェミニズムまで相対化した、この映画は滅茶滅茶ラディカルな映画、と言えるでしょう。散りばめられた様々な元ネタが判らない観客をバカにしている元ネタを知っていて、したり顔で頷いている観客もコケにしている(笑)。映画を見てもいないのに『フェミ映画だ』とSNSで騒いでいるクソバカ連中の存在まで予想していたかのようです。

 デビュー当時 フェミニズム賛歌と言われていたシンディ・ローパーの曲の使い方も感慨深い。
 ボクはシンディー・ローパーが大好きで、彼女のことをちょっと思い出すだけで泣いちゃうくらい好きなんだけど(311の際 日本にとどまってツアーを続け、人々を励まし続けた彼女への恩義を日本人は忘れてはいけないと思う)、世界中の傷ついた人、特に女性たちやゲイの人たちを励ましてきた彼女のデビューから、もう40年が過ぎている。
 シンディの頃は、自由を求める女性は『She is so unusal』(彼女は変わり者)と自ら卑下しなくては世の中に受け入れられなかった。

 ガーウィグ監督にしてみればシンディをリスペクトしつつも、我々はもっと先へ進まなくてはいけない、ということでしょう。女性たちが差別や権力構造を言語化し可視化することで自らの中で内面化された男性優位意識を打ち破っていくのはまさにフェミニズムの歴史そのものです。

 それでも映画は全然 説教臭くないのは見事なものです。

 バービーが中学生の女の子に『人々の意識を50年後退させたファシスト』と罵られるところはスカッとしました。
 そう、男性優位社会も国家も企業も、男性的価値観を強固に内面化した女性たちファシストです。映画ではZ世代の子供の気持ちに仮託されていましたが、ボクは50年前の小学生の頃から(笑)、ボクに規範を押し付けてくる連中は男も女も年齢も問わず、全員ファシストだと思っていました。それは今も変わりません。

 しかし、相対主義というポジションしかとることができなかったのか、という感じはしないではありません。
 『バービー』は完成度も高いし『リベラル』の立場に立っているけれど、『左翼エリート主義』、若しくは『相対主義の極北』という批判はあり得る。 相対主義の行きつく先は際限のない『分断』かもしれません。台詞がやや多すぎることも含めて、グレタ・ガーウィグの限界とも言える。 

 しかし、映画にはそれを乗り越える瞬間が用意されています。人間には決して相対化できないものがある。バービーは最後にそれに向き合います。
 そのシーンに流れる主題歌はバービーに当て書きされた、Z世代の代表とも言われる歌手、ビリー・アイリッシュの新曲『What Was I Made For?』です。ここで真情が吐露されているのは映画の登場人物だけでなく、ビリー・アイリッシュや監督自身でもある。

 この映画のサントラは全体的に見事ですが、特にビリー・アイリッシュのこの歌は素晴らしい。性も人種も関係なく、全ての人に通じるであろう切実な気持ちが伝わってくる。主題歌が流れるシーンは、それくらい真に迫っている。まさか、この映画に泣かされるとは思いませんでした。 


 とりあえず、観客も含めてアホな男どもが徹底的にボコボコにされる映画です(笑)。ホント、こういうバカ連中はさっさと死ねばいい(笑)。

 だから男こそが見るべき映画、というのは正しいです。
 でも、この映画はそれだけではなく、男性優位の価値観だけでなく男性優位社会を補完するステレオタイプな女性観を自ら内面化した女性無知な観客訳知り顔の評論家(もどき)、それにマテル社に代表される企業社会バービーそのものにもケンカを売っています

 それでいて見ていて楽しい。男どもも含め、人々やバービーへの愛があるからです。文字通り痛快です。


 『バービー』は世界中で大ヒットしているだけでなく、日本でも週末興収1位を記録するなど滑り出しは好調のようです。でも、果たして日本の観客はケンカを売られているのを理解しているのでしょうか?(笑)。
 同性愛擁護などの理由でアラブ圏では軒並み上映禁止のようですが『バービー』、アルジェリアでも上映中止 「道徳に違反」か(AFP=時事) - Yahoo!ニュース、彼らの方がこの映画の意味を理解しているのかもしれません。

 ピンクに彩られた華やかなパブリックイメージからは全然想像できませんが、笑って泣かせる傑作です。今のところ、今年NO1


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