特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

踊らされないために:TBS『報道特集』と映画『アムステルダム』

 今朝は寒かったですね。もう立冬か。東京でも色づいている葉が目立つようになりました。

 今回は普段書いていることとは逆のお話です。
 土曜日のTBS『報道特集』はけしからん、と思いました。その日の放送では物価高で苦しむ人を取り上げる特集の中で、再開発のために渋谷区が美竹公園を封鎖してホームレスの人を追い出した話を取り上げていました。それはそれで良い。

 事実としては、区は公園を封鎖し公園にいた4人のホームレスのうち3人を借上げアパートに案内したものの、一人が納得せず支援者が抗議した、ということのようです。

 ところが番組では、区がホームレスの人をアパートに案内したことには全く触れず、公園に残ったホームレスの声と封鎖に反対する支援者の言い分だけを放送したのです。アパートに移ったホームレス3人の声や行政の言い分には全く触れない。

 これは流石にひどいと思った。今回の報道特集は徒に分断を煽っている
 双方の言い分を聴かなければ、行為の是非なんか判りません。宮下公園を始めとする渋谷の再開発は醜悪ですが、公園にホームレスの人が延々居座るのが良いとは全く思わない。冬空の下でそんなことを続けているのをどう考えているのか。事実を両面から捉えてこそ、報道は問題の解決に繋がる筈です。

 この1,2年、金平キャスターが居た頃から報道特集』では時折こういう一方的に決めつける報道がありました。福島の甲状腺がんの報道では翌週に訂正するようなこともあった。『報道特集』は頑張っているのに、人々を扇動するかのような一方的な報道をすると信用すら、無くしかねません。信用はニュース番組にとって何よりも大事、と思うのですが。
 ネットでもテレビでも本でも他人が言う事でもそうですが、盲信せず自分で裏を取る。こういう基本的なリテラシーが益々重要になってきたようです。


 と、いうことで、六本木で映画『アムステルダム

 舞台は1930年代、アメリカ・ニューヨーク。医師のバート(クリスチャン・ベール)と弁護士のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)、アーティストのヴァレリーマーゴット・ロビー)は第1次世界大戦の戦地で出会い、アムステルダムで自由な暮らしを楽しんでいた。ところがその後、バートとハロルドが殺人事件の容疑者となってしまう。3人は無実を証明するため活動していると巨大な陰謀が浮かび上がってくる。
www.20thcenturystudios.jp


 『アメリカン・ハッスル』、『世界にひとつのプレイブック』などのアカデミー賞監督、デヴィッド・O・ラッセル監督の作品です。なんと言っても出演陣が超豪華。出演は3人組をクリスチャン・ベールマーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントンが演じるほか、『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックや御大ロバート・デ・ニーロマイケル・シャノンマイク・マイヤーズ、ゾーイ・ソルタナにテイラー・スウィフトまで出ています。

●今朝 テイラー・スウィフトの新譜’’ミッドナイト’’がビルボードのチャート、1位から10位までを独占した!と言うニュースが流れました。
spur.hpplus.jp

 確かに内省とポップさのバランスがとれた、素晴らしい作品です。



 冒頭、スクリーンに『殆ど本当の話』というテロップが出ます。事前に呼んだインタビューで監督はこの映画の事を『殆ど知られていないが、本当の話なんだよ』と答えていました。こだわってます。見終わって制作側の深い意図が判りました。
 
 エリート家庭出身の妻と結婚した医師のバートは義父たちの見栄のために兵士に志願させられ、第1次大戦の戦場に送られます。
●左から弁護士のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)、医者のバート(クリスチャン・ベール)、看護婦のヴァレリーマーゴット・ロビー)。野戦病院で出会った彼らは親友になります。

 戦場で負傷したバートは病院で弁護士のハロルド、一風変わった看護婦のヴァレリーと友人になります。彼ら3人は戦後、オランダのアムステルダムで暮らし、自由な生活を謳歌することになります。
 その後 バートは新婚の妻が待つNYへ帰国、3人は離れ離れになってしまいます。ところがNYで再会したバートとハロルドの目の前で復員軍人のリーダーだった将軍の娘が殺され、二人は容疑者になってしまいます。

 バートとハロルドは容疑を晴らすため悪戦苦闘します。再び巡り合ったヴァレリーと共に謎を探っていると、大企業の経営者などの間でアメリカにナチス運動を広めようという動きがあることに気が付きます。映画には名前はでませんでしたがIBMなどアメリカの一部の大企業はドイツに工場を作ってナチと癒着していたのです。

 もともと十分な補償が得られなかった上に世界大恐慌の発生で第1次世界大戦の復員軍人たちは苦境に陥っていました。同じく復員軍人であるバートやハロルドも金銭は度外視して彼らのために走り回っている。
 一般の労働者だけなく、復員軍人たちは大規模なデモや占拠などが行い、政治勢力として侮りがたいものになっていた。映画には出てきませんが、あのマッカーサーなどは復員軍人の力を利用して、大統領への野心を燃やしていました。

 ナチと癒着して儲けていた大企業の経営者たちは、大企業の力を抑えようとするルーズベルト大統領に対抗して、復員軍人たちのもう一人のリーダーである将軍(ロバート・デ・ニーロ)を利用しようとしていたのです。

 この映画は実在の事件がもとになっています。そして大企業の経営者が世論を誘導して、独裁的な世の中を作ろうとする。これ、今でも起きていることです。例えばティー・パーティー運動は世界1の金持ち兄弟、コーク兄弟がスポンサーだったことが判っています。また16年の選挙でトランプに有利な世論を作っていたのはロシアや陰謀論者でした。この映画はだからこそ『ほとんどホントの話』なんです。
●右側の二人はマイク・マイヤーズマイケル・シャノン。親ナチ運動を内偵している国の役人役。

 お話は複雑だし、展開は結構 粗があります。上にのべたようなアメリカの現代史が判らないととっつきにくいところもあるかもしれません。
 しかし、結構面白いんです。クリスチャン・ベールの惚けた味やマーゴット・ロビーの美しさ、その他の豪華俳優たちはさすが、良い味を出している。なんだかんだ言って、ロバート・デ・ニーロは良いところを持っていきます。

 映画の中での彼の役は陰謀を暴露した海兵隊の将軍がモデルです(下写真左側)。映画中でデニーロが演じる姿は、現実のデニーロがトランプへの抗議をしていた姿とまさに重なっています。


www.latimes.com



 この映画、全然面白い。あらすじはいい加減でもお話としては説得力がある。これは存在感がある豪華スターの大量出演のためなのか、不思議なものです。

 明らかに選挙を意識して作られた豪華エンタメです。普通に楽しいんですが、その裏に隠された意図、危機感を考えるとケラケラ笑っているような気持にはなれません。でも笑ってましたが(笑)。

 社会の分断が進んでいるのは先進国共通の問題ですが、その分断を癒すどころか、分断を私利私欲のために利用しようとしている輩に事欠かないのも事実。トランプだって安倍晋三だって、山本太郎だって、社会の分断を作り出して自分のために利用しようとするのは共通しています。昔も今も、我々は権力者や政治家、ポピュリストに踊らされるリスクに直面している。
 アメリカの大企業経営者が親ナチの世論を創り出そうとした実話を描いたこの映画、豪華エンタメなのに2度美味しい作品かもしれません。
 

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